StudyMed医師国家試験

FASTが探すのは「血」だけ―外傷初期診療で超音波に託す一つの問い

第110回医師国家試験 F問題 第14問

国試問題にチャレンジ

第110回 F問題 第14問

外傷の初期診療において迅速簡易超音波検査〈FAST〉で確認するのはどれか。

  1. a.骨折
  2. b.気胸
  3. c.大動脈径
  4. d.臓器損傷
  5. e.体腔内出血

対話形式の解説

ドクタードクター
今回は、外傷の初期診療で使う迅速簡易超音波検査、いわゆるFASTの目的を問う問題だ。ポイントは、FASTが何を見るための検査で、何を見ない検査なのかをはっきり区別すること。まずはFASTがどんな場面で行われるか、覚えているかな。
医学生医学生
救急の講義で、JATECのプライマリサーベイの中でやると習いました。ABCDEのどこかだったと思います。
ドクタードクター
その通り。プライマリサーベイは生理学的な異常を見つけてすぐに蘇生する段階で、FASTは「C」、つまり循環の評価のところで、胸部と骨盤のポータブルエックス線と一緒に行う。外傷患者がショックなら、まず疑うのは出血性ショックだよね。そこで出血源を素早く探すのがFASTの役割なんだ。
医学生医学生
超音波なら肝臓や脾臓の損傷も見えそうなので、臓器損傷を確認するのかと思っていました。
ドクタードクター
そう考える人は多いけれど、そこが引っかけだ。FASTが探すのは臓器の傷そのものではなく、損傷の結果として体腔にたまった液体、つまり血液なんだ。臓器が傷ついていても出血が少なければFASTは陰性になりうるし、損傷の部位や程度を判定するのは、循環が落ち着いてから行う造影CTの仕事になる。
医学生医学生
つまり答えは体腔内出血ですね。具体的にはどこを見るんでしょうか。
ドクタードクター
4か所を順に見る。心窩部から心嚢、右上腹部でMorison窩と右胸腔、左上腹部で脾周囲と左胸腔、そして下腹部でDouglas窩、男性なら直腸膀胱窩だ。それぞれ心タンポナーデ、血胸、腹腔内出血を探している。液体は重力で低いところにたまるから、仰臥位でたまりやすい場所を狙うわけだ。
医学生医学生
臨床実習で救命センターを回ったとき、研修医の先生が数分でプローブを当てて「Morison窩にエコーフリースペースあり」と言っていたのを思い出しました。
ドクタードクター
まさにそれがFAST。黒く抜けるエコーフリースペースが液体のサインだ。では残りの選択肢も確認しよう。気胸はどうかな。
医学生医学生
超音波でも気胸はわかると聞いたことがある気がします。
ドクタードクター
よく知っているね。肺エコーで胸膜が呼吸に合わせて滑る動き、lung slidingが消えることなどから気胸を評価でき、それを加えた方法はextended FAST、EFASTと呼ばれる。ただ、通常のFASTの評価項目ではない。気胸はプライマリサーベイの「B」で身体所見や胸部エックス線から判断するし、緊張性気胸なら画像を待たずに臨床診断で脱気する。
医学生医学生
骨折はどうでしょう。骨盤骨折は大出血の原因になると習いました。
ドクタードクター
大事な視点だね。骨盤骨折はショックの原因になるけれど、評価するのは同じ「C」で撮る骨盤エックス線だ。しかも骨盤骨折に伴う出血は後腹膜腔にたまるので、FASTでは描出しにくい。FAST陰性でもショックが続くなら後腹膜出血を考える、というのは臨床でとても重要なポイントだよ。
医学生医学生
大動脈径は、腹部大動脈瘤のスクリーニングで超音波を使うイメージです。
ドクタードクター
そう、大動脈径の計測はそういう場面の手技で、FASTの目的ではない。外傷性大動脈損傷は胸部エックス線の上縦隔拡大などで疑い、造影CTで確定する。
医学生医学生
FASTは「ショックの原因になる体腔内出血があるか」という一つの問いに絞った検査で、細かい評価はCTに任せる、という役割分担なんですね。
ドクタードクター
その理解で完璧だ。最後に臨床での注意点をまとめよう。外傷によるショックの出血源は、胸腔、腹腔、後腹膜腔、長管骨骨折、体外への出血の5つ。胸腔と腹腔はFASTと胸部エックス線、後腹膜は骨盤エックス線、残りは身体診察で探す。そしてFASTは被曝がなくベッドサイドで繰り返せるから、初回が陰性でも状態が変われば再検する。所見が陽性で循環が不安定なら、心嚢穿刺や心膜開窓、胸腔ドレナージ、開腹止血術といった緊急処置へ直結させるんだ。
医学生医学生
OSCEの救急ステーションでもABCDEの順番を練習しましたが、その中でFASTの位置づけがやっとつながりました。

まとめ

FAST(迅速簡易超音波検査)は、JATECのプライマリサーベイの循環評価で、胸部・骨盤エックス線とともに行う検査であり、目的は体腔内出血の検索に絞られています。心窩部(心嚢)、Morison窩と右胸腔、脾周囲と左胸腔、Douglas窩(直腸膀胱窩)を順に観察し、心タンポナーデ、血胸、腹腔内出血の有無を判定します。臓器損傷の程度や大動脈損傷は造影CT、骨盤骨折は骨盤エックス線で評価し、気胸まで超音波で評価する方法はEFASTと呼んで区別します。後腹膜出血はFASTで描出しにくく、繰り返し施行できる利点を生かして経時的に再評価することも重要です。外傷によるショックの出血源を系統的に探す考え方は、救急外来での迅速な止血判断の土台になります。

