「動くと響く」ズキズキ頭痛―片頭痛を見抜く診断基準の読み方
第108回医師国家試験 F問題 第21問
国試問題にチャレンジ
23歳の女性。頭痛を主訴に来院した。16歳ころから頭痛を自覚していたが我慢できていた。約2年前から週1,2回程度,ズキズキする頭痛を自覚するようになった。市販の鎮痛薬を内服したが症状は改善しなかった。頭痛がないときには日常生活に支障がない。頭痛は一側の側頭部に強く,悪心を伴っていることが多いが,前兆や発熱はないという。 この疾患でみられるのはどれか。
- a.下痢
- b.肩こり
- c.四肢麻痺
- d.意識消失発作
- e.体動による頭痛の増悪
対話形式の解説
ドクター
医学生
ドクター
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ドクターまとめ
若年女性が長年くり返す片側性・拍動性の頭痛で、悪心を伴い間欠期には無症状という経過は、前兆のない片頭痛の典型像です。国際頭痛分類の診断基準では、片側性、拍動性、中等度〜重度の強さ、日常動作による増悪(または動作の回避)のうち2項目以上が求められ、体動での増悪は片頭痛に特徴的な症候です。一方、肩こりや両側性の締めつけ感、体動で悪化しない痛みは緊張型頭痛の特徴であり、四肢麻痺や意識消失は脳幹・頸髄病変やてんかん・失神を考える所見です。治療は重症度に応じて鎮痛薬やトリプタンを使い分け、発作が頻回なら予防療法を検討し、鎮痛薬の使用過多による頭痛にも注意します。一次性頭痛の特徴を比較して整理しておくことは、外来で最も多い主訴の一つである頭痛に適切に対応するための基本となります。
解答・解説
正解はeです
所見の整理
・23歳女性、思春期(16歳ころ)から続く反復性の頭痛 ・約2年前から週1〜2回の発作で、ズキズキする(拍動性) ・一側の側頭部に強い(片側性) ・悪心を伴うことが多い ・発作間欠期には日常生活に支障がない ・前兆(閃輝暗点など)なし、発熱なし ・市販の鎮痛薬が効きにくい
診断へのプロセス
長期間にわたり同じパターンの頭痛発作を繰り返し、間欠期は無症状であることから、器質的疾患による二次性頭痛よりも一次性頭痛(機能性頭痛)を考える。一次性頭痛の代表は片頭痛、緊張型頭痛、群発頭痛である。 ・片側性・拍動性で、悪心を伴い、若年女性に好発する → 片頭痛の特徴に合致する。 ・緊張型頭痛は両側性の締めつけられるような(非拍動性)頭痛で、悪心を伴わないのが原則である。 ・群発頭痛は若年〜中年男性に多く、一側の眼窩周囲の激痛が15〜180分続き、流涙・結膜充血・鼻汁などの自律神経症状を伴う。本症例とは合わない。 発熱がないことから髄膜炎など感染症に伴う頭痛も考えにくく、前兆を伴わない片頭痛(migraine without aura)と診断できる。
設問の考え方
片頭痛の診断基準(国際頭痛分類第3版: ICHD-3)では、頭痛の性状として「片側性」「拍動性」「中等度〜重度の強さ」「日常的な動作(歩行や階段昇降など)により頭痛が増悪する、あるいは頭痛のために日常的な動作を避ける」の4項目のうち2項目以上を満たすことが求められる。したがって「体動による頭痛の増悪」は片頭痛に典型的な症候である。
選択肢考察
- ×a. 下痢
成人の片頭痛発作では悪心・嘔吐はよくみられるが、下痢は典型的な症候ではない。小児では、腹痛発作を繰り返す腹部片頭痛(片頭痛の前駆病態とされる周期性症候群の一つ)がみられることがあるが、これは頭痛ではなく腹痛が主体である。また下痢と頭痛が同時にみられる場合には、感染性腸炎や腸管出血性大腸菌感染後の溶血性尿毒症症候群(HUS)などを考えるが、発熱もなく頭痛のみが長年反復する本症例には当てはまらない。
- ×b. 肩こり
肩こり・後頸部のこりは緊張型頭痛に特徴的な随伴所見であり、頭頸部の筋緊張や姿勢、精神的ストレスとの関連が指摘されている。片頭痛でも予兆期などに頸部のこりを訴えることはあるが、片頭痛を特徴づける症候としては問われない。本問では緊張型頭痛との鑑別点として押さえておく。
