StudyMed医師国家試験

下大静脈は右にある―左卵巣静脈が腎静脈に注ぐ理由

第110回医師国家試験 B問題 第8問

国試問題にチャレンジ

第110回 B問題 第8問

左卵巣静脈が合流するのはどれか。

  1. a.腎静脈
  2. b.下大静脈
  3. c.子宮静脈
  4. d.外腸骨静脈
  5. e.内腸骨静脈

対話形式の解説

ドクタードクター
今回は婦人科の問題だけれど、中身は純粋な解剖学だ。卵巣の静脈がどこに流れ込むか、そして左右で違いがあることがテーマになる。丸暗記ではなく、発生と位置関係から理解しておくと忘れにくいよ。
医学生医学生
卵巣は骨盤内にあるので、子宮と同じように内腸骨静脈に注ぐのかなと最初は思いました。
ドクタードクター
多くの人がそう考えるところだね。でも、卵巣は胎生期にどこで発生したか覚えているかな。
医学生医学生
発生学の講義で、性腺は腎臓の近く、後腹膜の高い位置で発生してから下降すると習いました。精巣が陰嚢まで降りるのと同じ話ですよね。
ドクタードクター
その通り。だから卵巣を養う血管は、骨盤内の内腸骨動静脈系ではなく、腎臓の高さ付近から出入りする。卵巣動脈は左右とも腎動脈の少し下で腹部大動脈から直接分岐し、卵巣静脈は腹部まで上行してから大きな静脈に合流するんだ。
医学生医学生
では、左右とも下大静脈に注ぐんですか。
ドクタードクター
そこで左右差が出る。下大静脈は脊柱の右側を走っているよね。右卵巣静脈はすぐ近くを上行するので、腎静脈より少し下の高さで下大静脈に直接流入する。一方、左卵巣静脈は下大静脈から離れた左側を上がってくるから、まず左腎静脈に注ぎ、その左腎静脈が大動脈の前を横切って下大静脈に合流する。
医学生医学生
なるほど、だから左卵巣静脈が合流するのは腎静脈なんですね。
ドクタードクター
正解だ。ほかの選択肢も確認しておこう。下大静脈に直接注ぐのは右卵巣静脈のほう。左も最終的には下大静脈へ戻るけれど、直接ではなく左腎静脈を経由するから、合流先としては誤りになる。
医学生医学生
子宮静脈とはつながっていないんですか。子宮と卵巣は近いので、関係がありそうに思えます。
ドクタードクター
子宮底付近で卵巣静脈系と細い吻合をもつことはあるけれど、卵巣静脈の本幹が子宮静脈に合流するわけではない。子宮静脈は腟の静脈とともに静脈叢をつくって内腸骨静脈へ注ぐ、骨盤内の静脈だよ。
医学生医学生
内腸骨静脈は骨盤内臓器の静脈血を集めるので、卵巣だけ例外ということですね。外腸骨静脈は下肢から戻ってくる静脈なので関係なさそうです。
ドクタードクター
その理解で合っている。外腸骨静脈は大腿静脈の続きで、内腸骨静脈と合わさって総腸骨静脈になる。卵巣静脈とは関係しない。
医学生医学生
この左右差、ほかの静脈でもありましたよね。
ドクタードクター
いい質問だ。副腎静脈も同じで、右は下大静脈へ直接、左は左腎静脈へ注ぐ。原発性アルドステロン症の局在診断で行う副腎静脈サンプリングで、右側のカテーテル挿入が難しいのはこのためなんだ。
医学生医学生
泌尿器科の実習で、精索静脈瘤は左に多いと聞きました。それもこの解剖が理由ですか。
ドクタードクター
まさにそう。左精巣静脈は左腎静脈にほぼ直角に合流するうえ、左腎静脈は大動脈と上腸間膜動脈の間で圧迫されることがある。いわゆるナットクラッカー現象だね。そのため還流障害が起こりやすく、精索静脈瘤の大部分は左側に生じ、男性不妊の原因としても重要だ。
医学生医学生
女性でも同じようなことが起こるんでしょうか。
ドクタードクター
女性では卵巣静脈の弁不全や逆流で骨盤内の静脈がうっ滞し、慢性骨盤痛の原因になる骨盤うっ血症候群がある。これも左側に多いとされる。また臨床の注意点として、左腎腫瘍が左腎静脈内に進展すると、急に左の精索静脈瘤が出てくることがある。中高年の男性で新たに左精索静脈瘤が出現したら、腎腫瘍を念頭に置くことが大切だよ。
医学生医学生
「下大静脈は右にあるから、左は腎静脈経由」と覚えれば、卵巣も精巣も副腎もまとめて理解できますね。
ドクタードクター
その通り。位置関係から説明できる知識は、病態の理解にもそのままつながるんだ。

まとめ

卵巣(精巣)は胎生期に腎臓近くで発生して下降するため、その血管は骨盤内の内腸骨系ではなく腹部の高さで出入りし、卵巣動脈は左右とも腹部大動脈から直接分岐します。静脈には左右差があり、脊柱の右側を走る下大静脈に近い右卵巣静脈は下大静脈へ直接注ぎ、左卵巣静脈は左腎静脈に合流してから下大静脈へ還流します。副腎静脈も同様の左右差を示し、副腎静脈サンプリングで右側の手技が難しい理由になっています。左腎静脈は大動脈と上腸間膜動脈の間で圧迫されうるため、精索静脈瘤や骨盤うっ血症候群が左側に多く、新たな左精索静脈瘤では左腎腫瘍の腎静脈進展も考慮します。「下大静脈は右にある」という位置関係から理解しておくと、解剖の知識が臨床の病態理解に直結します。

