StudyMed医師国家試験

治ったのに帰れない―患者調査のグラフが映す「社会的入院」と高齢化

第110回医師国家試験 E問題 第10問

国試問題にチャレンジ

第110回 E問題 第10問

 厚生労働省の患者調査(平成23年)における「年齢階級別にみた入院(重症度等)の状況別推計入院患者の構成割合」の図を示す。  「受け入れ条件が整えば退院可能」な患者を示すのはどれか。  ただし,「受け入れ条件が整えば退院可能」とは退院は決まっていないが退院可能な状態にあることをいう。

第110回 E問題 第10問の問題画像
  1. a.①
  2. b.②
  3. c.③
  4. d.④
  5. e.⑤

対話形式の解説

ドクタードクター
今回は、厚生労働省の患者調査から、入院患者を重症度などで分けた構成割合のグラフを読む問題だ。各区分が「どの年齢層で多くなりそうか」を医学的・社会的に推測できれば、暗記していなくても解ける。年齢による割合の変化に注目しよう。
医学生医学生
まず患者調査って、どんな調査でしたっけ。国民生活基礎調査とよく混同してしまいます。
ドクタードクター
患者調査は、厚生労働省が3年ごとに行う標本調査で、病院・診療所を抽出して、10月中旬の特定の1日に受診・入院していた患者を調べる。推計患者数や受療率、平均在院日数などが得られるんだ。世帯を対象に有訴者率などを調べる国民生活基礎調査とは、調査対象が違うね。
医学生医学生
公衆衛生の講義で受療率のグラフを見たのを思い出しました。今回の区分はいくつあるんですか。
ドクタードクター
入院患者を「生命の危険がある」「生命の危険は少ないが入院治療を要する」「受け入れ条件が整えば退院可能」「検査入院」「その他」の5つに分けている。グラフの中で、どれがどれにあたるかを考えてみよう。まず、どの年齢でも7割以上を占める一番大きな区分は?
医学生医学生
入院患者の大半は、命に別状はないけれど治療が必要な人だと思うので、「生命の危険は少ないが入院治療を要する」でしょうか。
ドクタードクター
正解。では左端の小さな黒い区分。数%しかないけれど、小児と高齢者でやや多く、15〜34歳で最も少ない。
医学生医学生
若い成人で一番少ないのは、予備力があって急変しにくいからですよね。乳幼児や高齢者は全身状態が急に悪くなりやすいので、「生命の危険がある」だと思います。
ドクタードクター
その通り。ではいよいよ問われている「受け入れ条件が整えば退院可能」。どんな年齢分布になると予想する?
医学生医学生
退院できる状態なら、若い人の方が回復も早いので多いような気がします。
ドクタードクター
そう考えたくなるけれど、定義をよく見てほしい。「医学的には退院可能だけど、退院先が決まっていない」状態なんだ。若い人は治ればすぐ家に帰れる。でも高齢者だと、介護する家族がいない、自宅で生活できるほどADLが戻らない、施設や転院先が見つからない、といった理由で入院が続きやすい。
医学生医学生
あ、内科の臨床実習で、病状は落ち着いているのに施設の空き待ちで入院が続いている高齢の患者さんを担当しました。あれがまさにそうですね。
ドクタードクター
そう、それがいわゆる「社会的入院」だ。だからこの区分は、小児ではわずかで、年齢とともに増え、65歳以上・75歳以上では十数%に達する。グラフでは2番目に大きい区分のすぐ右隣にあって、年齢とともに増えていく区分がこれにあたり、それが正解になる。
医学生医学生
残りの2つはどう考えればいいでしょうか。
ドクタードクター
白抜きの区分は小児でやや目立つ程度で、他の年齢ではごくわずか。小児で比較的多い「検査入院」と考えられる。右端の区分は15〜34歳で特に大きい。この年代では妊娠・分娩に伴う入院など、病状の重さで分けにくい入院が多いから「その他」と考えるのが自然だね。
医学生医学生
産婦人科の実習で、分娩入院の妊婦さんは「病気」で入院しているわけではないと教わりました。だから「その他」が膨らむんですね。
ドクタードクター
いいつなげ方だ。こうした統計問題は、数値を丸暗記するより「なぜその年齢で多いのか」を説明できるようにしておくと、初見のグラフでも対応できる。
医学生医学生
社会的入院は、医療費以外にも問題がありますか。
ドクタードクター
病床が効率よく使われなくなるし、長期入院そのものが廃用や認知機能の低下につながることもある。精神科領域では、長期入院者の地域移行が大きな課題になっている。対策としては介護保険制度の整備、地域包括ケアシステムの構築、病床機能の分化、そして医療ソーシャルワーカーなどによる退院支援・退院調整が進められているよ。
医学生医学生
入院した時点から、退院後の生活の場を考えておくことが大事なんですね。
ドクタードクター
その通り。入院時から退院支援を視野に入れ、多職種で早めに調整を始めることが、臨床医に求められる役割だ。

