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曲線を「上に動かす」薬はどれ?―Frank-Starling曲線で読む強心薬の働き

第110回医師国家試験 B問題 第6問

国試問題にチャレンジ

第110回 B問題 第6問

心機能曲線の模式図を示す。  曲線Aを矢印の方向に最も大きく移動させるのはどれか。

第110回 B問題 第6問の問題画像
  1. a.ドパミン
  2. b.フロセミド
  3. c.リドカイン
  4. d.ニフェジピン
  5. e.ニトログリセリン

対話形式の解説

ドクタードクター
今回は、心機能曲線、いわゆるFrank-Starling曲線を使って、薬の作用を整理する問題だ。ポイントは、点が曲線の上を左右に動くのか、それとも曲線そのものが上下に動くのか、という区別。図の矢印は曲線Aを上へ持ち上げる向きだね。
医学生医学生
横軸が左室拡張期圧、縦軸が心拍出量ですね。生理学の講義で、心筋は引き伸ばされるほど強く収縮すると習いました。
ドクタードクター
そう、それがFrank-Starlingの法則だ。拡張期に心室がたくさん血液を受け入れるほど、ある範囲までは1回拍出量が増え、やがて頭打ちになる。この関係を描いたのが心機能曲線だよ。では、前負荷が変わったら図の上ではどうなると思う?
医学生医学生
前負荷が増えると心拍出量が増えるので……曲線が上に動くんでしょうか。
ドクタードクター
そこが一番の落とし穴だね。前負荷は横軸そのものだから、前負荷が変わっても同じ曲線の上を左右に移動するだけなんだ。曲線自体は変わらない。曲線を上に動かすには、同じ左室拡張期圧でもより多く拍出できる状態、つまり心収縮力が上がる必要がある。
医学生医学生
同じ前負荷で拍出量が増える、ということは陽性変力作用のある薬ですね。選択肢の中だとドパミンでしょうか。
ドクタードクター
正解。ドパミンはノルアドレナリンの前駆体である内因性カテコラミンで、中等量では心筋のβ1受容体を刺激して収縮力と心拍数を高める。だから曲線そのものが上方へ移動する。選択肢の中で直接の強心作用をもつのはドパミンだけだ。
医学生医学生
ドパミンは用量で作用が変わると薬理学で習いました。
ドクタードクター
よく覚えているね。低用量ではドパミン受容体を介して腎血管や腸間膜血管を拡張させ、中等量でβ1刺激による強心作用、高用量ではα1刺激による血管収縮が主体になる。用量による作用の違いはセットで押さえておこう。では、フロセミドはどうかな。
医学生医学生
ループ利尿薬なので、尿を出して循環血液量を減らす……つまり前負荷が下がって、曲線上を左に動くだけですね。
ドクタードクター
その通り。Henle係蹄上行脚のNa+-K+-2Cl-共輸送体を阻害して前負荷を下げる。肺うっ血の改善には主力の薬だけど、収縮力を上げる作用はない。ニトログリセリンも考え方は近いよ。
医学生医学生
ニトログリセリンは静脈を広げて静脈還流を減らすので、やはり前負荷を下げて左に動かす薬ですね。循環器内科を回ったとき、急性心不全の患者さんにまず舌下で使っていました。
ドクタードクター
そう、低用量では主に静脈拡張で前負荷を下げ、高用量では動脈も広げて後負荷も軽くする。でも直接の強心作用はないから、曲線を大きく持ち上げることはない。ニフェジピンはどう考える?
医学生医学生
ジヒドロピリジン系のカルシウム拮抗薬で動脈を広げるので、後負荷を下げる薬です。後負荷が下がると拍出量は増えるので、少しは上に動きそうですが……。
ドクタードクター
鋭いね。後負荷が下がれば同じ前負荷での拍出量はやや増えるから、特に不全心では曲線をわずかに上へ動かしうる。ただし心収縮力そのものを高めるわけではないし、カルシウム拮抗薬は心筋に対してはむしろ陰性変力的に働く性質がある。だから「最も大きく」動かすのは強心薬のドパミンになる。
医学生医学生
リドカインは抗不整脈薬なので、関係なさそうですね。
ドクタードクター
そうだね。Na+チャネルを遮断するVaughan Williams分類Ib群で、心室性不整脈に使う。不整脈が治まって心拍出量が間接的に改善することはあっても、収縮力を高める作用はなく、むしろ軽い陰性変力作用をもちうる。
医学生医学生
前負荷は曲線上を横に、収縮力は曲線を上下に、後負荷はその中間くらい、と整理できますね。
ドクタードクター
いいまとめだ。これは臨床ではForrester分類につながる。肺動脈楔入圧18 mmHgと心係数2.2 L/分/m2で4群に分け、肺うっ血だけのII群なら利尿薬や血管拡張薬で点を左へ、末梢循環不全だけのIII群なら輸液で点を右へ、両方あるIV群では強心薬で曲線を上に持ち上げ、それでも不十分ならIABPや補助循環を考える。今回の図そのものを治療戦略に置き換えたイメージだね。
医学生医学生
Swan-Ganzカテーテルの数値が、図の横軸と縦軸に対応しているということですね。CBTの勉強でバラバラに覚えていたものがつながりました。
ドクタードクター
その感覚が大事。心拍出量は前負荷・後負荷・心収縮力・心拍数で決まる、という枠組みに薬を当てはめれば、初めて見る薬でも作用を推測できるよ。

