口の中から肺を守る―高齢者の栄養管理と誤嚥性肺炎予防の常識
第108回医師国家試験 G問題 第26問
国試問題にチャレンジ
高齢者の栄養管理について正しいのはどれか。
- a.経管栄養剤の注入は仰臥位で行う。
- b.口腔ケアは嚥下性肺炎〈誤嚥性肺炎〉の予防に有用である。
- c.胃瘻からの経管栄養では誤嚥は起こらない。
- d.経鼻胃管は胃瘻による経管栄養より不快感が少ない。
- e.中心静脈栄養は経腸栄養に比較して感染症の合併が少ない。
対話形式の解説
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ドクターまとめ
高齢者の誤嚥性肺炎の多くは、嚥下反射や咳反射の低下により唾液や口腔内容物をむせずに吸い込む不顕性誤嚥によって起こるため、口腔ケアで口腔内細菌を減らすことが重要な予防策となり、経管栄養の患者でも必要です。経管栄養の注入は上体を30〜45度以上起こして行い、注入後もしばらく体位を保ちます。胃瘻でも胃食道逆流による誤嚥は起こりうるほか、経鼻胃管は侵襲は小さいものの不快感が大きく、長期管理には胃瘻が適します。中心静脈栄養はカテーテル関連血流感染症や腸粘膜萎縮によるバクテリアルトランスロケーションのリスクがあり、「腸が使えるなら腸を使う」が栄養法選択の大原則です。これらの知識は、高齢者医療で安全な栄養管理と肺炎予防を多職種で実践するための基盤になります。
解答・解説
正解はbです
テーマ
高齢者は、咀嚼・嚥下機能の低下、食欲低下、認知機能障害、多剤服用などにより低栄養や摂食嚥下障害をきたしやすい。口から十分に食べられない場合には人工的な栄養法を選ぶことになるが、その際には「誤嚥をどう防ぐか」「どの経路が安全で生理的か」「患者の苦痛をどう減らすか」という視点が欠かせない。
正解を導く考え方
栄養法の選択の大原則は「腸が使えるなら腸を使う」である。経腸栄養(経口摂取、経鼻胃管、胃瘻・腸瘻)は消化管の機能と腸管の免疫機能を保ち、感染症の合併も少ない。静脈栄養、とくに中心静脈栄養は腸が使えない場合の手段である。 経腸栄養でも、栄養剤が胃から食道へ逆流すれば誤嚥は起こりうるため、注入時の体位(上体を起こす)が重要である。また高齢者の誤嚥性肺炎の多くは、睡眠中などに気づかないうちに少量の唾液や口腔内容物を吸い込む「不顕性誤嚥」によって起こり、口腔内の細菌量を減らす口腔ケアが予防の柱となる。これらを押さえれば、各選択肢の正誤は判断できる。
選択肢考察
- ×a. 経管栄養剤の注入は仰臥位で行う。
上体を水平にした仰臥位では、胃の内容物が食道へ逆流しやすく、逆流した栄養剤を誤嚥して肺炎を起こす危険が高い。注入は座位または上体を30〜45度以上起こした半座位(ファウラー位など)で行い、注入後もしばらく(30分〜1時間程度)はその体位を保って逆流を防ぐ。
- ○b. 口腔ケアは嚥下性肺炎〈誤嚥性肺炎〉の予防に有用である。
高齢者の誤嚥性肺炎の多くは、口腔や咽頭の細菌を含む唾液・分泌物を、むせることなく少しずつ吸い込む不顕性誤嚥によって起こる。歯みがき、義歯の清掃、舌や粘膜の清拭などの口腔ケアで口腔内の細菌量を減らせば、誤嚥が起きても肺炎に至りにくくなる。さらに口腔への刺激は嚥下反射や咳反射の改善にもつながる。高齢者施設で口腔ケアを継続すると肺炎の発症が減ることが示されており、口腔ケアは虫歯や歯周病の予防にとどまらない、重要な肺炎予防策である。経口摂取をしていない経管栄養の患者でも口腔内は汚れやすく、口腔ケアは同様に必要である。
- ×c. 胃瘻からの経管栄養では誤嚥は起こらない。
