StudyMed医師国家試験

母と子が出会う臓器―胎盤の「誰のもの?」「いつ完成?」「何をつくる?」を整理する

第109回医師国家試験 B問題 第34問

国試問題にチャレンジ

第109回 B問題 第34問

胎盤について正しいのはどれか。2つ選べ。

  1. a.脱落膜は胎児由来の組織である。
  2. b.受精後8週ころ形態的に完成する。
  3. c.絨毛間腔は母体血液で満たされている。
  4. d.hCGは合胞体栄養膜細胞から分泌される。
  5. e.妊娠末期の厚さは中央部で6 cmを超える。

対話形式の解説

ドクタードクター
今回は胎盤の基本事項をまとめて問う問題だ。押さえるべき軸は4つ。どの組織が母体由来でどれが胎児由来か、いつ形が完成するか、絨毛間腔を満たしているのは何か、ホルモンをつくるのはどの細胞か。それに正期胎盤の標準的な大きさを加えれば、すべて判断できる。
医学生医学生
胎盤って母体と胎児の両方からできていると習った気がしますが、境目があいまいです。
ドクタードクター
そこから整理しよう。胎盤は、胎児側の絨毛膜有毛部、つまり絨毛と、母体側の基底脱落膜が組み合わさってできる臓器なんだ。卵膜で言えば、内側から羊膜・絨毛膜・脱落膜の3層で、羊膜と絨毛膜が胎児由来、脱落膜が母体由来になる。
医学生医学生
脱落膜は名前からして胎児の組織かと思っていました。母体の子宮内膜が変化したものなんですね。
ドクタードクター
その通り。妊娠に伴って子宮内膜が脱落膜化したもので、母体由来だ。だから「脱落膜は胎児由来」という記述は誤り。分娩後に一緒に剝がれて出てくるから紛らわしいけれど、出自は母親側だよ。
医学生医学生
形態的な完成時期はどうでしょう。受精後8週ころというのは、胎芽期が終わるタイミングなので正しそうに見えます。
ドクタードクター
そう感じるのは自然だね。でも胎盤は妊娠7週ころから作られ始めて、形態的に完成するのは妊娠15〜16週ころ、受精後でいえばおよそ13〜14週だ。受精後8週、つまり妊娠10週はまだ形成途中だから誤りになる。
医学生医学生
妊娠週数と受精後週数が2週ずれるのは、産婦人科の講義でしつこく言われました。
ドクタードクター
大事なポイントだね。ちなみに、胎盤がまだ形成途中の妊娠7〜10週ころには、プロゲステロンの主な産生の場が卵巣の妊娠黄体から胎盤へ移る。luteo-placental shiftと呼ばれる現象で、ホルモン面の交代は形の完成より先に起こるんだ。では絨毛間腔について考えてみよう。
医学生医学生
絨毛の周りの空間ですよね。胎児血で満たされているのか母体血なのか、迷います。
ドクタードクター
ここは血流をイメージするとわかりやすい。子宮のらせん動脈から噴き出した母体血が絨毛間腔に流れ込み、絨毛を浸したのち子宮静脈へ戻っていく。胎児血は絨毛の中の毛細血管を流れているんだ。だから絨毛間腔を満たすのは母体血で、この記述は正しい。
医学生医学生
母体血と胎児血は直接混ざらないんですよね。組織学実習で見た絨毛の断面を思い出しました。
ドクタードクター
そう。合胞体栄養膜細胞、絨毛の間質、胎児血管内皮などからなる胎盤関門で隔てられていて、ガスや栄養素、老廃物はこの関門を通して交換される。絨毛の表面を覆う栄養膜は2層で、外層が合胞体栄養膜細胞、内層が細胞性栄養膜細胞だ。
医学生医学生
hCGはその外層の合胞体栄養膜細胞がつくるんでしたっけ。
ドクタードクター
正解。hCGは合胞体栄養膜細胞で作られる糖蛋白ホルモンで、妊娠初期の妊娠黄体を維持してプロゲステロン分泌を保つ。血中濃度は妊娠8〜10週ころに最大となり、その後低下する。合胞体栄養膜細胞はhPLやエストロゲン、プロゲステロンも産生する、胎盤ホルモン工場のような存在だ。
医学生医学生
最後の厚さ6 cm超というのは、さすがに厚すぎる気がします。
ドクタードクター
その感覚で合っているよ。正期の胎盤は直径約15〜20 cmの円盤状で、厚さは中央部で約2 cm、重さは約500 gで胎児体重のおよそ6分の1。6 cmにも及ぶ厚みがあれば明らかに異常で、常位胎盤早期剝離による胎盤後血腫や、胎児水腫に伴う胎盤浮腫などを考える必要がある。
医学生医学生
産科の実習で、超音波で胎盤が分厚く見えたら早剝を疑えと指導医の先生に言われたのを思い出しました。
ドクタードクター
臨床ではそこが生きてくる。もう少し発展知識も足しておこう。hCGは妊娠反応の検出対象であると同時に、胞状奇胎や絨毛癌の腫瘍マーカーにもなる。hPLは母体のインスリン抵抗性を高めて胎児へのブドウ糖供給を増やすから、妊娠糖尿病の病態とも関係している。
医学生医学生
胎盤の構造とホルモンを理解しておけば、絨毛性疾患や妊娠糖尿病の理解にもつながるんですね。
ドクタードクター
その通り。胎盤は妊娠中だけ存在する臓器だけれど、産科のさまざまな病態の出発点になる。由来、時期、血流、ホルモン、大きさの5点をセットで覚えておこう。

