StudyMed医師国家試験

喘息は「腎臓」のリスクではない―造影剤の2大副作用を危険因子で切り分ける

第109回医師国家試験 B問題 第17問

国試問題にチャレンジ

第109回 B問題 第17問

造影剤腎症の発生に関係がないのはどれか。

  1. a.年齢
  2. b.腎機能
  3. c.検査前の飲水量
  4. d.造影剤の投与量
  5. e.気管支喘息の既往

対話形式の解説

ドクタードクター
今回は造影剤腎症の危険因子を問う問題だ。ポイントは、ヨード造影剤の副作用には「腎障害」と「過敏反応」という機序のまったく違う2系統がある、という整理。まず造影剤腎症とはどんなものか、説明できるかな。
医学生医学生
造影CTやカテーテル検査のあとに起こる急性腎障害、ですよね。放射線科の実習で、造影前に必ずeGFRを確認していたのを覚えています。
ドクタードクター
そうだね。日本のガイドラインでは、ヨード造影剤投与後72時間以内に血清クレアチニンが前値から0.5 mg/dL以上、または25%以上上昇したものと定義されている。多くは数日でピークを迎えて1〜2週間で回復するけれど、腎機能障害が残ったり透析が必要になったりする例もある。
医学生医学生
どうして造影剤で腎臓が傷むんでしょうか。
ドクタードクター
主な機序は2つ。1つは腎髄質の虚血。造影剤で腎血管が収縮し、高浸透圧・高粘稠な造影剤が血流をうっ滞させる。腎髄質はもともと酸素分圧が低い場所だから、すぐに低酸素に陥るんだ。もう1つは尿細管上皮への直接毒性で、活性酸素の産生も関わっている。
医学生医学生
腎生理の講義で、髄質は対向流系のせいで低酸素になりやすいと習いました。そこが弱点なんですね。
ドクタードクター
その理解でいい。この機序から危険因子は3つの軸で考えられる。腎臓の予備能が小さい、腎血流が減っている、造影剤の負荷が大きい、の3つだ。これで選択肢を見ていこう。まず腎機能は?
医学生医学生
もともと腎機能が悪い、つまりCKDがあれば予備能が小さいので、一番のリスクになりそうです。
ドクタードクター
正解。既存の腎機能低下は最も重要な危険因子で、eGFRが低いほど発症率は大きく上がる。特に糖尿病性腎症を背景にしたCKDはハイリスクだ。では年齢はどうだろう。
医学生医学生
年齢は直接関係なさそうに思えたんですが……高齢だとクレアチニンが正常でも腎機能は落ちている、ということでしょうか。
ドクタードクター
いいところに気づいたね。加齢でネフロン数が減ってGFRが下がり、腎血流の自動調節能も衰える。筋肉量が少ない高齢者では、クレアチニン値が見かけ上正常でも予備能は小さいことがある。だから高齢は確立した危険因子なんだ。
医学生医学生
検査前の飲水量は、脱水かどうかということですよね。
ドクタードクター
そう。脱水だと腎血流が落ちて髄質の虚血が強まるし、尿量が少ないぶん造影剤が尿細管内に高濃度で長く留まる。裏返せば、検査前後の生理食塩液などによる十分な補液が、エビデンスのある代表的な予防法になる。造影剤の投与量も、多いほど腎への負荷が増すから当然リスクだ。心臓カテーテルの動脈内投与で大量に使うときや、短期間に繰り返し造影するときは特に注意が要る。
医学生医学生
となると、残る気管支喘息の既往が関係ない、ですね。でも喘息の人には造影剤を使っちゃいけないと習った気がして、ちょっと引っかかりました。
ドクタードクター
そこが本問の落とし穴だね。気管支喘息は造影剤による過敏反応、つまり蕁麻疹や気管支攣縮、血圧低下、アナフィラキシーなどの危険因子なんだ。ただし禁忌ではなく慎重投与の扱いで、禁忌はヨード造影剤過敏症の既往などに限られる。過敏反応はIgEを介さず、肥満細胞や好塩基球から直接ヒスタミンなどが遊離される機序が主体と考えられている。腎虚血や尿細管毒性とは無関係だから、造影剤腎症の危険因子にはならない。
医学生医学生
「造影剤の副作用」とひとくくりにせず、腎障害系と過敏反応系で危険因子を分けて覚えればいいんですね。
ドクタードクター
その通り。腎障害なら腎機能・高齢・脱水・心不全・大量投与、過敏反応なら過去の造影剤副作用歴・喘息・アレルギー素因。喘息患者では造影の必要性を事前に評価し、ステロイドなどの前投薬を検討するけれど、前投薬でも完全には防げないことも知っておこう。
医学生医学生
実習中、造影前に糖尿病の薬を止めていた患者さんがいました。あれも腎症と関係ありますか。
ドクタードクター
関係あるよ。メトホルミンなどのビグアナイド系薬は、造影剤腎症で腎機能が落ちると蓄積して乳酸アシドーシスを起こすおそれがある。だから腎機能低下例では造影前後に一時休薬する。ほかにもNSAIDsなど腎毒性のある薬は、可能なら休薬を考える。
医学生医学生
予防として、N-アセチルシステインや造影後の透析もあると聞いたことがあります。
ドクタードクター
どちらも予防効果は示されておらず、推奨されていない。予防の柱は、事前のeGFR評価と造影なしの検査で代替できないかの検討、十分な補液、低浸透圧または等浸透圧造影剤を必要最小限の量で使うこと。この3本立てで覚えておこう。