まとめ

患者調査は厚生労働省が3年ごとに行う標本調査で、入院患者を「生命の危険がある」「生命の危険は少ないが入院治療を要する」「受け入れ条件が整えば退院可能」「検査入院」「その他」に分類して集計しています。全年齢で最も多いのは「生命の危険は少ないが入院治療を要する」で、「生命の危険がある」は予備力の乏しい小児と高齢者で相対的に多くなります。「受け入れ条件が整えば退院可能」は高齢になるほど割合が増え、介護者不足や退院先が確保できないことによる社会的入院を反映しています。社会的入院は医療費や病床利用の効率、患者の生活機能にも影響するため、介護保険や地域包括ケアシステム、退院支援などの対策が重要です。統計の数値を暗記するだけでなく、年齢による分布の理由を説明できるようにしておくと、グラフ問題への応用力と臨床での退院支援の視点の両方が身につきます。

解答・解説

正解はcです

患者調査は、厚生労働省が医療施設を利用する患者の傷病状況などを把握するため、3年ごとに実施する標本調査である。入院患者については、病状の重さや入院を続けている理由によって「生命の危険がある」「生命の危険は少ないが入院治療を要する」「受け入れ条件が整えば退院可能」「検査入院」「その他」に分類して集計しており、図はこの構成割合を年齢階級別に示したものである。 各区分の特徴を図に当てはめると次のように考えられる。 ・どの年齢階級でも7割以上を占める最大の区分は、入院患者の大半にあたる「生命の危険は少ないが入院治療を要する」である(②)。 ・左端の黒い区分は数%と小さく、0〜14歳と高齢者でやや多く、15〜34歳で最も少ない。全身状態が急変しやすい乳幼児と高齢者で多い「生命の危険がある」に一致する(①)。 ・②の右隣の区分は、0〜14歳で数%と少なく、年齢が上がるにつれて増え、65歳以上・75歳以上では十数%に達する。医学的には退院できるのに、自宅での介護者や転院・入所先などが確保できないために入院が続く患者が高齢になるほど多いことを考えると、「受け入れ条件が整えば退院可能」にあたる(③)。 ・白抜きの区分は0〜14歳で目立つ程度で、他の年齢層ではわずかであり、小児で比較的多い「検査入院」と考えられる(④)。 ・右端の区分は15〜34歳で特に大きい。この年齢層では妊娠・分娩による入院など、上記の区分にあてはまらない入院が多く含まれるため「その他」と考えられる(⑤)。 したがって、高齢になるほど割合が増える③が「受け入れ条件が整えば退院可能」な患者を示す。

選択肢考察

  1. ×a.  ①

    ①は「生命の危険がある」患者である。全体に占める割合は数%と小さく、予備力の乏しい小児(0〜14歳)と高齢者でやや高く、若年成人(15〜34歳)で最も低いという分布を示す。

  2. ×b.  ②

    ②は「生命の危険は少ないが入院治療を要する」患者である。すべての年齢階級で7割以上を占め、入院患者の大部分がこの区分に該当する。

  3. ○c.  ③

    ③は「受け入れ条件が整えば退院可能」な患者である。0〜14歳では割合が小さいが、年齢が上がるにつれて増え、65歳以上・75歳以上では十数%を占める。高齢患者では、病状が安定しても家族の介護力が不足していたり、介護施設や療養先が見つからなかったりして退院できない例が多いことを反映している。いわゆる「社会的入院」の問題に関わる区分である。

  4. ×d.  ④

    ④は「検査入院」の患者である。全体に占める割合は小さく、0〜14歳で比較的目立つほかは、どの年齢階級でもわずかである。

  5. ×e.  ⑤

    ⑤は「その他」であり、①〜④のいずれにもあてはまらない入院をまとめたものである。15〜34歳で割合が大きいのは、妊娠・分娩に伴う入院などがこの年齢層に多いためと考えられる。

患者調査の概要

・厚生労働省が3年ごとに実施する基幹統計調査で、病院・診療所を層化無作為抽出し、10月中旬の特定の1日に受診・入院していた患者を対象とする(退院患者については9月の1か月間)。 ・推計患者数、受療率、平均在院日数、傷病分類別の患者数、総患者数などが得られる。

社会的入院

・医学的には入院治療の必要性が低いにもかかわらず、退院後の生活の場や介護者が確保できないといった社会的・経済的理由で入院を続けている状態をいう。 ・高齢者で多く、医療費の増大や病床の非効率な利用の原因となる。また精神科領域では長期入院者の地域移行が重要な課題となっている。 ・対策として、介護保険制度の整備、地域包括ケアシステムの構築、退院支援・退院調整(医療ソーシャルワーカーなどによる在宅療養・施設入所の調整)、病床機能の分化などが進められている。

POINT

・患者調査では入院患者を重症度等で「生命の危険がある」「生命の危険は少ないが入院治療を要する」「受け入れ条件が整えば退院可能」「検査入院」「その他」に分類する。 ・最多は全年齢で「生命の危険は少ないが入院治療を要する」。 ・「受け入れ条件が整えば退院可能」は高齢になるほど割合が高い(社会的入院を反映)。 ・「生命の危険がある」は小児と高齢者で相対的に多い。

※問題・正答は厚生労働省の公開資料をもとに掲載しています。