含み声とよだれは窒息の前ぶれ―急性喉頭蓋炎で備えるべき気道確保の段取り
第109回医師国家試験 A問題 第60問
国試問題にチャレンジ
50歳の男性。咽頭痛を主訴に来院した。3日前から咽頭痛が出現し,昨日から嚥下痛を認めるようになったため受診した。流涎と含み声とを認める。軽度の呼吸困難はあるが喘鳴はない。SpO2 95%(room air)。喉頭内視鏡像を別に示す。 急変時に備えて用意しておく対応はどれか。3つ選べ。

- a.気管挿管
- b.気管切開術
- c.膿瘍切開術
- d.経鼻エアウェイ
- e.輪状甲状靱帯穿刺
対話形式の解説
ドクター
医学生
ドクター
医学生
ドクター
医学生
ドクター
医学生
ドクター
医学生
ドクター
医学生
ドクター
医学生
ドクター
医学生
ドクター
医学生
ドクター
医学生
ドクター
医学生
ドクターまとめ
強い咽頭痛・嚥下痛に流涎と含み声を伴い、口腔内の所見が乏しい場合は急性喉頭蓋炎を疑い、喉頭内視鏡で喉頭蓋の発赤・腫脹を確認します。急性喉頭蓋炎は腫れた喉頭蓋が声門を覆って短時間で窒息しうるため、喘鳴がなくても入院のうえ気道確保の準備を整えることが重要です。急変時は閉塞部位より下で気道を確保するのが原則で、気管挿管を熟練者が試み、困難なら輪状甲状靱帯穿刺・切開で一時的に酸素化し、気管切開術で確実な気道へ移行します。経鼻エアウェイは喉頭蓋より上にとどまるため無効で、膿瘍切開は気道確保の手段ではありません。気道確保の手段とその到達レベルを結びつけて理解しておくことは、救急外来でのとっさの判断を支える基本となります。
解答・解説
正解はa, b, eです
所見の整理
・50歳男性。3日前からの咽頭痛に続き、前日から嚥下痛が出現した急性の経過である。 ・流涎(よだれ):嚥下時の強い痛みや咽喉頭の腫れのため唾液を飲み込めないことを示す。 ・含み声(muffled voice、口の中に何かを含んだようなこもった声):声門より上の咽喉頭(声門上部)に腫脹があるときの特徴的な声である。声帯そのものの病変で生じる嗄声(かすれ声)とは区別される。 ・軽度の呼吸困難があり、SpO2 95%(室内気)とやや低めである。現時点で吸気性喘鳴(stridor)はない。 ・喉頭内視鏡像:喉頭蓋が発赤し、全体に著しく腫れて丸く厚ぼったくなっており、その奥の声門の視野が狭くなっている。
診断
咽頭痛・嚥下痛が強いのに口腔内・中咽頭の所見が乏しい場合、喉頭蓋より下の病変を疑って喉頭内視鏡で観察することが重要である。本例は含み声・流涎・呼吸困難という声門上部の病変を示す症状と、内視鏡での喉頭蓋の発赤・腫脹から、急性喉頭蓋炎と診断できる。 鑑別として、急性扁桃炎・扁桃周囲膿瘍(口蓋扁桃の腫脹や口蓋垂の偏位、開口障害がみられ、口腔から観察できる)、咽後膿瘍、下咽頭癌(慢性の経過)などが挙がる。
設問の考え方
急性喉頭蓋炎は、腫れた喉頭蓋が声門を覆うことで、数時間のうちに窒息に至りうる緊急性の高い疾患である。現時点で喘鳴がなく呼吸状態が保たれていても、急変時に速やかに気道を確保できる体制を整えておく必要がある。気道確保は、①気管挿管(喉頭蓋の腫脹のため困難なことが多く、熟練者が行い、失敗時のバックアップを用意する)→②挿管できない場合の外科的気道確保(輪状甲状靱帯穿刺・切開、気管切開術)という段階で考える。すなわち、喉頭蓋より下のレベルで気道を確保できる手段が「急変時に備えて用意しておく対応」となる。
選択肢考察
- ○a. 気管挿管
気道閉塞が進行した場合、まず考慮される確実な気道確保法である。チューブを腫脹した喉頭蓋の下から声門を越えて気管内に通すため、閉塞部位を迂回できる。ただし喉頭蓋の腫脹で声門が見えにくく、操作の刺激で喉頭痙攣や腫脹の増悪を招き、かえって完全閉塞に至る危険もある。そのため、細めのチューブや気管支ファイバースコープを用いた挿管を熟練者が行い、失敗に備えて外科的気道確保をすぐ行える状態にしておく。本例の内視鏡像では声門がまだ一部確認できており、挿管を試みる余地がある。
- ○b. 気管切開術
