StudyMed医師国家試験

むくんでいるのに血管は「渇いている」―ネフローゼ症候群でクレアチニンが上がる理由

第110回医師国家試験 A問題 第43問

国試問題にチャレンジ

第110回 A問題 第43問

45歳の女性。急激な体重増加を主訴に来院した。生来健康で,健康維持のために週2回スポーツジムに通っている。1か月前から突然,顔面と下腿とに浮腫が出現し,現在までに12 kgの急激な体重増加を認め受診した。身長162 cm,体重66 kg。脈拍72/分,整。血圧100/78 mmHg。顔面と下腿とに浮腫を認める。尿所見:蛋白4+,糖(-),潜血(-),沈渣に卵円形脂肪体1~4/1視野,尿蛋白9.8 g/日。血液生化学所見:総蛋白4.6 g/dL,アルブミン1.0 g/dL,CK 148 IU/L(基準30~140),尿素窒素38 mg/dL,クレアチニン1.3 mg/dL,尿酸7.3 mg/dL,総コレステロール334 mg/dL。CRP 0.1 mg/dL。超音波検査で腎の萎縮と水腎症とを認めない。  この患者の血清クレアチニン高値の原因として最も可能性が高いのはどれか。

  1. a.低血圧
  2. b.高尿酸血症
  3. c.低蛋白血症
  4. d.横紋筋融解症
  5. e.高コレステロール血症

対話形式の解説

ドクタードクター
今回は、高度の蛋白尿と浮腫で受診した患者さんの腎機能低下が、なぜ起きているのかを考える問題だ。まず全体像としてどんな病態か、そのうえでクレアチニン上昇を腎前性・腎性・腎後性のどれで説明するか、という2段階で整理していこう。
医学生医学生
尿蛋白が1日3.5 gをはるかに超えていて、アルブミンも3.0 g/dLを大きく下回っているので、ネフローゼ症候群の診断基準を満たしますね。
ドクタードクター
その通り。蛋白尿と低アルブミン血症が必須条件で、浮腫と脂質異常症も揃っている。尿沈渣の卵円形脂肪体も、高度蛋白尿に伴ってみられる所見として診断の参考になる。では、原因になっている糸球体疾患は何を考える?
医学生医学生
突然発症で血尿がないので、微小変化型でしょうか。でも中年なので膜性腎症も気になります。
ドクタードクター
いいバランス感覚だね。急な発症で血尿を伴わない点からは微小変化型が最も考えやすいけれど、年齢を考えると膜性腎症や巣状分節性糸球体硬化症も鑑別に残る。確定には腎生検が必要だ。ただ、この問題の本題はそこではなく、クレアチニン上昇の原因のほうなんだ。
医学生医学生
腎臓病の患者さんなので、糸球体そのものが壊れて腎性に機能が落ちているのかと思っていました。
ドクタードクター
そう考えたくなるよね。そこで腎前性・腎性・腎後性に分けてみよう。超音波で水腎症がないから腎後性は否定的、腎萎縮もないから長年の慢性腎臓病が進んだとも考えにくい。そして注目したいのが尿素窒素とクレアチニンの比だ。
医学生医学生
計算すると30近くあります。腎臓内科の臨床実習で、20を超えたら脱水などの腎前性を考えろと教わりました。
ドクタードクター
