イチゴジャムと消えない泣き声―腸重積症は「押し戻す」が先決
第109回医師国家試験 C問題 第23問
国試問題にチャレンジ
1歳の女児。夕方にイチゴジャム様の便を認めたため母親に連れられて来院した。今朝から嘔吐を数回認め,間欠的に機嫌が悪かった。身長75 cm,体重8.8 kg。体温37.0℃。脈拍108/分,整。SpO2 96%(room air)。心音と呼吸音とに異常を認めない。腹部は平坦,軟であるが,臍部右横に5 cm大の軟らかい腫瘤を触知する。腹部超音波像を別に示す。 患児の家族への説明として正しいのはどれか。

- a.「抗菌薬を処方します」
- b.「鎮痛薬をお尻に入れます」
- c.「制吐薬をお尻に入れます」
- d.「すぐに開腹手術が必要です」
- e.「圧をかけた浣腸による整復が必要です」
対話形式の解説
ドクター
医学生
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ドクターまとめ
乳幼児の間欠的な不機嫌(腹痛)、嘔吐、イチゴジャム様血便に右上腹部〜臍周囲の腫瘤を伴えば腸重積症を考え、超音波で横断像のtarget sign、縦断像のpseudokidney signを確認します。重積した腸管は時間とともに虚血・壊死に進むため、診断後は速やかな整復が原則です。ショック・腹膜炎・穿孔がなければ高圧浣腸による非観血的整復が第一選択で、不成功例や禁忌所見がある場合にはHutchinson手技による観血的整復を行います。抗菌薬や鎮痛薬・制吐薬の坐薬は根本治療にならず、整復の遅れにつながる点に注意が必要です。乳幼児では特発性が多い一方、年長児や成人では器質的病変が先進部となりやすく、年齢に応じた背景の検索が臨床で重要になります。
解答・解説
正解はeです
所見の整理
・年齢:1歳(腸重積症の好発年齢である生後3か月〜2歳の範囲内) ・症状:今朝からの嘔吐、間欠的な不機嫌(乳幼児では腹痛を言葉で訴えられないため、周期的に泣く・機嫌が悪くなるという形で現れる)、夕方のイチゴジャム様の便(粘血便) ・バイタル:体温37.0℃と発熱はなく、脈拍108/分は1歳児として正常範囲、SpO2も保たれている。ショックや腹膜炎を示唆する所見はない。 ・腹部:平坦・軟で筋性防御などの腹膜刺激徴候はないが、臍部右横に5 cm大の軟らかい腫瘤(ソーセージ様腫瘤)を触れる。 ・腹部超音波:横断像で腸管壁が同心円状に何層にも重なる像(target sign、multiple concentric ring sign)を認める。
診断に至るプロセス
間欠的腹痛(不機嫌)、嘔吐、血便は腸重積症の古典的三主徴であり、これに右上腹部〜臍右側の腫瘤触知が加わっている。超音波で標的像が確認されたことから、回腸末端が結腸内へ入り込む回腸結腸型の腸重積症と診断できる。鑑別として感染性腸炎(発熱・下痢が主体で、腫瘤は触れない)、IgA血管炎による腹痛(紫斑を伴う)、メッケル憩室出血(無痛性の大量下血)などが挙がるが、腫瘤触知と超音波所見はいずれにも合わない。
設問の考え方
腸重積症は腸間膜の血管が重積腸管に巻き込まれるため、時間とともにうっ血→浮腫→虚血→壊死・穿孔へと進む。したがって診断したら速やかに整復するのが原則である。第一選択は、全身状態が良く、ショック・腹膜炎・腸管穿孔の所見がない場合に行う非観血的整復(造影剤・生理食塩水・空気などを肛門から注入して圧をかける高圧浣腸)である。本例は発症から半日程度で、全身状態も安定し腹膜刺激徴候もないため、まず高圧浣腸による整復を行う方針を家族に説明するのが適切である。
選択肢考察
- ×a. 「抗菌薬を処方します」
抗菌薬は細菌性腸炎などの感染症に対する治療である。本例は発熱がなく、腫瘤触知と超音波の標的像から機械的な腸管の嵌入(腸重積症)と診断されており、抗菌薬では重積は解除されない。内服処方で帰宅させれば整復が遅れ、腸管壊死を招く危険がある。
