母と子が出会う臓器―胎盤の「誰のもの?」「いつ完成?」「何をつくる?」を整理する
第109回医師国家試験 B問題 第34問
国試問題にチャレンジ
胎盤について正しいのはどれか。2つ選べ。
- a.脱落膜は胎児由来の組織である。
- b.受精後8週ころ形態的に完成する。
- c.絨毛間腔は母体血液で満たされている。
- d.hCGは合胞体栄養膜細胞から分泌される。
- e.妊娠末期の厚さは中央部で6 cmを超える。
対話形式の解説
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ドクターまとめ
胎盤は胎児由来の絨毛と母体由来の基底脱落膜からなり、卵膜のうち羊膜と絨毛膜は胎児由来、脱落膜は母体由来です。胎盤は妊娠7週ころから形成が始まり妊娠15〜16週ころに形態的に完成し、それに先立つ妊娠7〜10週ころにプロゲステロン産生の主体が妊娠黄体から胎盤へ移ります。絨毛間腔はらせん動脈から流入する母体血で満たされ、胎児血とは胎盤関門で隔てられて物質交換が行われます。hCG・hPLなどの胎盤ホルモンは絨毛最外層の合胞体栄養膜細胞が産生し、正期胎盤は直径約15〜20 cm、厚さ約2 cm、重さ約500 gが目安で、著しい肥厚は早剝や胎児水腫などを疑う所見です。胎盤の構造と機能の理解は、絨毛性疾患、妊娠糖尿病、常位胎盤早期剝離など産科の主要な病態を学ぶ土台になります。
解答・解説
正解はc, dです
胎盤の構造・形成時期・内分泌機能・正常の大きさという基本事項をまとめて問う一般問題である。
考え方
胎盤は、胎児側の成分(絨毛膜有毛部=絨毛)と母体側の成分(基底脱落膜)が組み合わさってできる臓器である。絨毛の表面は栄養膜(トロホブラスト)で覆われ、外層が合胞体栄養膜細胞(シンシチオトロホブラスト)、内層が細胞性栄養膜細胞(サイトトロホブラスト)である。絨毛は母体のらせん動脈から流れ込んだ血液がたまる空間(絨毛間腔)に浸っており、母体血と胎児血は絨毛の組織(胎盤関門)を隔てて物質交換を行う。 各選択肢は、次の4点を知っていれば判定できる。 ・どの組織が母体由来で、どれが胎児由来か ・胎盤が形の上で完成するのはいつか(妊娠15〜16週ころ) ・絨毛間腔を満たしているのは何か(母体血) ・hCGなどの胎盤ホルモンを産生するのはどの細胞か(合胞体栄養膜細胞) 加えて、正期の胎盤の標準的な大きさ(直径約15〜20 cm、厚さ約2 cm、重さ約500 g)を覚えておけば、厚さの数値が異常かどうかを判断できる。
選択肢考察
- ×a. 脱落膜は胎児由来の組織である。
誤り。脱落膜は、妊娠に伴って母体の子宮内膜が変化(脱落膜化)したもので、母体由来である。卵膜は内側から羊膜・絨毛膜・脱落膜の3層からなり、胎児由来は羊膜と絨毛膜、母体由来は脱落膜である。胎盤の母体面を作るのは、着床部位の脱落膜である基底脱落膜である。
- ×b. 受精後8週ころ形態的に完成する。
誤り。胎盤は妊娠7週ころから作られはじめ、妊娠15〜16週ころ(受精後およそ13〜14週)に形態的に完成する。受精後8週(妊娠10週)はまだ形成途中である。なお、胎盤がまだ形成途中の妊娠7〜10週ころに、妊娠維持に必要なプロゲステロンの主な産生の場が卵巣の妊娠黄体から胎盤へ移る(luteo-placental shift)。つまりホルモン産生の面での交代は、形態的な完成よりも先に起こる。
- ○c. 絨毛間腔は母体血液で満たされている。
正しい。子宮のらせん動脈から噴き出した母体血が絨毛間腔に流れ込み、絨毛の周囲を満たしたのち子宮静脈へ戻る。胎児血は絨毛の中の毛細血管を流れており、合胞体栄養膜細胞・絨毛の間質・胎児血管内皮などからなる胎盤関門によって母体血と隔てられているため、正常では両者が直接混ざることはない。ガス・栄養素・老廃物はこの関門を通して交換される。
- ○d. hCGは合胞体栄養膜細胞から分泌される。
正しい。hCG(ヒト絨毛性ゴナドトロピン)は、絨毛最外層の合胞体栄養膜細胞で作られる糖蛋白ホルモンである。妊娠初期の妊娠黄体を維持してプロゲステロン分泌を保つ働きをもち、血中濃度は妊娠8〜10週ころに最大となってその後低下する。合胞体栄養膜細胞は、hCGのほかにhPL(ヒト胎盤性ラクトーゲン)などの蛋白ホルモンや、エストロゲン・プロゲステロンといったステロイドホルモンも産生する。
- ×e. 妊娠末期の厚さは中央部で6 cmを超える。
誤り。正期の胎盤は直径約15〜20 cmの円盤状で、厚さは中央部で約2 cm(おおむね1.5〜3 cm程度)、重さは約500 g(胎児体重のおよそ6分の1)である。超音波で6 cmにも及ぶ厚みがみられれば明らかに異常であり、常位胎盤早期剝離による胎盤後血腫や胎盤血腫、胎児水腫などに伴う胎盤浮腫を考える必要がある。
胎盤の構造
・胎児面:羊膜に覆われ、臍帯が付着する。絨毛膜板から絨毛が母体側へ伸びる。 ・母体面:基底脱落膜からなり、15〜20個程度の分葉(胎盤葉、コチレドン)に分かれる。 ・絨毛の断面:外側から合胞体栄養膜細胞 → 細胞性栄養膜細胞 → 間質 → 胎児毛細血管。細胞性栄養膜細胞は妊娠後半にかけて目立たなくなり、胎盤関門は薄くなって物質交換の効率が上がる。
卵膜の3層
羊膜(胎児由来)・絨毛膜(胎児由来)・脱落膜(母体由来)。
胎盤が産生する主なホルモン
・hCG:妊娠黄体の維持。妊娠8〜10週ころにピーク。妊娠反応の検出対象であり、胞状奇胎や絨毛癌の腫瘍マーカーにもなる。 ・hPL:成長ホルモンやプロラクチンに似た構造をもち、母体のインスリン抵抗性を高めて胎児へのブドウ糖供給を増やす。妊娠の進行とともに増える。 ・プロゲステロン:妊娠の維持(子宮筋の収縮を抑える)。妊娠7〜10週ころに妊娠黄体から胎盤へ主な産生の場が移る(luteo-placental shift)。 ・エストロゲン(特にエストリオール):胎児副腎・胎児肝・胎盤が協力して作る(胎児胎盤系)。
正期胎盤の目安
直径15〜20 cm、厚さ約2 cm、重さ約500 g。胎盤の厚みの増加は、常位胎盤早期剝離、胎児水腫、糖尿病合併妊娠などで問題となる。
POINT
・脱落膜は母体由来、羊膜と絨毛膜は胎児由来。 ・胎盤は妊娠15〜16週ころに形態的に完成する。 ・絨毛間腔を満たすのは母体血であり、胎児血とは胎盤関門で隔てられる。 ・hCG・hPLなどは合胞体栄養膜細胞が産生する。 ・正期胎盤は直径15〜20 cm、厚さ約2 cm、重さ約500 g。
