単語は話せるのに指させない―1歳6か月健診で見抜く「ことばの理解」の遅れ
第110回医師国家試験 E問題 第53問
国試問題にチャレンジ
1歳6か月の男児。定期健康診査で来院した。在胎40週,身長50 cm,体重3,100 g,正常分娩で出生した。歩行は可能だが三輪車には乗れない。積み木を2,3個積める。スプーンを使った一人での食事はできない。排尿したことを伝えない。人見知りをして,親から離れて遊ぶことができない。単語を数語話すが,二語文や自分の年齢は言えない。声かけにすぐ反応するが,簡単な命令に対する行動はなく,聞かれた絵を指で示せない。 発達として遅れているのはどれか。
- a.粗大運動
- b.微細運動
- c.協調運動
- d.対人関係
- e.言語発達
対話形式の解説
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ドクターまとめ
1歳6か月児健診では、有意語を数語話すことに加え、簡単な指示を理解して行動できること、聞かれた絵を指さしで示せることが言語発達の目安となります。発語があっても指示に従えず指さし応答ができない場合は、言語理解の遅れを疑います。三輪車(3歳ごろ)、二語文(2歳ごろ)、年齢を言う(3歳ごろ)、スプーンで一人で食べる(2〜3歳ごろ)はこの時期にできなくてよく、人見知りや分離不安は愛着形成を示す正常な行動です。言語理解の遅れの背景には知的能力障害、自閉スペクトラム症、難聴などがあり、聴力検査を含む精査が必要です。各領域の通過年齢を正しく押さえ、「できないこと」が年齢相応かどうかを仕分ける視点は、乳幼児健診で発達の問題を早期に見つけるための基本となります。
解答・解説
正解はeです
所見の整理
満期正常分娩で出生体重も正常であり、周産期に問題はない。1歳6か月児健康診査で観察された項目を、発達の領域ごとに整理する。 ・粗大運動:歩行は可能。三輪車には乗れない。 ・微細運動:積み木を2、3個積める。 ・生活習慣(協調性を要する動作を含む):スプーンを使って一人で食事ができない。排尿したことを伝えない。 ・対人関係・社会性:人見知りがあり、親から離れて遊べない。 ・言語(表出):単語を数語話すが、二語文や自分の年齢は言えない。 ・言語(理解):声かけにはすぐ反応するが、簡単な命令に従った行動がなく、聞かれた絵を指さして示せない。
考え方
各項目を1歳6か月時点の標準的な発達(目安となる通過年齢)と比べる。三輪車をこぐ(3歳ごろ)、スプーンで一人でこぼさず食べる(2〜3歳ごろ)、排尿を伝える(2歳前後〜)、二語文(2歳ごろ)、自分の年齢を言う(3歳ごろ)は、いずれもまだできなくてよい項目である。人見知りや親からの分離を嫌がる行動もこの年齢では正常にみられる。歩行と積み木2〜3個は年齢相応にできている。 一方、1歳6か月児健診で確認される代表的な言語発達の指標は、①意味のある単語(有意語)をいくつか話す、②「〇〇を持ってきて」などの簡単な指示を理解して行動する、③「ワンワンはどれ?」と聞かれて絵や物を指さす(指さし応答)、である。本児は①は満たすが、②③という言語理解の項目ができていない。声かけにすぐ反応することから高度の聴覚障害は考えにくく、聞こえているのに言葉の意味が理解できていない、つまり言語発達(特に理解言語)の遅れと判断できる。 言語理解の遅れの背景としては、知的能力障害(知的発達症)、自閉スペクトラム症(ASD)、軽度〜中等度の難聴などが鑑別となる。ASDでは、要求や興味を共有するための指さし(共同注意)の乏しさ、視線が合いにくい、呼名への反応が乏しいなどの特徴が手がかりとなる。本児では、聴力検査を含む精査や経過観察による評価が必要である。
選択肢考察
- ×a. 粗大運動
粗大運動とは、座る・立つ・歩く・走るなど全身の大きな筋肉を使う運動である。一人歩きはおおむね1歳〜1歳3か月ごろに可能となり、1歳6か月で歩けない場合は精査の対象となる。本児は歩行可能で年齢相応である。三輪車をこげるのは3歳ごろであり、1歳6か月で乗れないのは正常である。
- ×b. 微細運動
