二つの泡と心臓の穴―胎児超音波からDown症候群を読み解く
第110回医師国家試験 D問題 第50問
国試問題にチャレンジ
42歳の初妊婦。妊娠31週5日。羊水過多のため精査目的で紹介されて来院した。超音波検査で胎児推定体重1,250 g,羊水指数〈AFI〉28.5 cm(基準5~25)であり,胎児に房室中隔欠損を認め,房室中隔欠損症〈心内膜床欠損症〉が疑われた。胎児の腹部超音波像(A)(B)を別に示す。 最も考えられる胎児の疾患はどれか。

- a.13 trisomy
- b.18 trisomy
- c.Down症候群
- d.Turner症候群
- e.Klinefelter症候群
対話形式の解説
ドクター
医学生
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ドクターまとめ
胎児超音波で上腹部に胃と拡張した十二指腸球部が二つの泡のように並ぶdouble bubble signは十二指腸閉鎖を示し、飲み込んだ羊水が吸収されないため羊水過多の原因になります。十二指腸閉鎖と房室中隔欠損症(心内膜床欠損症)の組み合わせは21トリソミー(Down症候群)に特徴的で、高年妊娠もリスクを高める背景となります。18トリソミーは食道閉鎖・overlapping finger・胎児発育不全、13トリソミーは全前脳胞症・口唇口蓋裂・多指症、Turner症候群は頸部嚢胞性ヒグローマ・大動脈縮窄症と、各染色体異常の典型所見を整理しておくと鑑別が容易になります。確定には羊水検査などの染色体分析が必要で、遺伝カウンセリングと出生後の治療を見据えた周産期管理が重要です。
解答・解説
正解はcです
所見の整理
・42歳の初妊婦 → 高年妊娠(一般に35歳以上)であり、卵子の減数分裂時の染色体不分離が増えるため、胎児のトリソミーの頻度が上がる背景がある。 ・妊娠31週5日、羊水指数(AFI: amniotic fluid index、子宮を4分割して測った最大羊水深度の合計)28.5 cm → 25 cm以上で羊水過多と判断する。 ・胎児推定体重1,250 g → 週数に比べてやや小さめである。 ・胎児に房室中隔欠損(心内膜床欠損症)を認める。
超音波像の読み方
胎児腹部の横断像(A)・矢状断に近い像(B)で、上腹部に液体で満たされた嚢胞状の構造が2つ並んでみられる。一方は胃(胃泡)、もう一方は拡張した十二指腸球部であり、両者がつながって見える。これがdouble bubble sign(二重泡状徴候)で、十二指腸閉鎖(または高度狭窄)を示す所見である。
診断へのプロセス
十二指腸閉鎖があると胎児が飲み込んだ羊水が腸管から吸収されないため、羊水過多となる。したがって本例の羊水過多はdouble bubble signと一つの病態として説明できる。 次に、「十二指腸閉鎖」と「房室中隔欠損症」という二つの奇形を同時に持つ胎児の背景を考える。両者をともに高率に合併する代表的な染色体異常は21トリソミー(Down症候群)であり、母体の高年齢もその可能性を高める。以上から、最も考えられる胎児の疾患はDown症候群である。確定には羊水検査などによる染色体分析が必要である。
選択肢考察
- ×a. 13 trisomy
13トリソミー(Patau症候群)では、全前脳胞症(前脳が左右に分かれない脳奇形)、単眼症や口唇口蓋裂などの正中顔面の異常、多指症、心奇形(心室中隔欠損など)、胎児発育不全が特徴的な超音波所見である。十二指腸閉鎖を高率に合併する疾患ではなく、本例の所見の組み合わせには合わないため誤り。
- ×b. 18 trisomy
