鎮痛薬で痛みが引いても終わりじゃない―3mmの尿管結石と「排石までの過ごし方」
第109回医師国家試験 I問題 第74問
国試問題にチャレンジ
37歳の男性。左下腹部痛を主訴に来院した。深夜,就寝中に突然の左下腹部痛で目が覚めた。痛みは急激に増強し悪心と嘔吐とが出現したため受診した。意識は清明。体温36.3℃。血圧158/94 mmHg。腹部に反跳痛を認めない。左側の肋骨脊柱角に叩打痛を認める。尿所見:蛋白1+,糖(-),潜血3+,沈渣に赤血球15~30/1視野,白血球1~5/1視野。腹部超音波検査では左腎盂に軽度の拡張を認める以外には異常を認めない。腹部エックス線写真正面像で第3腰椎の左横突起の外側に3×2 mmの石灰化を認める。非ステロイド性抗炎症薬の坐剤を挿入して症状は軽快した。 今後の対応についての患者への説明として適切なのはどれか。2つ選べ。
- a.「尿酸が主成分なので薬を処方しましょう」
- b.「水分を十分摂取して尿量を増やしてください」
- c.「また痛みが出てくるようなら手術をしましょう」
- d.「痛みがなくても排石されるまで自動車の運転は危険です」
- e.「左の尿管が閉塞しているのでその尿管に細いチューブを留置します」
対話形式の解説
ドクター
医学生
ドクター
医学生
ドクター
医学生
ドクター
医学生
ドクター
医学生
ドクター
医学生
ドクター
医学生
ドクター
医学生
ドクター
医学生
ドクター
医学生
ドクターまとめ
突然の側腹部〜下腹部痛に悪心・嘔吐、血尿、肋骨脊柱角叩打痛、水腎症がそろえば尿管結石を考えます。長径5mm以下で感染や腎機能障害がなく、鎮痛薬で痛みが治まる場合は、飲水で尿量を増やして自然排石を待つ保存的治療が基本で、排石までは再び疝痛発作が起こりうるため自動車の運転は控えるよう説明します。単純X線写真に写る結石はカルシウム含有結石と考えられ、尿酸結石はX線陰性で写りません。尿管ステントや腎瘻の適応は閉塞性腎盂腎炎や腎機能障害、制御困難な疼痛などであり、積極的治療はおおむね10mm以上や排石が得られない場合に低侵襲治療から検討します。治療方針の判断だけでなく、帰宅後の生活上の注意まで具体的に伝えることが、患者の安全と再発予防につながります。
解答・解説
正解はb, dです
所見の整理
・症状:37歳男性が、深夜の就寝中に突然の左下腹部痛で目覚め、痛みが急速に強まって悪心・嘔吐を伴った。安静にしていても起こる突然の激しい側腹部〜下腹部痛は、尿管が結石で急に閉塞し、腎盂内圧が上昇することによる典型的な疝痛発作(腎疝痛)である。悪心・嘔吐は、腎と消化管が共通の内臓神経を介していることによる反射性の症状である。 ・身体所見:発熱がなく、腹膜刺激症状(反跳痛)がない一方、左の肋骨脊柱角(CVA:背部で第12肋骨と脊柱がなす角)に叩打痛がある。腹膜炎よりも腎・尿管の病変を示唆する。 ・尿所見:潜血3+、沈渣赤血球15〜30/視野と血尿が明らかで、白血球は1〜5/視野とほぼ正常であり、尿路感染(腎盂腎炎)の合併は考えにくい。 ・画像:腹部超音波で左腎盂の軽度拡張(軽度水腎症)がみられ、腹部エックス線写真(KUB:腎・尿管・膀胱部単純撮影)では第3腰椎左横突起の外側、すなわち左上部尿管の走行に一致して3×2 mmの石灰化がある。
診断
左上部尿管結石(3×2 mm)による腎疝痛と軽度水腎症と診断できる。鑑別となる結腸憩室炎、腸閉塞、精巣上体炎などは、発熱・腹膜刺激症状の欠如、尿所見、画像所見から考えにくい。
方針の考え方
尿管結石の治療方針は、主に結石の大きさ・位置と、感染や腎機能障害の有無で決まる。長径5 mm以下の結石は高率に自然排石が期待でき、10 mm未満でも多くは保存的治療の対象となる。本例は3×2 mmと小さく、感染徴候もなく、片側の軽度水腎症にとどまり、鎮痛薬で症状も軽快しているため、鎮痛・飲水による自然排石を待つ保存的治療が第一選択である。 患者への説明としては、尿量を増やして排石を促すこと、そして結石が出るまでは疝痛発作が再び突然起こりうるため、自動車の運転など発作で事故につながる行動に注意することが重要である。
選択肢考察
- ×a. 「尿酸が主成分なので薬を処方しましょう」
尿酸結石はエックス線を通しやすく、腹部単純エックス線写真には写らない(X線陰性結石)。本例の結石はエックス線写真で石灰化として描出されているため、尿酸結石ではなく、最も頻度の高いシュウ酸カルシウムやリン酸カルシウムなどのカルシウム含有結石と考えられる。また、結石の成分は最終的には排出された結石を分析して確定するもので、現時点で尿酸結石と断定して薬を処方する根拠はない。なお、尿酸結石であればクエン酸製剤による尿のアルカリ化や尿酸生成抑制薬によって溶解・予防が期待できる。
