たった一つの異常キナーゼを狙い撃つ―慢性期CML治療の第一選択
第109回医師国家試験 I問題 第17問
国試問題にチャレンジ
慢性期の慢性骨髄性白血病に対してまず行うべき治療はどれか。
- a.多剤併用化学療法
- b.自家造血幹細胞移植
- c.同種造血幹細胞移植
- d.インターフェロン投与
- e.チロシンキナーゼ阻害薬投与
対話形式の解説
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ドクターまとめ
慢性骨髄性白血病は、t(9;22)によるPh染色体上のBCR::ABL1融合遺伝子が恒常的なチロシンキナーゼ活性をもつことで発症するため、慢性期の初回治療はこれを直接阻害するチロシンキナーゼ阻害薬(イマチニブ、ニロチニブ、ダサチニブなど)の内服です。同種造血幹細胞移植は根治が期待できる一方で合併症が重く、TKI耐性・不耐容、T315I変異、移行期・急性転化期などに適応が限られ、自家移植は腫瘍性の幹細胞を戻すことになるため行いません。多剤併用化学療法は急性転化期にTKIと併用する治療で、インターフェロンαは現在は妊娠時などTKIが使えない状況での選択肢です。治療効果はBCR::ABL1 mRNA量(IS)で評価し、12か月でのMMR達成が目標とされ、深い奏効が長く続けば無治療寛解をめざす試みも行われています。病態の分子機構が治療薬の選択に直結するCMLは、分子標的治療の考え方を学ぶうえで格好の題材です。
解答・解説
正解はeです
慢性骨髄性白血病(CML)は、造血幹細胞レベルで9番染色体と22番染色体の相互転座t(9;22)(q34;q11)が起こり、短くなった22番染色体(フィラデルフィア〈Ph〉染色体)上にBCR::ABL1融合遺伝子が形成されることで発症する骨髄増殖性腫瘍である。この融合遺伝子から作られるBCR::ABL1蛋白は、本来は厳密に調節されているABL1のチロシンキナーゼ活性が常に「オン」の状態になっており、細胞増殖のシグナルを出し続けることで、成熟傾向を保った顆粒球系細胞が著しく増加する。 CMLは、白血球増多と脾腫を主体とし比較的症状の乏しい慢性期から、芽球が増える移行期(加速期)、さらに急性白血病のような状態となる急性転化期へと進行する。診断時の大部分は慢性期である。 病気の原因がBCR::ABL1という単一の異常なチロシンキナーゼに集約されているため、そのATP結合部位に結合して活性を阻害する分子標的薬(チロシンキナーゼ阻害薬:TKI)が極めて有効である。TKIの登場によって慢性期CMLの予後は劇的に改善し、適切に治療を継続すれば一般人口に近い生存が期待できるようになった。したがって、慢性期CMLに対してまず行うべき治療はTKIの内服である。造血幹細胞移植やインターフェロンは、TKI以前の時代の標準治療であったり、TKIが効かない場合や病期が進行した場合の選択肢であったりするため、初回治療としては選ばれない。
選択肢考察
- ×a. 多剤併用化学療法
誤り。慢性期CMLでは、腫瘍細胞は分化能を保っており、殺細胞性の抗癌薬を組み合わせた多剤併用化学療法を行っても、BCR::ABL1陽性の幹細胞を排除できず、骨髄抑制などの害が大きいだけである。多剤併用化学療法が検討されるのは急性転化期であり、芽球の性質に応じて急性骨髄性白血病型または急性リンパ性白血病型の寛解導入療法をTKIと組み合わせて行い、その後に同種造血幹細胞移植をめざす。なお、慢性期の著明な白血球増多に対してTKI開始までの間などにヒドロキシカルバミド(ヒドロキシウレア)で一時的に白血球数を下げることはあるが、これは単剤の補助的な治療であり、多剤併用化学療法ではない。
- ×b. 自家造血幹細胞移植
誤り。自家造血幹細胞移植は、患者自身の造血幹細胞をあらかじめ採取・保存しておき、大量化学療法の後に戻す治療である。CMLは造血幹細胞そのものに遺伝子異常が生じた疾患であるため、患者自身の幹細胞には腫瘍細胞(BCR::ABL1陽性細胞)が含まれており、戻すと病気も再び持ち込むことになる。また移植片対白血病(GVL)効果も得られないため、CMLの治療として自家移植は行われない。
- ×c. 同種造血幹細胞移植