解答・解説

正解はeです

FASTとは

FAST(Focused Assessment with Sonography for Trauma:迅速簡易超音波検査)は、外傷患者の初期診療において、ショックの原因となりうる体腔内の液体貯留、すなわち出血を短時間で探し出すための超音波検査である。日本の外傷初期診療ガイドライン(JATEC)では、生理学的評価と蘇生を行うプライマリサーベイの「C(Circulation:循環)」の段階で、胸部・骨盤のポータブルエックス線撮影とともに行うことになっている。

検索部位と目的

FASTでは次の部位に順にプローブを当て、液体(エコーフリースペース)の有無を確認する。 ・心窩部(心嚢):心嚢内出血=心タンポナーデ ・右上腹部(Morison窩=肝腎境界、右胸腔):腹腔内出血、右血胸 ・左上腹部(脾周囲=脾腎境界、左胸腔):腹腔内出血、左血胸 ・下腹部(Douglas窩/直腸膀胱窩):骨盤腔に貯留した腹腔内出血 液体は重力に従って体腔の低い部分にたまるため、仰臥位でたまりやすい場所を狙って観察する。所要時間は数分程度で、ベッドサイドで繰り返し施行できるのが利点である。

設問の考え方

FASTの目的は「出血源(体腔内出血)の有無を素早く判定し、緊急止血術の要否を決めること」に限定されている。臓器そのものの損傷の詳細や骨・血管の形態評価は目的外であり、それらは循環が安定してから行うCTなどのセカンダリサーベイ以降の検査で評価する。したがって正解はeである。

選択肢考察

  1. ×a.  骨折

    骨折はFASTの評価項目ではない。外傷初期診療で循環に大きく影響する骨折は骨盤骨折であり、これはプライマリサーベイで行うポータブル骨盤エックス線撮影で評価する。骨盤骨折に伴う後腹膜腔の出血は、FASTでは描出が難しいことも覚えておく必要がある。

  2. ×b.  気胸

    通常のFASTは液体(血液)の検索を目的としており、気胸は対象に含まれない。気胸はプライマリサーベイの「B(呼吸)」の評価として身体所見や胸部エックス線で判断し、緊張性気胸は画像を待たず臨床的に診断して脱気する。近年は肺エコーで胸膜の動き(lung sliding)の消失などから気胸も評価できるようになり、気胸の評価を加えた方法はextended FAST(EFAST)と呼ばれるが、FASTそのものの評価項目ではない。

  3. ×c.  大動脈径

    大動脈径の測定はFASTの目的に含まれない。外傷性大動脈損傷は胸部エックス線での上縦隔拡大などで疑い、造影CTで確定する。大動脈径の超音波計測は腹部大動脈瘤のスクリーニングなどで用いられる手技である。

  4. ×d.  臓器損傷

    FASTは実質臓器(肝・脾・腎など)の損傷そのものを評価する検査ではない。臓器損傷があっても出血が少なければFASTは陰性となりうるし、損傷の部位や程度(損傷分類)の評価は造影CTの役割である。FASTはあくまで損傷の結果生じた体腔内の血液を探す検査である。

  5. ○e.  体腔内出血

    FASTは心嚢・胸腔・腹腔に貯留した液体を検出し、心タンポナーデ、大量血胸、腹腔内出血の有無を判定する検査である。心窩部、Morison窩と右胸腔、脾周囲と左胸腔、Douglas窩(直腸膀胱窩)を順に観察する。循環が不安定な外傷患者でこれらの出血が見つかれば、心嚢穿刺・心膜開窓、胸腔ドレナージ、開腹止血術などの緊急処置につなげる。

JATECのプライマリサーベイ(ABCDE)

A(Airway):気道評価・確保と頸椎保護 B(Breathing):呼吸評価と致命的な胸部外傷(緊張性気胸、大量血胸、フレイルチェストなど)の処置 C(Circulation):循環評価と止血。ここで胸部・骨盤エックス線とFASTを行い出血源を検索する D(Dysfunction of CNS):意識レベル、瞳孔、片麻痺などから切迫するDを判断 E(Exposure and Environmental control):脱衣と体温管理

外傷によるショックの主な出血源

胸腔(血胸)、腹腔(腹腔内出血)、後腹膜腔(主に骨盤骨折)、長管骨骨折、体外への出血。このうち胸腔・腹腔はFASTと胸部エックス線で、骨盤は骨盤エックス線で評価する。後腹膜出血はFASTで検出しにくい。

FASTの特徴

・非侵襲的で放射線被曝がなく、ベッドサイドで数分以内に施行できる ・経時的に繰り返すことで、初回陰性でも後から出現する出血を捉えられる ・少量の出血や後腹膜出血、実質臓器損傷そのものの評価は苦手 ・肺エコーで気胸を評価する手技を加えたものをEFAST(extended FAST)と呼ぶ

POINT

・FASTの目的は体腔内出血(心嚢内・胸腔内・腹腔内)の検索である ・観察部位:心窩部(心嚢)、Morison窩・右胸腔、脾周囲・左胸腔、Douglas窩(直腸膀胱窩) ・プライマリサーベイのC(循環)で、胸部・骨盤エックス線とともに施行する ・骨折、気胸、大動脈損傷、臓器損傷の程度は通常のFASTの評価項目ではない(気胸まで評価するのはEFAST)

※問題・正答は厚生労働省の公開資料をもとに掲載しています。