嚥下で動く首のしこり―甲状腺結節の評価はまず超音波から
第108回医師国家試験 I問題 第74問
国試問題にチャレンジ
48歳の女性。前頸部腫瘤を自覚し来院した。昨日,鏡を見ていて見つけ,触ってみてしこりがあることに初めて気付き,心配になって受診したという。その他の症状はない。身長161 cm,体重52 kg。脈拍72/分,整。血圧128/76 mmHg。頸部気管の右側に3 cm大の腫瘤があり,嚥下運動とともに上下する。腫瘤は弾性硬で気管に対して可動制限がある。右の側頸部に径1.5 cmのリンパ節を2個触れる。 まず行うべき検査はどれか。
- a.放射性ヨード(123I)シンチグラフィ
- b.ガリウム(67Ga)シンチグラフィ
- c.頸部超音波検査
- d.頸部MRI
- e.頸部CT
対話形式の解説
ドクター
医学生
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ドクターまとめ
嚥下運動とともに上下する前頸部腫瘤は甲状腺由来を考え、硬さ、周囲への固定、同側頸部リンパ節腫大があれば甲状腺癌、とくに乳頭癌を疑います。甲状腺結節の評価で最初に行うべき画像検査は頸部超音波検査で、無侵襲・無被曝のまま結節の形状や境界、内部エコー、微細石灰化、縦横比、さらに頸部リンパ節の性状まで評価できます。悪性が疑われれば超音波ガイド下穿刺吸引細胞診で確定し、CTやMRIはその後の進展度評価に用います。123Iシンチグラフィは機能評価の検査で良悪性の鑑別には向かず、67Gaシンチグラフィは悪性リンパ腫や未分化癌を疑う場面で用いる検査です。各検査が何を見るためのものかを理解して順序立てて選ぶ姿勢は、甲状腺に限らず効率的で安全な診療の基本となります。
解答・解説
正解はcです
所見の整理
・48歳女性。前頸部の腫瘤に偶然気付いて受診した。自覚症状はほかにない。 ・脈拍72/分、血圧も正常で、動悸・体重減少などの甲状腺機能異常を思わせる所見はない。 ・腫瘤は気管の右側にあり、嚥下運動に伴って上下する。これは腫瘤が甲状腺に由来すること(甲状腺は気管前面に付着し、喉頭とともに嚥下時に挙上する)を強く示唆する。 ・大きさ3cm、弾性硬で、気管に対して可動制限がある。周囲組織への固定傾向は悪性を疑わせる所見である。 ・同側(右)の側頸部に1.5cm大のリンパ節を2個触知する。甲状腺癌の所属リンパ節転移を考える。
診断へのプロセス
嚥下で動く前頸部腫瘤であることから甲状腺結節と判断でき、硬さ・可動制限・同側頸部リンパ節腫大の組み合わせから甲状腺悪性腫瘍、とくに頻度が最も高くリンパ節転移をきたしやすい乳頭癌がまず想定される。ただし身体所見だけでは確定できず、甲状腺以外の頸部腫瘤(副甲状腺腫瘍、頸部の神経原性腫瘍、甲状舌管嚢胞〔正中頸嚢胞〕、側頸嚢胞、喉頭・下咽頭・頸部食道の癌とその転移など)も完全には否定できない。
設問の考え方
甲状腺結節の評価の出発点は頸部超音波検査である。非侵襲的で被曝がなく、外来ですぐ実施でき、結節の大きさ・形状・境界・内部エコー・石灰化・血流、さらに頸部リンパ節の性状まで一度に評価できる。超音波所見で悪性が疑われれば、超音波ガイド下の穿刺吸引細胞診(FNAC)で確定診断を行う。CT・MRI・シンチグラフィは、診断が絞られた後に進展度評価や特定の病態の評価のために追加する検査であり、最初に行うものではない。なお、血液検査(TSH・FT4など)による甲状腺機能の確認も並行して行う基本的検査である。
選択肢考察
- ×a. 放射性ヨード(123I)シンチグラフィ
123Iシンチグラフィは甲状腺のヨード摂取能(機能)をみる検査である。結節が集積を示す「hot nodule」か、集積が乏しい「cold nodule」かは分かるが、cold noduleは良性腺腫・嚢胞・癌のいずれでも生じるため、良悪性の鑑別には役立たない。主な用途は、甲状腺中毒症の原因鑑別(バセドウ病と無痛性甲状腺炎など)や、TSH低値を伴う結節で機能性結節(Plummer病)を疑う場合である。本例は甲状腺機能異常を示唆する所見がなく、最初に行う検査ではない。
- ×b. ガリウム(67Ga)シンチグラフィ
