拳ひとつで腎臓に問いかける―CVA叩打痛の「間接叩打」をマスターしよう
第109回医師国家試験 F問題 第8問
国試問題にチャレンジ
肋骨脊柱角の叩打痛の診察方法で正しいのはどれか。
- a.手掌で叩く。
- b.打腱器で叩く。
- c.中指で手首のスナップを利かせて叩く。
- d.両方の母指で強く押して素早く手を離す。
- e.片方の手掌を当てその上から他方の拳で叩く。
対話形式の解説
ドクター
医学生
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ドクターまとめ
肋骨脊柱角叩打痛は、背部で第12肋骨と脊柱がつくる角の深部にある腎臓へ振動を伝え、腎・上部尿路の病変による痛みを誘発する診察法です。片方の手掌を肋骨脊柱角に密着させ、その上を反対の手の拳の小指側で軽く叩く間接叩打で行い、痛みのない側から左右差を比較します。手掌で直接叩く、打腱器で叩く方法は表面の痛みが混じりやすく、中指で手首のスナップを利かせるのは打診、押して急に離すのは反跳痛の手技です。陽性なら急性腎盂腎炎や尿管結石に伴う水腎症などを考え、膀胱炎との鑑別にも役立ちますが、脊椎疾患による背部痛との区別も必要です。手技を「何を評価するために行うのか」という目的で整理しておくと、OSCEでも臨床でも正確な身体診察につながります。
解答・解説
正解はeです
肋骨脊柱角(costovertebral angle:CVA)は、背部で第12肋骨と脊柱(腰椎)がつくる角の部分である。腎臓はこの部分の深部、後腹膜腔に位置している。腎臓や腎被膜、腎盂に炎症や急な内圧の上昇があると、この部位に振動を加えたときに痛みが誘発される。これを肋骨脊柱角叩打痛(CVA叩打痛)という。 この診察の目的は、表面の皮膚や筋肉に痛み刺激を与えることではなく、深部にある腎臓へ振動を伝えることにある。そのため、片方の手掌を肋骨脊柱角に密着させて置き、その手の甲を他方の握りこぶし(尺側の小指側の面)で軽く叩く「間接叩打」で行う。こうすると衝撃が手掌全体で受け止められて広く深部まで伝わり、皮膚表面への局所的な痛み刺激を避けられる。強く叩く必要はなく、患者に不要な苦痛を与えないようにする。 手順としては、患者を坐位(または側臥位)にして背部を出し、まず痛みのない側から行って左右を比べる。叩打痛が陽性であれば、急性腎盂腎炎、尿管結石(水腎症に伴う腎被膜の伸展)、腎膿瘍、腎梗塞などを考える。
選択肢考察
- ×a. 手掌で叩く。
手掌で直接叩くと、衝撃が皮膚や表面の筋肉にとどまって深部の腎臓まで振動が伝わりにくい。また平手打ちのような痛み刺激となり、腎臓由来の痛みと区別しにくくなる。肋骨脊柱角叩打痛の正しい手技ではない。
- ×b. 打腱器で叩く。
打腱器(ハンマー)は腱反射を誘発するための器具であり、腱を素早く伸展させるために使う。打撃面が小さいため衝撃が局所に集中して表面の痛みを生じやすく、深部の腎臓に振動を伝える目的には適さない。肋骨脊柱角の診察には用いない。
- ×c. 中指で手首のスナップを利かせて叩く。
これは打診法の手技である。胸部や腹部の打診では、一方の手の中指を体表に密着させ、もう一方の中指先端で手首のスナップを利かせて叩き、生じる音(清音、濁音、鼓音など)から内部の空気や液体、実質臓器の状態を推定する。音を評価するための方法であり、腎臓の叩打痛を評価する方法ではない。
- ×d. 両方の母指で強く押して素早く手を離す。
「押してから急に離したときの痛み」を評価するのは、腹膜刺激徴候の一つである反跳痛(Blumberg徴候)の診察法に近い。反跳痛は腹部を手指でゆっくり圧迫し、急に離したときに痛みが増強するかをみるもので、腹膜炎の存在を示唆する。肋骨脊柱角叩打痛の手技ではない。
- ○e. 片方の手掌を当てその上から他方の拳で叩く。
肋骨脊柱角叩打痛の正しい診察法である。一方の手掌を肋骨脊柱角に密着させ、その上を他方の握りこぶしの尺側(小指側)で軽く叩く。手掌を介した間接叩打により、表面に局所的な痛みを与えずに振動を深部の腎臓まで伝えることができる。強く叩く必要はなく、左右差を比較して評価する。陽性の場合は急性腎盂腎炎や尿管結石などの腎・上部尿路疾患を疑う。
肋骨脊柱角叩打痛(CVA叩打痛)が陽性となる主な疾患
・急性腎盂腎炎:発熱(しばしば悪寒戦慄を伴う)、患側の叩打痛、膿尿・細菌尿。膀胱炎では通常発熱やCVA叩打痛はみられず、上部尿路感染症との鑑別に役立つ。 ・尿管結石:突然の側腹部〜背部の疝痛、血尿。結石による尿路閉塞で水腎症となり、腎被膜が伸展されて叩打痛が出る。 ・腎膿瘍、腎周囲膿瘍、腎梗塞など。 ※脊椎疾患(圧迫骨折、化膿性脊椎炎など)や筋骨格系の痛みでも背部の叩打で痛むことがあるため、脊柱そのものの叩打痛と区別する。
似た名称の診察手技の整理
・打診(指指打診法):中指を体表に当て、他方の中指で手首のスナップを利かせて叩き、音を聞く。 ・腱反射:打腱器で腱を叩き、反射の亢進・低下を評価する。 ・反跳痛(Blumberg徴候):腹壁をゆっくり圧迫して急に離すと痛みが増強する。腹膜刺激徴候。 ・叩打痛(CVA叩打痛、肝叩打痛など):手掌を当て、その上を拳で叩く間接叩打で深部臓器の痛みをみる。肝叩打痛も同じ要領で右季肋部に行い、肝膿瘍や急性胆嚢炎などで陽性となる。
解剖
・腎臓は第12胸椎〜第3腰椎の高さの後腹膜腔にあり、肝臓があるため右腎は左腎よりやや低い位置にある。 ・肋骨脊柱角は第12肋骨下縁と脊柱外側縁が交わる部位で、腎臓の背側に相当する。
POINT
・肋骨脊柱角叩打痛は、片方の手掌を肋骨脊柱角に当て、その上を他方の拳(尺側)で軽く叩いて評価する(間接叩打)。 ・目的は深部の腎臓に振動を伝えることで、強く叩く必要はない。左右差をみる。 ・陽性所見は急性腎盂腎炎、尿管結石(水腎症)などを示唆し、膀胱炎との鑑別にも役立つ。 ・中指で手首のスナップを利かせて叩くのは打診、打腱器は腱反射、押して急に離すのは反跳痛の手技である。
