200mごとに立ち止まる脚―慢性の動脈硬化に「血栓を抜く」治療は効かない
第109回医師国家試験 A問題 第34問
国試問題にチャレンジ
75歳の男性。歩行時の下肢痛を主訴に来院した。半年前から200 m程度の歩行で右下腿が痛み出して立ち止まらなければならなくなった。改善しないため受診した。痛みは2,3分で消失し,再び歩行が可能になる。右大腿動脈の触知は左大腿動脈に比べて弱い。腹部・骨盤部CT血管造影写真を別に示す。 治療法として適切でないのはどれか。

- a.運動療法
- b.血管拡張薬
- c.バイパス術
- d.経皮血管形成術〈PTA〉
- e.バルーンカテーテルによる血栓除去
対話形式の解説
ドクター
医学生
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医学生
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医学生
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ドクターまとめ
歩行で下肢痛が出て立ち止まるだけで数分で改善する血管性間欠性跛行に、動脈拍動の減弱や画像での腸骨動脈狭窄が加われば、閉塞性動脈硬化症(末梢動脈疾患)のFontaine II度と考えます。治療は禁煙などの危険因子管理を土台に、運動療法を第一選択とし、シロスタゾールなどの薬物療法を併用し、効果不十分なら経皮血管形成術やバイパス術による血行再建を行います。Fogartyカテーテルによる血栓除去は塞栓症などによる急性動脈閉塞の治療であり、硬いプラークが主体の慢性狭窄には適応がありません。神経性跛行との鑑別や、急性動脈閉塞の5Pと筋腎代謝症候群もあわせて押さえておきたいポイントです。病態が急性か慢性かを見極めて治療を選ぶ考え方は、血管疾患に限らず臨床判断全般に通じる基本です。
解答・解説
正解はeです
所見の整理
・75歳の男性で、半年前から続く慢性の経過である。 ・約200 m歩くと右下腿(ふくらはぎ)が痛んで立ち止まる必要があり、2〜3分休むと痛みが消えて再び歩ける。これは典型的な間欠性跛行である。 ・右大腿動脈の拍動が左に比べて弱い。大腿動脈より中枢側(腸骨動脈領域)に血流障害があることを示唆する。 ・腹部・骨盤部CT血管造影では、右総腸骨動脈に高度の狭窄(途絶に近い像)がみられる。
診断に至る考え方
間欠性跛行は、原因によって血管性と神経性(馬尾性)に大別される。血管性は下肢の動脈狭窄により運動時の筋血流需要に供給が追いつかず虚血痛が生じるもので、立ち止まるだけで数分以内に改善し、姿勢の影響を受けない。一方、腰部脊柱管狭窄症による神経性跛行は、しびれを伴うことが多く、立ち止まるだけでは改善しにくく、前かがみや座位で楽になるのが特徴である。本例は下肢動脈拍動の左右差と、CT血管造影での腸骨動脈狭窄という客観的所見があり、血管性間欠性跛行と判断できる。 高齢男性で、大血管〜中型動脈の中枢寄り(腸骨動脈)に病変があることから、動脈硬化を基盤とする閉塞性動脈硬化症(ASO:arteriosclerosis obliterans。現在は末梢動脈疾患〈PAD〉、下肢閉塞性動脈疾患〈LEAD〉と呼ばれることが多い)と診断する。重症度はFontaine分類のII度(間欠性跛行)に相当する。
設問へのアプローチ
問われているのは慢性に進行した動脈硬化性狭窄に対する治療として「適切でないもの」である。ASOの治療は、危険因子の管理を土台に、運動療法・薬物療法(保存的治療)から始め、効果不十分や生活に支障の大きい例では血行再建術(血管内治療またはバイパス術)を選ぶ、という段階的な構成になっている。これに当てはまらない、急性閉塞向けの治療を選べばよい。
選択肢考察
- ×a. 運動療法
適切である。間欠性跛行に対する運動療法は、保存的治療の中心であり第一選択とされる。痛みが出るまで(あるいは中等度の痛みまで)歩いて休むことを繰り返す歩行訓練を、1回30〜60分程度、週3回以上、少なくとも12週間続ける監視下運動療法が推奨されている。側副血行路の発達、骨格筋の代謝(酸素利用効率)の改善、歩行効率の向上などにより、最大歩行距離が延長する。痛みを伴うので避けるべきと誤解しやすいが、重症下肢虚血(安静時痛や潰瘍・壊疽がある状態)でなければ積極的に行う。
- ×b. 血管拡張薬
適切である。ASOの薬物療法では、血管拡張作用をもつ薬剤や抗血小板薬が用いられる。代表的なのはシロスタゾール(ホスホジエステラーゼ3〈PDE3〉阻害薬)で、血管拡張作用と抗血小板作用を併せ持ち、跛行距離を延ばす効果が示されている。そのほかプロスタグランジン製剤(ベラプロストなど)も用いられる。また、全身の動脈硬化による心筋梗塞・脳卒中の予防のため、アスピリンやクロピドグレルなどの抗血小板薬、スタチンの投与、禁煙・血圧・血糖管理も重要である。
- ×c. バイパス術
