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心房と心室の「境目」に注目せよ―房室弁の異常を伴う先天性心疾患の見分け方

第109回医師国家試験 I問題 第35問

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第109回 I問題 第35問

房室弁の先天異常を伴う心疾患はどれか。2つ選べ。

  1. a.総動脈幹症
  2. b.Ebstein奇形
  3. c.房室中隔欠損症〈心内膜床欠損症〉
  4. d.心室中隔欠損症
  5. e.完全大血管転位症

対話形式の解説

ドクタードクター
今回は、先天性心疾患を「心臓のどの部位の異常か」で整理する問題だ。まずは房室弁という言葉が何を指すのかをはっきりさせ、そのうえで各疾患の本態がどこにあるかを考えていこう。
医学生医学生
房室弁は三尖弁と僧帽弁ですよね。大動脈弁と肺動脈弁は半月弁でした。
ドクタードクター
そう、解剖学の授業で習った基本だね。房室弁は心房と心室の境目にある弁で、半月弁は心室と大血管の境目にある弁。この区別があいまいだと、この問題は迷ってしまう。では、先天性心疾患を部位で分けるとどうなるかな。
医学生医学生
中隔の異常、大血管の異常、それから弁の異常……くらいでしょうか。
ドクタードクター
いい分け方だ。心房と心室の境目、つまり房室接合部の異常、中隔の異常、そして大血管を分ける円錐動脈幹の異常という3つで整理してみよう。房室弁の異常を伴うのは、房室接合部の異常にあたるEbstein奇形と房室中隔欠損症だ。
医学生医学生
Ebstein奇形は三尖弁がずれている病気でしたよね。
ドクタードクター
その通り。三尖弁の中隔尖と後尖が、本来の弁輪の位置から右室の心尖部方向へずれて付着する。胎生期に弁尖が右室壁からうまく剥がれないことが原因と考えられている。ずれた弁より上の右室は右房と一体化して心房化右室となり、機能的な右室は小さくなる。
医学生医学生
弁がきちんと閉じないので、三尖弁閉鎖不全になるわけですね。
ドクタードクター
そう。右房が大きく拡大し、卵円孔開存や心房中隔欠損があると右から左への短絡でチアノーゼを生じることもある。もうひとつ大事なのが、WPW症候群の合併が多いことだ。母体のリチウム服用との関連も古くから指摘されている。
医学生医学生
房室中隔欠損症はDown症候群に多いと小児科の実習で教わりました。でも中隔の病気なのに、なぜ弁の異常になるんですか。
ドクタードクター
いい疑問だね。房室中隔欠損症は、別名が心内膜床欠損症。心内膜床は胎生期に房室管を取り囲む組織の隆起で、心房中隔の下部、心室中隔の流入部、そして房室弁の形成に関わる。ここが発育・癒合しないと、中隔の欠損と弁の異常がセットで起こるんだ。
医学生医学生
なるほど、作る材料が同じだから一緒に壊れるんですね。
ドクタードクター
そういうこと。部分型では一次孔型の心房中隔欠損に僧帽弁前尖の裂隙を伴い、僧帽弁閉鎖不全を来しやすい。完全型では左右の房室弁が分かれずに一つの共通房室弁になる。心電図で左軸偏位を示すのも特徴だ。では残りの疾患を見ていこう。心室中隔欠損症はどうかな。
医学生医学生
先天性心疾患で一番多い病気ですね。漏斗部型で弁が逸脱すると習った覚えがあって、少し迷いました。
ドクタードクター
鋭いね。漏斗部型では大動脈弁の右冠尖が欠損孔に逸脱して大動脈弁閉鎖不全を起こすことがある。でもそれは半月弁の話で、房室弁ではない。本態はあくまで中隔の欠損だ。
医学生医学生
総動脈幹症と完全大血管転位症は、大血管の異常ですよね。
ドクタードクター
その通り。どちらも大動脈と肺動脈を分ける円錐動脈幹中隔の形成やらせん化の異常だ。総動脈幹症は大血管が分かれずに一本のまま両心室にまたがって起始し、ほぼ全例に心室中隔欠損を伴う。総動脈幹弁の狭窄や閉鎖不全をよく合併するけれど、これも半月弁の異常だ。完全大血管転位症は心房と心室のつながりは正常で、心室と大血管のつながりが入れ替わっている。
医学生医学生
完全大血管転位症は混合路がないと生きられないので、新生児期から強いチアノーゼが出るんですよね。
ドクタードクター
よく覚えているね。体循環と肺循環が並列になってしまうからだ。円錐動脈幹の異常にはFallot四徴症や両大血管右室起始症も含まれ、22q11.2欠失症候群との関連が深いものが多い。一方、房室弁の異常を伴う疾患としては、今回の2つに加えて三尖弁閉鎖症も覚えておこう。房室中隔欠損症と同じく左軸偏位を示すのが特徴だ。
医学生医学生
弁の名前と、心臓のどの境目の異常かを結びつけて整理すればいいんですね。
ドクタードクター
その通り。先天性心疾患は名前だけで暗記しようとすると混乱しやすいけれど、胎生期のどの構造がうまく作られなかったのかを考えると、合併症や心電図所見まで一続きに理解できるよ。

