ケンケン咳の3歳児―耳鼻咽喉科が「まず喉頭を見る」理由
第108回医師国家試験 H問題 第23問
国試問題にチャレンジ
3歳の男児。嗄声と喘鳴とを主訴に母親に連れられて来院した。2日前から発熱,鼻汁および嗄声が出現し,本日夕方から吸気性喘鳴と犬吠様咳嗽を認めたため小児科を受診し,その後耳鼻咽喉科を紹介された。陥没呼吸やチアノーゼは認めない。SpO2 98%(room air)。 まず行うべき検査はどれか。
- a.頸部CT
- b.後鼻鏡検査
- c.頸部超音波検査
- d.喉頭内視鏡検査
- e.副鼻腔エックス線撮影
対話形式の解説
ドクター
医学生
ドクター
医学生
ドクター
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ドクターまとめ
幼児が上気道炎に続いて嗄声・犬吠様咳嗽・吸気性喘鳴を呈した場合はクループ症候群、なかでもパラインフルエンザウイルスなどによる急性喉頭気管炎を考えます。最も重要な鑑別は、流涎・嚥下困難・含み声・前傾姿勢を示し急速に窒息しうる急性喉頭蓋炎です。呼吸状態が安定していれば、耳鼻咽喉科ではまず喉頭内視鏡で喉頭蓋や声門下を直接観察して診断と鑑別を行いますが、刺激による狭窄悪化に備え、気道確保の準備を整えて短時間で行うことが前提です。頸部CTは鎮静や仰臥位のリスクがあり、後鼻鏡・頸部超音波・副鼻腔撮影は喉頭病変の評価に適しません。病変の主座を見極め、患者の状態に応じて安全かつ有用な検査を選ぶ姿勢は、小児の気道緊急に対応するうえでの基本となります。
解答・解説
正解はdです
所見の整理
・3歳男児 ・2日前から発熱・鼻汁・嗄声 → ウイルス性の上気道炎で始まっている ・本日夕方から吸気性喘鳴と犬吠様咳嗽(イヌが吠えるような「ケンケン」という咳)→ 声門下を中心とした喉頭の狭窄を示す ・陥没呼吸・チアノーゼなし、SpO2 98%(室内気)→ 現時点で呼吸不全はなく、比較的軽症
診断へのプロセス
幼児が上気道炎に続いて、嗄声・犬吠様咳嗽・吸気性喘鳴の三つをそろえて発症しており、クループ症候群、なかでも急性喉頭気管炎(ウイルス性クループ)が最も考えられる。原因はパラインフルエンザウイルスが代表的で、生後6か月〜3歳ごろに多く、夕方から夜間に症状が強くなりやすい。 鑑別で必ず考えるべきなのは、急性喉頭蓋炎である。喉頭蓋が細菌感染で急激に腫れる疾患で、短時間で窒息に至ることがある。高熱、強い咽頭痛、嚥下困難・流涎(よだれ)、こもった声、前かがみで顎を突き出す姿勢(tripod position)が特徴で、犬吠様咳嗽は目立たないことが多い。ほかに、細菌性気管炎、喉頭異物、咽後膿瘍、アレルギー性の喉頭浮腫なども鑑別に挙がる。
まず行うべき検査
病変の主座は喉頭(声門・声門下)であり、診断には喉頭を直接観察するのが最も確実である。耳鼻咽喉科では、細い軟性の喉頭内視鏡(ファイバースコープ)を鼻から挿入することで、喉頭蓋の腫脹の有無(急性喉頭蓋炎の除外)、声門下の腫脹、声帯の状態をその場で短時間に評価できる。本例は呼吸状態が安定しており、観察を行う余裕がある。したがって、まず行うべき検査は喉頭内視鏡検査である。 ただし、小児では検査の刺激で啼泣・喉頭けいれんを誘発し、気道狭窄が悪化するおそれがある。そのため、酸素・吸引・気道確保の準備を整えたうえで、熟練した医師が愛護的かつ短時間で行う。急性喉頭蓋炎が強く疑われ、呼吸困難が明らかな場合には、無理に診察・検査を行わず、気道確保を最優先とする。
選択肢考察
- ×a. 頸部CT
頸部CTは、気道狭窄の範囲や咽後膿瘍・深頸部膿瘍の広がりを評価するのに有用である。しかし、撮影には仰臥位での安静が必要で、幼児では鎮静を要することがある。仰臥位や鎮静は上気道狭窄を悪化させる危険があり、放射線被曝も伴う。さらに、小児はもともと喉頭・気管が細いため、軽度の狭窄はCTで判定しにくい。喉頭を直接観察でき、短時間で診断できる内視鏡を差し置いて最初に行う検査ではない。
- ×b. 後鼻鏡検査
