1か月続く咳と40年の喫煙―「60歳からの禁煙」がいちばん効く生活指導
第109回医師国家試験 B問題 第41問
国試問題にチャレンジ
60歳の男性。1か月前から続く咳嗽を主訴に来院した。身長165 cm,体重70 kg。血圧120/82 mmHg。喫煙は20本/日を40年間。飲酒は日本酒1合/日を30年間。運動は通勤時に1日平均5,000歩。胸部エックス線写真と喀痰細胞診とに異常を認めない。 咳嗽の治療とともに指導すべきなのはどれか。
- a.「塩分制限が必要です」
- b.「お酒はビールに変えましょう」
- c.「体重を15 kg減らしましょう」
- d.「2万歩を目指して頑張りましょう」
- e.「60歳からでも禁煙は遅くありません」
対話形式の解説
ドクター
医学生
ドクター
医学生
ドクター
医学生
ドクター
医学生
ドクター
医学生
ドクター
医学生
ドクター
医学生
ドクター
医学生
ドクター
医学生
ドクター
医学生
ドクターまとめ
1か月続く咳嗽は遷延性咳嗽にあたり、Brinkman指数800の重喫煙は咳嗽の原因になりうるうえ、COPD・肺癌・虚血性心疾患などの最大の修正可能な危険因子です。生活指導では、健康への影響が最も大きく主訴とも関連する問題を優先するため、本例では禁煙の勧奨が最も適切であり、禁煙は60歳からでも気道症状の改善や疾患リスクの低下、寿命延長といった効果が期待できます。一方、高血圧の基準を満たさない人への断定的な減塩指導、純アルコール量を変えない酒の種類の変更、標準体重を下回るほどの減量、2万歩という過大な歩数目標は、根拠や実現可能性を欠きます。指導は科学的根拠に基づき、段階的で達成可能な目標を設定することが原則であり、この視点は外来診療や保健指導のあらゆる場面で役立ちます。
解答・解説
正解はeです
所見の整理
・1か月続く咳嗽:咳嗽は持続期間によって、3週間未満の急性咳嗽、3週間以上8週間未満の遷延性咳嗽、8週間以上の慢性咳嗽に分けられる。本例は遷延性咳嗽にあたる。 ・体格:BMI=70÷(1.65×1.65)=70÷2.72≒25.7。日本肥満学会の基準ではBMI 25以上が肥満(1度)であり、軽度の肥満がある。標準体重(BMI 22)は1.65×1.65×22≒60 kgである。 ・血圧:120/82 mmHgで高血圧(診察室血圧140/90 mmHg以上)には該当しない。 ・喫煙:20本/日×40年。1日本数×喫煙年数で表すBrinkman指数は800、パック・イヤー(1日の箱数×年数)は40であり、重喫煙者である。 ・飲酒:日本酒1合は純アルコール約20 gに相当する。1日平均20 g程度は節度ある適度な飲酒とされ、生活習慣病のリスクを高める量(男性で1日40 g以上)には達していない。 ・運動:1日平均5,000歩で、健康づくりの目標(成人でおおむね8,000歩前後)にはやや足りない。 ・胸部エックス線写真と喀痰細胞診に異常なし:現時点で肺癌や肺結核などを示唆する所見はない。
考え方
遷延性咳嗽の原因としては、感染後咳嗽、咳喘息、アトピー咳嗽、胃食道逆流症、副鼻腔気管支症候群、慢性閉塞性肺疾患(COPD)・慢性気管支炎などがあり、本問の情報だけで一つに絞ることはできない。しかし、40年に及ぶ重喫煙は、気道の慢性炎症を通じて咳嗽や喀痰の直接の原因になりうるうえ、COPDや肺癌、虚血性心疾患などの重大な危険因子でもある。 生活指導では、患者の問題点のなかで最も健康への影響が大きく、かつ主訴とも関係するものを優先する。本例ではそれは喫煙であり、咳嗽の治療と並行して禁煙を勧めるのが最も適切である。あわせて、指導の内容は医学的根拠に基づき、患者が実行できる現実的な目標でなければならない。
選択肢考察
- ×a. 「塩分制限が必要です」
血圧は120/82 mmHgで高血圧ではなく、塩分摂取量に関する情報も示されていない。減塩(日本高血圧学会が推奨する目標は食塩6 g/日未満)は一般的には望ましい生活習慣だが、本例の咳嗽とは関係がなく、「必要です」と断定して優先的に指導すべき問題ではない。