まとめ

造影剤腎症はヨード造影剤投与後72時間以内に血清クレアチニンが0.5 mg/dL以上または25%以上上昇する急性腎障害で、腎髄質の虚血と尿細管への直接毒性が主な機序です。そのため腎機能低下(CKD)、高齢、脱水、心不全、造影剤の大量・反復投与などが危険因子となり、予防には事前の腎機能評価、十分な補液、造影剤の最小量使用が基本となります。一方、気管支喘息は造影剤による過敏反応(アナフィラキシー様反応)の危険因子であり、腎障害とは機序が異なるため造影剤腎症の発生には関係しません。造影剤の副作用を「腎障害」と「過敏反応」に分けて危険因子を整理しておくことは、造影検査前の問診やリスク評価を安全に行うための基本です。

解答・解説

正解はeです

造影剤腎症〈contrast-induced nephropathy:CIN〉とは、ヨード造影剤の血管内投与後に生じる急性腎障害である。日本のガイドラインでは、ヨード造影剤投与後72時間以内に血清クレアチニン値が前値より0.5 mg/dL以上または25%以上上昇したものと定義されている。多くは数日でピークに達し、1〜2週間ほどで回復するが、一部は腎機能障害が残ったり透析が必要になったりする。 発症機序としては、次の2つが重要である。 ・腎髄質の虚血:造影剤により腎血管が収縮し、また高浸透圧・高粘稠な造影剤が血流をうっ滞させるため、もともと酸素分圧の低い腎髄質が低酸素に陥る。 ・尿細管への直接毒性:造影剤が尿細管上皮細胞を傷害し、活性酸素の産生も関与する。 したがって、腎臓の予備能が小さい状態(腎機能低下、高齢)、腎血流が減っている状態(脱水、心不全、低血圧)、造影剤による負荷が大きい状態(投与量が多い、短期間の反復投与)がリスクとなる。一方、気管支喘息は造影剤による過敏反応(アレルギー様反応)の危険因子であり、腎障害とは発症機序がまったく異なる。「造影剤の副作用」として両者を混同しないことが本問のポイントである。

選択肢考察

  1. ×a.  年齢

    加齢とともにネフロン数が減少してGFR(糸球体濾過量)が低下し、腎血流の自動調節能も衰えるため、高齢者は造影剤による腎障害を受けやすい。高齢(多くのリスクスコアでは75歳以上など)は造影剤腎症の確立した危険因子であり、発生に関係する。

  2. ×b.  腎機能

    既存の腎機能低下(慢性腎臓病〈CKD〉)は造影剤腎症の最も重要な危険因子である。腎機能正常者での発症は少ないが、血清クレアチニン値が高いほど、eGFR(推算糸球体濾過量)が低いほど発症率は大きく上昇する。そのため造影検査の前にはeGFRで腎機能を評価し、低下例では造影剤の使用の是非を検討したうえで、使用する場合は輸液などの予防策をとる。特に糖尿病性腎症を背景とするCKDではリスクが高い。発生に関係する。

