StudyMed医師国家試験

1998年の「段差」を探せ―5本のグラフから自殺死亡率を見抜く読み方

第109回医師国家試験 G問題 第1問

国試問題にチャレンジ

第109回 G問題 第1問

我が国の高齢化率(%),婚姻率(人口千対),自殺死亡率(人口10万対),出生率(人口千対),新生児死亡率(出生千対)の推移(①~⑤)を別に示す。  自殺死亡率はどれか。

第109回 G問題 第1問の問題画像
  1. a.①
  2. b.②
  3. c.③
  4. d.④
  5. e.⑤

対話形式の解説

ドクタードクター
今回は、人口統計の推移グラフ5本から自殺死亡率を選ぶ問題だ。数値を丸暗記していなくても、「縦軸のおおよその水準」と「推移の形、とくに急に変化した時点」の2つに注目すれば判別できる。まずは自殺死亡率がどのくらいの値になるか、見当をつけてみよう。
医学生医学生
人口10万対なので、年間の自殺者数を知っていれば計算できますよね。公衆衛生の講義で、年間3万人前後と習った記憶があります。
ドクタードクター
そう、その発想がいい。3万人を人口約1億2,700万人で割って10万をかけると、だいたい24。自殺者数が2万人台の時期も含めると、おおむね15〜25くらいの範囲で動く指標だとわかる。
医学生医学生
水準だけだと、高齢化率も20前後になる時期があるので紛らわしいですね。
ドクタードクター
鋭いね。だから2つ目の「形」が決め手になる。自殺死亡率の最大の特徴は、1998年に自殺者数が前年から約8,000人も急増して、初めて3万人を超えたことだ。グラフで見ると、階段を一段上がったような急上昇として現れる。
医学生医学生
1998年というと、金融危機の頃ですか。
ドクタードクター
その通り。金融機関の破綻が相次いだ時期で、経済状況の悪化を背景に、とくに中高年男性の自殺が急増した。その後2011年まで14年連続で3万人を超え、2010年前後から減少に転じている。つまり「20前後の水準、1998年に段差状の急上昇、しばらく高止まりして2010年頃から低下」という形を探せばいい。
医学生医学生
そうすると、1990年代前半に16〜17くらいまで下がってから、1998年に25前後へ跳ね上がっているグラフが⑤なので、これが自殺死亡率ですね。
ドクタードクター
正解。では残りの4本も、形と水準で確認しておこう。一貫して右肩上がりで、10くらいから25くらいまで直線的に伸びているグラフは何だと思う?
医学生医学生
途切れずに増え続けるのは高齢化率ですね。単位が%なので、2010年代に25%前後というのも合います。
ドクタードクター
そうだね。2010年に23.0%、2013年に25%を超え、今は約3割に達している。7%で高齢化社会、14%で高齢社会、21%で超高齢社会という区切りも、我が国が超えた年とあわせて覚えておくといい。次に、縦軸が0〜4と小さく、4くらいから1くらいまで急峻に下がっているものは?
医学生医学生
小児科実習で、日本の新生児医療は世界トップクラスだと聞きました。新生児死亡率でしょうか。
ドクタードクター
その通り。生後4週未満の死亡を出生千対で表したもので、周産期・新生児医療の進歩によって2010年代には約1という、世界でも最も低い水準になっている。残る2本はどちらも人口千対の指標だ。
医学生医学生
10前後から8台へゆるやかに下がっているのが出生率、6前後でほぼ横ばいなのが婚姻率、という区別でいいですか。少子化の流れを考えると、出生率のほうが下がり方がはっきりしている気がします。
ドクタードクター
それで合っている。出生率は2010年に8.5、婚姻率は1980年代以降6前後で推移し、2010年代には5台前半になった。どちらもその後も低下が続いているよ。
医学生医学生
グラフ問題は、まず単位から値の桁を見積もって、次に急な変化がいつ起きたかを社会の出来事と結びつける、という順番で考えればいいんですね。
ドクタードクター
まさにそれがコツだ。最後に自殺対策の流れも押さえておこう。1998年以降の急増を受けて2006年に自殺対策基本法が制定され、自殺を個人の問題ではなく社会の問題としてとらえる枠組みができた。2007年には自殺総合対策大綱が策定され、2016年の法改正では「生きることの包括的な支援」と位置づけたうえで、都道府県と市町村がそれぞれ地域の自殺対策計画を定める仕組みになった。
医学生医学生
その後は減ってきていますが、2020年に一時増えたというニュースを見た覚えがあります。
ドクタードクター
新型コロナウイルス感染症の流行の影響もあって、女性や若年者を中心に一時的に増加したんだ。統計上の特徴としては、男性が女性の約2倍多いこと、原因・動機では健康問題が最も多いこと、そして10〜30歳代では死因の第1位が自殺であることが重要だ。精神科に限らず、どの診療科でも患者さんの希死念慮に気づき、相談窓口や専門職につなぐことが医師に求められる役割だと覚えておいてほしい。

