「鑑別に効く所見」はどれ?―軟口蓋の出血斑が溶連菌と川崎病を分ける
第110回医師国家試験 B問題 第40問
国試問題にチャレンジ
救急外来で小児を診察した研修医から指導医への報告を次に示す。 「3歳の男の子です。4日間発熱が続くため受診されました。体温は39.1℃で心音,呼吸音は正常,軟口蓋に出血斑を伴う発赤を認めました。両側の前頸部に1 cm大のリンパ節を2個ずつ触知しました。また,体幹に粟粒大の紅色発疹を認めました。血液検査の結果は,白血球13,000,CRP 4.5 mg/dLでした」 研修医の報告のうち,この患児の鑑別診断において最も有用なのはどれか。
- a.体温39.1℃
- b.出血斑を伴う軟口蓋の発赤
- c.前頸部リンパ節腫脹
- d.白血球13,000
- e.CRP 4.5 mg/dL
対話形式の解説
ドクター
医学生
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ドクターまとめ
幼児の発熱・発疹・頸部リンパ節腫脹では、A群溶連菌咽頭炎(猩紅熱)と川崎病をまず鑑別に挙げます。体温、白血球数、CRPは炎症の存在を示すだけの非特異的所見で、頸部リンパ節腫脹やイチゴ舌も両疾患にみられるため、絞り込む力は弱いといえます。これに対し軟口蓋の点状出血(出血斑)は溶連菌咽頭炎に特徴的で川崎病では通常みられないため、両者の鑑別に最も有用であり、迅速抗原検査や培養で確認してペニシリン系抗菌薬を10日間投与します。なお川崎病診断の手引き第6版(2019年)では発熱の日数を問わないため、発熱4日目でも川崎病は除外できず、抗菌薬無効や結膜充血・四肢末端の変化が出れば再考が必要です。候補疾患の間で出現の仕方が異なる「特異度の高い所見」に注目する姿勢は、あらゆる臨床推論の基本となります。
解答・解説
正解はbです
所見の整理
3歳男児。4日間続く39℃台の発熱があり、軟口蓋に点状の出血斑を伴う発赤、両側前頸部に1 cm大のリンパ節腫脹、体幹の粟粒大(粟の粒ほどの細かい)紅色発疹を認める。血液検査では白血球13,000/μL、CRP 4.5 mg/dLと軽度〜中等度の炎症反応がある。
鑑別診断の考え方
幼児の「発熱+発疹+頸部リンパ節腫脹」で、まず頭に浮かべるべきはA群β溶血性連鎖球菌(溶連菌、Streptococcus pyogenes)による咽頭炎とその発疹型である猩紅熱、そして川崎病である。ほかにEBウイルスによる伝染性単核球症、アデノウイルス感染症、麻疹・風疹なども鑑別に挙がる。 猩紅熱では、咽頭・扁桃の強い発赤に加え、軟口蓋に点状出血(出血斑)がみられ、体幹から全身に広がる細かい紅色丘疹(触るとサンドペーパー様にざらつく)、イチゴ舌、口囲蒼白などを伴う。一方、川崎病は発熱、両側眼球結膜充血、口唇の紅潮・イチゴ舌、不定形発疹、四肢末端の変化(手足の硬性浮腫、回復期の膜様落屑)、非化膿性頸部リンパ節腫脹を主要症状とする。川崎病診断の手引き(2019年改訂の第6版)では発熱は日数を問わず主要症状に数えるため、発熱4日目であることだけでは川崎病を除外できない。本例では結膜充血や四肢末端の変化は報告されていない。
設問の考え方
問われているのは「どの所見が鑑別に最も役立つか」、すなわち候補疾患の間で出現の仕方が大きく異なる、特異度の高い所見はどれかである。発熱の程度、白血球数、CRPといった非特異的な炎症の指標は、細菌感染症にも川崎病にもウイルス感染症にも共通してみられ、疾患を絞り込む力は弱い。頸部リンパ節腫脹も溶連菌感染症と川崎病の双方にみられる。これに対し、軟口蓋の出血斑は溶連菌咽頭炎を強く示唆する所見であり、川崎病では通常みられないため、両者の鑑別に最も有用である。次の一手としては、咽頭ぬぐい液の溶連菌迅速抗原検査(または咽頭培養)で確認する。
選択肢考察
- ×a. 体温39.1℃
