StudyMed医師国家試験

むせる食事と繰り返す肺炎―抗菌薬より効く「歯ブラシ」の力

第109回医師国家試験 I問題 第48問

国試問題にチャレンジ

第109回 I問題 第48問

80歳の男性。発熱と食欲低下とを主訴に来院した。半年前から食事中にむせることがあった。3か月前に発熱で入院しペニシリン系抗菌薬で治癒した。2日前から発熱が出現し食事摂取ができなくなったため受診した。胸部エックス線写真で右下肺野に浸潤影を認め,前回と同じ抗菌薬で軽快した。1年前に脳梗塞の既往がある。  この患者の繰り返す病態の予防に効果が期待できるのはどれか。

  1. a.口腔ケア
  2. b.食後の臥位安静
  3. c.鎮咳薬の服用
  4. d.向精神薬の服用
  5. e.ヒスタミンH2受容体拮抗薬の服用

対話形式の解説

ドクタードクター
今回は、肺炎を繰り返す高齢者で「なぜ繰り返すのか」を見抜き、その再発をどう防ぐかを考える問題だ。注目したいのは、脳梗塞の既往、食事中のむせ、そして毎回同じ場所に同じ抗菌薬で治る肺炎が起きているという3点だね。まず、この背景から何が起きていると考える?
医学生医学生
脳梗塞のあとで嚥下機能が落ちていて、食べ物を誤嚥して肺炎になっている、つまり誤嚥性肺炎でしょうか。
ドクタードクター
その通り。陰影が右下肺野にあるのも合っている。右主気管支は左より太く短く、分岐角度も小さくて垂直に近いから、誤嚥したものは右に入りやすい。座位や立位なら下葉、寝たきりなら下葉S6や上葉S2といった背側の区域に起こりやすいんだ。
医学生医学生
解剖の講義で「右に落ちる」と習ったのを思い出しました。ペニシリン系で治っているのも関係ありますか。
ドクタードクター
大いにある。誤嚥性肺炎の起炎菌は、嫌気性菌やレンサ球菌といった口腔内の常在菌が中心だ。だからペニシリン系がよく効く。ここが予防を考えるうえでの最大のヒントになるよ。
医学生医学生
食事中のむせが原因なら、食べ方を工夫すれば防げる気がしますが……。
ドクタードクター
食形態や姿勢の工夫ももちろん大事。ただ、落とし穴があるんだ。脳梗塞、特に大脳基底核の病変があると、ドパミンが減り、それに伴って嚥下反射や咳反射に関わるサブスタンスPが減ってしまう。すると、夜寝ている間などに唾液を少しずつ、むせもなく吸い込む「不顕性誤嚥」が起こる。
医学生医学生
むせないで誤嚥しているなら、食事のときだけ気をつけても防ぎきれないわけですね。
ドクタードクター
そう。誤嚥そのものをゼロにするのは難しい。そこで発想を変えて、誤嚥される唾液に含まれる菌を減らす。それが口腔ケアで、今回の正解だ。歯磨き、義歯の清掃、舌や粘膜の清拭で口の中の細菌量を減らせば、誤嚥が起きても肺に持ち込まれる菌が少なくなる。要介護高齢者で専門的な口腔ケアにより肺炎や肺炎による死亡が減ったという報告もあるし、口への刺激で反射が改善するとも言われている。
医学生医学生
臨床実習の病棟で、看護師さんが毎食後にスポンジブラシで口腔ケアをしていたのはそういう意味だったんですね。
ドクタードクター
まさにそれ。では、ほかの選択肢も見ていこう。食後の臥位安静はどうかな。
医学生医学生
食後に休むのは体によさそうですけど、横になると胃の内容物が逆流しそうです。
ドクタードクター
その感覚が正しい。食後すぐ横になると逆流した胃内容を誤嚥しやすくなるから、むしろ食後1〜2時間程度は座位や上半身を起こした姿勢を保つのが推奨される。鎮咳薬はどうだろう。
医学生医学生
咳は誤嚥したものを外に出す防御反射なので、止めてしまうと逆効果ですね。
ドクタードクター
その通り。特にコデインなどの中枢性鎮咳薬は咳反射を抑えて、誤嚥物を喀出できなくする。向精神薬も同じ方向で、抗精神病薬はドパミンD2受容体を遮断してサブスタンスPを減らすうえ、錐体外路症状で嚥下も悪くする。睡眠薬などの鎮静薬も意識レベルや咽頭の反射を落とす。
医学生医学生
H2受容体拮抗薬は、胃酸を抑えれば逆流しても肺へのダメージが少なくなるかな、と少し迷いました。
ドクタードクター
そう考える人は多いけれど、実際は逆なんだ。胃酸を抑えると胃内のpHが上がって細菌が増えやすくなり、細菌叢も変わる。それを誤嚥すると肺炎のリスクが高まるとされていて、PPIを含めた胃酸分泌抑制薬の使用と肺炎の関連が報告されている。予防効果は期待できないね。
医学生医学生
反射を抑える薬、逆流させる体位、菌を増やす薬は全部リスク側なんですね。CBTでも出そうな整理です。
ドクタードクター
いいまとめだ。最後に臨床での発展知識を。予防策は口腔ケアのほか、食後の座位保持、就寝時の頭部挙上、嚥下訓練、とろみ付けなどの食形態の調整、肺炎球菌やインフルエンザのワクチン接種がある。薬では、サブスタンスPの分解を抑えて反射を改善するACE阻害薬、ドパミン放出を促すアマンタジン、脳梗塞再発予防のシロスタゾールに肺炎予防効果の報告があるけれど、肺炎予防だけを目的にした使用が一般的とまでは言えない。
医学生医学生
高齢の患者さんを担当したら、内服薬の中に鎮静薬や胃薬がないかも確認するようにします。
ドクタードクター
それがとても大切。肺炎を抗菌薬で治すだけで終わらせず、なぜ繰り返すのかを考えて、口腔ケアや薬剤の見直しまでつなげるのが、本当の意味での治療なんだ。

