StudyMed医師国家試験

インクのしみ10枚が映す心―Rorschachテストと心理検査の地図

第110回医師国家試験 B問題 第1問

国試問題にチャレンジ

第110回 B問題 第1問

決められた10枚の図版を順番に提示して施行する心理・精神機能検査はどれか。

  1. a.Rorschachテスト
  2. b.Minnesota多面人格検査〈MMPI〉
  3. c.Wechsler成人知能検査〈WAIS-Ⅲ〉
  4. d.Mini-Mental State Examination〈MMSE〉
  5. e.ウィスコンシンカードソーティングテスト〈WCST〉

対話形式の解説

ドクタードクター
今回は心理・精神機能検査の問題だ。ポイントは「何を評価する検査か」と「どんな方法で行う検査か」の2軸で整理すること。設問のキーワードは「決められた10枚の図版」と「順番に提示」。この2つの特徴を持つ検査はどれか考えてみよう。
医学生医学生
図版を見せる検査というと、インクのしみの絵を見せるものが思い浮かびます。精神医学の講義でスライドに出てきました。
ドクタードクター
そう、それがRorschachテストだ。左右対称のインクのしみ模様が描かれた図版を1枚ずつ見せて「何に見えるか」を自由に答えてもらう。図版は10枚に固定されていて、提示する順番も決まっている。これが設問の記述にぴったり合うので、正解はRorschachテストだね。
医学生医学生
10枚って全部白黒なんですか。
ドクタードクター
いい質問だ。無彩色が5枚、黒と赤の2色が2枚、多色が3枚という構成になっている。色の有無も反応を引き出す刺激の一部なんだ。検査は「何に見えるか」を答える自由反応段階と、「図版のどこを、どんな特徴から、そう見たのか」を確かめる質問段階からなる。
医学生医学生
答えの内容だけでなく、どう見たかまで分析するんですね。
ドクタードクター
その通り。反応数、内容、形・色・陰影・運動といった決定因、形態の正確さなどを記号化して分析する。そこから思考過程の歪みや現実検討能力、感情の統制、対人関係のあり方を評価する。このように、あいまいな刺激への自由な反応から内面を読み取る方法を投影法と呼ぶんだ。
医学生医学生
人格検査には他にも種類がありましたよね。MMPIも人格検査だったと思うんですが、なぜ違うんでしょう。
ドクタードクター
MMPIは人格検査だけど方法が違う。多数の質問文に「あてはまる/あてはまらない」で答える質問紙法の代表なんだ。抑うつや心気症などの臨床尺度に加えて、回答の信頼性を確かめる虚偽尺度などの妥当性尺度を持つのが特徴だ。図版は使わない。
医学生医学生
質問紙法は採点が簡単だけど、わざと良く見せようとする回答もできてしまいそうです。
ドクタードクター
鋭いね。質問紙法は客観性が高い一方で回答を操作されやすい。だから妥当性尺度がある。逆に投影法は無意識の側面を捉えやすいけれど、解釈に熟練が必要で検者による差が出やすい。次にWAIS-Ⅲはどうかな。
医学生医学生
WAISは知能検査ですよね。積木模様とか絵を使う課題もあった気がしますが…。
ドクタードクター
そう、絵や図を使う下位検査はあるけれど、目的は人格ではなく知的能力の測定。言語性・動作性の下位検査から全検査IQや群指数を算出する。16歳以上が対象で、児童はWISC、幼児はWPPSIと使い分ける。なお現在は改訂版のWAIS-Ⅳが使われているよ。
医学生医学生
MMSEは臨床実習の神経内科で実際に患者さんに施行しました。図形模写がありましたけど、10枚の図版ではないですね。
ドクタードクター
実際にやったなら覚えやすいね。MMSEは認知症スクリーニング用の検査で、見当識、記銘、計算、再生、図形模写などからなる30点満点の検査。一般に23点以下で認知症が疑われる。日本では改訂長谷川式簡易知能評価スケールもよく使われ、こちらは20点以下で疑いとされる。
医学生医学生
最後のウィスコンシンカードソーティングテストは、カードをたくさん使う検査でしたっけ。
ドクタードクター
そう。色・形・数の異なる図形カードを、被検者が推測した基準で分類させ、検者は正誤だけを伝える。基準は予告なく変わるので、フィードバックを手がかりに切り替える必要がある。前頭葉の遂行機能をみる検査で、前頭葉障害や統合失調症では前の基準に固執する保続的な誤りが増える。カードは多数使うけれど、決まった10枚の図版を順に見せる検査ではないね。
医学生医学生
整理すると、人格検査が質問紙法と投影法と作業検査法、それとは別に知能検査、認知症スクリーニング、前頭葉機能検査、という地図になりますね。
ドクタードクター
完璧だ。補足すると、投影法にはRorschachのほかに、人物場面の絵から物語を作るTAT、欲求不満場面の絵を使うP-Fスタディ、文章完成法のSCT、樹木を描くバウムテストなどがある。作業検査法は1桁の数字を連続加算する内田クレペリン精神作業検査が代表だ。前頭葉機能ならTrail Making TestやStroop test、FABも押さえておこう。
医学生医学生
Rorschachは実際の臨床ではどんな場面で使われるんですか。
ドクタードクター
統合失調症などでの思考障害や現実検討能力の評価に役立つことがある。ただし心理検査はそれ単独で診断を確定するものではなく、面接や経過と合わせて解釈する補助的な情報だ。分析法としては包括システム(Exner法)や片口法が知られている。検査ごとの目的と限界を理解しておくことが、臨床心理士や公認心理師と連携するうえでも大切だよ。

