羊水は何を語るのか―「成分」でわかる病気と「かたち」でわかる病気
第108回医師国家試験 G問題 第17問
国試問題にチャレンジ
羊水検査で診断できるのはどれか。
- a.胎児小頭症
- b.胎児発育不全
- c.胎児溶血性疾患
- d.先天性食道閉鎖症
- e.先天性横隔膜ヘルニア
対話形式の解説
ドクター
医学生
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医学生まとめ
羊水検査は羊水中の胎児細胞や化学成分、病原体を調べる検査で、染色体異常、胎児溶血性疾患、神経管閉鎖不全、胎児肺成熟度、胎内感染の評価に用いられます。胎児溶血性疾患では、溶血で生じたビリルビンが羊水中に移行するため、450 nmの吸光度上昇(ΔOD450)から重症度を推定できます。一方、小頭症や胎児発育不全、食道閉鎖、横隔膜ヘルニアといった大きさや形の異常は超音波検査で診断し、食道閉鎖では羊水過多と胃泡の縮小・消失、横隔膜ヘルニアでは胸腔内の胃泡と縦隔偏位が手がかりになります。なお現在、胎児貧血の評価は非侵襲的な超音波ドプラによるMCA-PSVが主流です。「成分は羊水、かたちはエコー」と検査の役割を区別しておくことが、出生前診断を理解する土台になります。
解答・解説
正解はcです
本問は、出生前診断の方法として羊水検査と超音波検査の役割を区別できるかを問う一般問題である。 羊水検査は、経腹的に子宮内へ針を刺して羊水を採取し(羊水穿刺)、その中に含まれる物質や胎児由来の細胞を調べる検査である。羊水には胎児の尿、肺からの分泌液、皮膚などから剥がれた細胞が含まれるので、主に次のことがわかる。 ・羊水中の胎児細胞を培養・解析して得る染色体や遺伝子の情報(染色体異常、一部の遺伝性疾患) ・羊水中の化学成分の情報(ビリルビン様色素、α-フェトプロテイン、肺成熟度の指標となるリン脂質など) ・病原体の検出(ウイルス感染、子宮内感染) 一方、頭の大きさ、体重の推定、臓器の位置や形の異常といった「形態」の異常は、羊水の成分からは判断できず、超音波検査(胎児エコー)で直接観察して診断する。 選択肢のうち、羊水の成分変化として現れるのは胎児溶血性疾患だけである。胎児の赤血球が壊されると生じたビリルビンが羊水中に移行し、その量を分光光度計で測ることで溶血の程度を推定できる。他の4つはいずれも形態・計測上の異常であり、超音波検査で診断する。
選択肢考察
- ×a. 胎児小頭症
羊水検査では診断できない。小頭症は頭部の大きさの異常であり、超音波検査で児頭大横径(BPD、左右の頭頂骨間の最大径)や頭囲を計測して評価する。腹囲や大腿骨長が週数相当であるのに頭部の計測値だけが著しく小さい場合に疑われる。原因として染色体異常や先天性感染(サイトメガロウイルス、ジカウイルスなど)があり、原因検索の目的で羊水検査を行うことはあるが、小頭症そのものを羊水から診断することはできない。
- ×b. 胎児発育不全
羊水検査では診断できない。胎児発育不全(FGR: fetal growth restriction)は、超音波検査で BPD、腹囲、大腿骨長を計測して胎児推定体重を算出し、日本の基準では妊娠週数に対する推定体重が -1.5 SD 以下の場合に診断する。発育の経過を追うこと、羊水量や臍帯動脈血流の評価も超音波で行う。染色体異常が原因として疑われる場合に羊水検査を追加することはあるが、FGR の診断自体は計測による。
- ○c. 胎児溶血性疾患