まとめ

房室弁とは心房と心室の境にある三尖弁と僧帽弁を指し、心室と大血管の境にある大動脈弁・肺動脈弁(半月弁)とは区別されます。Ebstein奇形は三尖弁中隔尖・後尖の下方偏位による三尖弁の形成異常で、心房化右室や三尖弁閉鎖不全、WPW症候群の合併が特徴です。房室中隔欠損症(心内膜床欠損症)は心内膜床の発育・癒合不全により、一次孔型心房中隔欠損に僧帽弁前尖の裂隙や共通房室弁を伴い、Down症候群に多く左軸偏位を示します。心室中隔欠損症は中隔の異常、総動脈幹症と完全大血管転位症は円錐動脈幹の異常であり、合併する弁異常があっても半月弁側の問題です。先天性心疾患を「胎生期のどの構造の異常か」で整理すると、病態・合併症・検査所見を体系的に理解できます。

解答・解説

正解はb, cです

房室弁とは、心房と心室の境にある弁、すなわち右側の三尖弁と左側の僧帽弁を指す。これに対し、心室と大血管の境にある大動脈弁・肺動脈弁は半月弁と呼ばれ、房室弁とは区別される。本問では、先天性心疾患のうち「三尖弁または僧帽弁そのものに発生上の異常がある疾患」を選べばよい。 考え方としては、各疾患の異常が心臓のどの部位にあるかを整理するとわかりやすい。 ・心房と心室の境(房室接合部)の異常: Ebstein奇形(三尖弁)、房室中隔欠損症(共通房室弁、僧帽弁前尖の裂隙など) ・中隔の異常: 心室中隔欠損症 ・大血管の分離・接続の異常(円錐動脈幹の異常): 総動脈幹症、完全大血管転位症 房室弁の形成は、胎生期の心内膜床(房室管を取り囲む組織の隆起)と心室壁の組織が分化・剥離(delamination)する過程に依存する。心内膜床が十分に癒合しなければ房室中隔欠損症となり、三尖弁の弁尖が右室壁から十分に剥がれなければEbstein奇形となる。一方、総動脈幹症や完全大血管転位症は、大血管を二分する円錐動脈幹中隔(大動脈肺動脈中隔)の形成・らせん化の異常であり、房室弁は本態に含まれない。

選択肢考察

  1. ×a.  総動脈幹症

    誤り。胎生期の総動脈幹が大動脈と肺動脈に分割されず、一本の太い血管(総動脈幹)として両心室にまたがって起始し、そこから冠動脈・肺動脈・体循環へ血液を送る疾患である。原因は円錐動脈幹中隔の形成不全で、ほぼ全例に心室中隔欠損(漏斗部の欠損)を伴う。総動脈幹弁(半月弁)の狭窄や閉鎖不全をしばしば合併するが、これは半月弁の異常であって房室弁の異常ではない。22q11.2欠失症候群との関連が知られる。