まとめ

胎盤は胎児由来の絨毛と母体由来の基底脱落膜からなり、卵膜のうち羊膜と絨毛膜は胎児由来、脱落膜は母体由来です。胎盤は妊娠7週ころから形成が始まり妊娠15〜16週ころに形態的に完成し、それに先立つ妊娠7〜10週ころにプロゲステロン産生の主体が妊娠黄体から胎盤へ移ります。絨毛間腔はらせん動脈から流入する母体血で満たされ、胎児血とは胎盤関門で隔てられて物質交換が行われます。hCG・hPLなどの胎盤ホルモンは絨毛最外層の合胞体栄養膜細胞が産生し、正期胎盤は直径約15〜20 cm、厚さ約2 cm、重さ約500 gが目安で、著しい肥厚は早剝や胎児水腫などを疑う所見です。胎盤の構造と機能の理解は、絨毛性疾患、妊娠糖尿病、常位胎盤早期剝離など産科の主要な病態を学ぶ土台になります。

解答・解説

正解はc, dです

胎盤の構造・形成時期・内分泌機能・正常の大きさという基本事項をまとめて問う一般問題である。

考え方

胎盤は、胎児側の成分(絨毛膜有毛部=絨毛)と母体側の成分(基底脱落膜)が組み合わさってできる臓器である。絨毛の表面は栄養膜(トロホブラスト)で覆われ、外層が合胞体栄養膜細胞(シンシチオトロホブラスト)、内層が細胞性栄養膜細胞(サイトトロホブラスト)である。絨毛は母体のらせん動脈から流れ込んだ血液がたまる空間(絨毛間腔)に浸っており、母体血と胎児血は絨毛の組織(胎盤関門)を隔てて物質交換を行う。 各選択肢は、次の4点を知っていれば判定できる。 ・どの組織が母体由来で、どれが胎児由来か ・胎盤が形の上で完成するのはいつか(妊娠15〜16週ころ) ・絨毛間腔を満たしているのは何か(母体血) ・hCGなどの胎盤ホルモンを産生するのはどの細胞か(合胞体栄養膜細胞) 加えて、正期の胎盤の標準的な大きさ(直径約15〜20 cm、厚さ約2 cm、重さ約500 g)を覚えておけば、厚さの数値が異常かどうかを判断できる。

選択肢考察

  1. ×a.  脱落膜は胎児由来の組織である。

    誤り。脱落膜は、妊娠に伴って母体の子宮内膜が変化(脱落膜化)したもので、母体由来である。卵膜は内側から羊膜・絨毛膜・脱落膜の3層からなり、胎児由来は羊膜と絨毛膜、母体由来は脱落膜である。胎盤の母体面を作るのは、着床部位の脱落膜である基底脱落膜である。

