ホルモンは正常、それでも月経が来ない―掻爬の既往が招く「子宮性無月経」
第110回医師国家試験 D問題 第42問
国試問題にチャレンジ
29歳の女性。3か月前から無月経となったため来院した。2年前と6か月前とに稽留流産のため子宮内容除去術を受けていた。内診で子宮の大きさは正常で可動性は良好である。経腟超音波検査で卵巣に異常を認めない。乳汁分泌を認めない。基礎体温は二相性である。妊娠反応は陰性である。子宮卵管造影像を別に示す。患者は早期の妊娠を希望している。 適切な治療はどれか。

- a.抗菌薬投与
- b.子宮鏡下手術
- c.排卵誘発薬投与
- d.エストロゲン投与
- e.ドパミン作動薬投与
対話形式の解説
ドクター
医学生
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ドクターまとめ
子宮内容除去術の既往がある女性の続発性無月経で、妊娠反応陰性かつ基礎体温が二相性なら、内分泌系は正常に働いており、子宮性無月経、特にAsherman症候群(子宮腔癒着症)を考えます。子宮卵管造影で子宮腔の陰影欠損や変形を認め、子宮鏡で癒着を直接確認できれば診断はより確実になります。治療は子宮鏡下癒着剝離術が中心で、術後はIUDやバルーンの留置とエストロゲン投与で再癒着を防ぎ内膜の再生を促します。排卵誘発薬やドパミン作動薬は排卵障害・高プロラクチン血症がなければ適応がなく、エストロゲン単独や抗菌薬も癒着そのものは解決しません。障害部位から無月経を整理する考え方は、婦人科内分泌の診療全般の基本となります。
解答・解説
正解はbです
所見の整理
・29歳女性、3か月前から月経が止まっている → 続発性無月経(これまであった月経が3か月以上停止した状態) ・2年前と6か月前に、稽留流産に対して子宮内容除去術(子宮内の胎嚢などを器具で掻き出す手術)を受けている ・妊娠反応陰性 → 妊娠による無月経は否定 ・乳汁分泌なし → 高プロラクチン血症を疑う所見はない ・経腟超音波で卵巣に異常なし ・基礎体温が二相性 → 排卵があり、黄体も機能している(視床下部・下垂体・卵巣系は正常に働いている) ・子宮卵管造影(子宮腔から造影剤を注入して子宮腔と卵管を描出する検査)で子宮腔内の陰影欠損・変形がみられ、癒着が示唆される
診断へのプロセス
続発性無月経は、障害部位によって視床下部性、下垂体性、卵巣性、子宮性に分けて考える。基礎体温が二相性であれば排卵が起きており、ホルモンの分泌は正常に保たれていることになる。それでも月経がこないのは、ホルモンに反応して増殖・剝脱すべき子宮内膜の側に問題がある、すなわち子宮性無月経と判断できる。 子宮性無月経の代表が子宮腔癒着症(Asherman症候群)である。子宮内容除去術などで内膜の再生の源である基底層が傷つくと、内膜が再生せずに子宮腔の前壁と後壁が癒着する。流産や分娩の直後は内膜が脆弱で傷つきやすく、本例のように繰り返し掻爬を受けていることは大きな危険因子である。病歴、ホルモン的に正常であること、子宮卵管造影所見から、Asherman症候群による無月経と診断できる。
治療の考え方
原因は子宮腔の物理的な癒着であり、薬物でホルモン環境を整えても内膜が育つ場所がない。治療の中心は子宮鏡(子宮腔内を直接観察するカメラ)を用いて癒着を直視下に切離・剝離し、子宮腔を回復させる子宮鏡下癒着剝離術である。患者は早期の妊娠を希望しており、妊娠の場となる子宮腔を取り戻す手術が最も適切である。
選択肢考察
- ×a. 抗菌薬投与
発熱、下腹部痛、帯下の異常など、子宮内感染を示唆する所見はない。感染は癒着形成のきっかけになることはあるが、すでにできあがった癒着は抗菌薬では解消しないため、治療にならない。