胃瘻では栄養剤が口や咽頭を通らないため、食物そのものを飲み込む際の誤嚥は避けられる。しかし、胃に入った栄養剤が胃食道逆流や嘔吐によって咽頭まで戻れば、それを誤嚥して肺炎を起こしうる。また唾液の不顕性誤嚥も防げない。そのため胃瘻でも注入時は上体を起こし、注入速度を調整するほか、胃内で流れにくい半固形状の栄養剤を用いて逆流を減らす工夫がなされる。
- ×d. 経鼻胃管は胃瘻による経管栄養より不快感が少ない。
経鼻胃管は手術や内視鏡処置を必要とせず、挿入が簡便で侵襲が小さいという利点がある。しかし、チューブが鼻腔から咽頭・食道を通って常に留置されるため、鼻や咽頭の違和感・痛み、鼻翼の潰瘍、テープ固定の煩わしさなど不快感が大きい。自己抜去や、チューブが気管に誤挿入される危険もあり、嚥下運動を妨げたり胃食道逆流を助長したりすることもある。長期(おおむね4週間以上)の経腸栄養が見込まれる場合には、不快感が少なく管理しやすい胃瘻が選ばれることが多い。
- ×e. 中心静脈栄養は経腸栄養に比較して感染症の合併が少ない。
中心静脈栄養では、皮膚から太い静脈へカテーテルを留置し続けるため、刺入部やライン接続部から細菌が侵入してカテーテル関連血流感染症(敗血症)を起こす危険がある。さらに、腸を使わない状態が続くと腸粘膜が萎縮し、腸内細菌が体内へ移行する(バクテリアルトランスロケーション)ことも感染症の一因となる。経腸栄養は生理的な経路であり腸管の構造と免疫機能を保てるため、感染症の合併はむしろ経腸栄養のほうが少ない。
栄養法の種類と選び方
・経腸栄養: 経口摂取、経鼻胃管(経鼻経管栄養)、胃瘻・腸瘻(主に内視鏡的に造設する経皮内視鏡的胃瘻造設術〈PEG〉による) ・静脈栄養: 末梢静脈栄養(PPN、短期間・低カロリー向き)、中心静脈栄養(TPN、高カロリー輸液が可能) 腸が機能していれば経腸栄養を優先する。経腸栄養の期間が短期(おおむね4週間未満)と見込まれれば経鼻胃管、長期なら胃瘻などの消化管瘻を検討する。腸閉塞、重度の消化管出血、難治性の下痢など腸が使えない場合に静脈栄養を選び、2週間程度以上に及ぶなら中心静脈栄養とする。
経腸栄養の利点と合併症
利点: 生理的であり、腸粘膜の萎縮を防いで腸管免疫を保つ。カテーテル感染の心配がなく、管理が容易で費用も安い。 合併症: 胃食道逆流と誤嚥性肺炎、下痢(注入速度が速い、浸透圧が高いなど)、チューブの閉塞・自己抜去、経鼻胃管では鼻・咽頭の潰瘍、胃瘻では瘻孔周囲の皮膚炎や感染など。 逆流・誤嚥の予防策: 注入時と注入後しばらくは上体を30〜45度以上挙上する、注入速度を遅くする、半固形状の栄養剤を用いる、胃内の残量を確認する、など。
中心静脈栄養の合併症
カテーテル関連血流感染症、気胸・動脈穿刺など挿入時の合併症、血栓症、高血糖、肝機能障害、長期の腸管不使用による腸粘膜萎縮とバクテリアルトランスロケーションなど。
高齢者の誤嚥性肺炎と口腔ケア
高齢者では嚥下反射と咳反射が低下し、とくに夜間の不顕性誤嚥が多い。誤嚥性肺炎の予防には、口腔ケアによる口腔内細菌の減少、食事や注入時の姿勢の調整、食形態の工夫、嚥下リハビリテーション、鎮静作用のある薬剤の見直しなどを組み合わせる。
POINT
・口腔ケアは口腔内細菌を減らし、高齢者の誤嚥性肺炎(多くは不顕性誤嚥による)の予防に有用である。 ・経管栄養の注入は座位または半座位(上体30〜45度以上挙上)で行い、注入後もしばらく体位を保つ。 ・胃瘻でも胃食道逆流による誤嚥は起こりうる。 ・経鼻胃管は侵襲が小さいが不快感が大きく、長期管理には胃瘻が適する。 ・「腸が使えるなら腸を使う」。経腸栄養は中心静脈栄養より生理的で、感染症の合併が少ない。
