産声が循環を変える―胎児循環から新生児循環へ、左房圧が上がる理由
第108回医師国家試験 G問題 第23問
国試問題にチャレンジ
生後6日の健常新生児における循環動態について出生前と比較して正しいのはどれか。
- a.肺血流量は減少する。
- b.左心房圧は上昇する。
- c.肺血管抵抗は上昇する。
- d.大動脈拡張期圧は低下する。
- e.動脈管は開存したままである。
対話形式の解説
ドクター
医学生
ドクター
医学生
ドクター
医学生
ドクター
医学生
ドクター
医学生
ドクター
医学生
ドクター
医学生
ドクター
医学生
ドクター
医学生
ドクターまとめ
出生時には、呼吸の開始によって肺血管抵抗が急激に低下して肺血流量が増え、臍帯の結紮によって低抵抗の胎盤循環が失われて体血管抵抗と大動脈圧(拡張期圧を含む)が上昇します。肺静脈還流の増加で左房圧が上昇し、臍静脈還流の途絶で右房圧が低下するため、左房圧が右房圧を上回って卵円孔が機能的に閉鎖します。動脈管は酸素分圧の上昇とプロスタグランジンE2の低下により生後数日で機能的に、2〜3週で器質的に閉鎖し、健常児では生後6日には成人型の直列循環がほぼ完成しています。この移行を理解しておくと、動脈管依存性心疾患へのPGE1投与、未熟児動脈管開存症へのインドメタシン投与、新生児遷延性肺高血圧症によるチアノーゼといった新生児医療の重要な場面を、病態生理から説明できるようになります。
解答・解説
正解はbです
胎児循環から新生児循環(成人型循環)への移行を、出生時に起こる二つの大きな変化から理解する問題である。
胎児循環の特徴
胎児はガス交換を胎盤で行い、肺は液体で満たされて換気されていない。そのため肺血管は低酸素により強く収縮しており、肺血管抵抗は高い。一方、胎盤は血管抵抗の低い大きな血管床であり、これが体循環に並列につながっているため体血管抵抗は低い。この結果、以下のような短絡路を通る血流が成立している。 ・卵円孔:胎盤から臍静脈・静脈管・下大静脈を経て戻る酸素化された血液の多くが、右房から卵円孔を通って左房へ流れる(右房圧>左房圧)。 ・動脈管:右室から肺動脈へ駆出された血液の大部分は、抵抗の高い肺に向かわず、動脈管を通って下行大動脈へ流れる(肺動脈圧>大動脈圧)。 このため、肺を流れる血液は心拍出量のごく一部にすぎず、肺静脈から左房に戻る血液も少ない。
出生時に起こる変化
1.呼吸の開始:肺が空気で膨らみ、肺胞の酸素分圧が上昇し、pHも上昇することで肺血管が拡張し、肺血管抵抗が急激に低下する。肺血流量は大きく増加し、肺静脈から左房へ戻る血液が増えて左房圧が上昇する。 2.臍帯の結紮:低抵抗の胎盤循環が切り離されるため体血管抵抗が上昇し、大動脈圧が上昇する。同時に臍静脈からの還流がなくなり、下大静脈から右房へ戻る血液が減って右房圧が低下する。 この二つの結果として左房圧>右房圧となり、卵円孔の弁(一次中隔)が二次中隔に押しつけられて機能的に閉鎖する。また大動脈圧>肺動脈圧となって動脈管の血流は逆転し、さらに動脈血酸素分圧の上昇とプロスタグランジンE2の低下によって動脈管平滑筋が収縮し、生後数日以内に機能的に閉鎖する。生後6日の健常新生児では、これらの移行がほぼ完了し、肺循環と体循環が直列につながった成人型の循環になっている。
選択肢考察
- ×a. 肺血流量は減少する。
胎児期には肺血管抵抗が高く、右室の拍出の大部分は動脈管を通って大動脈へ流れるため、肺を通る血液は心拍出量のごく一部に限られる。出生後は換気の開始によって肺血管抵抗が低下し、さらに動脈管・卵円孔が閉鎖して右心系の血液はすべて肺を通るようになるので、肺血流量は大きく増加する。減少するのではない。
- ○b. 左心房圧は上昇する。