解答・解説

正解はaです

卵巣(男性では精巣)の静脈還流の左右差を問う解剖学の問題である。

発生学的背景

卵巣・精巣は胎生期に腎臓の近く(後腹膜の高い位置)で発生し、その後骨盤内(精巣は陰嚢内)へ下降する。このため、卵巣を栄養する血管は骨盤内の内腸骨動静脈系ではなく、腎臓の高さ付近から出入りする。卵巣動脈は左右とも腎動脈分岐部のやや下方で腹部大動脈から直接分岐し、卵巣静脈は腹部の大きな静脈まで上行してから合流する。

左右差が生じる理由

下大静脈は脊柱の右側を走行する。右卵巣静脈は下大静脈のすぐ近くを上行するため、腎静脈よりやや下の高さで下大静脈の前外側に直接流入する。一方、左卵巣静脈は下大静脈から離れた左側を上行するため、まず左腎静脈に注ぎ、左腎静脈が大動脈の前方(上腸間膜動脈との間)を横切って下大静脈に合流する。したがって、左卵巣静脈が合流するのは左腎静脈である。

考え方

「下大静脈は右側にある → 右は直接、左は腎静脈経由」と位置関係から理解しておけば、卵巣静脈・精巣静脈・副腎静脈のいずれにも同じ考え方を当てはめられる。

選択肢考察

  1. ○a.  腎静脈

    左卵巣静脈は左腎静脈に合流する。下大静脈が体の右側にあるため、左の性腺静脈は直接下大静脈には届かず、左腎静脈を介して下大静脈へ還流する。左腎静脈は大動脈と上腸間膜動脈の間を通過するため、ここで圧迫されると左腎静脈圧が上昇し、左卵巣静脈(男性では左精巣静脈)の逆流やうっ滞を招きやすい。

  2. ×b.  下大静脈

    下大静脈に直接流入するのは右卵巣静脈である。右卵巣静脈は右腎静脈の合流部よりやや下方で、下大静脈の前外側面に直接注ぐ。左卵巣静脈は最終的には下大静脈へ還流するものの、直接ではなく左腎静脈を経由するため、「合流する血管」としては誤りである。

  3. ×c.  子宮静脈

    子宮静脈は子宮傍組織で腟の静脈とともに子宮腟静脈叢を形成し、内腸骨静脈へ注ぐ骨盤内の静脈である。子宮底付近で卵巣静脈系と細い吻合をもつことはあるが、卵巣静脈の本幹が子宮静脈に合流するわけではない。

  4. ×d.  外腸骨静脈

    外腸骨静脈は大腿静脈が鼠径靱帯の下を通過して続いたもので、主に下肢からの血液を受ける。内腸骨静脈と合わさって総腸骨静脈となる。卵巣静脈とは関係しない。

  5. ×e.  内腸骨静脈

    内腸骨静脈は子宮・腟・膀胱・直腸など骨盤内臓器や殿部の静脈血を受ける。子宮静脈や腟静脈は静脈叢を形成してここに注ぐが、卵巣は発生学的に腎臓近くから下降した臓器であるため、その静脈は骨盤内の内腸骨静脈系には注がず、腹部まで上行して腎静脈や下大静脈に合流する。

性腺の血管のまとめ

・卵巣動脈/精巣動脈:左右とも腹部大動脈から直接分岐する(腎動脈分岐部のやや下方)。 ・右卵巣静脈/右精巣静脈:下大静脈に直接流入する。 ・左卵巣静脈/左精巣静脈:左腎静脈に流入し、その後下大静脈へ。

同様の左右差を示す静脈

・副腎静脈:右副腎静脈は下大静脈へ直接、左副腎静脈は左腎静脈へ注ぐ。副腎静脈サンプリング(原発性アルドステロン症の局在診断)で右側のカテーテル挿入が難しいのはこのためである。

臨床との関連

・精索静脈瘤:左精巣静脈は左腎静脈にほぼ直角に合流し、さらに左腎静脈が大動脈と上腸間膜動脈の間で圧迫されることがある(ナットクラッカー現象)ため、還流障害が起こりやすく、精索静脈瘤の大部分は左側に生じる。男性不妊の原因として重要である。 ・骨盤うっ血症候群:女性では卵巣静脈の弁不全や逆流により骨盤内静脈がうっ滞し、慢性骨盤痛の原因となる。左側に多いのも同じ解剖学的理由による。 ・左腎腫瘍が左腎静脈内に進展すると、左精巣静脈の還流障害から急に左精索静脈瘤が出現することがある。 ・卵巣静脈血栓症は分娩後に右側に多いことが知られる。

POINT

・右卵巣(精巣)静脈 → 下大静脈に直接流入 ・左卵巣(精巣)静脈 → 左腎静脈に流入 ・卵巣(精巣)動脈は左右とも腹部大動脈から直接分岐 ・副腎静脈も同じ左右差(右は下大静脈、左は左腎静脈) ・この解剖が左側に精索静脈瘤が多い理由となる

※問題・正答は厚生労働省の公開資料をもとに掲載しています。