高熱は溶連菌感染症、川崎病、ウイルス感染症などほとんどの小児熱性疾患で共通してみられる。体温の高さそのものから原因疾患を絞り込むことはできず、特異度は低い。なお川崎病では、かつての診断の手引き(第5版まで)は「5日以上続く発熱」を主要症状としていたが、2019年改訂の第6版では発熱は日数を問わず主要症状に数えることとなった。したがって発熱の日数も、体温値と同様に溶連菌感染症と川崎病を見分ける決め手にはならない。
- ○b. 出血斑を伴う軟口蓋の発赤
軟口蓋の点状出血(出血斑)は、A群溶連菌咽頭炎で特徴的にみられる咽頭所見である。溶連菌が産生する毒素や強い局所炎症により毛細血管が障害されて生じると考えられている。川崎病の口腔所見は口唇の紅潮・亀裂やイチゴ舌、口腔咽頭粘膜のびまん性発赤であり、軟口蓋の出血斑は通常伴わない。したがって、本例で最も重要な鑑別対象である溶連菌感染症(猩紅熱)と川崎病とを分けるうえで最も有用な所見である。
- ×c. 前頸部リンパ節腫脹
頸部リンパ節腫脹は溶連菌咽頭炎でも川崎病でも認められ、伝染性単核球症やアデノウイルス感染症でもみられる。参考として、川崎病では片側性で径1.5 cm以上の非化膿性腫脹が典型とされ、溶連菌咽頭炎では両側前頸部の圧痛を伴う腫脹が多いという傾向はあるが、この所見単独で両者を確実に区別することはできない。
- ×d. 白血球13,000
白血球増多は細菌感染症でも川崎病でもみられる非特異的な炎症所見である。13,000/μLという値は軽度の上昇にすぎず、溶連菌感染症と川崎病のどちらとも矛盾しないため、鑑別には役立たない。
- ×e. CRP 4.5 mg/dL
CRP(C反応性蛋白)は炎症全般で上昇する急性期蛋白であり、疾患特異性はない。溶連菌感染症、川崎病のいずれでも上昇しうる値であり、この数値から両者を見分けることはできない。
A群溶連菌咽頭炎・猩紅熱
学童期(5〜15歳)に多いが幼児にもみられる。突然の発熱、咽頭痛で始まり、咽頭・扁桃の発赤と白色滲出物、軟口蓋の点状出血、圧痛を伴う前頸部リンパ節腫脹を呈する。咳や鼻汁が乏しいことも特徴である。発熱性外毒素(発赤毒)により全身に細かい紅色丘疹が出現したものが猩紅熱で、発疹は頸部・腋窩・鼠径部から体幹・四肢へ広がり、皮膚のしわに沿う線状の点状出血(Pastia線)、口囲蒼白、イチゴ舌を伴う。回復期には手足の指先から落屑がみられる。 診断は咽頭ぬぐい液の迅速抗原検査または培養で行い、治療はペニシリン系抗菌薬(アモキシシリンなど)を10日間投与する。十分な治療はリウマチ熱の予防につながる。合併症としてリウマチ熱、溶連菌感染後急性糸球体腎炎(感染の1〜3週後に血尿・浮腫・高血圧)がある。
川崎病の主要症状
①発熱、②両側眼球結膜の充血(眼脂を伴わない)、③口唇の紅潮・イチゴ舌・口腔咽頭粘膜のびまん性発赤、④不定形発疹(BCG接種部位の発赤を含む)、⑤四肢末端の変化(急性期の手足の硬性浮腫・紅斑、回復期の指先からの膜様落屑)、⑥急性期の非化膿性頸部リンパ節腫脹。2019年改訂の第6版では、従来の「5日以上続く発熱」という日数の条件が除かれ、発熱は日数を問わず主要症状に数えることとされた。そのうえで、6項目中5項目以上で確定診断とする(4項目でも冠動脈病変があれば確定)。乳幼児に多く、冠動脈瘤の予防のため免疫グロブリン大量療法とアスピリンで治療する。
溶連菌感染症と川崎病の見分け方の目安
溶連菌:咽頭の滲出物、軟口蓋点状出血、迅速検査陽性、抗菌薬で速やかに解熱。 川崎病:両側結膜充血、口唇の紅潮・亀裂、四肢末端の硬性浮腫、BCG痕の発赤、抗菌薬無効。 イチゴ舌はどちらにもみられるため、鑑別には使いにくい。
POINT
・鑑別に有用な所見=候補疾患の間で出現頻度が大きく異なる、特異度の高い所見。 ・体温、白血球数、CRPは非特異的な炎症所見で、鑑別には役立ちにくい。 ・軟口蓋の点状出血(出血斑)はA群溶連菌咽頭炎を示唆し、川崎病ではみられない。 ・頸部リンパ節腫脹とイチゴ舌は溶連菌感染症と川崎病の両方にみられる。 ・溶連菌が疑われたら咽頭迅速抗原検査で確認し、ペニシリン系抗菌薬を10日間投与する。