出生後に肺血流量が大きく増えると、肺静脈を通って左房へ戻る血液量が増加し、左房圧が上昇する。一方、臍帯結紮によって胎盤からの静脈還流が途絶えるため、下大静脈を経て右房へ戻る血液は減り、右房圧は低下する。こうして胎児期とは逆に左房圧>右房圧となり、この圧較差が卵円孔を機能的に閉鎖させる原動力となる。
- ×c. 肺血管抵抗は上昇する。
肺血管抵抗は出生後に低下する。胎児期の肺血管は、肺胞が液体で満たされていることと低酸素による肺血管の収縮(低酸素性肺血管収縮)によって高い抵抗を保っている。出生時の呼吸開始により、肺の機械的な拡張、肺胞酸素分圧の上昇、pHの上昇、一酸化窒素(NO)などの血管拡張物質の産生が起こり、肺血管は拡張して抵抗は急速に低下する。その後も数週間かけて肺小動脈の平滑筋が薄くなり、抵抗はさらに低下していく。なお、この低下がうまく起こらない病態が新生児遷延性肺高血圧症(PPHN)である。
- ×d. 大動脈拡張期圧は低下する。
大動脈拡張期圧は出生後に上昇する。胎児期には、血管抵抗の低い胎盤循環が体循環に並列につながっていることに加え、拡張期にも大動脈から血液が逃げていく経路があるため、拡張期圧は低い。出生後は臍帯結紮で胎盤循環が失われて体血管抵抗が上昇し、さらに動脈管が閉鎖して大動脈から肺動脈側への血液の流出路もなくなるため、拡張期圧は上昇する。逆に、動脈管開存症では大動脈から肺動脈へ拡張期にも血液が流出するため、拡張期圧が低下し脈圧が大きくなる(反跳脈)。
- ×e. 動脈管は開存したままである。
健常新生児では、動脈管は出生後まもなく収縮を始め、生後数日(多くは2〜3日以内)で機能的に閉鎖する。閉鎖を促す主な因子は、動脈血酸素分圧の上昇と、胎盤由来および肺で代謝されずに残っていたプロスタグランジンE2(動脈管を開いておく物質)の血中濃度の低下である。その後、内膜の肥厚と線維化によって生後2〜3週ほどで器質的に閉鎖し、動脈管索となる。したがって生後6日の健常新生児では、動脈管は閉鎖している。
胎児循環の短絡路と出生後の変化
・静脈管(Arantius管):臍静脈血の一部を肝臓を迂回させて下大静脈へ送る。出生後に閉鎖し静脈管索となる。 ・卵円孔:右房→左房の短絡。出生後、左房圧>右房圧となり機能的に閉鎖し、のちに癒合して卵円窩となる(成人の約4分の1では癒合が不完全で卵円孔開存が残る)。 ・動脈管:肺動脈→大動脈の短絡。生後数日で機能的閉鎖、2〜3週で器質的閉鎖し動脈管索となる。 ・臍動脈:閉鎖して内側臍索となる(近位部は上膀胱動脈として残る)。 ・臍静脈:閉鎖して肝円索となる。
出生前後の主な指標の変化
・肺血管抵抗:高い → 低下 ・肺血流量:少ない → 増加 ・体血管抵抗:低い(胎盤循環のため) → 上昇 ・大動脈圧(拡張期圧を含む):上昇 ・左房圧:上昇、右房圧:低下 ・動脈管・卵円孔:開存 → 機能的閉鎖
臨床との関連
・動脈管依存性の先天性心疾患(肺動脈閉鎖、左心低形成症候群、大動脈縮窄複合など)では、動脈管が閉じると肺血流または体血流が保てなくなるため、プロスタグランジンE1製剤を投与して動脈管を開存させる。 ・未熟児の動脈管開存症では、インドメタシンやイブプロフェンなどのプロスタグランジン合成阻害薬で閉鎖を促す。 ・新生児遷延性肺高血圧症(PPHN)では肺血管抵抗が下がらず、卵円孔・動脈管を介した右→左短絡が続いてチアノーゼをきたす。
POINT
・出生時の二大変化:呼吸開始による肺血管抵抗の低下と、臍帯結紮による胎盤循環の途絶(体血管抵抗の上昇)。 ・肺血流量は増加し、肺静脈還流の増加で左房圧が上昇、右房圧は低下して卵円孔が機能的に閉鎖する。 ・大動脈圧(拡張期圧を含む)は出生後に上昇する。 ・動脈管は酸素分圧上昇とPGE2低下により生後数日で機能的閉鎖、2〜3週で器質的閉鎖する。
