3年かけて削れた股関節―「狭い隙間」と「骨棘」が語る変形性股関節症
第110回医師国家試験 D問題 第38問
国試問題にチャレンジ
72歳の女性。左股関節痛と歩行困難とを主訴に来院した。3年前から左股関節痛を自覚し,最近,痛みが強くなり跛行を伴うようになってきたため受診した。股関節部に外傷歴はない。喫煙歴はない。飲酒は機会飲酒。身長152 cm,体重65 kg。体温36.2℃。脈拍72/分,整。下肢長は右75 cm,左73 cmである。股関節エックス線写真正面像を別に示す。 最も考えられる疾患はどれか。

- a.関節リウマチ
- b.化膿性股関節炎
- c.神経病性関節症
- d.大腿骨頭壊死症
- e.変形性股関節症
対話形式の解説
ドクター
医学生
ドクター
医学生
ドクター
医学生
ドクター
医学生
ドクター
医学生
ドクター
医学生
ドクター
医学生
ドクター
医学生
ドクター
医学生
ドクター
医学生
ドクター
医学生
ドクターまとめ
中高年女性で年単位に進行する股関節痛と跛行、患側の下肢短縮があり、発熱などの炎症所見を欠く場合は変形性股関節症を考えます。エックス線では関節裂隙の狭小化に加え、骨棘形成による二重臼蓋や骨頭の扁平化といった増殖性・変形性変化がみられることが特徴です。関節リウマチは均等な裂隙狭小化と骨萎縮・寛骨臼底突出で骨棘に乏しく、大腿骨頭壊死症はステロイドやアルコールを背景に初期は裂隙が保たれ、神経病性関節症は破壊の程度に比べ痛みが軽く、化膿性股関節炎は急性発症と発熱が手がかりになります。日本の変形性股関節症の多くは寛骨臼形成不全に続発する二次性で、治療は保存療法から骨切り術、人工股関節全置換術まで病期と年齢に応じて選択されます。経過の速さ、炎症の有無、画像の変化の質を組み合わせて鑑別する考え方は、関節疾患全般の診療の基本になります。
解答・解説
正解はeです
所見の整理
・72歳の女性。3年前から左股関節痛があり、最近は痛みが強くなって跛行(足を引きずる歩き方)を伴うようになった。年単位でゆっくり悪化する慢性の経過である。 ・外傷歴はない。喫煙歴はなく、飲酒は機会飲酒程度で、ステロイド使用歴の記載もない。 ・身長152 cm、体重65 kgで、BMIは約28と肥満傾向があり、股関節への荷重負担が大きい。 ・体温36.2℃で発熱はない。 ・下肢長は右75 cm、左73 cmで、左が2 cm短い。股関節の関節軟骨のすり減りや大腿骨頭の変形・上方への移動により、患側の下肢が短くなったと考えられる。
画像所見
股関節エックス線写真正面像では、左股関節の関節裂隙が狭くなり、大腿骨頭は扁平化して変形している。臼蓋側には骨棘形成による二重臼蓋(臼蓋底が二重に見える所見)がみられ、関節軟骨の消失と骨の反応性変化を示す変形性関節症の典型像である。
診断へのプロセス
高齢女性で慢性に進行する片側の股関節痛、発熱などの炎症所見がないこと、患側の下肢短縮、エックス線での関節裂隙狭小化と骨棘形成から、変形性股関節症と診断できる。鑑別として、炎症性疾患(関節リウマチ、化膿性股関節炎)、阻血性疾患(大腿骨頭壊死症)、無痛性の関節破壊(神経病性関節症)を、病歴・危険因子・画像所見から順に除外していく。
選択肢考察
- ×a. 関節リウマチ
関節リウマチは手指(近位指節間関節・中手指節関節)や手関節など小関節から始まる多発性・対称性の滑膜炎が典型で、朝のこわばりを伴う。股関節が侵されるのは進行例が多い。エックス線では関節裂隙が全体に均等に狭くなり、関節近傍の骨萎縮や骨びらんがみられ、骨頭が骨盤内へ押し込まれる寛骨臼底突出(臼底の内側への突出)が特徴的である。骨棘形成のような増殖性変化は乏しい。片側の股関節だけが侵され、他の関節症状がなく、骨棘形成を伴う本例とは合わない。
- ×b. 化膿性股関節炎
