尿中Naが語る腎の本音―「捨てている」のか「守っている」のか、低ナトリウム血症の鑑別
第108回医師国家試験 G問題 第25問
国試問題にチャレンジ
尿中Naの排泄低下を伴う低ナトリウム血症をきたすのはどれか。
- a.SIADH
- b.肝硬変
- c.Addison病
- d.尿細管障害
- e.ループ利尿薬の内服
対話形式の解説
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ドクターまとめ
低ナトリウム血症の鑑別では、血漿浸透圧、細胞外液量、尿中Naの順に評価します。尿中Na低値(おおむね20 mEq/L未満)は、腎が正常に機能したうえで有効循環血液量の減少を感知し、RAA系や交感神経を介してNaを保持している状態を意味し、嘔吐・下痢などの腎外性喪失や、心不全・肝硬変・ネフローゼ症候群といった浮腫性疾患でみられます。肝硬変では内臓血管拡張と腹水で有効循環血液量が減り、Naを強く保持しつつ非浸透圧性ADH分泌で水がそれ以上に貯留するため、希釈性低Na血症になります。一方、SIADHは循環血液量の軽度増加によりNaが排泄され、Addison病、尿細管障害、ループ利尿薬は腎がNaを保持できないため、いずれも尿中Naは高値です。利尿薬内服中は尿中Naの解釈が難しくなる点も含め、尿中Naを腎の反応として読む視点は電解質異常全般の理解に役立ちます。
解答・解説
正解はbです
テーマ
低ナトリウム血症の原因を考えるときは、血清Na濃度だけでなく、細胞外液量(循環血液量)の状態と尿中Na排泄量をあわせて評価する。尿中Naは、腎臓が「体内のNaを保持しようとしているか(尿中Na低値)」、それとも「Naを捨てている、または捨てざるをえない状態か(尿中Na高値)」を反映する指標である。目安として、尿中Na濃度がおおむね20 mEq/L未満であれば腎がNaを強く保持している状態、それを上回れば腎からNaが失われている状態と考える(30 mEq/Lを境界とする基準もある)。
正解を導く考え方
尿中Naが低くなるのは、腎そのものは正常に働いており、かつ「有効循環血液量(動脈系を満たして臓器を灌流している血液量)が不足している」と腎が感知している場合である。このとき、レニン-アンジオテンシン-アルドステロン系(RAA系)や交感神経が活性化して尿細管でのNa再吸収が高まり、尿中Naは低下する。 これに当てはまるのは、(1) 嘔吐・下痢・熱傷などによる腎外性のNa・水喪失(細胞外液量減少型)と、(2) 心不全・肝硬変・ネフローゼ症候群のように全身の水・Naはむしろ過剰だが有効循環血液量が減っている浮腫性疾患(細胞外液量増加型)である。 一方、腎でのNa再吸収そのものが障害される場合(利尿薬、尿細管障害、アルドステロン作用の欠乏)や、循環血液量が増えてNaを排泄する方向に働く場合(SIADH)には、尿中Naは高値となる。選択肢のうち前者の条件を満たすのは肝硬変である。
選択肢考察
- ×a. SIADH
SIADH(抗利尿ホルモン不適合分泌症候群)では、血漿浸透圧が低いにもかかわらずADH(抗利尿ホルモン、バソプレシン)が分泌され続け、腎の集合管で水が過剰に再吸収される。その結果、体液が薄まって希釈性の低ナトリウム血症となる。体内の水が増えて循環血液量が軽度増加するため、RAA系は抑制され、心房性ナトリウム利尿ペプチド(ANP)の分泌増加や糸球体濾過量の増加も加わって、Naは尿中へ排泄される。したがって尿中Naは低下せず、むしろ高値(わが国の診断基準では20 mEq/L以上)となる。浮腫や脱水を伴わない点も特徴である。
- ○b. 肝硬変
肝硬変では、門脈圧亢進に伴う内臓領域の血管拡張や、低アルブミン血症による膠質浸透圧の低下で血管内の水分が間質・腹腔へ移る(浮腫・腹水)ことにより、全身の水・Na総量は増えているのに、有効循環血液量は減少する。腎はこれを「血液が足りない」と感知し、RAA系と交感神経が活性化してNaを強く再吸収するため、尿中Naは著しく低下する(しばしば10 mEq/L未満)。同時に、循環血液量低下の刺激で浸透圧とは無関係にADHが分泌され、Naの貯留を上回る量の水が貯留するため、希釈性の低ナトリウム血症となる。すなわち、尿中Na排泄低下を伴う低ナトリウム血症の代表的な病態である。
