StudyMed医師国家試験

産声が循環を変える―胎児循環から新生児循環へ、左房圧が上がる理由

第108回医師国家試験 G問題 第23問

国試問題にチャレンジ

第108回 G問題 第23問

生後6日の健常新生児における循環動態について出生前と比較して正しいのはどれか。

  1. a.肺血流量は減少する。
  2. b.左心房圧は上昇する。
  3. c.肺血管抵抗は上昇する。
  4. d.大動脈拡張期圧は低下する。
  5. e.動脈管は開存したままである。

対話形式の解説

ドクタードクター
今回は、胎児循環が出生をきっかけにどう成人型の循環へ切り替わるかを問う問題だよ。ポイントは出生時に起こる2つの大きな出来事、つまり「呼吸の開始」と「臍帯の結紮」。この2つで圧と抵抗がどう動くかを順に追えば、選択肢は自然に整理できる。まず、胎児の肺はどんな状態にあるか覚えているかな。
医学生医学生
発生学の講義で、胎児の肺は羊水で満たされていて、ガス交換は胎盤がやっていると習いました。
ドクタードクター
その通り。肺が換気されていないから肺胞の酸素分圧は低く、肺血管は低酸素性肺血管収縮で強く締まっている。だから肺血管抵抗はとても高い。一方、胎盤は抵抗の低い大きな血管床で、体循環に並列につながっているから、体血管抵抗は低いんだ。
医学生医学生
肺に血液が行きにくいから、卵円孔と動脈管で肺をバイパスしているわけですね。
ドクタードクター
そう。右房に戻った酸素化血の多くは卵円孔を通って左房へ、右室から肺動脈に出た血液の大部分は動脈管を通って下行大動脈へ流れる。どちらも右側の圧が高いからこそ成り立つ短絡だ。結果として、肺を流れる血液は心拍出量のごく一部にすぎない。
医学生医学生
では生まれて呼吸が始まると、肺が膨らんで酸素が入るので、肺血管抵抗は下がるんですよね。ということは肺血流量は増える……でも、肺血管抵抗が上がる、という選択肢でちょっと迷いました。
ドクタードクター
迷いやすいところだね。でも理屈で考えれば明快だよ。肺が空気で広がる機械的な効果、肺胞酸素分圧の上昇、pHの上昇、NOなどの血管拡張物質の産生が重なって、肺血管は一気に拡張する。抵抗は急激に下がり、その後も数週間かけて肺小動脈の平滑筋が薄くなってさらに下がっていく。だから肺血管抵抗の上昇も、肺血流量の減少も誤りだ。
医学生医学生
肺血流が増えると、肺静脈から左房へ戻る血液も増えますね。それで左房圧が上がる、が正解でしょうか。
ドクタードクター
正解。そこに臍帯結紮の効果が加わる。胎盤からの臍静脈還流がなくなるので、下大静脈から右房へ戻る血液は減って右房圧は下がる。左房圧が上がり右房圧が下がる、つまり胎児期とは逆に左房圧が右房圧を上回るんだ。
医学生医学生
その圧較差で一次中隔が二次中隔に押しつけられて、卵円孔が機能的に閉じるんですね。解剖実習で見た卵円窩の由来がやっとつながりました。
ドクタードクター
いい結びつけ方だね。次は大動脈の拡張期圧。臍帯結紮で低抵抗の胎盤循環が切り離されると、体血管抵抗はどうなる?
医学生医学生
逃げ道がなくなるので上がります。だから拡張期圧も低下ではなく上昇ですね。
ドクタードクター
その通り。さらに胎児期には拡張期にも大動脈から血液が逃げる経路があったけれど、動脈管が閉じればそれもなくなる。逆に動脈管開存症では、大動脈から肺動脈へ拡張期にも血液が流れ続けるから、拡張期圧が下がって脈圧が大きくなる。小児科の実習で聴いた連続性雑音と反跳脈はこれが理由なんだ。
医学生医学生
動脈管は生後6日ならもう閉じているんですか。
ドクタードクター
健常児なら多くは生後2〜3日以内に機能的に閉鎖する。動脈血酸素分圧が上がることと、胎盤由来だったプロスタグランジンE2が減ることで、動脈管の平滑筋が収縮するんだ。その後、内膜の肥厚と線維化で2〜3週ほどかけて器質的に閉鎖し、動脈管索になる。だから開存したままというのは誤り。
医学生医学生
肺血管抵抗が下がって肺血流が増え、体血管抵抗が上がって大動脈圧が上がり、左右の圧が逆転して短絡が閉じる、という一続きの流れなんですね。
ドクタードクター
完璧なまとめだ。最後に臨床とのつながりを押さえよう。肺動脈閉鎖や左心低形成症候群のような動脈管依存性の先天性心疾患では、動脈管が閉じると肺血流や体血流が保てなくなるから、プロスタグランジンE1製剤で動脈管を開いておく。反対に未熟児の動脈管開存症には、インドメタシンやイブプロフェンといったプロスタグランジン合成阻害薬で閉鎖を促すんだ。
医学生医学生
薬理の講義でPGE1とインドメタシンが逆向きの使い方をすると習ったのは、こういう場面なんですね。肺血管抵抗が下がらない場合はどうなりますか。
ドクタードクター
それが新生児遷延性肺高血圧症、PPHNだ。肺血管抵抗が高いままだと、卵円孔や動脈管を介した右左短絡が続いてチアノーゼが出る。NICUでは酸素投与や一酸化窒素吸入で肺血管を広げる治療を行う。正常な移行を理解しておくと、こうした病態の意味もすっと入ってくるはずだよ。