喉頭蓋の腫脹が強く気管挿管ができない場合や、長期の気道確保が必要な場合に行う外科的気道確保である。頸部の気管(通常は第2~4気管輪付近)を切開してカニューレを挿入するため、上方の喉頭の閉塞とは無関係に確実な気道を確保できる。手技に一定の時間を要するため、完全閉塞直前の超緊急時には輪状甲状靱帯穿刺・切開で一時的に酸素化を図ってから気管切開術に移行することが多い。急変時に備えて器具と術者を準備しておくべき対応である。
- ×c. 膿瘍切開術
急性喉頭蓋炎では喉頭蓋に膿瘍(喉頭蓋膿瘍)を形成することがあり、その場合は穿刺や切開排膿を行うこともある。しかしこれは治療の一手段であり、窒息という急変に対して気道を確保する手段ではない。本例の内視鏡像でも、膿瘍を示す限局的な膨隆や膿の貯留ははっきりしない。急変時にはまず気道確保が優先される。
- ×d. 経鼻エアウェイ
経鼻エアウェイは鼻腔から挿入して先端を咽頭(喉頭蓋より上)に留置する器具で、意識障害時の舌根沈下などによる上気道閉塞の解除に用いる。先端は喉頭蓋より上にとどまるため、喉頭蓋の腫脹による声門上部の閉塞は解除できない。むしろ挿入時の刺激で咽喉頭の反射を誘発するおそれがあり、本疾患の急変時の対応としては不適切である。
- ○e. 輪状甲状靱帯穿刺
甲状軟骨と輪状軟骨の間にある輪状甲状靱帯(膜)は皮膚のすぐ下にあり、大きな血管や甲状腺が少ないため、太い穿刺針(またはキット)を刺入することで短時間のうちに気道へ到達できる。挿管も換気もできない(CICV:cannot intubate, cannot ventilate)状況で、最も迅速に酸素化を図れる緊急手段である。ただし穿刺で得られる気道は細く換気が不十分になりやすく、CO2が貯留しやすいため、あくまで一時的な処置であり、その後に輪状甲状靱帯切開や気管切開術による確実な気道確保へ移行する。
急性喉頭蓋炎の概要
・病態:喉頭蓋を中心とする声門上部の急性炎症で、急速な浮腫・腫脹により上気道閉塞をきたす。成人(特に中年男性)に多い。起炎菌はインフルエンザ菌b型(Hib)が古典的に知られ、ほかにレンサ球菌、黄色ブドウ球菌などがある。小児ではHibワクチンの普及により大きく減少した。 ・症状:激しい咽頭痛と嚥下痛、嚥下困難、流涎、含み声、発熱。進行すると吸気性喘鳴、呼吸困難が出現し、座位で前かがみになり顎を突き出す姿勢(sniffing position、tripod position)をとる。嗄声は通常目立たない。 ・所見:口腔から見た咽頭所見は軽いことが多く、咽頭痛の強さと所見が合わないことが診断の手がかりとなる。 ・診断:喉頭内視鏡(ファイバースコープ)で喉頭蓋の発赤・腫脹を確認する。頸部側面単純エックス線写真では、腫大した喉頭蓋が親指のように見える thumb sign を認める。小児では診察時の刺激(舌圧子の使用、仰臥位にする、泣かせるなど)で急激に閉塞することがあり、慎重に扱う。 ・治療:入院のうえ気道を厳重に監視する。抗菌薬の静注(第3世代セフェム系など)、浮腫軽減のための副腎皮質ステロイド投与を行う。呼吸困難の増悪、喘鳴の出現、SpO2低下、急速な進行がみられれば、ためらわずに気道確保(気管挿管、困難なら輪状甲状靱帯穿刺・切開や気管切開術)を行う。膿瘍を形成していれば切開排膿を追加する。
気道確保の手段と到達レベル
・用手的気道確保(頭部後屈あご先挙上、下顎挙上)、経口・経鼻エアウェイ:舌根沈下など喉頭蓋より上の閉塞に有効。 ・気管挿管:声門を越えて気管内にチューブを留置する。 ・輪状甲状靱帯穿刺・切開:声門より下で最も迅速に到達できる外科的気道確保。緊急の一時的処置。 ・気管切開術:時間はかかるが最も確実で長期管理に適する。 声門上部の閉塞では、閉塞部位より下で気道を確保できる手段を選ぶことが原則である。
POINT
・強い咽頭痛・嚥下痛+流涎+含み声+呼吸困難、しかも口腔内所見が乏しい→急性喉頭蓋炎を疑い、喉頭内視鏡で喉頭蓋の発赤・腫脹を確認する。 ・急性喉頭蓋炎は短時間で窒息しうる緊急疾患。喘鳴がなくても気道確保の準備を整えて入院管理とする。 ・急変時の気道確保:気管挿管→困難なら輪状甲状靱帯穿刺・切開→気管切開術。 ・経鼻エアウェイは喉頭蓋より上にとどまり、声門上部の閉塞は解除できない。 ・頸部側面エックス線でthumb sign。