まとめ

決められた10枚の図版(左右対称のインクのしみ)を定められた順番で提示し、何に見えるかを自由に答えさせる検査はRorschachテストで、投影法の代表的な人格検査です。人格検査は質問紙法(MMPI、Y-G性格検査など)、投影法(Rorschach、TAT、P-Fスタディ、SCT、バウムテストなど)、作業検査法(内田クレペリン精神作業検査)に分けられ、それぞれ客観性や無意識の捉えやすさに長所と短所があります。一方、WAISは知能検査、MMSEは認知症スクリーニング(23点以下で疑い)、WCSTは前頭葉の遂行機能検査で、目的がまったく異なります。心理検査を「何を評価するか」と「どのような方法で行うか」の2軸で整理しておくと、試験での判別だけでなく、臨床で適切な検査を依頼し結果を解釈する力にもつながります。

解答・解説

正解はaです

心理・精神機能検査を「何を評価するか」と「どのような方法で行うか」の両面から整理できているかを問う問題である。 人格(性格)検査は大きく、①質問紙法(決まった質問項目に「はい/いいえ」などで答える)、②投影法(あいまいな刺激に対する自由な反応から、無意識の欲求や思考の特徴を読み取る)、③作業検査法(単純作業の経過から性格傾向をみる。内田クレペリン精神作業検査など)に分けられる。一方、知能検査や認知機能検査、前頭葉機能検査は、主に能力や認知の障害を評価する目的で用いられる。 「決められた10枚の図版を、決められた順番で提示する」という特徴をもつのは、左右対称のインクのしみ模様を用いる投影法の代表、Rorschachテストである。図版の枚数と提示順が固定されている点は、この検査を他と区別する重要な手がかりになる。

選択肢考察

  1. ○a.  Rorschachテスト

    スイスの精神科医Rorschachが考案した投影法の人格検査である。インクのしみでできた左右対称の図版10枚(無彩色5枚、黒と赤の2枚、多色3枚)を定められた順に1枚ずつ見せ、「何に見えるか」を自由に答えさせる。その後、図版のどの部分を、どの特徴(形・色・陰影・運動など)から、そう見たのかを質問して確かめる。反応の数・内容・決定因・形態の正確さなどを記号化して分析し、思考過程の歪み、現実検討能力、感情の統制、対人関係のあり方などを評価する。設問の記述に合致する。