まとめ

心機能曲線(Frank-Starling曲線)では、前負荷の変化は同じ曲線上の左右の移動にすぎず、曲線そのものを上方へ動かすのは心収縮力の増強です。ドパミンは中等量でβ1受容体を刺激して陽性変力作用を示すため、同じ左室拡張期圧でも心拍出量が増え、曲線を最も大きく上方へ移動させます。フロセミドやニトログリセリンは主に前負荷を下げて曲線上を左方へ移動させ、ニフェジピンは後負荷軽減で不全心の曲線をわずかに持ち上げうるものの強心作用はなく、リドカインは抗不整脈薬で収縮力を高めません。この考え方はForrester分類に基づく心不全治療(II群は利尿薬・血管拡張薬、III群は輸液、IV群は強心薬)にそのまま結びつくため、薬の作用を前負荷・後負荷・心収縮力の枠組みで整理しておくことが重要です。

解答・解説

正解はaです

図は、横軸に左室拡張期圧(前負荷の指標)、縦軸に心拍出量をとった心機能曲線(Frank-Starling曲線)であり、曲線Aを上方へ移動させる(矢印)要因が問われている。

Frank-Starlingの法則

心筋は、拡張期に引き伸ばされるほど(左室拡張末期の容積・圧が大きいほど)、ある範囲までは強く収縮する。そのため前負荷が増えると心拍出量は増加し、やがてプラトーに達する。この関係を描いたのが心機能曲線である。

曲線上の移動と曲線自体の移動

・前負荷(循環血液量、静脈還流)が変化した場合:同じ曲線の上を左右に移動するだけで、曲線そのものは変わらない。利尿薬や静脈拡張薬で前負荷を下げると、点は曲線上を左方へ動く。 ・心収縮力(陽性変力作用)が変化した場合:同じ前負荷でも心拍出量が変わるため、曲線自体が上下に移動する。収縮力が増すと上方へ、低下すると下方へ移動する。 ・後負荷の変化も、同じ前負荷での1回拍出量を変えるため曲線を移動させる(後負荷が下がれば上方、上がれば下方)が、正常に近い心臓では影響は小さく、主に心不全の心臓で効果がはっきりする。 図の矢印はまさに「同じ左室拡張期圧で心拍出量が大きくなる」上方移動であり、これを最も大きく起こすのは心収縮力を直接高める薬物、すなわち強心作用をもつカテコラミンである。

選択肢考察

  1. ○a.  ドパミン

    ドパミンはノルアドレナリンの前駆体である内因性カテコラミンで、中等量(おおむね3〜10 μg/kg/分)では心筋のβ1受容体を刺激して心収縮力と心拍数を増加させる(陽性変力・変時作用)。収縮力が増すことで、同じ左室拡張期圧でもより多くの血液を拍出できるようになり、心機能曲線そのものが上方へ移動する。選択肢中で唯一、直接の強心作用をもつ薬物であり、急性心不全で心拍出量が低下した病態に用いられる。なお低用量ではドパミン受容体を介した腎血管・腸間膜血管の拡張、高用量ではα1受容体刺激による血管収縮が主体となる。

