「詰まった」か「腐りかけている」か―板状硬が告げるイレウス緊急手術のサイン
第108回医師国家試験 I問題 第23問
国試問題にチャレンジ
イレウスで緊急手術の必要性を最も示唆するのはどれか。
- a.間欠的な腹痛
- b.腹壁が板状硬
- c.金属性腸雑音の聴取
- d.胆汁の混ざった吐物
- e.腹部エックス線写真で複数の小腸ループ像
対話形式の解説
ドクター
医学生
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ドクターまとめ
イレウスの多くは絶飲食・輸液・減圧による保存的治療で対応しますが、腸管の血流障害(絞扼)、壊死・穿孔、腹膜炎を伴う場合は緊急手術が必要です。間欠的な疝痛、金属性腸雑音、胆汁性嘔吐、X線での拡張小腸ループやニボーは閉塞の存在を示すにすぎず、単純性イレウスでもみられます。一方、腹壁の板状硬は強い筋性防御であり、汎発性腹膜炎を示すため緊急手術の適応となります。持続痛、腸雑音の消失、頻脈・ショック、代謝性アシドーシス、造影CTでの腸管壁造影不良なども絞扼を疑う重要な手がかりです。「閉塞のサイン」と「虚血・腹膜炎のサイン」を区別して読む姿勢は、急性腹症で手術のタイミングを逃さないための基本となります。
解答・解説
正解はbです
腸の通過障害(イレウス)の患者で、保存的治療では間に合わず、すぐに手術すべき状態を示す所見を選ぶ問題である。
緊急手術が必要になるイレウスとは
イレウスの多くは、絶飲食・輸液・胃管やイレウス管による減圧といった保存的治療でまず対応する。ただし、次のような状態では緊急手術が必要になる。 ・腸管の血流が途絶えている(絞扼性イレウス) ・腸管の壊死や穿孔が起きている ・その結果、腹膜炎が起きている これらを放置すると、壊死した腸管から細菌や毒素が血中に入り、敗血症性ショックや多臓器不全に進んで命に関わる。
所見の読み分け
したがって、「腸が閉塞している」ことを示すだけの所見と、「腸の血流障害や腹膜炎が起きている」ことを示す所見を分けて考える。 ・閉塞だけを示す所見:間欠的な腹痛、金属性腸雑音、嘔吐、腹部膨満、X 線での腸管拡張やニボー(鏡面像) ・血流障害・腹膜炎を示す所見:持続する強い腹痛、腹膜刺激症状(筋性防御・板状硬・反跳痛)、腸雑音の減弱や消失、発熱・頻脈・ショック、白血球増多・CRP 上昇・代謝性アシドーシス・LDH や CK の上昇、造影 CT での腸管壁の造影不良 腹壁の板状硬は後者の代表で、腹膜全体に炎症が広がったこと(汎発性腹膜炎)を示す。緊急手術の必要性を最も強く示すのは b である。
選択肢考察
- ×a. 間欠的な腹痛
閉塞より口側の腸管が内容物を押し流そうと強く蠕動し、その波に合わせて痛みが強くなったり弱くなったりする(疝痛)。単純性(閉塞性)イレウスでよく見られる痛み方である。一方、腸管の血流が途絶えた絞扼性イレウスでは、腸管の虚血による持続的な激痛になる。したがって、間欠的な腹痛だけでは緊急手術の根拠にならない。
- ○b. 腹壁が板状硬
板状硬とは、腹壁の筋肉が反射的に強く収縮し、腹部全体が板のように硬くなった状態である。筋性防御(デファンス)の最も強い形で、壁側腹膜まで炎症が広がった汎発性腹膜炎を示す。イレウスの経過中にこの所見が出た場合は、絞扼による腸管の壊死や穿孔が起きて、腹腔内に腸内容や細菌が広がったと考える。保存的治療では改善しないため、緊急手術の適応である。
- ×c. 金属性腸雑音の聴取
