修学旅行まであと2週間―11歳の夜尿症に「待つ」以外の手を打つ
第108回医師国家試験 I問題 第69問
国試問題にチャレンジ
11歳の男児。2週後の修学旅行を前に夜尿が治らないため母親と来院した。既往歴に特記すべきことはない。両親と姉と妹の5人暮らし。尿所見:蛋白(-),糖(-),沈渣に赤血球0~1 / 1視野,白血球1~4 / 1視野。腹部超音波検査で両側の腎と膀胱とに異常を認めない。 対応として適切なのはどれか。
- a.経過観察
- b.オムツの使用
- c.終日の水分制限
- d.修学旅行への不参加
- e.三環系抗うつ薬の内服
対話形式の解説
ドクター
医学生
ドクター
医学生
ドクター
医学生
ドクター
医学生
ドクター
医学生
ドクター
医学生
ドクター
医学生
ドクター
医学生
ドクター
医学生
ドクター
医学生
ドクターまとめ
夜尿症は5歳以上で睡眠中の尿失禁が月1回以上、3か月以上続くもので、まず尿検査や超音波で糖尿病、尿崩症、尿路異常、神経因性膀胱などの基礎疾患を除外します。学童期以降に持ち越した例は自然治癒が年10〜15%程度と遅く心理的負担も大きいため積極的な治療の対象となり、宿泊行事が迫っている場合は短期間で効果が期待できる薬物療法が適しています。三環系抗うつ薬は夜尿を減らす効果が期待できますが心毒性に注意が必要で、現在の第一選択はデスモプレシンと夜尿アラーム療法です。水分制限は夕食後から就寝までに限って日中は十分に飲ませ、オムツの使用や行事への不参加のように自尊心を傷つける対応は避けます。医学的な評価と子どもの心理への配慮を両立させる姿勢は、小児診療全般に通じる大切な視点です。
解答・解説
正解はeです
所見の整理
・11歳男児で、夜尿が続いている。5歳以上で睡眠中に尿を漏らすことが定期的に続く状態を夜尿症という。 ・既往歴に特記事項がなく、昼間の尿失禁などの記載もない。 ・尿検査では蛋白・糖が陰性で、沈渣も正常であり、糖尿病(浸透圧利尿による多尿)、尿路感染症、腎疾患を示す所見はない。 ・腹部超音波で腎・膀胱に異常がなく、水腎症、先天性腎尿路異常、膀胱壁肥厚などの器質的疾患を疑う所見もない。
診断へのプロセス
夜尿をみたら、まず二次的な原因(器質的・基礎疾患)を除外する。鑑別すべきものとして、先天性腎尿路異常(異所性尿管開口、膀胱尿管逆流など)、神経因性膀胱(潜在性二分脊椎など)、尿崩症(中枢性・腎性)や糖尿病による多尿、尿路感染症、慢性腎臓病(尿濃縮力低下)などがある。本例は尿検査・超音波検査に異常がなく、既往歴もないことから、これらは否定的であり、基礎疾患のない(一次性の)夜尿症と考えられる。
設問の考え方
夜尿症は年齢とともに自然に治ることが多いが、小学校高学年まで続く例では自然治癒のペースは年に10~15%程度と遅く、自尊心の低下や宿泊行事への不安など、心理的・社会的な負担が大きくなる。本例は2週後に修学旅行を控えており、その期間内に効果が期待できる積極的な治療が必要である。短期間で効果を得たい場合には薬物療法が適しており、選択肢の中では三環系抗うつ薬の内服が該当する。同時に、夕方以降の水分・塩分の制限、就寝前の排尿といった生活指導を行い、本人の自尊心を傷つけずに旅行へ参加できるよう支援することが大切である。
選択肢考察
- ×a. 経過観察
夜尿症は自然治癒する傾向があるが、学童期以降に持ち越した例では自然治癒率は年に10~15%程度にとどまる。2週後の修学旅行に向けて困って受診している本人・家族の訴えに応えておらず、不適切である。11歳という年齢からも積極的な治療の対象となる。
- ×b. オムツの使用
寝具が汚れるのを防ぐことはできるが、夜尿そのものの治療にはならない。さらに11歳の児童が修学旅行でオムツを使うことは、友人に知られる不安や羞恥心を生み、自尊心を大きく傷つけるおそれがある。心理的配慮の面からも適切な対応とはいえない。
- ×c. 終日の水分制限