まとめ

脳梗塞後の高齢者が食事中のむせとともに右下肺野の肺炎を繰り返していれば、嚥下障害を背景とした誤嚥性肺炎を考えます。大脳基底核の障害ではドパミンとサブスタンスPが減少して嚥下反射・咳反射が低下し、むせを伴わない不顕性誤嚥が起こるため、誤嚥自体を完全には防げません。起炎菌は嫌気性菌やレンサ球菌などの口腔内常在菌が主体であり、口腔内の細菌量を減らす口腔ケアが最も重要な予防策です。一方、食後の臥位、鎮咳薬、抗精神病薬や鎮静薬、H2受容体拮抗薬やPPIなどの胃酸分泌抑制薬は誤嚥性肺炎のリスクを高める方向に働くため、食後の座位保持や薬剤の見直しが求められます。誤嚥性肺炎は高齢者肺炎の多くを占めるため、「治療」だけでなく「再発させない工夫」まで考える視点は、日常診療で欠かせない力になります。

解答・解説

正解はaです

所見の整理

・80歳の高齢男性で、1年前に脳梗塞の既往がある。 ・半年前から食事中にむせる(嚥下障害を示唆)。 ・3か月前にも発熱で入院し、ペニシリン系抗菌薬で治癒している。 ・今回も発熱・食欲低下があり、胸部エックス線写真で右下肺野に浸潤影を認め、前回と同じ抗菌薬で軽快した。

診断へのプロセス

脳梗塞後の高齢者で、食事中のむせという嚥下障害の徴候があり、肺炎を短期間に繰り返している。浸潤影が右下肺野にみられる点も、誤嚥物が入りやすい部位として合致する。右主気管支は左より太く短く、気管からの分岐角度が小さい(より垂直に近い)ため、誤嚥物は右側、特に臥位や座位で重力のかかる下葉(臥位では下葉S6や上葉S2の背側区域)に入りやすい。ペニシリン系抗菌薬で改善した経過も、口腔内常在菌(嫌気性菌やレンサ球菌など)を主体とする誤嚥性肺炎として矛盾しない。以上から、脳梗塞後の嚥下障害を背景とした誤嚥性肺炎(嚥下性肺炎)の反復と考えられる。

設問の考え方

問われているのは「繰り返す病態」すなわち誤嚥性肺炎の再発予防である。誤嚥性肺炎は、(1) 誤嚥そのもの(嚥下反射・咳反射の低下、胃内容の逆流)と、(2) 誤嚥される口腔・咽頭分泌物中の細菌量、の2つの要素で成り立つ。高齢者や脳血管障害後の患者では、睡眠中などに気づかないうちに少量の唾液を誤嚥する不顕性誤嚥が多く、食事中のむせだけでは誤嚥の全体像はつかめない。したがって、誤嚥を完全には防げない前提で、誤嚥される菌量を減らす口腔ケアが予防の柱となる。逆に、反射を抑える薬剤、逆流を招く体位、口腔・胃内の細菌叢を変化させる胃酸分泌抑制薬はリスクを高める方向に働く。

選択肢考察

  1. ○a.  口腔ケア

    誤嚥性肺炎の起炎菌の多くは口腔・咽頭の常在菌である。歯磨き、義歯の清掃、舌・粘膜の清拭などの口腔ケアで口腔内の細菌量を減らせば、不顕性誤嚥が起きても肺へ持ち込まれる菌量が少なくなり、肺炎の発症を抑えられる。要介護高齢者で専門的な口腔ケアにより肺炎の発症や肺炎による死亡が減少したことが示されている。さらに口腔への刺激は嚥下反射・咳反射の改善にもつながるとされ、最も効果が期待できる予防策である。