- ○b. 「水分を十分摂取して尿量を増やしてください」
小さな尿管結石では、十分な飲水で尿量を増やし、尿の流れによって結石を膀胱へ押し流すことが保存的治療の基本となる。あわせて適度な運動も勧められる。さらに、尿が薄まることで結石成分の濃度が下がり、再発予防にもつながる。再発予防には1日の尿量2 L以上を目安とし、それを保てるだけの飲水が推奨される。
- ×c. 「また痛みが出てくるようなら手術をしましょう」
疝痛発作は結石が尿管内を移動する過程で繰り返し起こりうるもので、痛みの再発自体は積極的治療の適応とはならない。通常は鎮痛薬で対応しながら自然排石を待つ。積極的治療を考えるのは、長径がおおむね10 mm以上で自然排石が期待しにくい場合、一定期間(1か月程度)経過をみても排石されない場合、鎮痛薬でコントロールできない痛みが続く場合、感染や腎機能障害を伴う場合などである。その場合も、まず体外衝撃波結石破砕術(ESWL)や経尿道的尿管砕石術(TUL)といった低侵襲治療が選択され、開腹などの手術を前提とする説明は適切でない。
- ○d. 「痛みがなくても排石されるまで自動車の運転は危険です」
今回の痛みは鎮痛薬でいったん軽快したが、結石は尿管内に残っている。結石が移動して再び閉塞すると、予告なく激しい疝痛発作が起こりうる。運転中に発作が起これば操作を誤り重大な事故につながるおそれがあるため、排石が確認されるまでは自動車の運転を控えるよう説明しておくことは適切である。
- ×e. 「左の尿管が閉塞しているのでその尿管に細いチューブを留置します」
尿管ステント(腎盂から膀胱まで尿管内に留置する細いチューブ)は、閉塞した尿路の流れを確保するための処置である。適応となるのは、閉塞に感染を伴う場合(閉塞性腎盂腎炎で敗血症のおそれがある)、単腎や両側閉塞で腎機能が低下している場合、鎮痛薬で抑えられない痛みが続く場合などである。本例は感染徴候がなく、水腎症も軽度で、痛みも鎮痛薬で軽快しており、結石も自然排石が期待できる大きさであるため、ステント留置は不要である。
尿路結石の概要
上部尿路(腎・尿管)結石が大部分を占め、男性に多く、30〜50代に好発する。成分はシュウ酸カルシウムが最も多く、次いでリン酸カルシウムで、カルシウム含有結石が約8〜9割を占める。そのほか尿酸結石、感染によるリン酸マグネシウムアンモニウム結石、シスチン結石などがある。
症状
突然の激しい側腹部痛・背部痛(疝痛発作)で、下腹部・鼠径部・陰嚢(陰唇)へ放散する。悪心・嘔吐、冷汗を伴いやすい。肉眼的または顕微鏡的血尿、CVA叩打痛がみられる。結石が膀胱近くの尿管にあると頻尿や残尿感などの膀胱刺激症状が出ることがある。
画像診断
・腹部単純エックス線(KUB):カルシウム含有結石は描出されるが、尿酸結石、シスチン結石(淡く写る程度)、骨と重なる結石は見えにくい。 ・超音波:水腎症の有無や腎内結石の確認に有用で、被曝がない。中部尿管の結石は腸管ガスに隠れて見えにくい。 ・単純CT:尿酸結石を含めほぼすべての結石を描出でき、診断能が最も高い。
急性期の治療
疼痛には非ステロイド性抗炎症薬(NSAIDs)の坐剤などが第一選択で、効果不十分ならペンタゾシンなどを用いる。閉塞に発熱を伴う場合(閉塞性腎盂腎炎)は、敗血症に至る危険が高い緊急事態であり、抗菌薬に加え尿管ステント留置や腎瘻造設で速やかにドレナージする。
結石の大きさと治療方針
・長径5 mm以下:大部分が自然排石する。飲水と鎮痛で経過観察。α1遮断薬(タムスロシンなど)は尿管平滑筋を弛緩させ、比較的大きめの下部尿管結石の排石を促すとされる(我が国では保険適用外)。 ・5〜10 mm:自然排石の可能性はあるが下がるため、経過をみて排石しなければ積極的治療を考える。 ・10 mm以上、または自然排石が得られない場合:ESWL、TUL、腎結石が大きい場合(おおむね20 mm以上)は経皮的腎砕石術(PNL)などを選ぶ。 一般に、膀胱に近い下部尿管の結石ほど自然排石しやすい。
再発予防
尿路結石は再発しやすい。1日尿量2 L以上を保つ飲水、塩分・動物性蛋白質・脂肪の過剰摂取を控えること、シュウ酸を多く含む食品の摂りすぎに注意すること、カルシウムは過度に制限せず適量を摂ることなどを指導する。夕食後から就寝までの時間を空けることも勧められる。
POINT
・突然の側腹部〜下腹部痛+悪心・嘔吐+血尿+CVA叩打痛+水腎症 → 尿管結石。 ・KUBで写る結石はカルシウム含有結石。尿酸結石はX線陰性(CTでは描出される)。 ・5 mm以下の結石は自然排石が期待でき、鎮痛と飲水(尿量増加)で経過観察する。 ・排石までは疝痛発作が再発しうるため、運転などは控えるよう説明する。 ・尿管ステントや腎瘻の緊急適応は、閉塞に感染を伴う場合、単腎・両側閉塞で腎機能が低下した場合など。
