卵黄嚢→肝臓→骨髄―「血をつくる場所」の引っ越し史をたどる
第109回医師国家試験 B問題 第33問
国試問題にチャレンジ
造血部位の組合せで正しいのはどれか。2つ選べ。
- a.胎芽 ―― 卵黄嚢
- b.乳児 ―― 肝臓
- c.小児 ―― 骨髄
- d.成人 ―― 脾臓
- e.高齢者 ―― 胸腺
対話形式の解説
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ドクターまとめ
造血の場は、胎生3週ごろの卵黄嚢の血島に始まり、胎生中期に最盛期を迎える肝臓(脾臓も補助的に関与)を経て、胎生後期には骨髄へと移ります。出生後の生理的な造血はどの年齢でも骨髄が担い、年齢とともに変わるのは造血する骨の分布で、成人では胸骨・椎骨・骨盤など体幹の骨が中心となります。成人の脾臓は赤血球処理と免疫を、胸腺はT細胞の成熟を担い、いずれも正常では造血臓器ではありません。骨髄線維症や重症溶血性貧血では肝臓・脾臓での髄外造血が起こり、肝脾腫や白赤芽球症の原因となります。造血の場の変遷を理解することは、骨髄穿刺部位の選択や髄外造血の病態を理解する土台になります。
解答・解説
正解はa, cです
造血(血球をつくること)の場が発生・成長とともにどのように移り変わるかを問う問題である。 造血の場は大きく3つの時期に分けて理解する。 1. 卵黄嚢期(中胚葉期):胎生3週ごろから、胚の外にある卵黄嚢の血島で原始的な造血が始まる。主に核をもつ原始赤血球がつくられる。胎生2か月ごろまで続く。 2. 肝脾期:胎生6週~2か月ごろから肝臓が造血の中心となり、胎生中期(おおむね3~6か月)に最盛期を迎える。脾臓も補助的に造血を担う。 3. 骨髄期:胎生4~5か月ごろから骨髄での造血が始まり、胎生後期には骨髄が主たる造血臓器となる。出生後は、生理的な造血はほぼ骨髄に限られる。 つまり、出生した時点で造血の主役はすでに骨髄であり、乳児・小児・成人・高齢者のいずれの年齢でも正常な造血部位は骨髄である。年齢によって変わるのは「どの骨の骨髄で造血するか」であり、小児期は全身の骨の骨髄(赤色髄)で造血するが、成長につれて四肢の長管骨から脂肪髄(黄色髄)に置き換わり、成人では胸骨・肋骨・椎骨・骨盤・頭蓋骨など体幹部の骨(扁平骨)が中心となる。 この時間的な流れを押さえれば、各年代と臓器の組合せの正誤を判断できる。
選択肢考察
- ○a. 胎芽 ―― 卵黄嚢
正しい。胎芽とは器官形成が進む胎生8週(2か月)ごろまでの時期を指し、この時期の造血は主に卵黄嚢で行われる。胎生3週ごろ卵黄嚢壁の血島に血管内皮と原始的な血球が生じ、これが最初の造血となる。胎生2か月ごろまでに造血の場は肝臓へ移っていく。
- ×b. 乳児 ―― 肝臓
誤り。肝臓が造血の中心となるのは胎生期(胎生2か月ごろ~中期、最盛期は3~6か月ごろ)であり、胎生後期には骨髄へ主役が移る。出生後の乳児では肝臓は生理的な造血の場ではなく、造血は骨髄で行われる。なお、骨髄線維症や重症の溶血性貧血などで骨髄の造血が不十分になると、肝臓や脾臓で造血が再開する(髄外造血)ことがあるが、これは病的な状態である。
- ○c. 小児 ―― 骨髄
正しい。骨髄は胎生後期以降の主たる造血臓器であり、出生後は生涯にわたって造血の中心となる。小児では四肢の長管骨を含むほぼ全身の骨の骨髄が赤色髄として造血に関与しているが、成長とともに長管骨から順に脂肪髄へと置き換わっていく。
- ×d. 成人 ―― 脾臓
誤り。脾臓が造血に関わるのは主に肝臓と並ぶ胎生期(おおむね胎生2~6か月ごろ)であり、成人の脾臓は正常では造血を行わない。成人の脾臓は、老化・変形した赤血球の処理(赤脾髄)や、リンパ球による免疫応答(白脾髄)を担う。骨髄線維症などで脾臓に髄外造血が起こると、著明な脾腫を生じる。
- ×e. 高齢者 ―― 胸腺
誤り。胸腺は骨髄でつくられたT細胞の前駆細胞が移り住み、成熟したT細胞へと分化・選択される一次リンパ組織であり、血球を幹細胞から生み出す造血臓器ではない。また胸腺は思春期以降に退縮して脂肪組織に置き換わっていくため、高齢者ではほとんど機能していない。高齢者の造血部位も骨髄である。
造血部位の変遷
・胎生3週~2か月ごろ:卵黄嚢(原始赤血球が中心) ・胎生6週~出生前:肝臓(最盛期は胎生中期)、脾臓も補助的に関与 ・胎生4~5か月以降:骨髄で造血が始まり、胎生後期に主役となる ・出生後:骨髄のみ(生理的条件下)
骨髄の年齢変化
出生時はほぼすべての骨髄が造血能をもつ赤色髄である。成長とともに四肢の末梢側から脂肪髄(黄色髄)に置き換わり、成人では主に胸骨・肋骨・椎骨・骨盤・頭蓋骨など体幹の扁平骨で造血が行われる。骨髄穿刺・生検で成人に胸骨や腸骨(後腸骨稜)が選ばれるのはこのためである。
髄外造血
骨髄線維症、重症の慢性溶血性貧血(サラセミアなど)、骨髄への腫瘍浸潤などで骨髄の造血が障害されると、胎生期の造血臓器であった肝臓・脾臓で造血が再開する。これを髄外造血といい、肝脾腫の原因となる。末梢血に赤芽球や幼若顆粒球が出現する白赤芽球症(leukoerythroblastosis)を伴うことがある。
胸腺の役割
胸腺はT細胞が正の選択・負の選択を受けて成熟する場であり、造血幹細胞から血球をつくる場ではない。思春期に最大となり、その後は加齢とともに退縮する。
POINT
・造血の場は 卵黄嚢 → 肝臓(+脾臓) → 骨髄 と移り変わる。 ・出生後の生理的な造血はすべての年齢で骨髄が担う。 ・成人の造血は胸骨・肋骨・椎骨・骨盤など体幹の骨が中心で、長管骨は脂肪髄になる。 ・肝臓・脾臓での造血は出生後では病的な髄外造血である。 ・胸腺はT細胞の成熟の場であり、造血臓器ではない。