  2. ×b.  食後の臥位安静

    食後すぐに横になると胃内容が食道へ逆流しやすくなり、逆流物を誤嚥する危険が増す。誤嚥性肺炎の予防として推奨されるのは逆で、食後しばらく(目安として1〜2時間程度)は座位やファウラー位など上半身を起こした姿勢を保つことである。

  3. ×c.  鎮咳薬の服用

    咳は気道に入った異物や分泌物を排出する防御反射である。鎮咳薬(特にコデインなどの中枢性鎮咳薬)で咳反射を抑えると、誤嚥したものを喀出できなくなり、誤嚥性肺炎のリスクが高まる。

  4. ×d.  向精神薬の服用

    抗精神病薬はドパミンD2受容体を遮断し、嚥下反射・咳反射に関わるサブスタンスPの放出を減らして反射を低下させるうえ、錐体外路症状による嚥下障害も起こしうる。ベンゾジアゼピン系などの鎮静薬・睡眠薬も意識レベルや咽頭の反射を低下させる。いずれも誤嚥のリスクを高めるため、予防には逆効果である。

  5. ×e.  ヒスタミンH2受容体拮抗薬の服用

    H2受容体拮抗薬やプロトンポンプ阻害薬(PPI)で胃酸分泌を抑えると、胃内のpHが上がって細菌が増殖しやすくなり、胃・口腔咽頭の細菌叢が変化する。この胃内容を誤嚥・逆流すると肺炎の危険が高まり、胃酸分泌抑制薬の使用は肺炎のリスク上昇と関連することが報告されている。消化性潰瘍の治療薬であり、誤嚥性肺炎の予防効果は期待できない。

誤嚥性肺炎(嚥下性肺炎)の概要

・嚥下機能障害を背景に、口腔・咽頭の分泌物や食物、胃内容物を気道内に吸引して生じる肺炎である。高齢者の肺炎の大部分を占め、反復しやすい。 ・危険因子:高齢、脳血管障害(特に大脳基底核の病変)、パーキンソン病などの神経疾患、認知症、寝たきり、経管栄養、胃食道逆流、口腔衛生不良、鎮静薬・抗精神病薬の使用など。 ・好発部位:右肺に多い(右主気管支が太く短く、分岐角度が小さいため)。立位・座位では下葉、臥位では下葉S6や上葉S2などの背側区域に生じやすい。 ・起炎菌:口腔内常在菌である嫌気性菌(ペプトストレプトコッカス属、プレボテラ属、フソバクテリウム属など)、レンサ球菌が中心で、医療・介護関連では腸内細菌科細菌や黄色ブドウ球菌なども関与する。 ・治療:β-ラクタマーゼ阻害薬配合ペニシリン系(アンピシリン・スルバクタムなど)、クリンダマイシン、重症例や耐性菌リスクがあればカルバペネム系などを用いる。

不顕性誤嚥の機序

大脳基底核の障害ではドパミン産生が低下し、それに伴って迷走神経知覚枝や舌咽神経の頸部神経節で合成されるサブスタンスPが減少する。サブスタンスPは嚥下反射・咳反射の発現に関わるため、その低下によってむせを伴わない不顕性誤嚥が生じやすくなる。

予防策の整理

・口腔ケア(口腔内細菌量の減少、反射の改善) ・食後の座位保持、就寝時の頭部挙上(逆流の予防) ・嚥下訓練、食形態の工夫(とろみ付け、刻み食など)、食事時の姿勢調整(頸部前屈など) ・薬物:ACE阻害薬(サブスタンスPの分解を抑え咳・嚥下反射を改善する)、アマンタジン(ドパミン放出促進)、シロスタゾール(脳梗塞再発予防を介した効果)などで肺炎予防効果が報告されている。ただし肺炎予防のみを目的とした使用が一般化しているわけではない。 ・肺炎球菌ワクチン・インフルエンザワクチンの接種 ・リスクを高める薬剤(鎮静薬、抗精神病薬、中枢性鎮咳薬、胃酸分泌抑制薬など)の見直し

POINT

・脳梗塞後の高齢者で食事中のむせと右下肺野の肺炎を繰り返していれば誤嚥性肺炎を考える。 ・起炎菌は口腔内常在菌(嫌気性菌など)が主体で、口腔ケアが最も重要な予防策である。 ・食後は臥位でなく座位を保つ。 ・鎮咳薬、抗精神病薬・鎮静薬、胃酸分泌抑制薬(H2受容体拮抗薬・PPI)は誤嚥性肺炎のリスクを高める。 ・ACE阻害薬はサブスタンスPを増やし嚥下・咳反射を改善する薬として知られる。

※問題・正答は厚生労働省の公開資料をもとに掲載しています。