金属性腸雑音は、拡張した腸管の中でガスと液体が激しく動くときに聞こえる、金属のように高い響きのある音である。閉塞部より口側の腸管の蠕動が強まっていることを示し、機械的イレウス、特に単純性イレウスでよく聴取される。むしろ病状が進んで腸管が虚血・壊死に陥ったり、腹膜炎で腸管が麻痺したりすると、腸雑音は弱くなるか消える。腸雑音が消えた場合のほうが重症を疑う。
- ×d. 胆汁の混ざった吐物
胆汁は十二指腸乳頭(Vater 乳頭)から出るので、吐物に胆汁が混ざっていれば、閉塞部位が乳頭より肛門側にあることがわかる。小腸のイレウスではよく見られる所見で、閉塞部位を推定する手がかりにはなる。しかし、腸管の血流障害や腹膜炎を示す所見ではないので、緊急手術の根拠にはならない。なお、閉塞部位が肛門側に近いほど、吐物は腸内細菌で分解された便臭のあるもの(吐糞)になる。
- ×e. 腹部エックス線写真で複数の小腸ループ像
ガスで拡張した小腸が何本も並んで見える所見である。立位で撮影すると、ガスと液体の境界が水平な線(鏡面像、ニボー)として見えることもある。これらは小腸レベルの通過障害があることを示すが、単純性か絞扼性かは区別できない。絞扼を判断するには、造影 CT での腸管壁の造影不良、腸間膜の浮腫、腹水、closed loop(両端が閉じた腸管ループ)、whirl sign(腸間膜の渦巻き像)などを確認する。
イレウスの分類
・機械的イレウス:腸管が物理的に閉塞する。 -単純性(閉塞性):血流障害を伴わない。原因は術後の癒着、腫瘍、糞便・胆石・異物などである。 -複雑性(絞扼性):血流障害を伴う。原因は癒着バンドによる絞扼、腸重積、腸軸捻転、ヘルニア嵌頓などである。 ・機能的イレウス:物理的な閉塞はなく、腸管の動きの異常で通過障害が起こる。 -麻痺性:開腹手術後、腹膜炎、電解質異常(低カリウム血症など)、薬剤などで起こる。 -痙攣性:腸管の一部が痙攣して起こる。まれである。 なお、日本の急性腹症診療ガイドライン(2015 年)では、腸管の物理的な閉塞を「腸閉塞」、腸管の麻痺による通過障害を「イレウス」と呼び分けることが推奨されている。本問のように、従来はまとめて「イレウス」と呼ばれてきた。
単純性と絞扼性の見分け方
・腹痛:単純性では間欠的な疝痛、絞扼性では持続的な激痛 ・腹膜刺激症状:単純性ではないことが多く、絞扼性ではある(筋性防御・反跳痛・板状硬) ・腸雑音:単純性では亢進(金属音)、絞扼性では進むと減弱・消失 ・全身状態:絞扼性では発熱、頻脈、血圧低下、ショックが起こりうる ・検査:絞扼性では白血球増多、CRP 上昇、代謝性アシドーシス(乳酸上昇)、LDH・CK の上昇が見られる ・画像:絞扼性では造影 CT で腸管壁の造影不良、closed loop、whirl sign、腹水が見られる
治療方針
単純性イレウスでは、絶飲食、輸液、胃管やイレウス管による減圧でまず経過を見る。絞扼性イレウスや、穿孔による腹膜炎が疑われる場合は、診断がつき次第すぐに開腹手術(または腹腔鏡手術)を行い、腸管の壊死があれば切除する。
POINT
・イレウスで緊急手術が必要なのは、絞扼(血流障害)、腸管の壊死・穿孔、腹膜炎がある場合である。 ・板状硬(強い筋性防御)は汎発性腹膜炎を示すので、緊急手術の適応になる。 ・間欠的な疝痛、金属性腸雑音、胆汁性嘔吐、X 線での小腸拡張やニボーは、閉塞があることを示すだけで、単純性イレウスでも見られる。 ・持続痛、腹膜刺激症状、腸雑音の消失、ショック、アシドーシス、造影 CT での腸管壁の造影不良があれば、絞扼を疑う。