- ○b. 子宮鏡下手術
Asherman症候群の治療の基本は、子宮鏡下に癒着を切離して子宮腔の形を回復させることである。術後は癒着の再形成を防ぐため、子宮内避妊具(IUD)やバルーンカテーテルを一時的に子宮腔内に留置し、エストロゲン(必要に応じて黄体ホルモンを併用したホルモン補充)を投与して内膜の再生を促す。子宮腔を回復させることで月経の再開と妊娠が期待でき、早期の妊娠を希望する本例に適した治療である。
- ×c. 排卵誘発薬投与
基礎体温が二相性であり、すでに排卵は起きている。排卵障害のない患者に排卵誘発薬(クロミフェンやゴナドトロピンなど)を使っても無月経の原因は解決せず、卵巣過剰刺激症候群や多胎妊娠などの副作用のリスクを負うだけである。癒着した子宮腔では受精卵が着床しにくい問題も残る。
- ×d. エストロゲン投与
エストロゲンは子宮内膜の増殖を促すため、子宮鏡下で癒着を剝離した後の内膜再生の補助として用いられる。しかし癒着が残ったままでは内膜が増殖する場所がなく、単独では治療にならない。手術に代わる治療ではなく、手術後の補助療法として位置づけられる。
- ×e. ドパミン作動薬投与
カベルゴリンやブロモクリプチンなどのドパミン作動薬は、プロラクチンの分泌を抑える薬で、高プロラクチン血症(乳汁漏出性無月経)の治療に用いる。本例は乳汁分泌がなく、基礎体温も二相性で排卵が保たれているため、高プロラクチン血症は考えにくく、適応はない。
続発性無月経の障害部位による分類
・視床下部性:体重減少、神経性やせ症、過度の運動、精神的ストレスなど(最も多い) ・下垂体性:高プロラクチン血症(プロラクチノーマ、薬剤性)、Sheehan症候群など ・卵巣性:早発卵巣不全、多嚢胞性卵巣症候群(PCOS)など ・子宮性:Asherman症候群、子宮内膜炎(結核性など) ・妊娠は最初に除外すべき最も頻度の高い原因である
基礎体温の見方
・二相性(低温相と高温相がある):排卵が起きており、黄体からプロゲステロンが分泌されている ・一相性:無排卵 ・二相性なのに月経がない場合は、妊娠か子宮性無月経を考える
ホルモン負荷試験による鑑別
・ゲスターゲン試験:黄体ホルモンを投与し、中止後に消退出血があれば第1度無月経(エストロゲンはある程度分泌されている) ・エストロゲン・ゲスターゲン試験:両者を投与しても出血がなければ子宮性無月経と判断する
Asherman症候群(子宮腔癒着症)
・子宮内膜基底層の損傷によって子宮腔内に癒着が生じた状態。 ・原因:流産・分娩後の子宮内容除去術(特に繰り返す掻爬)、帝王切開や子宮筋腫核出術などの子宮手術、子宮内膜の感染(結核など)。流産や分娩後はエストロゲンが低く内膜の再生が遅れるため、癒着しやすい。 ・症状:過少月経・無月経、不妊、反復流産、癒着胎盤などの周産期合併症。 ・診断:子宮卵管造影で子宮腔の不整な陰影欠損、子宮鏡で癒着を直接確認(診断の確定に最も有用)。 ・治療:子宮鏡下癒着剝離術 → 癒着防止(IUDやバルーンの留置)+エストロゲン投与による内膜再生。 ・予防:子宮内操作を愛護的に行う。流産処置では、内膜への侵襲が少ないとされる吸引法が推奨されている。
POINT
・子宮内容除去術の既往+続発性無月経+基礎体温二相性 → Asherman症候群(子宮性無月経) ・基礎体温二相性は排卵があることを示し、内分泌異常による無月経は考えにくい ・診断は子宮卵管造影・子宮鏡で子宮腔の癒着を確認する ・治療は子宮鏡下癒着剝離術。術後にIUD・バルーン留置とエストロゲン投与で再癒着を防ぐ ・乳汁分泌がなければドパミン作動薬、排卵があれば排卵誘発薬の適応はない