羊水検査で診断できる。胎児溶血性疾患(代表は Rh(D)不適合妊娠による胎児・新生児溶血性疾患)では、母体の抗体(IgG)が胎盤を通過して胎児の赤血球を壊し、生じたビリルビンが羊水中に移行する。ビリルビンは波長 450 nm 付近の光を吸収するため、羊水の吸光度曲線を描いて 450 nm での基線からの上昇分(ΔOD450)を求めると、羊水中のビリルビン量、すなわち溶血の程度を推定できる。この値を妊娠週数とともに Liley の図表にあてはめ、重症度を判定して胎児輸血や分娩時期の決定に用いてきた。なお現在は、侵襲のない超音波ドプラ法で胎児中大脳動脈の収縮期最高血流速度(MCA-PSV)を測定し、胎児貧血を推定する方法が主流になっている(貧血では血液の粘稠度が下がり、脳への血流速度が増す)。
- ×d. 先天性食道閉鎖症
羊水検査では診断できない。胎児は羊水を飲み込み、消化管で吸収することで羊水量の調節に関わっている。食道が閉鎖していると羊水を飲み込めないため羊水過多となる。超音波検査で羊水過多があり、胃泡(胃の中の液体による無エコー像)が小さい、または見えない場合に疑う。閉鎖部より口側の食道が拡張して袋状に見えること(上部食道盲端の拡張)も手がかりとなる。気管食道瘻を伴う型では胃泡が見えることもあり、出生前の確定診断は難しい場合がある。いずれにせよ、羊水の成分から診断するものではない。
- ×e. 先天性横隔膜ヘルニア
羊水検査では診断できない。横隔膜の欠損部から腹部臓器(胃、腸管、肝臓など)が胸腔内に脱出する疾患であり、超音波検査で胸腔内に胃泡や腸管を認め、心臓が反対側へ押しやられている(縦隔偏位)ことから診断する。左側に多い。肺が圧迫されて肺低形成をきたすため、予後の推定には超音波による肺の大きさの評価(肺頭比 LHR など)や胎児 MRI が用いられる。
羊水検査でわかること
・染色体異常: 胎児細胞の培養による核型分析、FISH法、マイクロアレイ解析など(例: 21トリソミー、18トリソミー) ・一部の遺伝性疾患や先天代謝異常の遺伝子・酵素診断 ・胎児溶血性疾患: ΔOD450 によるビリルビン様色素の測定 ・神経管閉鎖不全(開放性二分脊椎、無脳症): 羊水中 α-フェトプロテイン(AFP)の上昇、アセチルコリンエステラーゼの検出 ・胎児肺成熟度: レシチン/スフィンゴミエリン比(L/S比)、マイクロバブルテスト(安定したマイクロバブルテスト)など。肺サーファクタントの産生を反映し、早産児の呼吸窮迫症候群の危険の評価に用いられる。 ・子宮内感染・胎児感染: 病原体の PCR 検査(サイトメガロウイルスなど)、羊水中の糖・白血球数など
羊水検査の実際
通常は妊娠15〜16週以降に行う。流産などの合併症の危険は約0.3%(1/300)程度とされる。Rh(D)陰性の妊婦では、穿刺により母体が感作されるのを防ぐため抗D免疫グロブリンの投与を考慮する。
胎児貧血の評価の変遷
かつては羊水 ΔOD450 が中心であったが、現在は非侵襲的な MCA-PSV(中央値の1.5倍を超えると中等度以上の貧血を疑う)が第一選択である。確定と治療(胎児輸血)には臍帯穿刺による胎児血採取が行われる。
POINT
・羊水検査は「羊水の成分・胎児細胞」を調べる検査で、染色体異常、胎児溶血性疾患(ΔOD450)、神経管閉鎖不全(AFP)、肺成熟度(L/S比)、胎内感染の診断に用いる。 ・小頭症、胎児発育不全、食道閉鎖、横隔膜ヘルニアなどの形態・発育の異常は超音波検査で診断する。 ・食道閉鎖は羊水過多と胃泡の縮小・消失、横隔膜ヘルニアは胸腔内の胃泡と縦隔偏位が手がかり。 ・胎児貧血の評価は、現在は超音波ドプラ法による MCA-PSV が主流である。