  2. ○b.  Ebstein奇形

    正しい。三尖弁の中隔尖と後尖が本来の弁輪の位置から右室心尖部の方向へずれて付着する(下方偏位)疾患であり、三尖弁そのものの形成異常が本態である。弁尖が右室壁から十分に剥離しないことが原因と考えられている。偏位した弁より上の右室部分は右房と一体化して「心房化右室」となり、機能的な右室は小さくなる。主な病態は三尖弁閉鎖不全で、右房拡大、心房中隔欠損や卵円孔開存を介した右左短絡によるチアノーゼを生じうる。WPW症候群(副伝導路)の合併が多いことも重要である。母体の妊娠中のリチウム服用との関連が古くから指摘されている。

  3. ○c.  房室中隔欠損症〈心内膜床欠損症〉

    正しい。胎生期の心内膜床の発育・癒合不全により、心房中隔下部(一次孔型の心房中隔欠損)、心室中隔流入部、および房室弁の形成異常が組み合わさって生じる疾患である。部分型(不完全型)では一次孔欠損に僧帽弁前尖の裂隙(cleft)を伴い、僧帽弁閉鎖不全を来すことが多い。完全型では一次孔欠損と流入部の心室中隔欠損が連続し、左右の房室弁が分かれずに一つの共通房室弁となる。いずれも房室弁の先天異常を含む。Down症候群に高頻度に合併することが特徴である。

  4. ×d.  心室中隔欠損症

    誤り。心室中隔に孔があり、主に左室から右室への短絡(左右短絡)を生じる疾患で、先天性心疾患のなかで最も頻度が高い。欠損部位により膜様部周囲型、漏斗部(流出路)型、筋性部型などに分けられる。本態は中隔の欠損であり、房室弁の先天異常は伴わない。なお、漏斗部型では大動脈弁(半月弁)の右冠尖が欠損孔に逸脱して大動脈弁閉鎖不全を来すことがあるが、これも房室弁の異常ではない。

  5. ×e.  完全大血管転位症

    誤り。右室から大動脈が、左室から肺動脈が起始する疾患で、心房と心室の接続は正常(右房-右室、左房-左室)であるが、心室と大血管の接続が入れ替わっている。体循環と肺循環が並列になるため、心房中隔欠損・心室中隔欠損・動脈管開存などの混合路がなければ生存できず、新生児期から強いチアノーゼを呈する。円錐動脈幹中隔がらせん状にねじれずに形成されることによる大血管の異常であり、房室弁の先天異常は本態ではない。

心臓の弁の整理

・房室弁: 三尖弁(右房-右室間)、僧帽弁(左房-左室間) ・半月弁: 肺動脈弁(右室-肺動脈間)、大動脈弁(左室-大動脈間)

房室弁の異常を本態または主要な構成要素とする先天性心疾患

・Ebstein奇形: 三尖弁中隔尖・後尖の下方偏位、心房化右室、三尖弁閉鎖不全。WPW症候群の合併が多い。 ・房室中隔欠損症(心内膜床欠損症): 部分型は一次孔欠損+僧帽弁前尖裂隙、完全型は一次孔欠損+流入部心室中隔欠損+共通房室弁。Down症候群に多い。心電図で左軸偏位を示すことが特徴的である。 ・三尖弁閉鎖症: 三尖弁が形成されず右房から右室への交通がない。心房間交通が必須で、心電図で左軸偏位・左室肥大を示す。 ・先天性僧帽弁狭窄(パラシュート僧帽弁など)

円錐動脈幹の異常(大血管の異常)

総動脈幹症、完全大血管転位症、Fallot四徴症、両大血管右室起始症などが含まれ、22q11.2欠失症候群との関連が深いものが多い。これらは房室弁ではなく、流出路・半月弁・大血管側の異常である。

POINT

・房室弁=三尖弁と僧帽弁。大動脈弁・肺動脈弁は半月弁であり区別する。 ・Ebstein奇形は三尖弁の下方偏位(心房化右室、三尖弁閉鎖不全、WPW症候群の合併)。 ・房室中隔欠損症は心内膜床の異常で、僧帽弁前尖裂隙や共通房室弁を伴う(Down症候群に多い)。 ・総動脈幹症・完全大血管転位症は円錐動脈幹(大血管側)の異常、心室中隔欠損症は中隔の異常で、房室弁異常は本態ではない。

※問題・正答は厚生労働省の公開資料をもとに掲載しています。