よく覚えているね。腎血流が減ると尿細管での尿素の再吸収が増えるから、尿素窒素がクレアチニン以上に上がる。つまりこの患者さんは腎前性の要素が強いと読める。
医学生医学生
でも全身がむくんで12 kgも体重が増えているのに、脱水みたいな状態というのが直感的にわかりにくいです。
ドクタードクター
そこがこの問題の核心だ。アルブミンが著しく減ると血漿の膠質浸透圧が下がり、血管内の水分が間質に漏れ出ていく。体全体の水は増えているけれど、血管の中、つまり有効循環血漿量はむしろ減っている。これをunderfillingと呼ぶ。その結果、腎血漿流量と糸球体濾過量が落ちてクレアチニンが上がるんだ。だから正解は低蛋白血症になる。
医学生医学生
水はあるのに、いるべき場所にいない、ということですね。では低血圧も同じ流れで原因になりませんか。
ドクタードクター
鋭い質問だ。血圧はやや低めだけれど、平均血圧は80 mmHg台で、腎血流の自動調節能が働く範囲に収まっている。ショックのような高度の低血圧ではないし、血圧が低めなこと自体も循環血漿量減少の結果と考えられる。根本の原因はあくまで低アルブミン血症だ。
医学生医学生
尿酸が少し高いのはどうでしょう。病理の講義で痛風腎の組織を見た覚えがあります。
ドクタードクター
痛風腎や、腫瘍崩壊症候群で起こる急性尿酸腎症は、尿酸がずっと高い場合の話だ。この程度の上昇は、循環血漿量の減少で近位尿細管での尿酸再吸収が増えたり、GFR低下で排泄が減ったりした結果と考えるのが自然。原因ではなく結果だね。
医学生医学生
ジムに通っていてCKも少し高いので、横紋筋融解症を一瞬疑いました。
ドクタードクター
ひっかけポイントだね。横紋筋融解症ならCKは基準上限の5倍以上、しばしば数千から数万に達するし、ミオグロビン尿で尿潜血が陽性になる。今回はCKがごく軽度上昇で、潜血も陰性だから考えにくい。高コレステロール血症も、低アルブミン血症に反応した肝臓でのリポ蛋白合成亢進などによるネフローゼの結果であって、短期間でクレアチニンを上げる原因にはならない。
医学生医学生
検査値の異常が並んでいても、どれが原因でどれが結果かを因果関係で並べ直すのが大事なんですね。
ドクタードクター
その通り。最後に臨床での注意点だ。ネフローゼの浮腫に対して利尿薬を強く使いすぎると、ただでさえ少ない循環血漿量がさらに減って、腎前性の腎障害や血栓症を悪化させるおそれがある。ネフローゼでは凝固因子の産生亢進やアンチトロンビンの尿中喪失で血栓ができやすいし、免疫グロブリンの喪失やステロイド治療で感染症にも注意が必要だ。
医学生医学生
むくんでいるからといって、すぐに水を抜けばいいわけではないんですね。
ドクタードクター
そう。原疾患の治療、たとえば微小変化型ならステロイドで蛋白尿が改善してアルブミンが戻れば、腎機能も回復することが多い。なお浮腫の機序には、腎が原発的にナトリウムを溜め込むoverfillingという考え方もあって、実際は症例ごとに両者が混在すると考えられている。今回のように血圧が低めで腎前性の腎機能低下を伴う例は、underfillingの要素が強いと捉えておこう。