まとめ

我が国の自殺死亡率(人口10万対)はおおむね15〜25の範囲で推移し、1998年に自殺者数が前年から約8,000人急増して初めて3万人を超えたという段差状の急上昇が最大の特徴で、2011年まで3万人超が続いた後に減少しました。同じグラフ問題では、一貫して上昇する高齢化率、急峻に低下して2010年代に約1となる新生児死亡率、ゆるやかに低下する出生率、6前後から緩やかに下がる婚姻率と、「縦軸の水準」と「推移の形」で各指標を見分けられます。自殺の急増を受けて2006年に自殺対策基本法が制定され、2016年改正で都道府県・市町村による地域自殺対策計画の仕組みが整えられました。10〜30歳代の死因第1位が自殺であることも含め、統計の推移を社会背景と結びつけて理解することは、国家試験対策にとどまらず、日常診療で自殺のリスクに気づく視点を養うことにもつながります。

解答・解説

正解はeです

問われていること

5つの人口統計指標(高齢化率、婚姻率、自殺死亡率、出生率、新生児死亡率)の1980年代半ば〜2010年代初頭の推移グラフから、自殺死亡率を選ぶ問題である。各指標について「おおよその水準(縦軸の目盛り)」と「推移の特徴的な形」の2点を覚えていれば判別できる。

自殺死亡率の特徴

①水準:我が国の年間自殺者数は長く2万〜3万人台で推移してきた。人口を約1億2,000万〜1億2,700万人とすると、人口10万対の自殺死亡率はおおむね15〜25程度になる。 ②形:1998年に自殺者数が前年から約8,000人急増し、初めて3万人を超えた(警察庁統計で3万2千人台)。この「1998年の階段状の急上昇」が最大の特徴である。その後、2011年まで14年連続で3万人を超える高水準が続き、2010年前後から減少に転じた。また、1980年代半ば(円高不況期)にも小さな山がみられる。

グラフの読み取り

⑤は縦軸0〜40、値は20前後で、1990年代前半に16〜17程度まで低下した後、1998年に25程度へ急上昇し、しばらく高止まりしたのち2010年頃から低下している。上記の特徴と完全に一致するため、⑤が自殺死亡率である。 残りは、一貫して増加する④が高齢化率、急峻に低下する③(4→1)が新生児死亡率、10前後から8台へゆるやかに低下する①が出生率、6前後で横ばい〜やや低下する②が婚姻率と判断できる。

選択肢考察

  1. ×a.  ①

    縦軸0〜20で、1985年頃の約12.5から1990年に約10、2010年頃に約8.5へとゆるやかに低下し続けている。これは出生率(人口千対)の推移である。第2次ベビーブーム(1971〜1974年)以降、出生率は低下傾向が続き、1990年10.0、2010年8.5、2013年8.2となった。その後も低下は続いている。自殺死亡率にみられる1998年の急上昇はない。

  2. ×b.  ②

    縦軸0〜8で、6前後をほぼ横ばいで推移し、2000年代以降わずかに低下している。これは婚姻率(人口千対)の推移である。婚姻率は1970年代前半のピーク(10を超えていた)以降低下し、1980年代以降は6前後で推移、2010年代には5台前半(2013年5.3)となり、その後さらに低下している。