適切である。保存的治療で症状が改善しない例、生活や仕事に大きな支障がある例、病変が長く閉塞が広範な例、重症下肢虚血の例などでは血行再建術の適応となる。バイパス術は狭窄・閉塞部を迂回して血流路を作る手術で、腸骨動脈領域では人工血管を用いた大動脈-大腿動脈バイパスや大腿-大腿動脈交叉バイパスなどが、鼠径部以下では自家静脈(大伏在静脈)を用いたバイパスなどが行われる。
- ×d. 経皮血管形成術〈PTA〉
適切である。経皮血管形成術(PTA:percutaneous transluminal angioplasty)は、カテーテルを経皮的に動脈内へ進め、バルーンで狭窄部を拡張し、必要に応じてステントを留置する血管内治療(EVT)である。本例のような腸骨動脈の限局性狭窄は血管内治療の成績が良好で、長期開存率も高く、低侵襲であることから第一に選択されることが多い。
- ○e. バルーンカテーテルによる血栓除去
適切でない(正解)。先端にバルーンの付いたカテーテル(Fogartyカテーテル)で血栓・塞栓を引き抜く治療は、心房細動などに由来する塞栓症や血栓症による急性動脈閉塞に対して行われる。急性動脈閉塞では、突然の疼痛・蒼白・脈拍消失・知覚鈍麻・運動麻痺(5P)が出現し、数時間単位での血流再開が必要となる。一方、本例は半年の経過で徐々に進行した動脈硬化性狭窄であり、病変の主体は血管壁に形成された硬いプラーク(粥腫・石灰化)である。血管内腔の新鮮な血栓を取り除く治療では狭窄は解除できず、適応とならない。
閉塞性動脈硬化症(ASO/PAD)の概要
下肢の主幹動脈(腹部大動脈末梢〜腸骨・大腿・膝窩・下腿動脈)が動脈硬化により狭窄・閉塞し、下肢虚血をきたす疾患である。高齢男性に多く、喫煙、糖尿病、高血圧、脂質異常症、慢性腎臓病(特に透析)が主な危険因子である。冠動脈疾患や脳血管疾患を高率に合併するため、全身の動脈硬化性疾患の一部として評価・管理する必要がある。
Fontaine分類
I度:冷感・しびれ感 II度:間欠性跛行 III度:安静時疼痛 IV度:潰瘍・壊疽 III度以上は包括的高度慢性下肢虚血(CLTI、旧称:重症下肢虚血〈CLI〉)とされ、下肢切断を避けるため積極的な血行再建の対象となる。
診断
・足関節上腕血圧比(ABI:ankle-brachial index)が0.90以下で PADを疑う。1.40を超える場合は動脈壁の石灰化(糖尿病・透析患者に多い)により正しく評価できず、足趾上腕血圧比(TBI)などで補う。 ・病変部位の評価には、血管エコー、CT血管造影、MR血管造影、カテーテル血管造影を用いる。 ・痛む部位は狭窄部位より末梢の筋群であり、腸骨動脈病変では殿部・大腿、大腿〜膝窩動脈病変では下腿の跛行が典型的とされる。本例は腸骨動脈病変であるが、このように下腿痛を訴える場合は典型から外れるため、大腿以下(大腿・膝窩・下腿)の動脈病変の併存など多部位の病変を考えて評価する(大腿動脈の拍動減弱も中枢側病変の存在を示すが、末梢病変の有無は別途画像やABIで確認する)。
治療の流れ
1. 危険因子の是正:禁煙(最重要)、糖尿病・高血圧・脂質異常症の管理、抗血小板薬・スタチン投与 2. 間欠性跛行に対する保存的治療:監視下運動療法、シロスタゾールなどの薬物療法 3. 血行再建術:保存的治療で効果不十分な跛行例、CLTI例で考慮する。大動脈-腸骨動脈病変は血管内治療の成績が良く第一選択とされることが多い。大腿-膝窩動脈の長区域閉塞などではバイパス術が選択されることがある。
急性動脈閉塞との比較
原因:塞栓症(心房細動、左室内血栓など)または既存の動脈硬化病変上の血栓症 症状:突然発症の5P(pain:疼痛、pallor:蒼白、pulselessness:脈拍消失、paresthesia:知覚異常、paralysis:運動麻痺) 治療:ヘパリン投与、Fogartyカテーテルによる血栓塞栓除去術、カテーテル血栓溶解療法など。血流再開後の筋腎代謝症候群(MNMS:壊死筋から放出されるカリウム・ミオグロビンによる高カリウム血症・急性腎障害)に注意する。
Buerger病(閉塞性血栓血管炎)との鑑別
若年〜中年の喫煙男性に多く、四肢末梢の中小動脈に分節的な閉塞をきたし、遊走性静脈炎を伴うことがある。ASOが高齢者の中枢寄りの動脈に起こるのと対照的である。
POINT
・間欠性跛行+下肢動脈拍動の減弱・左右差 → 閉塞性動脈硬化症(PAD)を考え、ABIや血管画像で確認する。 ・跛行(Fontaine II度)の治療は、危険因子管理+運動療法(第一選択)+薬物療法(シロスタゾールなど)から始める。 ・症状が強い例や重症例では血行再建術(PTA/ステント、バイパス術)を行う。腸骨動脈の限局性病変は血管内治療の好適応である。 ・Fogartyカテーテルによる血栓除去は急性動脈閉塞(塞栓症・血栓症)の治療であり、慢性の動脈硬化性狭窄には適応がない。 ・神経性跛行(腰部脊柱管狭窄症)は前屈・座位で改善し、血管性跛行は立ち止まるだけで改善する点で鑑別する。
