扁桃炎の2週間後にむくみ―ASOとC3が語る溶連菌感染後急性糸球体腎炎
第109回医師国家試験 I問題 第77問
国試問題にチャレンジ
20歳の女性。浮腫を主訴に来院した。2週前から咽頭痛と発熱とがあり自宅近くの診療所を受診し,扁桃の腫大と滲出とが認められたため扁桃炎として治療された。数日前から顔と下肢の浮腫が出現し増悪してきたため診療所を受診し,精査のため紹介されて受診した。これまでに健康診断で異常を指摘されたことはない。脈拍88/分,整。血圧158/74 mmHg。尿所見:蛋白2+,潜血3+。 この患者で認められる可能性が高いのはどれか。2つ選べ。
- a.C3低下
- b.IgE高値
- c.ASO陽性
- d.抗CCP抗体陽性
- e.抗リン脂質抗体陽性
対話形式の解説
ドクター
医学生
ドクター
医学生
ドクター
医学生
ドクター
医学生
ドクター
医学生
ドクター
医学生
ドクター
医学生
ドクター
医学生
ドクター
医学生
ドクターまとめ
咽頭炎・扁桃炎からおよそ1〜2週間後に浮腫・高血圧・血尿・蛋白尿が出現した場合は、溶連菌感染後急性糸球体腎炎を考えます。溶連菌抗原を含む免疫複合体によるⅢ型アレルギーの機序で補体が消費されるためC3(CH50)が低下し、先行感染を反映してASOやASKが上昇します。感染と同時期の肉眼的血尿ならIgA腎症、低補体が8週以上続けば膜性増殖性糸球体腎炎やループス腎炎などを考えるのが鑑別のポイントです。治療は塩分・水分制限や降圧薬などの対症療法が中心で、成人では腎機能障害が遷延することもあるため経過観察が欠かせません。発症までの時間差と免疫学的機序を結びつけて検査所見を予測する考え方は、糸球体疾患全般の理解に役立ちます。
解答・解説
正解はa, cです
所見の整理
・20歳女性、健診で尿異常を指摘されたことがない:もともと腎疾患がなかったと考えられる。 ・2週前の咽頭痛・発熱、扁桃の腫大と滲出(白苔):A群β溶血性レンサ球菌(溶連菌)による急性扁桃炎が疑われる先行感染である。 ・数日前からの顔面・下肢の浮腫:先行感染から約1〜2週間の潜伏期を経て出現している。 ・血圧158/74 mmHg:20歳としては明らかな高血圧。 ・尿蛋白2+、尿潜血3+:血尿と蛋白尿があり、糸球体の障害(糸球体腎炎)を示唆する。
診断へのプロセス
若年者に左右差のない全身性浮腫が急に出現した場合、腎疾患(糸球体腎炎・ネフローゼ症候群・腎不全)、心不全、低アルブミン血症(肝硬変・ネフローゼ症候群)を鑑別に挙げる。本例は血尿・蛋白尿・高血圧を伴うので、糸球体腎炎による水・Na貯留が浮腫の原因と考えられる。 上気道感染に関連して血尿をきたす糸球体疾患として、溶連菌感染後急性糸球体腎炎とIgA腎症の鑑別が重要である。 ・溶連菌感染後急性糸球体腎炎:咽頭炎・扁桃炎から約1〜2週間(皮膚感染では3〜6週間)の潜伏期をおいて、血尿・浮腫・高血圧(急性腎炎症候群)で急性発症する。 ・IgA腎症:上気道感染と同時期か1〜2日以内に肉眼的血尿をきたすことが多い。急性に浮腫・高血圧で発症することは少なく、健診の検尿異常で見つかることが多い。 ・微小変化型ネフローゼ症候群:若年者の急な浮腫の原因となるが、高度の蛋白尿が主体で、血尿や高血圧は通常目立たない。 本例は扁桃炎から約2週間後に浮腫・高血圧・血尿で発症しており、溶連菌感染後急性糸球体腎炎(PSAGN)と診断できる。
設問の考え方
この疾患で認められる可能性が高い検査所見を2つ選ぶ。PSAGNは溶連菌抗原を含む免疫複合体が糸球体に沈着して起こるⅢ型アレルギーの機序で発症し、補体(特にC3)が消費されて低下する。また、先行する溶連菌感染を示す抗体(ASO・ASK)が上昇する。
選択肢考察
- ○a. C3低下
正しい。PSAGNでは、溶連菌抗原と抗体からなる免疫複合体が糸球体(特に上皮下にhumpとよばれる沈着物として)に沈着したり、溶連菌の抗原が補体第2経路を活性化したりして、補体が消費される。このため血清補体価(CH50)とC3が発症早期に低下するのが特徴である。低補体血症は一過性で、通常は6〜8週間以内に正常化する。8週を過ぎても低値が続く場合は、膜性増殖性糸球体腎炎やC3腎症、ループス腎炎など他の疾患を疑う。