まとめ

出生時には、呼吸の開始によって肺血管抵抗が急激に低下して肺血流量が増え、臍帯の結紮によって低抵抗の胎盤循環が失われて体血管抵抗と大動脈圧(拡張期圧を含む)が上昇します。肺静脈還流の増加で左房圧が上昇し、臍静脈還流の途絶で右房圧が低下するため、左房圧が右房圧を上回って卵円孔が機能的に閉鎖します。動脈管は酸素分圧の上昇とプロスタグランジンE2の低下により生後数日で機能的に、2〜3週で器質的に閉鎖し、健常児では生後6日には成人型の直列循環がほぼ完成しています。この移行を理解しておくと、動脈管依存性心疾患へのPGE1投与、未熟児動脈管開存症へのインドメタシン投与、新生児遷延性肺高血圧症によるチアノーゼといった新生児医療の重要な場面を、病態生理から説明できるようになります。

解答・解説

正解はbです

胎児循環から新生児循環(成人型循環)への移行を、出生時に起こる二つの大きな変化から理解する問題である。

胎児循環の特徴

胎児はガス交換を胎盤で行い、肺は液体で満たされて換気されていない。そのため肺血管は低酸素により強く収縮しており、肺血管抵抗は高い。一方、胎盤は血管抵抗の低い大きな血管床であり、これが体循環に並列につながっているため体血管抵抗は低い。この結果、以下のような短絡路を通る血流が成立している。 ・卵円孔:胎盤から臍静脈・静脈管・下大静脈を経て戻る酸素化された血液の多くが、右房から卵円孔を通って左房へ流れる(右房圧>左房圧)。 ・動脈管:右室から肺動脈へ駆出された血液の大部分は、抵抗の高い肺に向かわず、動脈管を通って下行大動脈へ流れる(肺動脈圧>大動脈圧)。 このため、肺を流れる血液は心拍出量のごく一部にすぎず、肺静脈から左房に戻る血液も少ない。

出生時に起こる変化

1.呼吸の開始:肺が空気で膨らみ、肺胞の酸素分圧が上昇し、pHも上昇することで肺血管が拡張し、肺血管抵抗が急激に低下する。肺血流量は大きく増加し、肺静脈から左房へ戻る血液が増えて左房圧が上昇する。 2.臍帯の結紮:低抵抗の胎盤循環が切り離されるため体血管抵抗が上昇し、大動脈圧が上昇する。同時に臍静脈からの還流がなくなり、下大静脈から右房へ戻る血液が減って右房圧が低下する。 この二つの結果として左房圧>右房圧となり、卵円孔の弁(一次中隔)が二次中隔に押しつけられて機能的に閉鎖する。また大動脈圧>肺動脈圧となって動脈管の血流は逆転し、さらに動脈血酸素分圧の上昇とプロスタグランジンE2の低下によって動脈管平滑筋が収縮し、生後数日以内に機能的に閉鎖する。生後6日の健常新生児では、これらの移行がほぼ完了し、肺循環と体循環が直列につながった成人型の循環になっている。

選択肢考察

  1. ×a.  肺血流量は減少する。

    胎児期には肺血管抵抗が高く、右室の拍出の大部分は動脈管を通って大動脈へ流れるため、肺を通る血液は心拍出量のごく一部に限られる。出生後は換気の開始によって肺血管抵抗が低下し、さらに動脈管・卵円孔が閉鎖して右心系の血液はすべて肺を通るようになるので、肺血流量は大きく増加する。減少するのではない。