まとめ

高度蛋白尿と低アルブミン血症を満たすネフローゼ症候群では、血漿膠質浸透圧の低下により水分が間質へ移り、全身の浮腫とは裏腹に有効循環血漿量が減少します。その結果、腎血流とGFRが低下して腎前性に血清クレアチニンが上昇し、尿素窒素/クレアチニン比が20を超えることがその手がかりになります。軽度の低血圧や高尿酸血症、高コレステロール血症はいずれも病態の結果であり、CKの軽度上昇と尿潜血陰性からは横紋筋融解症も考えにくいため、原因は低蛋白血症と判断します。臨床では過度の利尿薬で循環血漿量減少を悪化させないこと、血栓症や感染症の合併に注意することが重要です。検査異常を原因と結果に整理し、腎機能低下を腎前性・腎性・腎後性に分けて考える姿勢は、あらゆる腎障害の診療の基本となります。

解答・解説

正解はcです

所見の整理

・45歳女性、生来健康。1か月前から突然、顔面と下腿に浮腫が出現し、12 kgも体重が増えた。短期間でのこれほどの体重増加は脂肪ではなく体液の貯留による。 ・尿蛋白9.8 g/日(4+)、血清アルブミン1.0 g/dL、総コレステロール334 mg/dL、尿沈渣に卵円形脂肪体(脂肪を取り込んだ尿細管上皮などで、高度蛋白尿に伴ってみられる)を認める。ネフローゼ症候群の診断基準(尿蛋白3.5 g/日以上の持続、かつ血清アルブミン3.0 g/dL以下)を満たし、浮腫と脂質異常症も伴う。 ・尿潜血は陰性で血尿を伴わない。急激な発症、血尿なしという特徴からは、原因として微小変化型ネフローゼ症候群が最も考えやすい。中年であることから膜性腎症や巣状分節性糸球体硬化症(FSGS)なども鑑別に挙がり、確定には腎生検が必要である。 ・腎機能:尿素窒素38 mg/dL、クレアチニン1.3 mg/dL。日本人向けの推算糸球体濾過量(eGFR)の式(194×Cr^−1.094×年齢^−0.287×0.739〔女性〕)で計算すると約36 mL/分/1.73 m²と低下している。尿素窒素/クレアチニン比は約29で、20を超えている。 ・血圧100/78 mmHgと収縮期血圧はやや低めで、脈圧が狭い。 ・CK 148 IU/Lはごく軽度の上昇にとどまる。 ・超音波検査で腎萎縮はなく(慢性腎臓病の進行例は否定的)、水腎症もない(腎後性腎不全は否定的)。

病態の考え方

腎機能低下(血清クレアチニン上昇)は、腎前性・腎性・腎後性に分けて考える。腎後性は水腎症がないことで否定され、腎萎縮がないことから長期の慢性腎臓病も考えにくい。尿素窒素/クレアチニン比が20を超えていることは、腎血流量の低下により尿素の尿細管再吸収が増える腎前性の病態を示唆する。 ネフローゼ症候群では、尿中への大量のアルブミン喪失によって血漿膠質浸透圧が低下し、血管内の水分が間質へ移動する。その結果、全身の浮腫と体重増加が起こる一方で、血管内の循環血漿量(有効循環血漿量)は減少する(underfilling)。腎血漿流量が減り糸球体濾過量(GFR)が低下するため、血清クレアチニンが上昇する。

設問の考え方

したがって、本例の血清クレアチニン高値の原因として最も可能性が高いのは、高度の低蛋白血症(低アルブミン血症)による有効循環血漿量の減少、すなわち腎前性の腎機能低下である。他の選択肢がクレアチニン上昇の主因となり得るかを、検査値の程度や因果関係に照らして検討する。

選択肢考察

  1. ×a.  低血圧

    血圧100/78 mmHgはやや低めではあるが、腎血流の自動調節能(平均血圧がおおむね80 mmHg程度以上あれば腎血流やGFRはほぼ一定に保たれる)が働く範囲内であり、ショックのような高度の低血圧ではない。本例の平均血圧は約85 mmHgである。血圧がやや低いこと自体も、低アルブミン血症による循環血漿量の減少の結果と考えられ、クレアチニン上昇の根本原因は低蛋白血症にある。

  2. ×b.  高尿酸血症

    血清尿酸7.3 mg/dLは基準をわずかに超える程度で、尿酸結晶の沈着による腎障害(痛風腎)や、尿酸結晶が尿細管を閉塞して起こる急性尿酸腎症(腫瘍崩壊症候群などで尿酸が著しく高値となる場合)をきたす値ではない。むしろ循環血漿量の減少により近位尿細管での尿酸再吸収が増えたことや、GFRの低下による排泄低下の結果として上昇していると考えられ、腎機能低下の原因ではなく結果である。

  3. ○c.  低蛋白血症

    血清アルブミン1.0 g/dLという著しい低アルブミン血症により血漿膠質浸透圧が低下し、血管内の水分が間質に漏れ出る。そのため全身に浮腫が生じる一方で有効循環血漿量は減少し、腎血漿流量とGFRが低下して腎前性に血清クレアチニンが上昇する。尿素窒素/クレアチニン比が20を超えていることもこの病態を支持する。最も可能性が高い原因である。

  4. ×d.  横紋筋融解症

    横紋筋融解症は骨格筋の崩壊によりミオグロビンが血中に大量に放出され、尿細管障害による急性腎障害をきたす病態で、CKは通常基準上限の5倍以上、しばしば数千〜数万IU/Lに達する。本例は週2回のジム通いという通常の運動習慣があるだけで、CK 148 IU/Lとごく軽度の上昇にすぎない。また、ミオグロビン尿では尿潜血が陽性になるが、本例では陰性である。横紋筋融解症は考えにくい。