  2. ×b.  フロセミド

    フロセミドはHenle係蹄上行脚のNa+-K+-2Cl- 共輸送体を阻害するループ利尿薬である。尿量を増やして循環血液量を減らし、前負荷(左室拡張期圧)を低下させる。これは曲線上を左方へ移動させる作用であり、曲線自体を上方へ動かすものではない。うっ血性心不全では肺うっ血を改善する主力の薬物であるが、心収縮力を高める作用はない。

  3. ×c.  リドカイン

    リドカインはNa+ チャネルを遮断するVaughan Williams分類Ib群の抗不整脈薬で、心室性不整脈(心室性期外収縮、心室頻拍など)に用いられる。不整脈で低下した心拍出量が抗不整脈作用により間接的に改善することはあるが、心収縮力を高める作用はなく、むしろ軽度の陰性変力作用をもちうる。曲線を上方へ大きく移動させる薬物ではない。局所麻酔薬としても用いられる。

  4. ×d.  ニフェジピン

    ニフェジピンはジヒドロピリジン系のカルシウム拮抗薬で、主に動脈平滑筋を弛緩させて末梢血管抵抗を下げ、後負荷を軽減する。後負荷が下がれば同じ前負荷での拍出量はやや増えるため、心不全の心臓では曲線をわずかに上方へ動かしうるが、心収縮力そのものを高めるわけではなく、その効果は強心薬に比べて小さい。またカルシウム拮抗薬は本来、心筋に対しては陰性変力的に働く性質をもつ。したがって最も大きく移動させるものではない。

  5. ×e.  ニトログリセリン

    ニトログリセリンは一酸化窒素(NO)を遊離して血管平滑筋を弛緩させる硝酸薬で、低用量では主に静脈を拡張させて静脈還流量を減らし、前負荷を軽減する。高用量では動脈も拡張して後負荷も下げ、冠動脈拡張作用ももつ。主な作用は前負荷の低下であり、曲線上を左方へ移動させるものである。心収縮力を直接高める作用はなく、曲線を上方へ大きく移動させることはない。急性心不全の肺うっ血や狭心症発作に用いられる。

心拍出量を規定する4因子

心拍出量=1回拍出量×心拍数であり、1回拍出量は前負荷・後負荷・心収縮力で決まる。 ・前負荷:心室が収縮直前に受ける負荷(拡張末期容積・圧)。輸液で増加、利尿薬・静脈拡張薬で減少。 ・後負荷:心室が駆出時に打ち勝つべき抵抗(主に末梢血管抵抗、大動脈圧)。動脈拡張薬で減少。 ・心収縮力:カテコラミン(ドパミン、ドブタミン、ノルアドレナリン)、PDE III阻害薬(ミルリノンなど)、ジギタリスで増強。β遮断薬、多くの抗不整脈薬、心筋障害で低下。

Forrester分類との関係

急性心筋梗塞後などの心不全をSwan-Ganzカテーテルで評価する分類で、心機能曲線に基づく。肺動脈楔入圧(左室拡張期圧を反映)18 mmHg、心係数2.2 L/分/m2を境に4群に分ける。 ・I群:正常(楔入圧≦18、心係数>2.2)→ 経過観察、鎮静など ・II群:肺うっ血のみ(楔入圧>18、心係数>2.2)→ 利尿薬・血管拡張薬 ・III群:末梢循環不全のみ(楔入圧≦18、心係数≦2.2)→ 輸液 ・IV群:肺うっ血+末梢循環不全(楔入圧>18、心係数≦2.2)→ 強心薬(カテコラミン)・血管拡張薬・利尿薬、不十分なら大動脈内バルーンパンピング(IABP)や補助循環 利尿薬・血管拡張薬は主に点を左方へ、輸液は右方へ、強心薬は曲線を上方へ移動させるイメージで理解するとよい。

POINT

・前負荷の変化は心機能曲線の上を左右に移動するだけで、曲線は変わらない。 ・心収縮力の増強(強心薬:ドパミン、ドブタミンなど)で曲線は上方へ移動する。 ・利尿薬(フロセミド)や硝酸薬(ニトログリセリン)は主に前負荷を下げ、曲線上を左方へ移動させる。 ・Forrester分類IV群は強心薬の適応。

※問題・正答は厚生労働省の公開資料をもとに掲載しています。