インクのしみ10枚が映す心―Rorschachテストと心理検査の地図
第110回医師国家試験 B問題 第1問
国試問題にチャレンジ
決められた10枚の図版を順番に提示して施行する心理・精神機能検査はどれか。
- a.Rorschachテスト
- b.Minnesota多面人格検査〈MMPI〉
- c.Wechsler成人知能検査〈WAIS-Ⅲ〉
- d.Mini-Mental State Examination〈MMSE〉
- e.ウィスコンシンカードソーティングテスト〈WCST〉
対話形式の解説
ドクター
医学生
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ドクターまとめ
決められた10枚の図版(左右対称のインクのしみ)を定められた順番で提示し、何に見えるかを自由に答えさせる検査はRorschachテストで、投影法の代表的な人格検査です。人格検査は質問紙法(MMPI、Y-G性格検査など)、投影法(Rorschach、TAT、P-Fスタディ、SCT、バウムテストなど)、作業検査法(内田クレペリン精神作業検査)に分けられ、それぞれ客観性や無意識の捉えやすさに長所と短所があります。一方、WAISは知能検査、MMSEは認知症スクリーニング(23点以下で疑い)、WCSTは前頭葉の遂行機能検査で、目的がまったく異なります。心理検査を「何を評価するか」と「どのような方法で行うか」の2軸で整理しておくと、試験での判別だけでなく、臨床で適切な検査を依頼し結果を解釈する力にもつながります。
解答・解説
正解はaです
心理・精神機能検査を「何を評価するか」と「どのような方法で行うか」の両面から整理できているかを問う問題である。 人格(性格)検査は大きく、①質問紙法(決まった質問項目に「はい/いいえ」などで答える)、②投影法(あいまいな刺激に対する自由な反応から、無意識の欲求や思考の特徴を読み取る)、③作業検査法(単純作業の経過から性格傾向をみる。内田クレペリン精神作業検査など)に分けられる。一方、知能検査や認知機能検査、前頭葉機能検査は、主に能力や認知の障害を評価する目的で用いられる。 「決められた10枚の図版を、決められた順番で提示する」という特徴をもつのは、左右対称のインクのしみ模様を用いる投影法の代表、Rorschachテストである。図版の枚数と提示順が固定されている点は、この検査を他と区別する重要な手がかりになる。
選択肢考察
- ○a. Rorschachテスト
スイスの精神科医Rorschachが考案した投影法の人格検査である。インクのしみでできた左右対称の図版10枚(無彩色5枚、黒と赤の2枚、多色3枚)を定められた順に1枚ずつ見せ、「何に見えるか」を自由に答えさせる。その後、図版のどの部分を、どの特徴(形・色・陰影・運動など)から、そう見たのかを質問して確かめる。反応の数・内容・決定因・形態の正確さなどを記号化して分析し、思考過程の歪み、現実検討能力、感情の統制、対人関係のあり方などを評価する。設問の記述に合致する。
- ×b. Minnesota多面人格検査〈MMPI〉
質問紙法の代表的な人格検査であり、図版は用いない。原版は550項目の質問文に「あてはまる/あてはまらない」で回答させ(「どちらともいえない」も一定数までは許容される)、心気症・抑うつ・ヒステリー・統合失調症などの臨床尺度と、回答の信頼性を確かめる妥当性尺度(虚偽尺度など)からプロフィールを作る。世界的に広く用いられている。
- ×c. Wechsler成人知能検査〈WAIS-Ⅲ〉
16歳以上の成人を対象とした個別式の知能検査である。言語性検査と動作性検査からなる複数の下位検査を行い、全検査IQ・言語性IQ・動作性IQと、言語理解・知覚統合・作動記憶・処理速度の群指数を算出する。積木模様や絵画配列などで図や絵を使う下位検査はあるが、「10枚の図版を順に提示する」検査ではなく、人格ではなく知的能力を測るものである。なお、現在は改訂版のWAIS-Ⅳが用いられている。
- ×d. Mini-Mental State Examination〈MMSE〉
認知症のスクリーニングに用いる簡便な認知機能検査である。見当識(時間・場所)、記銘、注意と計算(100から7を順に引く)、再生、呼称、復唱、口頭指示、読字、書字、図形模写の項目からなり、30点満点で評価する。一般に23点以下で認知症の疑いとされる。図形模写などで図を用いるが、10枚の図版を順に提示する検査ではない。
- ×e. ウィスコンシンカードソーティングテスト〈WCST〉
前頭葉の遂行(実行)機能を評価する検査である。色・形・数の異なる図形が描かれたカードを、被検者が自分で推測した基準に従って分類させ、検者は「正しい/誤り」だけを伝える。分類の基準は予告なく変更されるため、被検者はフィードバックをもとに基準を切り替える必要がある。前頭葉障害や統合失調症では、以前の基準に固執する保続的な誤りが増える。カードは多数用いるが、決められた10枚の図版を順に提示する検査ではない。
心理・精神機能検査の主な分類
・知能検査:Wechsler式(WAIS:成人、WISC:児童、WPPSI:幼児)、田中-Binet式知能検査など。 ・人格検査 質問紙法:MMPI、矢田部-Guilford性格検査(Y-G性格検査)、東大式エゴグラム(TEG)など。実施・採点が簡単で客観性が高いが、回答を意図的に操作されやすい。 投影法:Rorschachテスト、TAT(主題統覚検査:人物が描かれた場面の絵から物語を作らせる)、P-Fスタディ(絵画欲求不満テスト)、SCT(文章完成法)、バウムテスト(樹木画)、HTPテストなど。無意識の側面をとらえやすいが、解釈に熟練を要し、検者による差が出やすい。 作業検査法:内田クレペリン精神作業検査(1桁の数字の連続加算)。 ・認知症のスクリーニング:MMSE(30点満点、23点以下で疑い)、改訂長谷川式簡易知能評価スケール(HDS-R、30点満点、20点以下で疑い)。 ・前頭葉機能検査:WCST、Trail Making Test、Stroop test、語流暢性課題、FAB(Frontal Assessment Battery)など。
Rorschachテストの要点
・10枚の図版は固定されており、提示の順番も決まっている。 ・図版の構成:無彩色(黒〜灰色)5枚、黒と赤の2色2枚、多色3枚。 ・自由反応段階(何に見えるかを答える)と質問段階(どこに、なぜそう見えたかを確かめる)からなる。 ・分析ではEXNER法(包括システム)や片口法などが用いられる。統合失調症の思考障害や、現実検討能力の評価などに役立つ。
POINT
・10枚の図版(インクのしみ)を決まった順に見せる → Rorschachテスト(投影法)。 ・質問紙法の人格検査:MMPI、Y-G性格検査。 ・知能検査:WAIS(成人)、WISC(児童)。 ・認知症スクリーニング:MMSE(23点以下で疑い)、HDS-R(20点以下で疑い)。 ・前頭葉の遂行機能:WCST(分類基準の切り替えができず保続が出る)。