微細運動とは、つまむ・積む・描くなど手指を使う細かな運動である。積み木は1歳3か月ごろに2個、1歳6か月〜2歳ごろに3〜4個以上積めるようになる。本児は2、3個積めており、1歳6か月として遅れはない。
- ×c. 協調運動
協調運動とは、目と手、左右の手足など複数の部位を連動させて目的の動作を滑らかに行う能力である。スプーンは1歳6か月ごろから使い始めるが、こぼさずに一人で食べられるのは2〜3歳ごろであり、本児が一人で食事できないのは正常範囲である。三輪車も3歳ごろの課題である。歩行や積み木が年齢相応にできていることからも、不器用さや運動のぎこちなさ(発達性協調運動症を疑わせる所見)はない。
- ×d. 対人関係
人見知りは生後6〜8か月ごろから現れ、養育者との愛着が形成されている証拠でもある。1歳台では養育者から離れることへの不安(分離不安)も強く、親から離れて遊べないのはこの年齢ではよくみられる正常な行動である。声かけにもすぐ反応しており、対人関係の遅れを示す所見とはいえない。むしろ人見知りや後追いが全くみられない場合のほうが、ASDなどを念頭に注意が必要である。
- ○e. 言語発達
1歳6か月では、有意語を数語話すことに加え、簡単な指示を理解して行動できること、聞かれた絵や物を指さしで示せること(指さし応答)が期待される。本児は単語を数語話すため一見問題がなさそうにみえるが、簡単な命令に従えず、指さし応答もできない。声かけへの反応は良好で聴覚の問題は考えにくいことから、言葉の理解(理解言語)の発達が遅れていると判断できる。なお二語文や年齢を言えないことは、それぞれ2歳ごろ・3歳ごろの課題であるため遅れの根拠にはならない。
乳幼児の主な発達の目安(おおよその通過年齢)
・粗大運動:首のすわり3〜4か月、寝返り5〜6か月、おすわり7か月、はいはい8〜9か月、つかまり立ち9〜10か月、一人歩き1歳〜1歳3か月、走る1歳6か月〜2歳、両足跳び2歳、三輪車をこぐ3歳、片足立ち(数秒)3歳、スキップ5歳。 ・微細運動:手を伸ばしてつかむ5〜6か月、持ち替え6〜7か月、母指と示指でつまむ10か月前後、積み木2個1歳3か月ごろ、なぐり書き1歳6か月、円を写す3歳、十字を写す4歳、四角を写す5歳、三角を写す6歳。 ・言語:喃語6か月前後、有意語(意味のある単語)1歳、指示理解・指さし応答1歳6か月、二語文2歳、自分の名前・年齢を言う3歳。 ・社会性・生活習慣:社会的微笑2〜3か月、人見知り6〜8か月、バイバイ・模倣10か月前後、スプーンを使い始める1歳6か月、排尿を予告する2〜3歳、ごっこ遊び・友だちとの遊び3歳ごろ、衣服の着脱・ボタンかけ4歳前後。
1歳6か月児健康診査
母子保健法に基づき市町村が実施する。運動(一人歩き)、言語(有意語、指さし、指示理解)、社会性、生活習慣の自立、視覚・聴覚、歯科、栄養状態などを確認する。言葉の遅れや社会性の発達の偏りが初めて明らかになりやすい時期であり、知的能力障害や自閉スペクトラム症の早期発見の場として重要である。
言葉の遅れの鑑別
・難聴:音への反応が乏しい。新生児聴覚スクリーニングをすり抜ける軽度〜中等度難聴や後天性難聴に注意する。 ・知的能力障害:言語理解・表出の双方が遅れ、運動発達も軽度に遅れることが多い。 ・自閉スペクトラム症:共同注意の指さし・視線・呼名反応の乏しさ、言葉の独特な使い方、こだわり。DSM-5以降、かつてのAsperger障害(言語・知的発達の明らかな遅れを伴わない群)や自閉性障害などは自閉スペクトラム症に統合された。 ・表出性言語障害(発達性言語遅滞):理解は年齢相応で、身振りや指さしで意思を伝えられるが、発語だけが遅れる。 ・養育環境の問題(言語刺激の不足、ネグレクトなど)。
POINT
・1歳6か月の言語発達の目安:有意語数語+簡単な指示の理解+指さし応答 ・発語があっても、指示に従えない・指さしで答えられない場合は言語理解の遅れを疑う ・声かけへの反応が良好なら高度難聴は考えにくい(ただし軽度難聴の除外には聴力検査が必要) ・三輪車(3歳)、二語文(2歳)、年齢を言う(3歳)、スプーンで一人で食べる(2〜3歳)は1歳6か月ではできなくてよい ・人見知り・分離不安は愛着形成の表れであり、この年齢では正常