67Gaは悪性リンパ腫や未分化癌など増殖の速い腫瘍や炎症巣に集積しやすく、甲状腺では悪性リンパ腫・未分化癌の診断や病変の広がりの評価に用いられることがある。しかし乳頭癌・濾胞癌といった分化癌には集積しにくく、甲状腺結節の初期評価には適さない。本例は急速増大や高齢発症といった未分化癌・悪性リンパ腫を積極的に疑う経過でもない。
- ○c. 頸部超音波検査
甲状腺結節の評価で最初に行う画像検査である。無侵襲・無被曝で簡便に行え、結節について、形状不整、境界不明瞭・粗雑、内部の低エコー、微細な多発高エコー(砂粒小体を反映する微細石灰化)、縦横比の大きさ(前後径が横径より大きい)といった悪性を示唆する所見を評価できる。同時に頸部リンパ節の腫大や内部構造(リンパ門の消失、石灰化、嚢胞化など)も観察でき、本例の側頸部リンパ節が転移かどうかの判断にも役立つ。さらに超音波ガイド下で結節やリンパ節の穿刺吸引細胞診を行い、確定診断へ進むことができる。
- ×d. 頸部MRI
MRIは軟部組織のコントラストに優れ、腫瘍と周囲の筋・気管・食道などとの関係の評価には有用である。しかし甲状腺結節の良悪性の鑑別能は超音波に劣り、検査に時間と費用がかかる。超音波・細胞診で診断を固めた後、周囲臓器への浸潤が疑われる場合などに追加で考慮される検査であり、最初に行う検査ではない。
- ×e. 頸部CT
CTは気管・食道への浸潤、縦隔への進展、縦隔リンパ節や肺転移の有無など、癌の進展度評価(術前評価)に有用である。一方、甲状腺結節自体の質的診断(良悪性の判定)は困難で、被曝もある。また、ヨード造影剤を使うと、その後に予定されうる放射性ヨードによる検査・治療に影響が出ることがある。したがって超音波検査より先に行う検査ではない。
甲状腺結節の診断の流れ
1. 問診・触診:嚥下で上下する前頸部腫瘤なら甲状腺由来を考える。急速増大、硬い、周囲への固定、嗄声(反回神経麻痺)、頸部リンパ節腫大、若年または高齢、頸部への放射線被曝歴、甲状腺癌の家族歴は悪性を疑う手がかりとなる。 2. 血液検査:TSH・FT4で機能を確認する。サイログロブリンは良悪性の鑑別には使えない(良性結節でも上昇する)。髄様癌を疑う場合はカルシトニン・CEAを測定する。 3. 頸部超音波検査:結節とリンパ節の性状を評価する(第一選択の画像検査)。 4. 穿刺吸引細胞診(FNAC):超音波で悪性を疑う結節や一定以上の大きさの結節に行う。乳頭癌は核の所見(すりガラス状核、核溝、核内細胞質封入体)から細胞診で診断しやすい。一方、濾胞癌は被膜浸潤・脈管浸潤で診断されるため、細胞診では濾胞腺腫との区別が難しい。 5. CT・MRI:浸潤や遠隔転移の評価など、治療方針を決めるための進展度診断に用いる。 6. シンチグラフィ:123I・99mTcO4-は機能性結節や甲状腺中毒症の鑑別、131Iは分化癌の術後転移検索・治療、67Gaは悪性リンパ腫・未分化癌の評価などに用いる。
甲状腺悪性腫瘍の概要
・乳頭癌:甲状腺癌の約90%を占め、女性に多い。頸部リンパ節転移をきたしやすいが、進行は緩徐で予後は良好である。 ・濾胞癌:約5%。血行性転移(肺・骨)をきたしやすい。 ・髄様癌:傍濾胞細胞(C細胞)由来で、カルシトニン・CEAが上昇する。一部は多発性内分泌腫瘍症2型(MEN2、RET遺伝子変異)に伴う。 ・未分化癌:高齢者に多く、急速に増大し、予後はきわめて不良である。 ・悪性リンパ腫:橋本病を背景に高齢女性に生じることが多く、急速に増大する。
甲状腺以外の頸部腫瘤との鑑別
甲状舌管嚢胞(正中頸嚢胞)は正中の舌骨付近にでき、嚥下や舌の突出で動く。側頸嚢胞は胸鎖乳突筋前縁付近に生じる。副甲状腺腫瘍は高カルシウム血症を伴うことが多い。喉頭癌・下咽頭癌・頸部食道癌では嗄声や嚥下障害などを伴い、頸部リンパ節転移で発見されることもある。
POINT
・嚥下運動とともに上下する前頸部腫瘤は甲状腺由来を考える。 ・硬い結節、周囲への固定、同側頸部リンパ節腫大は甲状腺癌(まず乳頭癌)を疑う所見である。 ・甲状腺結節で最初に行う画像検査は頸部超音波検査であり、悪性を疑えば超音波ガイド下穿刺吸引細胞診へ進む。 ・123Iシンチグラフィは機能評価の検査で、良悪性の鑑別には使えない。 ・CT・MRIは進展度評価、67Gaシンチグラフィは悪性リンパ腫・未分化癌の評価に用いる。