  2. ○b.  左心房圧は上昇する。

    出生後に肺血流量が大きく増えると、肺静脈を通って左房へ戻る血液量が増加し、左房圧が上昇する。一方、臍帯結紮によって胎盤からの静脈還流が途絶えるため、下大静脈を経て右房へ戻る血液は減り、右房圧は低下する。こうして胎児期とは逆に左房圧>右房圧となり、この圧較差が卵円孔を機能的に閉鎖させる原動力となる。

  3. ×c.  肺血管抵抗は上昇する。

    肺血管抵抗は出生後に低下する。胎児期の肺血管は、肺胞が液体で満たされていることと低酸素による肺血管の収縮(低酸素性肺血管収縮)によって高い抵抗を保っている。出生時の呼吸開始により、肺の機械的な拡張、肺胞酸素分圧の上昇、pHの上昇、一酸化窒素(NO)などの血管拡張物質の産生が起こり、肺血管は拡張して抵抗は急速に低下する。その後も数週間かけて肺小動脈の平滑筋が薄くなり、抵抗はさらに低下していく。なお、この低下がうまく起こらない病態が新生児遷延性肺高血圧症(PPHN)である。

  4. ×d.  大動脈拡張期圧は低下する。

    大動脈拡張期圧は出生後に上昇する。胎児期には、血管抵抗の低い胎盤循環が体循環に並列につながっていることに加え、拡張期にも大動脈から血液が逃げていく経路があるため、拡張期圧は低い。出生後は臍帯結紮で胎盤循環が失われて体血管抵抗が上昇し、さらに動脈管が閉鎖して大動脈から肺動脈側への血液の流出路もなくなるため、拡張期圧は上昇する。逆に、動脈管開存症では大動脈から肺動脈へ拡張期にも血液が流出するため、拡張期圧が低下し脈圧が大きくなる(反跳脈)。

  5. ×e.  動脈管は開存したままである。

    健常新生児では、動脈管は出生後まもなく収縮を始め、生後数日(多くは2〜3日以内)で機能的に閉鎖する。閉鎖を促す主な因子は、動脈血酸素分圧の上昇と、胎盤由来および肺で代謝されずに残っていたプロスタグランジンE2(動脈管を開いておく物質)の血中濃度の低下である。その後、内膜の肥厚と線維化によって生後2〜3週ほどで器質的に閉鎖し、動脈管索となる。したがって生後6日の健常新生児では、動脈管は閉鎖している。

胎児循環の短絡路と出生後の変化

・静脈管(Arantius管):臍静脈血の一部を肝臓を迂回させて下大静脈へ送る。出生後に閉鎖し静脈管索となる。 ・卵円孔:右房→左房の短絡。出生後、左房圧>右房圧となり機能的に閉鎖し、のちに癒合して卵円窩となる(成人の約4分の1では癒合が不完全で卵円孔開存が残る)。 ・動脈管:肺動脈→大動脈の短絡。生後数日で機能的閉鎖、2〜3週で器質的閉鎖し動脈管索となる。 ・臍動脈:閉鎖して内側臍索となる(近位部は上膀胱動脈として残る)。 ・臍静脈:閉鎖して肝円索となる。

出生前後の主な指標の変化

・肺血管抵抗:高い → 低下 ・肺血流量:少ない → 増加 ・体血管抵抗:低い(胎盤循環のため) → 上昇 ・大動脈圧(拡張期圧を含む):上昇 ・左房圧:上昇、右房圧:低下 ・動脈管・卵円孔:開存 → 機能的閉鎖

臨床との関連

・動脈管依存性の先天性心疾患(肺動脈閉鎖、左心低形成症候群、大動脈縮窄複合など)では、動脈管が閉じると肺血流または体血流が保てなくなるため、プロスタグランジンE1製剤を投与して動脈管を開存させる。 ・未熟児の動脈管開存症では、インドメタシンやイブプロフェンなどのプロスタグランジン合成阻害薬で閉鎖を促す。 ・新生児遷延性肺高血圧症(PPHN)では肺血管抵抗が下がらず、卵円孔・動脈管を介した右→左短絡が続いてチアノーゼをきたす。

POINT

・出生時の二大変化:呼吸開始による肺血管抵抗の低下と、臍帯結紮による胎盤循環の途絶(体血管抵抗の上昇)。 ・肺血流量は増加し、肺静脈還流の増加で左房圧が上昇、右房圧は低下して卵円孔が機能的に閉鎖する。 ・大動脈圧(拡張期圧を含む)は出生後に上昇する。 ・動脈管は酸素分圧上昇とPGE2低下により生後数日で機能的閉鎖、2〜3週で器質的閉鎖する。

※問題・正答は厚生労働省の公開資料をもとに掲載しています。