夜尿症の生活指導として制限するのは夕方以降の水分であり、夕食後から就寝までの水分摂取を控えるよう指導する(夕食の塩分を控えることも夜間の飲水量・尿量の抑制に役立つ)。一方、日中はむしろ十分に水分をとるよう勧める。終日にわたる水分制限は脱水や便秘を招き、成長期の児童には有害であって、夜尿の改善にもつながらない。
- ×d. 修学旅行への不参加
修学旅行は学校生活の大切な行事であり、夜尿を理由に参加をあきらめさせることは本人の心理的負担を増やし、自己評価を下げる。薬物療法の開始、夕方以降の水分制限、引率教員の協力(夜間に起こしてトイレに誘導する、着替えの準備など)により、多くは問題なく参加できる。医療者は参加できるよう支援する立場をとるべきである。
- ○e. 三環系抗うつ薬の内服
イミプラミンなどの三環系抗うつ薬は、抗コリン作用による膀胱容量の増大、睡眠の深さへの作用(覚醒しやすくする)などの機序により夜尿を減少させるとされ、夜尿症に対する保険適用もある。内服開始後比較的早期に効果が期待できるため、2週後の修学旅行という差し迫った状況に対応できる。ただし、心電図異常・不整脈などの心毒性や、過量服薬時の危険があるため、用量を守り保護者が管理する必要がある。現在の診療では、抗利尿ホルモン製剤のデスモプレシンや夜尿アラーム療法が第一選択とされ、三環系抗うつ薬はそれらが無効な場合の選択肢に位置づけられているが、本問の選択肢の中ではこれが最も適切である。
夜尿症の定義と疫学
・5歳以上の小児で、睡眠中の尿失禁が月1回以上、3か月以上続くものを夜尿症という(国際小児禁制学会〈ICCS〉の定義)。 ・男児に多い。5~6歳で約15~20%、小学校高学年で約5%、以後も年に10~15%ずつ自然治癒するが、一部は成人まで持続する。家族歴を有することが多い。 ・生まれてから夜尿が止まらず続いているものを一次性、6か月以上夜尿のない時期を経て再び出現したものを二次性という。二次性では心理的ストレスや基礎疾患(糖尿病、尿崩症など)の検索が特に重要である。 ・夜尿のみのもの(単一症候性)と、昼間の尿失禁や尿意切迫感などの下部尿路症状を伴うもの(非単一症候性)に分けられ、後者では膀胱機能障害や神経因性膀胱の評価が必要となる。
病態と病型
主な病態は次の三つである。 ・夜間多尿:夜間の抗利尿ホルモン(ADH、バソプレシン)分泌増加の日内リズムが未熟で、夜間の尿量が多い。 ・膀胱容量の減少(膀胱の蓄尿機能の未熟性、夜間の排尿筋過活動)。 ・覚醒障害:尿意で目が覚めにくい。 これらの組合せにより、多尿型、膀胱型(膀胱容量減少型)、混合型、正常型などに分類される。排尿日誌で夜間尿量や膀胱容量を評価し、治療選択の参考にする。
治療
・生活指導:夕食後から就寝前の水分制限、夕食の塩分・蛋白質を控える、就寝前の排尿、便秘の改善。夜中に無理に起こしてトイレに行かせることは勧められない。「焦らない、怒らない、起こさない」が基本姿勢である。 ・デスモプレシン(抗利尿ホルモン製剤、口腔内崩壊錠):夜間尿量を減らす。効果発現が早く、宿泊行事前の短期使用にも適する。第一選択の一つ。服用前後の飲水制限を守らないと水中毒(低ナトリウム血症)を起こす危険がある。 ・夜尿アラーム療法:下着の濡れを感知して音で知らせ、覚醒や膀胱容量の増大を促す。第一選択の一つで再発が少ないが、効果が出るまで数週~数か月かかり、家族の協力が必要である。 ・抗コリン薬:膀胱容量が小さい例や昼間の症状を伴う例で併用する。 ・三環系抗うつ薬(イミプラミン、アミトリプチリンなど):上記が無効な例で用いる。心毒性・過量服薬に注意する。
POINT
・夜尿症は5歳以上で月1回以上、3か月以上続く睡眠中の尿失禁。まず尿検査・超音波などで糖尿病、尿崩症、尿路異常、神経因性膀胱などの基礎疾患を除外する。 ・学童期以降の夜尿症は自然治癒が遅く、心理的負担が大きいため積極的に治療する。 ・水分制限は夕方以降に行い、日中はしっかり飲ませる。 ・治療の第一選択はデスモプレシンと夜尿アラーム。宿泊行事など短期間で効果を得たいときは薬物療法(デスモプレシン、三環系抗うつ薬など)を用いる。 ・オムツの強要や行事への不参加など、子どもの自尊心を傷つける対応は避ける。