誤り。同種造血幹細胞移植は、ドナーの正常な造血幹細胞で造血を置き換え、さらにドナー由来のリンパ球が残存白血病細胞を攻撃するGVL効果によって、CMLを根治しうる唯一の治療とされる。TKIが登場する以前は、慢性期CMLの根治をめざす標準治療であった。しかし、移植関連死亡や移植片対宿主病(GVHD)などの重い合併症を伴うため、TKIで良好な長期成績が得られる現在では初回治療としては選ばれない。適応となるのは、複数のTKIに耐性・不耐容の場合、ポナチニブ以外のTKIが効かないT315I変異をもつ場合、移行期・急性転化期へ進行した場合などである。
- ×d. インターフェロン投与
誤り。インターフェロンα(IFN-α)は、TKI登場以前にはヒドロキシカルバミドより生存期間を延長させる薬物療法として慢性期CMLの標準治療であった。しかし、イマチニブと比較した大規模臨床試験で、血液学的・細胞遺伝学的な効果や病期進行の抑制のいずれにおいてもイマチニブが明らかに優れ、副作用(発熱・倦怠感・抑うつなど)による継続の難しさもあって、現在は第一選択ではない。TKIが使用できない特殊な状況(妊娠中など)で用いられることがある。
- ○e. チロシンキナーゼ阻害薬投与
正しい。CMLの病態の中心はBCR::ABL1の恒常的なチロシンキナーゼ活性であり、TKIはこれを直接阻害して腫瘍細胞の増殖を抑える。慢性期CMLの初回治療として、第一世代のイマチニブ、第二世代のニロチニブ・ダサチニブなどが用いられる。第二世代TKIはイマチニブより早く深い分子遺伝学的奏効が得られやすく、患者の合併症や副作用の特徴(ニロチニブでは血糖上昇や動脈閉塞性イベント、ダサチニブでは胸水など)を考慮して薬剤を選択する。治療効果は末梢血のBCR::ABL1 mRNA量(国際標準値〈IS〉)を定期的に測定して評価し、効果不十分や耐性の場合には別のTKIへ切り替える。
CMLの病期
・慢性期:白血球増多(各成熟段階の顆粒球が出現)、好塩基球・好酸球増多、血小板増多を伴うことも多い。脾腫。無症状で健診の血液検査で偶然見つかることも多い。 ・移行期(加速期):芽球や好塩基球の増加、治療抵抗性の白血球増多・脾腫、新たな染色体異常の出現など。 ・急性転化期:骨髄や末梢血で芽球が著増し、急性白血病に類似した病態となる。骨髄系だけでなく、リンパ系への急性転化(約3割程度)もある。予後不良。
診断
・Ph染色体(染色体分析)またはBCR::ABL1融合遺伝子(FISH法、RT-PCR法)の証明が必須。 ・好中球アルカリホスファターゼ(NAP)スコア低値、血清ビタミンB12高値は、類白血病反応などとの鑑別に役立つ古典的な所見である。
TKI治療と効果判定
・血液学的奏効(血球数・脾腫の正常化)、細胞遺伝学的奏効(Ph染色体陽性細胞の減少)、分子遺伝学的奏効(BCR::ABL1 mRNAの減少)の順に深い奏効となる。 ・分子遺伝学的大奏効(MMR)はBCR::ABL1(IS)が0.1%以下になった状態で、治療開始12か月までの達成が目標とされる。 ・耐性の主な原因はABL1キナーゼ領域の点突然変異であり、T315I変異は第一・第二世代TKIに耐性で、ポナチニブなどの薬剤が用いられる。 ・深い分子遺伝学的奏効が長期間持続した症例では、厳重なモニタリングのもとでTKIを中止する試み(無治療寛解:TFR)も行われるようになっている。
TKI以外の治療の位置づけ
・同種造血幹細胞移植:TKI耐性・不耐容、T315I変異、移行期・急性転化期など。 ・多剤併用化学療法:急性転化期にTKIと併用。 ・インターフェロンα:現在は特殊な状況に限られる。 ・自家造血幹細胞移植:行わない。
POINT
・CML=t(9;22)、Ph染色体、BCR::ABL1融合遺伝子による恒常的チロシンキナーゼ活性化。 ・慢性期CMLの初回治療はTKI(イマチニブ、ニロチニブ、ダサチニブなど)の内服。 ・効果判定はBCR::ABL1 mRNA量(IS)で行い、12か月でMMR(0.1%以下)を目標とする。 ・同種造血幹細胞移植はTKI耐性・T315I変異・進行期例に限る。自家移植は行わない。 ・多剤併用化学療法は急性転化期でTKIと併用して用いる。