18トリソミー(Edwards症候群)は、胎児発育不全、羊水過多、心奇形(心室中隔欠損、動脈管開存、房室中隔欠損など)、食道閉鎖、小脳低形成、手指の重なり(overlapping finger)、揺り椅子状足底などが特徴である。羊水過多や心内膜床欠損は本例と共通するが、羊水過多の原因として多いのは食道閉鎖であり、十二指腸閉鎖を示すdouble bubble signを高率に合併する疾患ではないため、最も考えられるものとはいえない。
- ○c. Down症候群
Down症候群(21トリソミー)では約40〜50%に先天性心疾患がみられ、房室中隔欠損症(心内膜床欠損症)はその代表であり、心室中隔欠損も多い。消化管では十二指腸閉鎖の合併が特徴的で、十二指腸閉鎖の児の約30%がDown症候群とされる。十二指腸閉鎖による羊水過多とdouble bubble sign、房室中隔欠損症の組み合わせに加え、母体が42歳と高年であることもこの疾患に合致するため正しい。
- ×d. Turner症候群
Turner症候群(45,Xなど)の胎児では、頸部嚢胞性ヒグローマ(頸部リンパ管腫)、胎児水腫、胸水などのリンパ系の異常がみられることがある一方、超音波で異常をほとんど示さない例もある。合併する心疾患は大動脈縮窄症や大動脈二尖弁、左心低形成症候群など左心系の異常が中心で、房室中隔欠損や十二指腸閉鎖は特徴的ではないため誤り。
- ×e. Klinefelter症候群
Klinefelter症候群(47,XXY)は胎児期・小児期にはほとんど異常所見を示さず、思春期以降に小さな精巣、高身長、女性化乳房、無精子症による不妊などで見つかることが多い。胎児超音波で心内膜床欠損症や十二指腸閉鎖をきたす疾患ではないため誤り。
羊水過多の主な原因
・胎児の嚥下・消化管通過障害: 食道閉鎖、十二指腸閉鎖など上部消化管閉鎖、無脳症(嚥下障害)、神経筋疾患 ・胎児の尿量増加: 双胎間輸血症候群の受血児、母体糖尿病(胎児高血糖による浸透圧利尿) ・その他: 胎児水腫、胎盤の血管腫など。約半数は原因不明(特発性)。
double bubble sign
拡張した胃と十二指腸球部が二つの泡のように見える所見で、十二指腸閉鎖・狭窄、輪状膵、腸回転異常に伴う中腸軸捻転などで生じる。出生後は腹部単純エックス線で同様の二つのガス像として確認される。
主な染色体異常と胎児・新生児の特徴
・21トリソミー(Down症候群): 房室中隔欠損症・心室中隔欠損、十二指腸閉鎖、項部浮腫(NT肥厚)、鼻骨低形成、短い大腿骨・上腕骨。母体年齢とともに頻度が上昇する。 ・18トリソミー: 胎児発育不全、羊水過多、食道閉鎖、心奇形、overlapping finger、揺り椅子状足底、小脳低形成。 ・13トリソミー: 全前脳胞症、口唇口蓋裂・単眼症、多指症、心奇形。 ・Turner症候群: 頸部嚢胞性ヒグローマ、胎児水腫、大動脈縮窄症、大動脈二尖弁。 ・Klinefelter症候群: 胎児期は異常に乏しい。
出生前検査
・非確定的検査: 妊娠初期のNT(nuchal translucency、胎児項部の皮下透明帯)計測、母体血清マーカー、母体血中の胎児由来DNAを調べる非侵襲的出生前遺伝学的検査(NIPT)など。 ・確定的検査: 絨毛検査、羊水検査による胎児染色体分析。 検査の実施にあたっては遺伝カウンセリングが重要である。
POINT
・double bubble sign → 十二指腸閉鎖 → 羊水過多をきたす。 ・十二指腸閉鎖+房室中隔欠損症(心内膜床欠損症) → Down症候群(21トリソミー)を考える。 ・高年妊娠は胎児トリソミーのリスク因子。 ・18トリソミーは食道閉鎖・overlapping finger・胎児発育不全、13トリソミーは全前脳胞症・口唇口蓋裂・多指症、Turner症候群は頸部嚢胞性ヒグローマ・大動脈縮窄症と整理する。
