爪のくぼみと腰の痛みがつながるとき―乾癬性関節炎を脊椎関節炎として読み解く
第110回医師国家試験 D問題 第25問
国試問題にチャレンジ
40歳の男性。関節痛と皮疹とを主訴に来院した。以前から皮疹をよく認めていたが,約3か月前から背部の皮疹が拡大してきた。同時期から,手指の関節痛,腰痛および殿部痛を自覚するようになった。貼付剤で様子をみていたが,改善しないため受診した。意識は清明。体温36.5℃。心音と呼吸音とに異常を認めない。上腕部と背部とに皮疹を認める。両手の爪に点状陥凹を認める。両手の示指,中指,環指の遠位指節間関節〈DIP関節〉および近位指節間関節〈PIP関節〉に腫脹と圧痛とを認める。アキレス腱付着部に軽度の圧痛を認める。血液所見:赤血球452万,Hb 14.1 g/dL,Ht 45%,白血球5,600,血小板16万。免疫血清学所見:CRP 0.3 mg/dL,リウマトイド因子〈RF〉陰性,抗核抗体陰性。背部の写真を別に示す。 この患者でみられる可能性が高いのはどれか。

- a.心嚢水貯留
- b.外陰部潰瘍
- c.仙腸関節炎
- d.Gottron徴候
- e.多発単神経炎
対話形式の解説
ドクター
医学生
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医学生
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医学生まとめ
銀白色鱗屑を伴う境界明瞭な紅斑と爪の点状陥凹に、DIP関節を含む末梢関節炎、付着部炎が加わり、RF陰性であれば乾癬性関節炎を考えます。乾癬性関節炎は脊椎関節炎の一つで、仙腸関節炎(片側性・非対称性が多い)などの体軸病変、付着部炎、指趾炎、ぶどう膜炎を伴いうるため、この患者さんの腰痛・殿部痛は仙腸関節炎によるものと解釈できます。心嚢水貯留はSLE、外陰部潰瘍はBehçet病、Gottron徴候は皮膚筋炎、多発単神経炎は血管炎や悪性関節リウマチに特徴的な所見として整理しておくと、類題にも対応できます。治療では体軸病変に生物学的製剤が中心となるため、病変の分布を見極めることが重要です。乾癬患者さんの関節痛や腰痛を見逃さない視点は、皮膚科と内科・整形外科をつなぐ臨床力の基本となります。
解答・解説
正解はcです
所見の整理
40歳男性。以前から皮疹を繰り返しており、約3か月前から背部の皮疹が広がってきた。同じ時期から次の症状が出ている。 ・手指の関節痛:示指・中指・環指のDIP関節(遠位指節間関節)とPIP関節(近位指節間関節)に腫脹・圧痛があり、末梢の多関節炎である。特にDIP関節が侵されている点が重要である。 ・腰痛・殿部痛:脊椎や仙腸関節の炎症(体軸関節炎)を疑わせる症状である。 ・アキレス腱付着部の圧痛:腱や靱帯が骨に付く部位の炎症(付着部炎)を示す。 ・両手の爪の点状陥凹:乾癬の爪病変(爪乾癬)の代表的な所見である。 背部の写真では、境界明瞭な紅斑の上に銀白色の厚い鱗屑が付着した局面がみられ、尋常性乾癬の皮疹である。検査ではRF(リウマトイド因子)陰性、抗核抗体陰性で、CRPは0.3 mg/dLとごく軽度の値にとどまる。
診断
乾癬の皮疹と爪病変に、DIP関節を含む末梢関節炎、付着部炎、炎症性腰痛を思わせる腰痛・殿部痛が加わり、RFは陰性である。以上から乾癬性関節炎と診断できる。RF陰性・抗核抗体陰性であることから、関節リウマチや全身性エリテマトーデスなどの膠原病は考えにくい。
設問の考え方
乾癬性関節炎は、強直性脊椎炎や反応性関節炎などとともに脊椎関節炎(かつては血清反応陰性脊椎関節症とよばれた)に分類される。このグループは仙腸関節炎・脊椎炎などの体軸関節病変、付着部炎、指趾炎(指全体がソーセージ状に腫れる)、ぶどう膜炎などを共通の特徴とする。本例の腰痛・殿部痛は仙腸関節炎による可能性が高い。各選択肢がどの疾患に特徴的な所見かを整理して選ぶ。
選択肢考察
- ×a. 心嚢水貯留