  3. ×c.  ③

    縦軸0〜4で、1985年頃の約4から2010年代初頭の約1まで一貫して大きく低下している。これは新生児死亡率(生後4週未満の死亡、出生千対)の推移である。周産期医療・新生児医療の進歩により、1990年2.6、2010年1.1、2012年1.0と低下し、我が国は世界でも最も低い水準にある。

  4. ×d.  ④

    縦軸0〜40で、1985年の約10から2010年代の約25へ、途切れることなく直線的に上昇している。これは高齢化率(総人口に占める65歳以上人口の割合、%)の推移である。1990年12.1%、2010年23.0%、2013年に25%を超えた(25.1%)。現在は約3割に達している。値の水準と単調増加という形から判断できる。

  5. ○e.  ⑤

    縦軸0〜40で値は20前後、1990年代前半に16〜17程度まで低下した後、1998年に25程度へ急上昇し、その後2000年代を通して高止まりし、2010年頃から低下している。これは自殺死亡率(人口10万対)の特徴そのものである。1998年は金融危機を背景とする経済状況の悪化に伴い、特に中高年男性の自殺が急増し、自殺者数が初めて3万人を超えた年である。以後2011年まで3万人超が続き、その後減少に転じた。年間約3万人を人口約1億2,700万人で割ると約24(人口10万対)となり、グラフの水準とも整合する。

自殺対策の流れ

1998年以降の自殺者急増を受け、2006年に自殺対策基本法が制定され、自殺を個人の問題ではなく社会の問題としてとらえ、総合的に対策を進める枠組みが整えられた。2007年には自殺総合対策大綱が策定された(以後おおむね5年ごとに見直し)。2016年の法改正では、自殺対策を「生きることの包括的な支援」と位置づけるとともに、第13条で、都道府県は自殺総合対策大綱と地域の実情を勘案して「都道府県自殺対策計画」を、市町村は大綱・都道府県計画と地域の実情を勘案して「市町村自殺対策計画」を、それぞれ「定めるものとする」と規定された。これにより、地域ごとに自殺対策計画(地域自殺対策計画)を策定して取り組む体制がつくられた。こうした取り組みと経済状況の改善もあり、自殺者数は2010年以降減少傾向となり、2012年には15年ぶりに3万人を下回った。なお2020年には新型コロナウイルス感染症流行の影響もあり、女性や若年者を中心に一時的に増加した。

自殺の統計上の特徴

・男性が女性の約2倍多い。 ・原因・動機としては健康問題が最も多く、次いで経済・生活問題、家庭問題などが続く。 ・10〜30歳代では死因の第1位が自殺であり、若年者の死因に占める自殺の割合が高いことは先進国の中でも我が国の特徴である。 ・自殺の統計には、厚生労働省の人口動態統計(日本人を対象、住所地・死亡時点で計上)と、警察庁の自殺統計(外国人も含む、発見地・発見時点で計上)の2種類があり、数値がやや異なる。

他の指標の基本事項

・出生率=年間出生数÷人口×1,000(人口千対) ・婚姻率=年間婚姻件数÷人口×1,000(人口千対) ・新生児死亡率=生後4週(28日)未満の死亡数÷出生数×1,000(出生千対) ・高齢化率=65歳以上人口÷総人口×100(%)。7%超で高齢化社会、14%超で高齢社会、21%超で超高齢社会と呼ばれる。我が国は1970年に7%、1994年に14%、2007年に21%を超えた。

POINT

・自殺死亡率は人口10万対でおおむね15〜25程度。1998年に急上昇(自殺者数が初めて3万人超)し、2011年まで3万人超が続き、その後減少した。 ・高齢化率は一貫して上昇(2010年23.0%、2013年に25%超)。 ・新生児死亡率は一貫して低下(2010年代に約1、出生千対)。 ・出生率はゆるやかに低下(2010年8.5、人口千対)、婚姻率は5〜6前後でやや低下。 ・グラフ問題は「縦軸の水準」と「推移の形(急変点)」の2点で判別する。

※問題・正答は厚生労働省の公開資料をもとに掲載しています。