透明なら混ぜない、白濁なら混ぜる―インスリン自己注射指導の「なぜ」を理解する
第110回医師国家試験 A問題 第8問
国試問題にチャレンジ
インスリン自己注射の指導について正しいのはどれか。
- a.筋肉内注射を指示する。
- b.注射後は皮膚をよくもむ。
- c.注射用量はmg単位で指示する。
- d.未開封の製剤は冷凍保存を指示する。
- e.速効型インスリンは撹拌不要である。
対話形式の解説
ドクター
医学生
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ドクターまとめ
インスリン自己注射の指導は、「皮下から毎回同じ速さで吸収させる」という原則で整理できます。筋肉内注射や注射後のマッサージは吸収を速めてばらつかせ、低血糖の原因となるため避け、用量は単位(U)で指示し、未使用の製剤は凍結させずに冷蔵保存します。速効型・超速効型・持効型溶解は透明な溶液で撹拌不要ですが、中間型・混合型は白濁した懸濁液で使用前の混和が必要です。さらに注射部位のローテーションによる硬結の予防、低血糖やシックデイへの対処もあわせて指導します。指導内容を理由とともに理解しておくと、臨床で患者さんの血糖変動の原因を探る際にも役立ちます。
解答・解説
正解はeです
問われていること
インスリン自己注射を患者に指導する際の基本事項(注射経路、注射後の扱い、用量の単位、保管方法、製剤ごとの混和の要否)を問う問題である。
考え方
インスリン自己注射は「皮下に、毎回同じ条件で、安定した速度で吸収させる」ことが目標である。吸収速度が日によってばらつくと、効果の出方が予測できなくなり、低血糖や高血糖の原因となる。したがって、 ・注射経路は皮下(筋肉内に入ると吸収が速まる) ・注射後にもまない(揉むと吸収が速まり、ばらつく) ・用量は国際的に標準化された「単位(U)」で指示する ・タンパク質製剤なので凍結させず、未使用品は冷蔵保存する ・製剤が透明な溶液か、白濁した懸濁液かによって混和の要否が決まる という原則を押さえておけば、各選択肢を判断できる。 速効型インスリン(レギュラーインスリン)は、インスリンが均一に溶けた透明な溶液であり、沈殿する粒子を含まないため、使用前に振ったり転がしたりして混ぜる必要はない。一方、中間型(NPH)や混合型のように、プロタミンを添加して結晶化させた懸濁製剤は、静置すると結晶が沈むため、使用前に十分に混和して均一にしなければならない。
選択肢考察
- ×a. 筋肉内注射を指示する。
誤り。自己注射は皮下注射で行う。筋肉は皮下組織より血流が豊富なため、筋肉内に注射されると吸収が速まり、作用の発現が早く強く出て低血糖を招きやすい。また吸収が不安定になり血糖管理が乱れる。やせた患者や小児では針が筋層に達しやすいため、短い針の使用や皮膚をつまんで注射するなどの工夫を指導する。なお、速効型インスリンは医療機関で筋注・静注されることもあるが、自己注射として筋注を指示することはない。
- ×b. 注射後は皮膚をよくもむ。
誤り。注射部位をもむと局所の血流が増え、インスリンの吸収が速まる。もみ方や時間は毎回異なるため吸収速度にばらつきが生じ、予期しない低血糖の原因となる。注射後は針を刺したまま数秒間(多くの製剤で10秒程度)保持して薬液の漏れを防ぎ、抜針後はもまないよう指導する。同様の理由で、注射直後の入浴や運動、カイロなどによる注射部位の加温も吸収を速める要因となる。
- ×c. 注射用量はmg単位で指示する。
誤り。インスリンの用量は生物学的活性に基づく「単位(U:unit)」で表示・指示する。現在国内で用いられる製剤は100単位/mLに統一されており、ペン型注入器も単位で目盛りが設定されている。mgで指示すると製剤の表示と一致せず、重大な投与量の誤りにつながる。
- ×d. 未開封の製剤は冷凍保存を指示する。
誤り。未開封(未使用)のインスリン製剤は冷蔵庫(2〜8℃)で保存し、凍結させてはならない。インスリンはペプチドホルモンであり、一度凍結すると解凍しても変性や結晶構造の変化により効力が低下するおそれがあるため、凍結したものは使用しない。ペン型製剤では凍結による器具の破損も起こりうる。冷蔵庫の冷気吹き出し口付近など凍結しやすい場所も避ける。なお、使用開始後の製剤は室温で保管し、製剤ごとに定められた期間内に使い切る。
- ○e. 速効型インスリンは撹拌不要である。
正しい。速効型インスリンはプロタミンなどを含まない透明な溶液製剤で、インスリンが均一に溶解しているため、使用前に撹拌(混和)する必要はない。超速効型や持効型溶解インスリンも透明な溶液であり同様に撹拌は不要である。これに対し、中間型や混合型はプロタミンを加えた白濁した懸濁製剤で、静置すると結晶が沈殿するため、使用前に手のひらで転がしたり上下に振ったりして均一に混和する必要がある。
インスリン製剤の分類と外観
・超速効型:インスリンアナログ。食直前に注射。透明(撹拌不要)。 ・速効型:レギュラーインスリン。食前30分頃に注射。透明(撹拌不要)。 ・中間型:NPH(プロタミンを添加して作用を延長)。白濁した懸濁液(使用前に混和が必要)。 ・混合型:超速効型または速効型と中間型を一定比率で混合したもの。白濁(使用前に混和が必要)。 ・持効型溶解:基礎インスリンを補うアナログ製剤。透明(撹拌不要)。 ※外観が透明か白濁かで混和の要否を判断できる。
吸収に影響する因子
・注射部位:一般に腹部が最も速く、上腕、殿部、大腿の順に遅くなるとされる。 ・注射の深さ:筋肉内に入ると吸収が速まる。 ・局所の血流:マッサージ(もむこと)、入浴、運動、加温により吸収が速まる。 ・硬結:同じ部位に繰り返し注射すると脂肪組織の肥厚やインスリンボール(インスリン由来のアミロイド沈着による皮下腫瘤)が生じ、吸収が低下・不安定となる。
自己注射指導の要点
・注射部位は毎回少しずつ(2〜3cm程度)ずらし、同じ場所への反復注射を避ける。 ・注射後は針を刺したまましばらく保持してから抜き、もまない。 ・未使用品は冷蔵(凍結させない)、使用中のものは室温で保管し、高温・直射日光を避ける。 ・針は毎回新しいものに交換する。 ・低血糖の症状(発汗、動悸、手指振戦、意識障害など)とその対処(ブドウ糖摂取など)、シックデイ(発熱・下痢・食欲不振などで体調不良の日)の対応もあわせて指導する。
POINT
・インスリン自己注射は皮下注射で行い、用量は「単位(U)」で指示する。 ・注射後に注射部位をもまない(吸収が速まり低血糖のリスク)。 ・未使用製剤は冷蔵保存(2〜8℃)し、凍結させない。 ・透明な製剤(超速効型・速効型・持効型溶解)は撹拌不要、白濁した製剤(中間型・混合型)は使用前に混和が必要。 ・注射部位は毎回ずらし、硬結(脂肪肥厚・インスリンボール)を防ぐ。