  2. ×b.  Minnesota多面人格検査〈MMPI〉

    質問紙法の代表的な人格検査であり、図版は用いない。原版は550項目の質問文に「あてはまる/あてはまらない」で回答させ(「どちらともいえない」も一定数までは許容される)、心気症・抑うつ・ヒステリー・統合失調症などの臨床尺度と、回答の信頼性を確かめる妥当性尺度(虚偽尺度など)からプロフィールを作る。世界的に広く用いられている。

  3. ×c.  Wechsler成人知能検査〈WAIS-Ⅲ〉

    16歳以上の成人を対象とした個別式の知能検査である。言語性検査と動作性検査からなる複数の下位検査を行い、全検査IQ・言語性IQ・動作性IQと、言語理解・知覚統合・作動記憶・処理速度の群指数を算出する。積木模様や絵画配列などで図や絵を使う下位検査はあるが、「10枚の図版を順に提示する」検査ではなく、人格ではなく知的能力を測るものである。なお、現在は改訂版のWAIS-Ⅳが用いられている。

  4. ×d.  Mini-Mental State Examination〈MMSE〉

    認知症のスクリーニングに用いる簡便な認知機能検査である。見当識(時間・場所)、記銘、注意と計算(100から7を順に引く)、再生、呼称、復唱、口頭指示、読字、書字、図形模写の項目からなり、30点満点で評価する。一般に23点以下で認知症の疑いとされる。図形模写などで図を用いるが、10枚の図版を順に提示する検査ではない。

  5. ×e.  ウィスコンシンカードソーティングテスト〈WCST〉

    前頭葉の遂行(実行)機能を評価する検査である。色・形・数の異なる図形が描かれたカードを、被検者が自分で推測した基準に従って分類させ、検者は「正しい/誤り」だけを伝える。分類の基準は予告なく変更されるため、被検者はフィードバックをもとに基準を切り替える必要がある。前頭葉障害や統合失調症では、以前の基準に固執する保続的な誤りが増える。カードは多数用いるが、決められた10枚の図版を順に提示する検査ではない。

心理・精神機能検査の主な分類

・知能検査:Wechsler式(WAIS:成人、WISC:児童、WPPSI:幼児)、田中-Binet式知能検査など。 ・人格検査  質問紙法:MMPI、矢田部-Guilford性格検査(Y-G性格検査)、東大式エゴグラム(TEG)など。実施・採点が簡単で客観性が高いが、回答を意図的に操作されやすい。  投影法:Rorschachテスト、TAT(主題統覚検査:人物が描かれた場面の絵から物語を作らせる)、P-Fスタディ(絵画欲求不満テスト)、SCT(文章完成法)、バウムテスト(樹木画)、HTPテストなど。無意識の側面をとらえやすいが、解釈に熟練を要し、検者による差が出やすい。  作業検査法:内田クレペリン精神作業検査(1桁の数字の連続加算)。 ・認知症のスクリーニング:MMSE(30点満点、23点以下で疑い)、改訂長谷川式簡易知能評価スケール(HDS-R、30点満点、20点以下で疑い)。 ・前頭葉機能検査:WCST、Trail Making Test、Stroop test、語流暢性課題、FAB(Frontal Assessment Battery)など。

Rorschachテストの要点

・10枚の図版は固定されており、提示の順番も決まっている。 ・図版の構成:無彩色(黒〜灰色)5枚、黒と赤の2色2枚、多色3枚。 ・自由反応段階(何に見えるかを答える)と質問段階(どこに、なぜそう見えたかを確かめる)からなる。 ・分析ではEXNER法(包括システム)や片口法などが用いられる。統合失調症の思考障害や、現実検討能力の評価などに役立つ。

POINT

・10枚の図版(インクのしみ)を決まった順に見せる → Rorschachテスト(投影法)。 ・質問紙法の人格検査:MMPI、Y-G性格検査。 ・知能検査:WAIS(成人)、WISC(児童)。 ・認知症スクリーニング:MMSE(23点以下で疑い)、HDS-R(20点以下で疑い)。 ・前頭葉の遂行機能:WCST(分類基準の切り替えができず保続が出る)。

※問題・正答は厚生労働省の公開資料をもとに掲載しています。