  2. ×b.  受精後8週ころ形態的に完成する。

    誤り。胎盤は妊娠7週ころから作られはじめ、妊娠15〜16週ころ(受精後およそ13〜14週)に形態的に完成する。受精後8週(妊娠10週)はまだ形成途中である。なお、胎盤がまだ形成途中の妊娠7〜10週ころに、妊娠維持に必要なプロゲステロンの主な産生の場が卵巣の妊娠黄体から胎盤へ移る(luteo-placental shift)。つまりホルモン産生の面での交代は、形態的な完成よりも先に起こる。

  3. ○c.  絨毛間腔は母体血液で満たされている。

    正しい。子宮のらせん動脈から噴き出した母体血が絨毛間腔に流れ込み、絨毛の周囲を満たしたのち子宮静脈へ戻る。胎児血は絨毛の中の毛細血管を流れており、合胞体栄養膜細胞・絨毛の間質・胎児血管内皮などからなる胎盤関門によって母体血と隔てられているため、正常では両者が直接混ざることはない。ガス・栄養素・老廃物はこの関門を通して交換される。

  4. ○d.  hCGは合胞体栄養膜細胞から分泌される。

    正しい。hCG(ヒト絨毛性ゴナドトロピン)は、絨毛最外層の合胞体栄養膜細胞で作られる糖蛋白ホルモンである。妊娠初期の妊娠黄体を維持してプロゲステロン分泌を保つ働きをもち、血中濃度は妊娠8〜10週ころに最大となってその後低下する。合胞体栄養膜細胞は、hCGのほかにhPL(ヒト胎盤性ラクトーゲン)などの蛋白ホルモンや、エストロゲン・プロゲステロンといったステロイドホルモンも産生する。

  5. ×e.  妊娠末期の厚さは中央部で6 cmを超える。

    誤り。正期の胎盤は直径約15〜20 cmの円盤状で、厚さは中央部で約2 cm(おおむね1.5〜3 cm程度)、重さは約500 g(胎児体重のおよそ6分の1)である。超音波で6 cmにも及ぶ厚みがみられれば明らかに異常であり、常位胎盤早期剝離による胎盤後血腫や胎盤血腫、胎児水腫などに伴う胎盤浮腫を考える必要がある。

胎盤の構造

・胎児面:羊膜に覆われ、臍帯が付着する。絨毛膜板から絨毛が母体側へ伸びる。 ・母体面:基底脱落膜からなり、15〜20個程度の分葉(胎盤葉、コチレドン)に分かれる。 ・絨毛の断面:外側から合胞体栄養膜細胞 → 細胞性栄養膜細胞 → 間質 → 胎児毛細血管。細胞性栄養膜細胞は妊娠後半にかけて目立たなくなり、胎盤関門は薄くなって物質交換の効率が上がる。

卵膜の3層

羊膜(胎児由来)・絨毛膜(胎児由来)・脱落膜(母体由来)。

胎盤が産生する主なホルモン

・hCG:妊娠黄体の維持。妊娠8〜10週ころにピーク。妊娠反応の検出対象であり、胞状奇胎や絨毛癌の腫瘍マーカーにもなる。 ・hPL:成長ホルモンやプロラクチンに似た構造をもち、母体のインスリン抵抗性を高めて胎児へのブドウ糖供給を増やす。妊娠の進行とともに増える。 ・プロゲステロン:妊娠の維持(子宮筋の収縮を抑える)。妊娠7〜10週ころに妊娠黄体から胎盤へ主な産生の場が移る(luteo-placental shift)。 ・エストロゲン(特にエストリオール):胎児副腎・胎児肝・胎盤が協力して作る(胎児胎盤系)。

正期胎盤の目安

直径15〜20 cm、厚さ約2 cm、重さ約500 g。胎盤の厚みの増加は、常位胎盤早期剝離、胎児水腫、糖尿病合併妊娠などで問題となる。

POINT

・脱落膜は母体由来、羊膜と絨毛膜は胎児由来。 ・胎盤は妊娠15〜16週ころに形態的に完成する。 ・絨毛間腔を満たすのは母体血であり、胎児血とは胎盤関門で隔てられる。 ・hCG・hPLなどは合胞体栄養膜細胞が産生する。 ・正期胎盤は直径15〜20 cm、厚さ約2 cm、重さ約500 g。

※問題・正答は厚生労働省の公開資料をもとに掲載しています。