- ×c. 四肢麻痺
片頭痛の特殊型である片麻痺性片頭痛では、前兆として一側の運動麻痺(片麻痺)が一過性に出現することがあるが、四肢麻痺をきたすことはない。四肢麻痺は脳幹や頸髄の障害などで生じる所見である。また本症例は前兆のない片頭痛であり、麻痺はみられない。
- ×d. 意識消失発作
意識消失発作は、てんかん発作(発作後に頭痛を伴うことがある)や失神などでみられる。通常の片頭痛で意識消失をきたすことはない。まれな病型である脳幹性前兆を伴う片頭痛では前兆として意識レベルの低下が生じうるが、前兆のない片頭痛である本症例には該当しない。
- ○e. 体動による頭痛の増悪
片頭痛では、歩行や階段の昇降、頭を動かすといった日常的な動作で頭痛が増悪するため、発作中の患者は暗く静かな部屋で横になって安静にしていることを好む。この「日常的な動作による頭痛の増悪(または動作の回避)」はICHD-3の片頭痛の診断基準に含まれる項目であり、本疾患に典型的な症候である。対照的に緊張型頭痛は体動で増悪しないのが特徴である。
片頭痛の概要
・一次性頭痛の一つで、20〜40歳代の女性に多い(男性の約3〜4倍)。思春期ごろに発症することが多く、家族歴を認めることも多い。 ・病態には、三叉神経終末から放出されるカルシトニン遺伝子関連ペプチド(CGRP)などによる硬膜血管周囲の神経原性炎症と血管拡張(三叉神経血管説)が関わると考えられている。前兆は大脳皮質の皮質拡延性抑制(cortical spreading depression)によると考えられている。 ・誘因: 睡眠不足・寝過ぎ、ストレスやその解放後(週末など)、月経、空腹、アルコール(特に赤ワイン)、天候の変化など。
前兆のない片頭痛の診断基準(ICHD-3の要約)
A. B〜Dを満たす頭痛発作が5回以上ある B. 頭痛発作の持続時間は4〜72時間(未治療または治療が無効の場合) C. 次の4項目のうち2項目以上: ①片側性、②拍動性、③中等度〜重度の頭痛、④日常的な動作により頭痛が増悪する、あるいは頭痛のために日常的な動作を避ける D. 発作中に次のうち1項目以上: ①悪心または嘔吐、②光過敏および音過敏 E. ほかに最適なICHD-3の診断がない
前兆のある片頭痛
頭痛に先行して、閃輝暗点(視野にギザギザした光が現れ、その後暗点を残す)などの視覚症状、感覚症状、言語症状などが5〜60分かけて出現し、完全に回復する。
一次性頭痛の比較
・片頭痛: 片側性・拍動性、悪心・嘔吐、光・音過敏、体動で増悪、4〜72時間持続 ・緊張型頭痛: 両側性・圧迫感/締めつけ感、軽度〜中等度、体動で増悪しない、悪心なし、肩こりを伴いやすい ・群発頭痛: 一側眼窩周囲の激痛、15〜180分、群発期に連日発作、流涙・結膜充血・鼻閉/鼻汁・縮瞳や眼瞼下垂(Horner徴候)など、発作中に落ち着きなく動き回る、飲酒が誘因
治療
・急性期: 軽〜中等度ではアセトアミノフェンや非ステロイド性抗炎症薬(NSAIDs)、中等度以上や鎮痛薬無効例ではトリプタン(セロトニン5-HT1B/1D受容体作動薬)。制吐薬を併用することがある。 ・予防: 発作頻度が多い場合(本症例のように月に数回以上で支障がある場合など)に考慮し、カルシウム拮抗薬(ロメリジン)、β遮断薬(プロプラノロール)、抗てんかん薬(バルプロ酸)、抗うつ薬(アミトリプチリン)、抗CGRP関連抗体薬などを用いる。 ・鎮痛薬を頻回に使用すると薬剤の使用過多による頭痛(薬物乱用頭痛)を生じうるため注意する。
POINT
・若年女性、片側性・拍動性の反復性頭痛、悪心を伴う → 片頭痛。 ・片頭痛の特徴: 体動(日常的動作)で増悪、悪心・嘔吐、光・音過敏、4〜72時間持続。 ・肩こり・両側性締めつけ感・体動で増悪しない → 緊張型頭痛。 ・片麻痺性片頭痛で片麻痺はあるが四肢麻痺はない。 ・閃輝暗点は前兆のある片頭痛の代表的症状。