- ×b. IgE高値
誤り。IgEはⅠ型(即時型)アレルギーに関わる免疫グロブリンで、気管支喘息、アトピー性皮膚炎、アレルギー性鼻炎、寄生虫感染、好酸球性多発血管炎性肉芽腫症などで高値となる。PSAGNはⅢ型アレルギー(免疫複合体型)の機序で生じる疾患であり、IgE高値は特徴的な所見ではない。
- ○c. ASO陽性
正しい。ASO〈抗ストレプトリジンO抗体〉は、A群溶連菌が産生する溶血毒素ストレプトリジンOに対する抗体で、溶連菌感染から1週間ほどで上昇し始め、3〜5週ごろに最高値となる。腎炎発症時(感染から約2週)には上昇していることが多く、先行する溶連菌感染を裏付ける重要な所見である。同様にASK〈抗ストレプトキナーゼ抗体〉も上昇する。なお、咽頭炎後では陽性率が高いが、皮膚感染(膿痂疹)後ではASOが上がりにくい。
- ×d. 抗CCP抗体陽性
誤り。抗CCP抗体〈抗環状シトルリン化ペプチド抗体〉は関節リウマチに特異度の高い自己抗体で、早期診断や予後予測に有用である。関節リウマチは手指などの小関節を中心とする慢性・左右対称性の多関節炎が特徴であり、本例には関節症状もなく、急性腎炎とは関係しない。
- ×e. 抗リン脂質抗体陽性
誤り。抗リン脂質抗体(抗カルジオリピン抗体、ループスアンチコアグラント、抗β2グリコプロテインⅠ抗体など)は、抗リン脂質抗体症候群や全身性エリテマトーデスで検出される。抗リン脂質抗体症候群は深部静脈血栓症・脳梗塞などの動静脈血栓症や習慣流産を特徴とする。本例の病態は先行感染後の免疫複合体性腎炎であり、抗リン脂質抗体陽性は予想されない。
溶連菌感染後急性糸球体腎炎(PSAGN)の概要
・好発:小児(特に学童期)に多いが、若年成人や高齢者にも起こる。 ・原因:A群β溶血性レンサ球菌の咽頭炎・扁桃炎、または皮膚感染(膿痂疹)。 ・潜伏期:咽頭感染後約1〜2週間(10日前後)、皮膚感染後は約3〜6週間。 ・症状:急性腎炎症候群(血尿〔しばしば肉眼的血尿でコーラ色〕、蛋白尿、浮腫〔特に眼瞼・顔面〕、高血圧、尿量減少)。GFR低下によりNa・水が貯留し、浮腫・高血圧・うっ血をきたす。重症例では心不全・肺水腫、高血圧性脳症を起こす。 ・検査:ASO・ASK上昇、CH50・C3低下(C4は通常正常〜軽度低下)、尿沈渣で赤血球円柱。 ・病理:光顕で管内増殖性糸球体腎炎(糸球体内皮細胞・メサンギウム細胞の増殖と好中球浸潤)、電顕で上皮下の大きな沈着物(hump)、蛍光抗体法でIgG・C3の顆粒状沈着(starry sky pattern)。 ・治療:安静、塩分・水分制限、利尿薬・降圧薬による対症療法が中心。溶連菌が残存していればペニシリン系抗菌薬を投与する(抗菌薬で腎炎そのものは予防・治療できない)。 ・予後:小児では多くが自然軽快する。成人や高齢者では腎機能障害が遷延することがある。
上気道感染に関連する血尿の鑑別
・PSAGN:感染から1〜2週後に発症、低補体(C3低下)、ASO上昇。 ・IgA腎症:感染と同時期〜数日以内に肉眼的血尿、補体は正常、血清IgA高値を示すことがある。
低補体血症をきたす主な糸球体疾患
PSAGN(一過性)、膜性増殖性糸球体腎炎・C3腎症(持続性)、ループス腎炎、クリオグロブリン血症性糸球体腎炎、感染性心内膜炎に伴う腎炎など。
POINT
・咽頭炎・扁桃炎の1〜2週後に、浮腫・高血圧・血尿・蛋白尿=溶連菌感染後急性糸球体腎炎。 ・検査所見はASO・ASK上昇、C3(CH50)低下。低補体は6〜8週以内に正常化する。 ・Ⅲ型アレルギー(免疫複合体)、電顕で上皮下hump。 ・感染と同時期の肉眼的血尿はIgA腎症(補体は正常)。 ・IgE=Ⅰ型アレルギー、抗CCP抗体=関節リウマチ、抗リン脂質抗体=抗リン脂質抗体症候群・SLE。