心膜炎による心嚢水貯留は、全身性エリテマトーデス(SLE)でよくみられ(漿膜炎)、関節リウマチなどでも起こる。乾癬性関節炎で心嚢水がたまることはまれである。なお脊椎関節炎の心血管合併症としては、強直性脊椎炎での大動脈弁閉鎖不全症や伝導障害が知られる。本例は抗核抗体陰性でSLEを示す所見もない。
- ×b. 外陰部潰瘍
外陰部潰瘍は、口腔内アフタ性潰瘍、皮膚症状(結節性紅斑など)、眼症状(ぶどう膜炎)とともにBehçet病の主症状の一つである。乾癬性関節炎ではみられない。
- ○c. 仙腸関節炎
乾癬性関節炎は脊椎関節炎の一つであり、仙腸関節炎や脊椎炎などの体軸関節病変を伴うことがある。本例の腰痛・殿部痛は仙腸関節炎による症状と考えられ、付着部炎(アキレス腱付着部の圧痛)があることもこれを支持する。乾癬性関節炎の仙腸関節炎は、強直性脊椎炎に比べて片側性・非対称性に起こりやすいのが特徴である。単純エックス線写真やMRIで評価する。
- ×d. Gottron徴候
Gottron徴候は、手指の関節(MCP関節・PIP関節など)の伸側に生じる、鱗屑を伴う紫紅色の紅斑や丘疹であり、皮膚筋炎に特徴的な皮膚所見である。肘・膝の伸側にもみられる。本例の皮疹は背部・上腕に広がる銀白色鱗屑を伴う紅斑局面で乾癬の皮疹であり、筋力低下などの筋症状もない。
- ×e. 多発単神経炎
多発単神経炎は、複数の末梢神経が非対称性に次々と障害される病態で、神経を栄養する血管の炎症によって起こる。顕微鏡的多発血管炎、好酸球性多発血管炎性肉芽腫症、結節性多発動脈炎などの血管炎や、悪性関節リウマチ(リウマトイド血管炎)でみられる。乾癬性関節炎ではみられない。
乾癬性関節炎の概要
・乾癬患者の一部(報告により異なるがおおむね1〜3割程度)に生じる炎症性関節炎である。多くは皮疹が先行するが、関節炎が先に出ることもある。性差はほとんどない。 ・RF陰性が原則で、HLA-B27との関連は体軸病変をもつ例で強い。
主な症状
・末梢関節炎:DIP関節が侵されやすいのが特徴(関節リウマチではDIP関節はあまり侵されない)。 ・体軸関節炎:仙腸関節炎(片側性・非対称性が多い)、脊椎炎。 ・付着部炎:アキレス腱付着部、足底腱膜付着部など。 ・指趾炎:指全体がソーセージ様に腫れる。 ・爪病変:点状陥凹、爪甲剝離、爪甲下角質増殖など。爪乾癬は関節炎の発症と強く関連する。 ・その他:ぶどう膜炎(脊椎関節炎共通の関節外症状)。
Moll and Wrightの病型分類
1)非対称性少関節炎型、2)対称性多関節炎型(関節リウマチに似る)、3)DIP関節優位型、4)ムチランス型(骨融解で関節が高度に破壊される)、5)脊椎炎型(体軸型)。病型は重なったり移行したりする。
CASPAR分類基準
炎症性関節疾患(関節炎・脊椎炎・付着部炎)があり、以下の項目で3点以上を満たすと乾癬性関節炎と分類する。 ・現在の乾癬(2点)、または乾癬の既往・乾癬の家族歴(1点) ・典型的な爪乾癬(1点) ・RF陰性(1点) ・指趾炎(現在または既往)(1点) ・手足のエックス線写真での関節近傍の新生骨形成(1点) 本例は現在の乾癬(2点)、爪乾癬(1点)、RF陰性(1点)で基準を満たす。
画像所見
エックス線写真では骨びらんと骨新生が混在し、DIP関節の高度破壊で末節骨の基部が杯状、中節骨の遠位端が鉛筆の先のように細くなるpencil-in-cup変形が特徴的である。
治療
非ステロイド性抗炎症薬(NSAIDs)、メトトレキサートなどの抗リウマチ薬、PDE4阻害薬(アプレミラスト)、生物学的製剤(TNF阻害薬、IL-17阻害薬、IL-23阻害薬など)、JAK阻害薬が用いられる。体軸病変にはメトトレキサートなどの従来型抗リウマチ薬は効果が乏しく、生物学的製剤が中心となる。
POINT
・乾癬の皮疹(銀白色鱗屑を伴う境界明瞭な紅斑)+爪の点状陥凹+関節炎→乾癬性関節炎。 ・乾癬性関節炎は脊椎関節炎の一つで、DIP関節炎、付着部炎、指趾炎、仙腸関節炎(片側性が多い)が特徴である。 ・RF陰性、抗核抗体陰性。 ・選択肢の所見と疾患の対応:心嚢水貯留→SLEなど、外陰部潰瘍→Behçet病、Gottron徴候→皮膚筋炎、多発単神経炎→血管炎・悪性関節リウマチ。
