かかとの一滴で守る未来―新生児マススクリーニングと「便色カード」の役割分担
第108回医師国家試験 E問題 第6問
国試問題にチャレンジ
新生児マススクリーニングの対象疾患に含まれないのはどれか。
- a.胆道閉鎖症
- b.ガラクトース血症
- c.フェニルケトン尿症
- d.先天性副腎皮質過形成
- e.先天性甲状腺機能低下症
対話形式の解説
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ドクターまとめ
新生児マススクリーニングは、日齢4〜6日ごろに採取したろ紙血を用いて、放置すると重い障害を残すが早期治療で予後が改善する先天性疾患を発症前に拾い上げる公的検査です。代表的な対象はフェニルケトン尿症などのアミノ酸代謝異常症、ガラクトース血症、TSHで見つける先天性甲状腺機能低下症、17-OHPで見つける先天性副腎皮質過形成で、2014年度以降はタンデムマス法により有機酸・脂肪酸代謝異常症にも対象が広がりました。胆道閉鎖症はろ紙血で測れる指標がないため対象外ですが、葛西手術の時期が予後を左右するため、母子健康手帳の便色カードで灰白色便に早く気づく仕組みがとられています。疾患ごとの早期発見の方法を整理しておくことは、国試対策だけでなく乳児健診や小児診療の現場でも役立ちます。
解答・解説
正解はaです
新生児マススクリーニング(先天性代謝異常等検査)は、症状が出る前に見つけて治療を始めれば、知的障害や死亡などの重い後遺症を防げる先天性疾患を拾い上げる公的な検査である。日齢4〜6日ごろに新生児の踵から少量の血液をとり、濾紙にしみ込ませた乾燥血液(ろ紙血)で測定する。 対象疾患に選ばれる条件は、(1) 放置すると重い障害を残す、(2) 早期に治療すれば予後が大きく改善する、(3) 頻度がある程度あり、ろ紙血で安価かつ確実に測れる指標がある、の3点である。代表はアミノ酸代謝異常症(フェニルケトン尿症など)、糖質代謝異常症(ガラクトース血症)、内分泌疾患(先天性甲状腺機能低下症、先天性副腎皮質過形成)である。 本問では、血液検査で拾い上げる代謝・内分泌疾患ではなく、胆道の構造異常である胆道閉鎖症が対象外となる。胆道閉鎖症は別の方法(母子健康手帳の便色カードによる便色の観察)で早期発見を図っている。
選択肢考察
- ○a. 胆道閉鎖症
新生児マススクリーニングの対象ではない。胆道閉鎖症は肝外胆管が閉塞する疾患で、ろ紙血で測定できる特異的な指標がない。新生児期から乳児早期に遷延する黄疸、灰白色便(白っぽい便)、濃褐色尿、肝腫大がみられ、新生児肝炎などとの鑑別を要する。胆汁が腸に流れないため脂溶性ビタミンであるビタミンKの吸収が落ち、頭蓋内出血や消化管出血で見つかることもある。生後60日ごろまでに葛西手術(肝門部空腸吻合術)を行うと胆汁排泄が得られやすいため、早期発見が重要である。日本では母子健康手帳に便色カードを載せ、保護者が便の色を見比べて異常に気づける仕組みをとっている。
- ×b. ガラクトース血症
対象疾患である。ガラクトースを代謝する酵素(ガラクトース-1-リン酸ウリジルトランスフェラーゼ〈GALT〉など)が先天的に欠けているか働きが弱いため、乳糖(ガラクトース+グルコース)を含む母乳やミルクを飲み始めると、血中にガラクトースやガラクトース-1-リン酸がたまる。哺乳不良、嘔吐、体重増加不良、黄疸、肝脾腫で発症し、放置すると白内障、肝硬変、精神運動発達遅滞、アシドーシス、敗血症(特に大腸菌)をきたす。スクリーニングではろ紙血のガラクトースとガラクトース-1-リン酸を測り、酵素活性をみるBeutler法(ボイトラー法)も併用される。乳糖除去ミルクで治療する。
- ×c. フェニルケトン尿症
対象疾患である。フェニルアラニンをチロシンに変える酵素(フェニルアラニン水酸化酵素)の異常により、血中にフェニルアラニンが蓄積する。放置すると精神運動発達遅滞、けいれん、メラニン合成の低下による色白・赤毛(皮膚・毛髪の色素が薄い)、尿や汗のネズミ尿様の臭いを示す。スクリーニングではろ紙血のフェニルアラニン濃度を測る(現在はタンデムマス法)。低フェニルアラニン食を早期から続ければ知的発達はほぼ正常に保てる。補酵素テトラヒドロビオプテリン〈BH4〉の欠乏症も同じ指標で見つかるため鑑別が必要である。
- ×d. 先天性副腎皮質過形成
対象疾患である。副腎でのコルチゾール合成に働く酵素の先天的欠損による疾患で、約9割は21-水酸化酵素欠損症である。21-水酸化酵素が働かないと17α-ヒドロキシプロゲステロン〈17-OHP〉がコルチゾール側へ進めずに蓄積する。コルチゾールが低いため負のフィードバックが働かず、副腎皮質刺激ホルモン〈ACTH〉が過剰分泌されて副腎皮質が過形成となり、行き場を失った前駆物質は副腎アンドロゲンへ流れる。その結果、女児の外性器男性化、塩類喪失(低ナトリウム血症・高カリウム血症、脱水)による副腎クリーゼが起こりうる。スクリーニングではろ紙血の17-OHPを測る。
- ×e. 先天性甲状腺機能低下症
対象疾患であり、スクリーニングで見つかる頻度が最も高い疾患の一つである(かつてはクレチン症と呼ばれた)。ろ紙血の甲状腺刺激ホルモン〈TSH〉を測り(地域により遊離サイロキシン〈FT4〉も併せて測る)、TSH高値で原発性の甲状腺機能低下を拾い上げる。原因の多くは甲状腺の形成異常(無形成、低形成、異所性甲状腺)で、ほかにホルモン合成障害がある。甲状腺ホルモンは乳児期の脳の発達に不可欠であり、放置すると知的障害や成長障害をきたすが、早期にレボチロキシン(甲状腺ホルモン薬)を補充すれば予後は良好である。なお、TSHのみを測る方式では下垂体・視床下部性(中枢性)の機能低下症は見逃されうる。
新生児マススクリーニングの概要
日本では1977年に公費による新生児マススクリーニングが始まり、当初はフェニルケトン尿症、メープルシロップ尿症(楓糖尿症)、ホモシスチン尿症、ヒスチジン血症、ガラクトース血症の5疾患が対象であった。その後、先天性甲状腺機能低下症、先天性副腎皮質過形成が加わり、ヒスチジン血症は治療の必要性が乏しいとして除外された。
タンデムマス法の導入
2014年度以降、タンデム質量分析計(タンデムマス)を用いた検査が全国に導入され、アミノ酸代謝異常症に加えて有機酸代謝異常症(メチルマロン酸血症、プロピオン酸血症など)や脂肪酸代謝異常症(中鎖アシルCoA脱水素酵素〈MCAD〉欠損症など)も一度の測定で調べられるようになった。現在の公費対象は20疾患程度である。さらに近年は、脊髄性筋萎縮症〈SMA〉や重症複合免疫不全症〈SCID〉など、治療法の進歩した疾患を加える拡大スクリーニングが各地で行われている。
検査の実際
採血は哺乳が確立し代謝異常が血中に現れる日齢4〜6日に行う。早すