「のどが渇いてから」では遅すぎる―高齢者の熱中症は家の中で静かに進む
第108回医師国家試験 H問題 第19問
国試問題にチャレンジ
高血圧と糖尿病で通院中の75歳男性に対する熱中症の説明として適切なのはどれか。
- a.「外出時に注意すれば大丈夫です」
- b.「ひどく汗をかくのが典型的です」
- c.「頭痛や悪心は自覚症状としてはまれです」
- d.「口渇感がなくても水分の補給が必要です」
- e.「スポーツドリンクを大量に補給すれば予防できます」
対話形式の解説
ドクター
医学生
ドクター
医学生
ドクター
医学生
ドクター
医学生
ドクター
医学生
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医学生
ドクター
医学生
ドクター
医学生
ドクター
医学生
ドクター
医学生まとめ
高齢者は体内の水分量が少なく、口渇感や暑さの感覚が鈍いため、のどが渇く前から時間を決めて計画的に水分を摂るよう説明することが重要です。高血圧に対する利尿薬などの内服や、糖尿病による浸透圧利尿・自律神経障害は、脱水や体温調節障害をさらに起こしやすくします。高齢者の熱中症は約半数が屋内で数日かけて進行する非労作性熱中症で、発汗が少ないまま体温が上がることもあり、頭痛・悪心・倦怠感はII度の典型症状として受診が必要なサインです。糖尿病患者ではスポーツドリンクの大量摂取が高血糖と脱水の悪化を招くため、日常は水やお茶を基本とし、室温管理などと組み合わせて予防します。患者の年齢や持病に合わせた具体的な生活指導ができることは、日常診療で熱中症の重症化を防ぐうえで欠かせない力です。
解答・解説
正解はdです
熱中症は、暑熱環境で体温調節機構が破綻したり、体内の水分・塩分のバランスが崩れたりして生じる障害の総称である。本問は、高血圧と糖尿病を持つ75歳の高齢男性という「熱中症の高リスク者」に対し、予防のためにどのような説明をするのが適切かを問うている。 高齢者が熱中症を起こしやすい理由は次のように整理できる。 ・体内の水分量がもともと少ない(加齢とともに体重に占める水分の割合が低下し、筋肉量も減る)。 ・のどの渇き(口渇感)を感じにくく、自発的な飲水が遅れる。 ・皮膚の温度感受性が低下して暑さを感じにくく、冷房を使わずに過ごしてしまう。 ・発汗機能や皮膚血流を増やす反応が弱く、熱を逃がしにくい。 ・夜間の頻尿を気にして水分摂取を控えがちである。 さらにこの患者では、高血圧に対する利尿薬などの降圧薬が脱水を助長しうること、糖尿病では高血糖による浸透圧利尿や自律神経障害(発汗・血管反応の低下)によって脱水・体温調節障害を起こしやすいことが加わる。 したがって、屋内でも油断しないこと、症状が出る前から計画的に水分を摂ること、飲み物の糖分・塩分に配慮することが説明の要点となる。この観点から各選択肢を検討すると、口渇を感じる前からの水分補給を勧める説明が最も適切である。
選択肢考察
- ×a. 「外出時に注意すれば大丈夫です」
不適切。高齢者の熱中症は日常生活の中で屋内(自宅の居室など)で発症する例が多く、その割合は約半数に及ぶとされる。暑さを感じにくいために冷房を使わない、閉め切った室内で過ごす、夜間も室温が下がらないといった状況で数日かけて脱水が進行し、発見が遅れて重症化しやすい。外出時だけでなく、室内でもエアコンや扇風機で室温・湿度を適切に保ち、温湿度計で環境を確認するよう指導する必要がある。
- ×b. 「ひどく汗をかくのが典型的です」
不適切。大量の発汗は若年者の運動や作業による熱中症の初期(I度)にみられる所見であるが、高齢者はもともと発汗量が少なく、汗をかかないまま体温が上昇することがある。また、重症の熱中症(熱射病)では体温調節中枢の障害や脱水によって発汗が止まり、皮膚が乾燥して熱くなることがある。「汗をかいていないから大丈夫」と誤解させるおそれがあり、高齢者への説明として不適切である。
- ×c. 「頭痛や悪心は自覚症状としてはまれです」
不適切。頭痛、悪心・嘔吐、倦怠感、虚脱感は熱中症II度(従来の熱疲労に相当)の代表的な自覚症状であり、まれではない。これらは医療機関の受診が必要なサインであり、見逃すとIII度(意識障害、けいれん、肝・腎機能障害、血液凝固異常などを伴う重症)へ進行しうる。むしろ「暑い環境で頭痛や吐き気が出たら熱中症を疑って涼しい場所で休み、改善しなければ受診する」と伝えるべきである。
- ○d. 「口渇感がなくても水分の補給が必要です」
適切。高齢者では口渇中枢の感受性が低下しており、体内の水分が不足しても渇きを自覚しにくい。のどが渇いたと感じた時点ではすでに脱水が進んでいることも多い。さらにこの患者では、利尿薬を含む降圧薬の内服や、糖尿病による高血糖時の浸透圧利尿(SGLT2阻害薬内服中であれば尿糖排泄による利尿も加わる)によって脱水に陥りやすい。そのため、起床時・食事時・入浴前後・就寝前など時間を決めて、こまめに少量ずつ水分を摂るよう指導するのが適切である。ただし、心不全や腎不全で水分制限を受けている場合は主治医と相談のうえで量を決める。
- ×e. 「スポーツドリンクを大量に補給すれば予防できます」
不適切。スポーツドリンクには糖分が多く含まれており、糖尿病患者が大量に飲むと高血糖を招き、その浸透圧利尿によってかえって脱水が悪化するおそれがある(いわゆるペットボトル症候群と呼ばれる清涼飲料水ケトーシスの原因にもなる)。また塩分も含まれるため、高血圧や心不全の患者では日常的な大量摂取は好ましくない。日常の水分補給は水やお茶(利尿作用の強いものは避ける)を基本とし、大量に汗をかいたときや食事が摂れないときに経口補水液などで塩分を補う。さらに、熱中症の予防は水分補給だけでは不十分で、室温管理、通気性のよい衣服、暑い時間帯の外出を避けることなどを組み合わせる必要がある。
熱中症の重症度分類(日本救急医学会)
I度(現場で対応可能):めまい、立ちくらみ、生あくび、大量の発汗、筋肉痛、こむら返り(従来の熱失神・熱けいれんに相当)。涼しい場所で冷却し、水分・塩分を補給する。 II度(医療機関での診療が必要):頭痛、嘔吐、倦怠感、虚脱感、集中力・判断力の低下(従来の熱疲労に相当)。 III度(入院加療が必要):意識障害、けいれん、肝・腎機能障害、血液凝固異常(DIC)など(従来の熱射病に相当)。 2024年の診療ガイドラインでは、III度のうち深部体温40℃以上かつGCS 8以下の最重症例をIV度とし、迅速な積極的冷却を求める区分が加えられた。
労作性熱中症と非労作性(古典的)熱中症
労作性:若年者のスポーツや中壮年の屋外労働などで、健康な人が暑熱下の激しい運動により短時間で発症する。早期の冷却で予後は比較的良好である。 非労作性(古典的):熱波の時期に、高齢者や基礎疾患を持つ人が日常生活の中で数日かけて発症する。屋内発症が多く、脱水・食欲低下や持病の悪化が重なり重症化しやすい。独居者では発見が遅れがちである。
熱中症のリスクを高める因子
高齢・乳幼児、肥満、心疾患・糖尿病・腎疾患・精神疾患、認知機能低下、独居、低栄養、薬剤(利尿薬、抗コリン薬、抗精神病薬、β遮断薬など)、飲酒、暑熱順化の不足。
予防の要点
暑さ指数(WBGT:湿球黒球温度)や熱中症警戒アラートを参考に行動を調整し、室内でもエアコンを適切に使用する。口渇の有無にかかわらず定期的に水分を摂り、多量の発汗時は塩分も補う。周囲の人による声かけ・見守りも重要である。
POINT
・高齢者は口渇感・暑さの感覚が鈍く、体内水分量も少ないため、のどが渇く前から計画的に水分を補給する。 ・高齢者の熱中症は約半数が屋内で発症する(非労作性・古典的熱中症)。外出時だけでなく室内の環境管理も必要。 ・高齢者は発汗が少なく、重症例では発汗が停止することもある。 ・頭痛・悪心・嘔吐・倦怠感は熱中症II度の典型症状で、受診が必要なサイン。 ・糖尿病患者ではスポーツドリンクの大量摂取は高血糖・脱水悪化を招くので避ける。