- ×b. 「鎮痛薬をお尻に入れます」
坐薬の鎮痛薬は腹痛を一時的に和らげる対症療法にすぎず、重積そのものは治らない。痛みを隠すことで症状の経時的な評価を難しくし、整復の遅れにつながる。原因である重積の解除を優先すべきである。
- ×c. 「制吐薬をお尻に入れます」
本例の嘔吐は腸重積による腸閉塞の症状であり、制吐薬の坐薬は対症療法にとどまる。閉塞が続く限り嘔吐は改善せず、根本治療である整復を先に行う必要がある。脱水があれば整復と並行して輸液で補正する。
- ×d. 「すぐに開腹手術が必要です」
観血的整復(開腹手術)は、ショック・腹膜炎・腸管穿孔を認める場合、または非観血的整復が不成功に終わった場合に選択される。手術では肛門側の腸管を引っ張らず、口側から先進部を押し戻す方法(Hutchinson手技)で整復し、腸管壊死があれば切除する。本例は全身状態が安定し腹膜刺激徴候もないため、いきなり開腹手術を行う段階ではない。
- ○e. 「圧をかけた浣腸による整復が必要です」
全身状態が良好で、ショック・腹膜炎・穿孔の所見がない腸重積症では、非観血的整復(高圧浣腸)が第一選択である。透視下または超音波ガイド下に、造影剤・生理食塩水・空気のいずれかを肛門から注入して圧をかけ、先進部を口側へ押し戻す。本例は発症から半日程度と早期であり、成功率が高いと期待できる。発症からの時間が長い(特に48時間を超える)ほど整復率は下がり手術が必要となる割合が増えるため、速やかに実施する。
腸重積症の概要
口側の腸管が肛門側の腸管内に引き込まれて腸管壁が重なった状態を腸重積といい、これによって起こる腸閉塞を腸重積症と呼ぶ。腸間膜の動静脈も一緒に引き込まれるため循環障害を伴い、絞扼性腸閉塞の代表的疾患である。
疫学・病型
・生後3か月〜2歳ごろに多く、男児にやや多い。 ・乳幼児では多くが明らかな器質的原因のない特発性で、回腸末端のリンパ組織(パイエル板)の腫大が先進部になると考えられている。ウイルス感染が先行することがある。 ・病型は回腸が結腸に入り込む回腸結腸型が大部分を占める。 ・年長児や成人では、メッケル憩室、ポリープ、悪性リンパ腫などの器質的病変が先進部となることが多い。
症状
・間欠的腹痛(乳児では周期的な啼泣・不機嫌)が初発症状として最も多く、嘔吐も早期から出現する。 ・イチゴジャム様の粘血便は特徴的だが病初期には少なく、時間経過とともに頻度が増える。三主徴が全部そろう例は半数に満たない。 ・右上腹部〜臍周囲にソーセージ様腫瘤を触れ、右下腹部は空虚に触れる(Dance徴候)。
画像診断
・超音波が第一選択で、横断像では同心円状の標的像(target sign/multiple concentric ring sign)、縦断像では腎臓に似た偽腎像(pseudokidney sign)を示す。 ・造影下の注腸では先進部が蟹の爪状(カニ爪様陰影)に描出される。
治療
・輸液で全身状態を整えつつ、ショック・腹膜炎・穿孔がなければ非観血的整復(高圧浣腸)を行う。 ・非観血的整復が不成功の場合や、上記の禁忌所見がある場合は観血的整復(手術)を行う。 ・非観血的整復後も再発が約1割にみられ、多くは整復後早期に起こるため、整復後はしばらく経過観察する。
POINT
・乳幼児の間欠的不機嫌(腹痛)+嘔吐+イチゴジャム様血便+右上腹部〜臍部の腫瘤 → 腸重積症 ・超音波で横断像のtarget sign、縦断像のpseudokidney sign ・ショック・腹膜炎・穿孔がなければ第一選択は高圧浣腸による非観血的整復 ・非観血的整復の不成功、または腹膜炎・穿孔・ショックがあれば手術(Hutchinson手技) ・発症からの時間が長いほど整復率が下がるため、診断後は速やかに整復する