  5. ×e.  高コレステロール血症

    ネフローゼ症候群では、低アルブミン血症に反応して肝臓での蛋白合成が亢進し、リポ蛋白の産生も増える。加えてリポ蛋白の代謝・分解も低下するため、高コレステロール血症を生じる。これはネフローゼ症候群の結果であり、短期間で血清クレアチニンを上昇させる直接の原因とはならない。

ネフローゼ症候群の診断基準(成人)

①蛋白尿:3.5 g/日以上が持続(随時尿の尿蛋白/クレアチニン比3.5 g/gCr以上でも代用可) ②低アルブミン血症:血清アルブミン3.0 g/dL以下(血清総蛋白6.0 g/dL以下も参考) ③浮腫 ④脂質異常症(高LDLコレステロール血症) ①と②が必須条件で、③・④は必須ではない。卵円形脂肪体は診断の参考となる。

ネフローゼ症候群の主な合併症

・急性腎障害(AKI):低アルブミン血症による有効循環血漿量の減少(腎前性)が代表的。とくに微小変化型で、高齢・高血圧例などに起こりやすい。過度の利尿薬投与による脱水も誘因となる。腎間質の浮腫や尿細管障害の関与も指摘されている。 ・血栓塞栓症:肝での凝固因子産生亢進、アンチトロンビンの尿中喪失、血液濃縮などにより凝固能が亢進する。腎静脈血栓症、深部静脈血栓症、肺塞栓症に注意する。 ・感染症:免疫グロブリン(IgG)や補体因子の尿中喪失、ステロイドなどの免疫抑制治療による。 ・脂質異常症、低カルシウム血症(ビタミンD結合蛋白の喪失)など。

浮腫の発生機序

・underfilling説:低アルブミン血症→膠質浸透圧低下→血管外への水分移動→循環血漿量減少→レニン・アンジオテンシン・アルドステロン系の活性化→ナトリウム・水の貯留。 ・overfilling説:腎の原発性のナトリウム再吸収亢進により循環血漿量が増加して浮腫が生じる。 実際には両者が症例によって混在すると考えられる。本例のように血圧が低めで腎前性の腎機能低下を伴う場合はunderfillingの要素が強い。

腎前性腎障害を示唆する所見

・尿素窒素/クレアチニン比>20 ・ナトリウム排泄分画(FENa)<1%、尿浸透圧高値、尿中ナトリウム低値 (ただしネフローゼ症候群自体でもナトリウムの再吸収が亢進するため、これらの指標の解釈には注意を要する)

原因疾患(一次性)と特徴

・微小変化型ネフローゼ症候群:小児に最も多いが成人にもみられる。突然発症、高度の蛋白尿、選択性の高い蛋白尿、血尿はまれ。ステロイドによく反応するが再発しやすい。 ・膜性腎症:中高年に多い成人ネフローゼの代表。緩徐に発症し、悪性腫瘍や薬剤などによる二次性の場合がある。 ・巣状分節性糸球体硬化症:ステロイド抵抗性のことが多く、腎機能が低下しやすい。 ・膜性増殖性糸球体腎炎:血尿を伴い、低補体血症を示す。

治療上の注意

循環血漿量が減少している状態で利尿薬を強力に用いると、腎前性腎障害や血栓症を悪化させるおそれがある。原疾患の治療(微小変化型ではステロイド)を行い、蛋白尿の改善に伴ってアルブミン値が回復すると腎機能も改善することが多い。

POINT

・ネフローゼ症候群の診断:尿蛋白3.5 g/日以上+血清アルブミン3.0 g/dL以下が必須。 ・高度の低アルブミン血症→膠質浸透圧低下→有効循環血漿量減少→腎前性の腎機能低下(血清クレアチニン上昇、尿素窒素/クレアチニン比>20)。 ・突然発症で血尿を伴わない高度蛋白尿は微小変化型ネフローゼ症候群を考える。 ・高コレステロール血症や高尿酸血症はネフローゼ・腎機能低下の結果であり原因ではない。 ・横紋筋融解症ではCKが著増し、尿潜血陽性(ミオグロビン尿)で尿沈渣に赤血球を認めない。 ・腎機能低下は腎前性・腎性・腎後性に分けて考え、超音波で腎萎縮・水腎症の有無を確認する。

※問題・正答は厚生労働省の公開資料をもとに掲載しています。