寝ているだけで骨が溶ける?―廃用症候群で「ただ一つ増えるもの」を見抜く
第108回医師国家試験 G問題 第19問
国試問題にチャレンジ
長期の安静臥床により増加するのはどれか。
- a.筋肉量
- b.肺活量
- c.心拍出量
- d.関節可動域
- e.血清Ca濃度
対話形式の解説
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医学生
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ドクターまとめ
長期の安静臥床では廃用症候群が生じ、筋肉量、肺活量、心拍出量、関節可動域など「使うことで維持される」機能の多くが低下します。その中で例外的に増加するのが血清Ca濃度で、荷重の消失により骨形成が低下し骨吸収が亢進するため、骨から溶け出したCaが血中と尿中に増え、不動性高カルシウム血症や尿路結石の原因となります。なお安静時心拍数は増えますが、循環血漿量と1回拍出量の低下を補いきれず心拍出量は減少し、起立性低血圧も起こりやすくなります。ほかにも深部静脈血栓症、褥瘡、無気肺・肺炎、耐糖能低下などが重要な合併症です。廃用症候群は回復に時間がかかるため、早期離床と早期リハビリテーションによる予防が臨床の基本となります。
解答・解説
正解はeです
本問は、長期の安静臥床(寝たきり)によって体にどのような変化が起こるか、すなわち廃用症候群の理解を問う一般問題である。 廃用症候群とは、病気やけがの治療のための安静、あるいは活動性の低下によって心身を使わない状態が続いた結果、全身の臓器に生じる二次的な機能低下の総称である(生活不活発病とも呼ばれる)。人体の多くの機能は「使うことで維持される」ため、臥床が続くと筋肉、骨、関節、心肺、自律神経、皮膚、精神機能などが次々に衰える。 このため、選択肢の大半(筋肉量、肺活量、心拍出量、関節可動域)はいずれも「減少」する方向に変化する。その中で唯一「増加」するのが血清カルシウム(Ca)濃度である。考え方の鍵は骨である。骨は体重負荷や筋収縮による力学的刺激を受けて骨形成が保たれているが、臥床で荷重がなくなると骨形成が低下し、破骨細胞による骨吸収が亢進する。その結果、骨に貯えられていた Ca が血中へ溶け出し、血清 Ca と尿中 Ca が増える。この「機能が落ちるものが大半で、骨から出てくる Ca だけが増える」という対比を押さえれば解ける。
選択肢考察
- ×a. 筋肉量
減少するため誤りである。骨格筋は収縮して負荷を受けることで量と力が保たれる。臥床で使われなくなると筋蛋白の分解が合成を上回り、筋線維が細くなる(廃用性筋萎縮)。筋力は完全な安静下で1日あたり数%ずつ、1週間で10〜15%程度低下するとされ、特に体重を支える下肢の抗重力筋(大腿四頭筋、下腿三頭筋など)や体幹の筋で目立つ。高齢者では短期間の臥床でも歩行能力の低下につながりやすい。
- ×b. 肺活量
減少するため誤りである。臥位では腹部臓器が横隔膜を胸腔側へ押し上げ、胸郭の動きも制限されるため、肺の広がりが小さくなる。さらに呼吸筋の筋力低下、痰の喀出力の低下、気道分泌物の貯留により、背側の肺に無気肺(肺胞がつぶれて空気が入らない状態)が生じやすい。これらの結果、肺活量は減少し、誤嚥とあいまって肺炎(沈下性肺炎)の危険も高まる。
- ×c. 心拍出量
減少するため誤りである。臥位になると下肢の血液が胸部に戻り、体はこれを体液過剰と感じて利尿が進むため、循環血漿量が減少する。加えて心筋の萎縮(デコンディショニング)で1回拍出量が低下する。安静時心拍数はむしろ増加するが、1回拍出量の低下を補いきれず、心拍出量や運動耐容能(最大酸素摂取量)は低下する。循環血漿量の減少と自律神経の反射の鈍化により、起き上がったときに血圧が下がる起立性低血圧(起立不耐性)も起こりやすい。
- ×d. 関節可動域
減少するため誤りである。関節を動かさない状態が続くと、関節包、靱帯、筋、皮膚などの軟部組織が短縮・癒着して柔軟性を失い、関節の動く範囲が狭くなる(関節拘縮)。拘縮は数日〜数週間の不動でも生じ始め、いったん完成すると回復に長期間を要する。予防のため、臥床中から良肢位の保持と他動的な関節可動域訓練を行うことが重要である。
- ○e. 血清Ca濃度
増加するため正しい。骨は力学的負荷を受けることで骨形成と骨吸収のバランスが保たれている。臥床により荷重がなくなると、骨芽細胞による骨形成が低下し、破骨細胞による骨吸収が亢進する(不動性骨粗鬆症、廃用性骨萎縮)。骨から溶け出した Ca が血中に増え、血清 Ca 濃度が上昇しうる(不動性高カルシウム血症)。同時に尿中 Ca 排泄も増加するため、尿路結石の原因にもなる。骨の代謝回転がもともと活発な若年者、脊髄損傷や広範な外傷後の患者で起こりやすい。高カルシウム血症が高度になると、食欲不振、悪心、便秘、多尿、意識障害などが現れる。
廃用症候群で生じる主な変化(臓器別)
・運動器: 筋萎縮・筋力低下、関節拘縮、骨粗鬆症(骨量減少) ・循環器: 循環血漿量の減少、心拍出量・運動耐容能の低下、安静時頻脈、起立性低血圧、深部静脈血栓症(静脈血のうっ滞による)とそれに続く肺血栓塞栓症 ・呼吸器: 肺活量の減少、無気肺、誤嚥性肺炎・沈下性肺炎 ・消化器: 食欲低下、便秘 ・泌尿器: 尿路感染症、尿路結石(尿中 Ca 排泄増加による)、尿失禁 ・代謝・内分泌: 耐糖能の低下(インスリン抵抗性の増大)、高カルシウム血症・高カルシウム尿症、負の窒素バランス ・皮膚: 褥瘡(仙骨部、大転子部、踵部など骨の突出部に好発) ・神経・精神: 圧迫による末梢神経障害(腓骨神経麻痺など)、抑うつ、認知機能の低下、せん妄
予防の基本
廃用症候群は「一度起こると回復に時間がかかる」ため、予防が最も重要である。病状が許す範囲での早期離床・早期リハビリテーション、臥床中の体位変換(褥瘡予防)、関節可動域訓練、筋力維持訓練、深呼吸・排痰の促進、弾性ストッキングなどによる血栓予防を行う。
POINT
・長期臥床(廃用症候群)では、筋肉量、肺活量、心拍出量、関節可動域など多くの機能が低下する。 ・荷重の消失で骨吸収が亢進し、血清 Ca と尿中 Ca が増加する(不動性高カルシウム血症、尿路結石の原因)。 ・安静時心拍数も増加するが、1回拍出量と心拍出量は低下する。 ・起立性低血圧、深部静脈血栓症、褥瘡、無気肺・肺炎も重要な合併症である。 ・予防の基本は早期離床と早期リハビリテーションである。