  3. ×c.  検査前の飲水量

    飲水量が少なく脱水(循環血液量減少)の状態にあると、腎血流が低下して腎髄質の虚血が強まり、さらに尿量が少ないため造影剤が尿細管内に高濃度で長く留まる。そのため脱水は造影剤腎症の危険因子である。逆に、検査前後の十分な補液(生理食塩液などの等張性輸液)は、エビデンスのある代表的な予防法である。発生に関係する。

  4. ×d.  造影剤の投与量

    造影剤の投与量が多いほど腎への負荷が大きくなり、発症リスクが上昇する。心臓カテーテル検査・治療などの動脈内投与で大量に使用する場合や、短期間に繰り返し造影検査を行う場合は特に注意が必要である。予防のために、必要最小限の量にとどめ、低浸透圧または等浸透圧の造影剤を用いることが推奨される。発生に関係する。

  5. ○e.  気管支喘息の既往

    気管支喘息の既往は、ヨード造影剤による過敏反応(蕁麻疹、気管支攣縮、血圧低下、アナフィラキシーなど)の危険因子である。造影剤の過敏反応は、IgEを介さず肥満細胞・好塩基球から直接ヒスタミンなどが遊離される機序が主体と考えられており、喘息患者では過敏反応が起こりやすく重篤化もしやすいため、ヨード造影剤の慎重投与の対象となる(禁忌ではない。禁忌はヨード造影剤過敏症の既往などに限られる)。使用時には造影の必要性を事前に評価し、ステロイドなどの前投薬を検討する。しかし腎障害の機序(腎虚血・尿細管毒性)とは関係がなく、造影剤腎症の危険因子ではない。よってこれが「関係がない」ものであり、正解である。

造影剤腎症の主な危険因子

・患者側:CKD(eGFR低値)、糖尿病(特に腎機能低下を伴う場合)、高齢、脱水、心不全(左室駆出率の低下)、低血圧・ショック、貧血、腎毒性薬剤(NSAIDs、アミノグリコシド系抗菌薬など)の併用 ・手技側:造影剤の大量投与、短期間の反復投与、高浸透圧造影剤の使用、動脈内投与(特に腎動脈より上流からの投与) 冠動脈インターベンション後の造影剤腎症のリスク予測に用いられるMehranスコアでは、低血圧、大動脈内バルーンパンピングの使用、心不全、高齢、貧血、糖尿病、造影剤量、腎機能が項目に含まれている。

予防

・リスク評価:造影前にeGFRを測定し、造影剤を使わない検査で代替できないか検討する。 ・補液:検査前後の生理食塩液または重炭酸ナトリウム液の経静脈投与が基本的な予防法である。 ・造影剤:低浸透圧(または等浸透圧)造影剤を用い、使用量を最小限にする。 ・腎毒性のある薬剤を可能な範囲で休薬する。 ・N-アセチルシステインの投与や、造影後の予防的血液透析は、予防効果が示されておらず推奨されない。

ビグアナイド系薬(メトホルミン)との関係

造影剤腎症で腎機能が低下するとメトホルミンが蓄積し、乳酸アシドーシスを起こすおそれがある。そのため腎機能低下例ではヨード造影剤投与前後に一時休薬する。

造影剤の副作用の区別

・過敏反応(即時型・遅発型):危険因子は造影剤副作用歴、気管支喘息、アレルギー素因。予防にステロイド・抗ヒスタミン薬の前投薬が検討されるが、完全には防げない。 ・腎障害(造影剤腎症):危険因子は上記の腎機能低下・脱水・高齢など。

POINT

・造影剤腎症の危険因子:腎機能低下(CKD)、糖尿病、高齢、脱水、心不全、造影剤の大量・反復投与 ・予防の柱は、事前の腎機能評価、十分な補液、造影剤の最小量使用 ・気管支喘息は造影剤による過敏反応(アナフィラキシー様反応)の危険因子であり、腎症とは無関係 ・定義:投与後72時間以内の血清クレアチニン0.5 mg/dL以上または25%以上の上昇

※問題・正答は厚生労働省の公開資料をもとに掲載しています。