後鼻鏡検査は、口から小さな鏡を咽頭に入れ、鼻腔の後方(後鼻孔)と上咽頭を観察する検査である。病変のある喉頭は観察できず、本例の診断には役立たない。また、幼児では協力が得にくく、舌圧子や鏡で咽頭を刺激すると気道狭窄を悪化させるおそれもある。
- ×c. 頸部超音波検査
頸部超音波検査は、甲状腺、リンパ節、唾液腺、頸部膿瘍などの軟部組織の評価には有用である。しかし、超音波は空気を通りにくいため、空気で満たされた喉頭・気管の内腔や粘膜の腫脹を評価するには適さない。クループや急性喉頭蓋炎の診断に最初に用いる検査ではない。
- ○d. 喉頭内視鏡検査
軟性の喉頭内視鏡を鼻から挿入すれば、喉頭蓋・披裂部・声帯・声門下を直接観察できる。これにより、急性喉頭気管炎で特徴的な声門下の腫脹を確認でき、窒息の危険が高い急性喉頭蓋炎(喉頭蓋の著明な腫脹)や喉頭異物などとの鑑別をその場で行える。本例は陥没呼吸・チアノーゼがなくSpO2も保たれており、検査を行う余裕がある。耳鼻咽喉科で最初に行うべき、最も診断的価値の高い検査である。ただし、幼児では刺激による啼泣や喉頭けいれんで狭窄が悪化しうるため、気道確保の準備をしたうえで、慎重かつ短時間で行う。
- ×e. 副鼻腔エックス線撮影
鼻汁はあるが、主な症状(嗄声・犬吠様咳嗽・吸気性喘鳴)は喉頭の病変によるものであり、副鼻腔を撮影しても診断には結びつかない。また、3歳ごろは副鼻腔の発育が不十分で、単純エックス線写真での評価自体にも限界がある。
クループ症候群とは
吸気性喘鳴・犬吠様咳嗽・嗄声を示す、喉頭を中心とした上気道狭窄の総称である。代表はウイルス性の急性喉頭気管炎で、原因はパラインフルエンザウイルス(特に1型)が最も多い。そのほか、RSウイルス、インフルエンザウイルス、アデノウイルス、ヒトメタニューモウイルス、新型コロナウイルスなども原因となる。好発年齢は生後6か月〜3歳で、秋から冬に多い。小児の喉頭は声門下が最も狭く、わずかな粘膜の浮腫でも気道の断面積が大きく減るため、症状が出やすい。
画像所見
頸部正面の単純エックス線写真では、声門下が先細りに狭くなる像(steeple sign、pencil sign)がみられることがある。ただし感度・特異度とも高くなく、診断は基本的に臨床症状による。急性喉頭蓋炎では、側面像で腫れた喉頭蓋が親指のように見える(thumb sign)。
急性喉頭気管炎と急性喉頭蓋炎の比較
・急性喉頭気管炎:原因はウイルス、好発年齢は6か月〜3歳、経過は比較的緩徐、犬吠様咳嗽・嗄声が目立つ、流涎は少ない、病変部位は声門下 ・急性喉頭蓋炎:原因は細菌(かつてはインフルエンザ菌b型〈Hib〉が主体。Hibワクチンの普及で小児例は激減し、現在は成人例が相対的に多い)、急激に進行、高熱・強い咽頭痛・嚥下困難・流涎・こもった声(含み声)・前傾姿勢、犬吠様咳嗽は乏しい、病変部位は声門上
重症度評価と治療
重症度は、Westleyクループスコア(意識レベル、チアノーゼ、喘鳴、呼吸音、陥没呼吸で評価)などで判定する。軽症であってもデキサメタゾンの単回投与(経口または注射)が推奨され、症状の軽減や再受診の減少に有効である。中等症以上では、アドレナリン吸入を追加する。アドレナリン吸入の効果は1〜2時間程度で切れ、症状がぶり返すことがあるため、吸入後は2〜4時間程度経過を観察する。患児を泣かせないようにし、呼吸不全が進行する場合は気管挿管などで気道を確保する。
POINT
・嗄声・犬吠様咳嗽・吸気性喘鳴の三つがそろえばクループ症候群。幼児の急性喉頭気管炎はパラインフルエンザウイルスによるものが多い。 ・最も重要な鑑別は急性喉頭蓋炎(高熱、流涎、嚥下困難、含み声、前傾姿勢、急速に窒息の危険)である。 ・呼吸状態が安定していれば、耳鼻咽喉科では喉頭内視鏡で喉頭を直接観察して診断・鑑別する。 ・幼児の検査では、刺激による狭窄の悪化に備えて気道確保の準備をしたうえで、短時間で行う。 ・頸部正面エックス線のsteeple signは参考所見にとどまり、急性喉頭蓋炎では側面像のthumb signが特徴である。