化膿性股関節炎は細菌が関節内に感染して起こり、急に強い痛みと発熱が出て、患肢を動かせなくなるのが典型である。血液検査では白血球増加やCRP上昇がみられ、関節穿刺で膿性の関節液が得られる。乳幼児や、糖尿病・ステロイド使用などの易感染状態の患者に多い。本例は3年かけて慢性に進行し、発熱もないため否定的である。
- ×c. 神経病性関節症
神経病性関節症(Charcot関節)は、糖尿病性神経障害、脊髄癆、脊髄空洞症などで痛覚や深部感覚が失われ、関節を保護できずに高度に破壊される病態である。関節の破壊や不安定性が非常に強いわりに痛みが軽いことが特徴で、エックス線では骨片の散乱や関節の脱臼を伴う著しい破壊がみられる。本例は強い痛みが主訴であり、神経障害の原因となる基礎疾患もないため考えにくい。
- ×d. 大腿骨頭壊死症
特発性大腿骨頭壊死症は大腿骨頭への血流が途絶えて骨が壊死する疾患で、副腎皮質ステロイドの全身投与やアルコール多飲が主な危険因子であり、30〜50歳代に多く、両側に生じることも多い。エックス線では骨頭内の帯状硬化像や、骨頭の圧潰とその直下の骨折線(crescent sign)がみられ、初期には関節裂隙が保たれるのが特徴である。MRIのT1強調像で帯状の低信号域を示し、早期診断に有用である。本例はステロイド使用歴やアルコール多飲がなく、関節裂隙狭小化と骨棘形成を主体とする所見なので合わない。
- ○e. 変形性股関節症
高齢女性で、年単位で進行する股関節痛と跛行がみられる。発熱がなく炎症性・感染性疾患を示唆する所見はなく、患側(左)の下肢短縮がある。エックス線で関節裂隙の狭小化、骨棘形成(二重臼蓋)、大腿骨頭の変形がみられる。これらは変形性股関節症の典型的な臨床像と画像所見であり、肥満傾向も荷重負担を増やす増悪因子となる。
変形性股関節症
・関節軟骨の変性・摩耗に始まり、周囲の骨の増殖性変化(骨棘)や硬化が加わって関節が変形する疾患である。 ・日本では女性に圧倒的に多く、大部分(約8割)は寛骨臼形成不全(臼蓋形成不全:骨盤側の受け皿が浅い状態)や発育性股関節形成不全(先天性股関節脱臼)の既往に続発する二次性である。欧米では原因の明らかでない一次性が大多数を占める。近年は日本でも高齢化に伴い一次性が増えている。 ・症状:動き始めや長距離歩行時の痛み(初期)から、安静時痛・夜間痛(進行期)へ移る。可動域制限(特に屈曲・外転・内旋)、跛行、患肢の短縮がみられる。中殿筋の筋力低下によりTrendelenburg徴候(患側で片脚立ちすると反対側の骨盤が下がる)がみられることがある。 ・エックス線所見:関節裂隙の狭小化、軟骨下骨の硬化、骨嚢胞、骨棘形成(臼蓋側の骨棘による二重臼蓋、骨頭側の骨棘)、骨頭の扁平化・変形、骨頭の亜脱臼。病期は関節裂隙の状態により前股関節症、初期、進行期、末期に分類される。 ・治療:減量、杖の使用、筋力訓練などの運動療法、非ステロイド性抗炎症薬などの保存療法から始める。若年で臼蓋形成不全がある場合は寛骨臼回転骨切り術などの骨切り術、高齢者や末期では人工股関節全置換術が適応となる。
股関節疾患の鑑別の要点
・変形性股関節症:中高年女性、慢性進行、関節裂隙狭小化と骨棘。 ・大腿骨頭壊死症:ステロイド・アルコール、骨頭の帯状硬化像と圧潰、MRIのT1低信号帯、初期は関節裂隙が保たれる。 ・関節リウマチ:多関節炎、均等な関節裂隙狭小化、骨萎縮、寛骨臼底突出、骨棘に乏しい。 ・化膿性股関節炎:急性発症、発熱、炎症反応高値、関節液は膿性。 ・神経病性関節症:感覚障害を背景に、高度な関節破壊に比べて痛みが乏しい。 ・大腿骨頸部骨折:高齢女性の転倒後に急に歩けなくなる。患肢の短縮と外旋がみられる。
POINT
・中高年女性の慢性進行性の股関節痛+跛行+患肢短縮+関節裂隙狭小化・骨棘→変形性股関節症。 ・日本の変形性股関節症は女性に多く、大半は寛骨臼形成不全に続発する二次性である。 ・大腿骨頭壊死症はステロイド・アルコールが危険因子で、初期には関節裂隙が保たれる。 ・関節リウマチは骨棘に乏しく、寛骨臼底突出が特徴である。 ・神経病性関節症は関節破壊の程度に比べて痛みが軽い。