- ×c. Addison病
Addison病(原発性副腎皮質機能低下症)では、副腎皮質の破壊によりアルドステロンが欠乏する。アルドステロンは遠位尿細管・集合管でNa再吸収とK排泄を促すホルモンであるため、その欠乏によってNaは尿中へ失われ続け、低ナトリウム血症と高カリウム血症をきたす。循環血液量が減っていても腎がNaを保持できないので、尿中Naは高値となる。加えて、コルチゾール欠乏によりADH分泌が抑制されにくくなり、水の排泄が低下することも低ナトリウム血症を助長する。
- ×d. 尿細管障害
尿細管はNaを再吸収する場であり、ここが障害されると濾過されたNaを十分に取り戻せず、尿中へ失われる(塩類喪失)。その結果、体内のNaが不足して低ナトリウム血症となるが、腎がNaを保持できない状態であるため尿中Na排泄はむしろ増加する。尿細管間質性腎炎や急性尿細管壊死の回復期などでみられる。
- ×e. ループ利尿薬の内服
ループ利尿薬(フロセミドなど)は、Henleループの太い上行脚にあるNa-K-2Cl共輸送体を阻害してNa再吸収を抑える。このため薬の作用中は尿中へのNa排泄が増加し、尿中Naは高値となる。なお、利尿薬で低ナトリウム血症をきたしやすいのは、尿の濃縮能を大きく損なわないサイアザイド系利尿薬のほうであるが、いずれにしても腎からNaが失われる病態であり、尿中Na排泄低下には当たらない。
低ナトリウム血症の鑑別の流れ
1. まず血漿浸透圧を確認し、高血糖(浸透圧は正常〜高値)や脂質異常・高蛋白血症による偽性低ナトリウム血症を除外する。 2. 低浸透圧性低ナトリウム血症であれば、細胞外液量(脱水か、浮腫があるか、どちらでもないか)と尿中Naを組み合わせて原因を絞る。
細胞外液量と尿中Naによる整理
・細胞外液量減少+尿中Na低値(腎外性喪失): 嘔吐、下痢、熱傷、大量発汗、膵炎などでのサードスペースへの移行 ・細胞外液量減少+尿中Na高値(腎性喪失): 利尿薬、塩類喪失性腎症(尿細管障害)、Addison病などのミネラルコルチコイド欠乏、中枢性塩類喪失症候群 ・細胞外液量ほぼ正常+尿中Na高値: SIADH、副腎皮質機能低下症(コルチゾール欠乏)、甲状腺機能低下症 ・細胞外液量ほぼ正常+尿中Na低値: 心因性多飲(大量の水摂取)、ビール多飲や極端な低栄養など溶質摂取が少ない場合 ・細胞外液量増加(浮腫)+尿中Na低値: 心不全、肝硬変、ネフローゼ症候群 ・細胞外液量増加+尿中Na高値: 腎不全(腎がNaも水も調節できない)
有効循環血液量という考え方
浮腫性疾患では、体全体としての水やNaは過剰であるにもかかわらず、動脈系を満たして臓器を灌流する有効循環血液量が減少している。心不全では心拍出量の低下、肝硬変では内臓血管の拡張と腹水、ネフローゼ症候群では低アルブミン血症による血管外への水分移動がその原因となる。腎は有効循環血液量を基準に働くため、RAA系・交感神経・ADHが活性化し、Naと水の両方を貯留する。水の貯留がNaの貯留を上回ると希釈性の低ナトリウム血症になり、尿中Naは低値を示す。
注意点
利尿薬を使用している患者では、尿中Naは薬の影響で高くなるため評価が難しい。そのような場合には尿中尿酸や尿素の排泄率を参考にすることもある。肝硬変や心不全の患者は利尿薬を併用していることが多い点にも注意が必要である。
POINT
・低ナトリウム血症は、血漿浸透圧 → 細胞外液量 → 尿中Na の順に評価して原因を絞り込む。 ・尿中Na低値(おおむね20 mEq/L未満)は、腎が正常で有効循環血液量が減少しNaを保持している状態を示す。 ・尿中Na低値の低ナトリウム血症: 腎外性喪失(嘔吐・下痢・熱傷)、浮腫性疾患(心不全・肝硬変・ネフローゼ症候群)。 ・尿中Na高値の低ナトリウム血症: SIADH、Addison病(ミネラルコルチコイド欠乏)、利尿薬、尿細管障害(塩類喪失性腎症)、腎不全。 ・SIADHは循環血液量が軽度増加するためRAA系が抑制され、尿中Naは20 mEq/L以上となる。
