息を吸えば肝臓が降りてくる―横隔膜の動きで理解する肝触診の基本
第108回医師国家試験 H問題 第6問
国試問題にチャレンジ
肝臓の触診について正しいのはどれか。
- a.打診に先立って行う。
- b.胸式呼吸を行わせる。
- c.患者を右側臥位にする。
- d.吸気時に触知しやすい。
- e.双手診で肝臓の背面も評価する。
対話形式の解説
ドクター
医学生
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ドクターまとめ
肝臓は横隔膜の直下にあり、吸気時に横隔膜とともに下降するため、肋骨弓下に肝下縁が現れて触知しやすくなります。触診は仰臥位・膝屈曲で腹壁を弛緩させ、横隔膜を大きく動かす深い腹式呼吸を行わせて、吸気に合わせて肝下縁を捉えます。腹部診察は視診→聴診→打診→触診の順で行い、右側臥位は脾臓の触診、背側と腹側から挟む双手診は腎臓で典型的に用いられ、背部に添える手は肝下縁を触れやすくする補助にすぎず背面は評価できません。触知した肝臓では位置・辺縁・硬さ・表面・圧痛を評価し、肝硬変やうっ血肝などの手がかりとします。手技の一つ一つを解剖と呼吸生理から理解しておくことが、OSCEから実臨床まで通じる確かな身体診察の土台になります。
解答・解説
正解はdです
肝臓は右上腹部にあり、その大部分が右の肋骨弓に覆われているため、身体診察で評価できるのは主に肋骨弓の下に現れる肝下縁(肝臓の下端)である。肝臓の触診では、この肝下縁の位置(腫大の有無)、辺縁の性状(鋭いか鈍いか)、硬さ、表面の性状(平滑か凹凸か)、圧痛の有無を評価する。 肝臓は横隔膜の直下にあり、呼吸に伴って横隔膜とともに上下に動く。息を吸うと横隔膜が収縮して下がり、肝臓も尾側(足側)へ押し下げられるため、肋骨弓の下に肝下縁が現れて検者の指に触れやすくなる。これが肝触診の基本原理である。 この原理を生かすため、診察は次のように行う。患者を仰臥位にし、膝を軽く曲げて腹壁の緊張をとる。検者は患者の右側に立ち、右手の指先(示指の橈側縁)を右鎖骨中線上で肋骨弓よりやや下方に置く。患者にゆっくり深く腹式呼吸をさせ、吸気に合わせて下降してくる肝下縁を指先で捉える。なお腹部の診察は、腹部を刺激して腸蠕動や所見を変化させないよう、視診→聴診→打診→触診の順に行うのが原則であり、打診で肝濁音界(肝臓の上縁と下縁)を確認してから触診に移る。
選択肢考察
- ×a. 打診に先立って行う。
腹部診察は視診→聴診→打診→触診の順に行う。触診や打診で腹部を刺激すると腸蠕動音が変化するため聴診を先に行い、さらに打診で肝臓の上縁・下縁(肝濁音界)を把握して大きさの見当をつけてから触診に進むのが合理的である。強い刺激や痛みを伴いうる触診は最後に行い、痛む部位は最後に診る。
- ×b. 胸式呼吸を行わせる。
胸式呼吸は主に肋間筋による胸郭の拡張で行われ、横隔膜の下降が小さいため肝臓の移動も少ない。肝下縁を下げて触れやすくするには、横隔膜を大きく動かす腹式呼吸(「お腹をふくらませるように息を吸ってください」と指示する)をゆっくり深く行わせる。
- ×c. 患者を右側臥位にする。
肝臓の触診は仰臥位で、膝を曲げて腹壁を弛緩させた状態で行う。右側臥位(右を下にした体位)は脾臓の触診で用いられ、重力で脾臓を前下方へ移動させて左肋骨弓下に触れやすくする。
- ○d. 吸気時に触知しやすい。
吸気時には横隔膜が収縮して下降し、その直下にある肝臓も下方へ押し下げられる。これにより肋骨弓の下に肝下縁が出てきて、腹壁に置いた指先に触れやすくなる。そのため深い腹式呼吸を行わせ、吸気の終わりに下降してくる肝下縁を捉える。健常者でも、深吸気時に右鎖骨中線上で肋骨弓下にわずかに(1横指程度まで)軟らかく鋭い肝下縁を触れることがある。
- ×e. 双手診で肝臓の背面も評価する。
肝触診の際、左手を患者の右背部(第11・12肋骨の高さ)に当てて前方へ押し上げ、肝臓を腹壁側へ近づけて右手で触れやすくする手技がある。しかしこれは前面の肝下縁を触れやすくするための補助であり、肝臓の背面を評価できるわけではない。肝臓の大部分は肋骨に覆われ、背面は触診では到達できない。背側から挟み込むように行う双手診が典型的に用いられるのは腎臓(また婦人科診察での子宮・付属器)である。
腹部診察の順序
視診→聴診→打診→触診。胸部の診察(視診→触診→打診→聴診)とは順序が異なる点に注意する。聴診を先に行うのは、触診・打診の刺激で腸蠕動音が変化するのを避けるためである。
肝臓の打診
右鎖骨中線上を上方(肺の共鳴音)から下へ打診して濁音に変わる点を肝上縁、腹部(鼓音)から上へ打診して濁音に変わる点を肝下縁とし、その距離(肝濁音界)で肝臓の大きさを推定する。成人ではおおむね6〜12cm程度が目安とされる。
肝臓の触診で評価する項目
・肝下縁の位置:肋骨弓下何横指(何cm)かで表す。 ・辺縁:正常は鋭(シャープ)。肝腫大や線維化では鈍になる。 ・硬さ:正常は軟らかい。肝硬変では硬く、肝癌では石様に硬いことがある。 ・表面:正常は平滑。肝硬変では細かい凹凸、転移性肝癌では結節状の凹凸を触れる。 ・圧痛:急性肝炎やうっ血肝(右心不全など)では被膜の伸展により圧痛を伴いやすい。
触診の手技の工夫
・仰臥位で膝を曲げ腹壁を弛緩させる。 ・右手の指先を右鎖骨中線上で肋骨弓よりやや下に置く。肝腫大が高度だと肋骨弓近くから始めると下縁を見逃すため、下腹部(臍の高さ付近)から少しずつ上へ移動させながら触れる。 ・フッキング法:検者が患者の右肩側に立ち、両手の指を曲げて肋骨弓の下に引っかけるようにして吸気時に下縁を捉える方法もある。
他臓器の触診との比較
・脾臓:仰臥位または右側臥位で、吸気時に左肋骨弓下で触れる。正常では触知しない。 ・腎臓:背部に置いた手と腹壁側の手で挟み込む双手診で触れる。
POINT
・肝臓は吸気時に横隔膜とともに下降するので、吸気時に触知しやすい。 ・深い腹式呼吸をさせ、仰臥位・膝屈曲で腹壁を弛緩させて行う。 ・腹部診察は視診→聴診→打診→触診の順。 ・右側臥位は脾臓の触診で用いる。 ・背部に当てる手は前面の肝下縁を触れやすくする補助で、肝臓の背面は評価できない。双手診が典型的なのは腎臓である。