- ×b. 「お酒はビールに変えましょう」
日本酒1合/日は純アルコール約20 gで、節度ある適度な飲酒の範囲にある。健康への影響はお酒の種類ではなく、含まれる純アルコールの量で決まるため、日本酒をビールに替えることに医学的な意味はない。また飲酒は咳嗽の原因とも考えにくい。
- ×c. 「体重を15 kg減らしましょう」
BMIは約25.7で軽度の肥満だが、標準体重は約60 kgであり、15 kg減らすと55 kg(BMI約20)となって目標として過大である。減量の指導では、まず現体重の3%程度を3〜6か月で減らすといった段階的で達成可能な目標を設定するのが一般的である。また、肥満は本例の咳嗽の主な原因とは考えにくく、咳嗽の治療とともに優先して指導する事項ではない。
- ×d. 「2万歩を目指して頑張りましょう」
1日5,000歩は健康づくりの目標としてはやや少ないが、成人の歩数の目安はおおむね8,000歩前後であり、2万歩は非現実的な目標である。急に過大な目標を課すと継続できず、膝や腰の障害の原因にもなりうる。身体活動を増やすなら、1日1,000〜2,000歩(約10〜20分)程度を上乗せするなど、段階的な目標を示すべきである。また運動不足は咳嗽とは関連しない。
- ○e. 「60歳からでも禁煙は遅くありません」
本例はBrinkman指数800の重喫煙者であり、喫煙は咳嗽そのものの原因になりうるうえ、COPD、肺癌、虚血性心疾患、脳卒中などの重要な危険因子である。禁煙すると、咳嗽や喀痰などの気道症状は数週〜数か月で改善することが多く、虚血性心疾患のリスクは数年で、肺癌のリスクは10年前後の経過で低下していく。COPDでも禁煙は呼吸機能低下の進行を抑える最も効果的な介入である。高齢になってから禁煙しても寿命の延長などの効果が得られることが示されており、「今からでは遅い」と考えがちな患者に年齢を問わず禁煙の意義を伝えるこの指導は適切である。
咳嗽の持続期間による分類
・急性咳嗽(3週間未満):かぜ症候群などの気道感染症が多い。 ・遷延性咳嗽(3週間以上8週間未満):感染後咳嗽が多い。 ・慢性咳嗽(8週間以上):咳喘息、アトピー咳嗽、副鼻腔気管支症候群、胃食道逆流症、喫煙による慢性気管支炎、アンジオテンシン変換酵素(ACE)阻害薬による咳嗽などが代表的である。 持続する咳嗽では、胸部エックス線写真で肺癌、肺結核、間質性肺炎などを除外することが重要である。
喫煙量の指標
・Brinkman指数=1日の喫煙本数×喫煙年数。400以上で肺癌の高リスク、600以上で重喫煙とされることが多い。 ・パック・イヤー=1日の喫煙箱数(20本=1箱)×喫煙年数。
禁煙支援
医療機関では「5つのA」(Ask:喫煙状況を尋ねる、Advise:禁煙を勧める、Assess:禁煙の意思を評価する、Assist:禁煙を支援する、Arrange:フォローアップを計画する)に沿った支援が行われる。一定の要件(ニコチン依存症のスクリーニングテスト〈TDS〉5点以上、35歳以上ではBrinkman指数200以上など)を満たせば、禁煙治療は保険適用となり、ニコチン置換療法(ニコチンパッチ・ガム)などの薬物療法が用いられる。
保健指導の原則
生活指導は、健康への影響が大きい問題を優先し、科学的根拠に基づき、患者が実行・継続できる具体的な目標を設定する。過大な目標や根拠のない指導は、かえって行動変容を妨げる。
POINT
・1か月の咳嗽は遷延性咳嗽(3〜8週間)に分類される。 ・重喫煙(Brinkman指数800)は咳嗽の原因となり、COPD・肺癌・心血管疾患の最大の修正可能な危険因子である。 ・禁煙は何歳から始めても健康上の利益がある。 ・日本酒1合≒純アルコール20 gで、適度な飲酒の範囲。健康影響は酒の種類ではなく純アルコール量で決まる。 ・減量や運動の指導は、段階的で達成可能な目標(体重は3〜6か月で3%程度など)を設定する。
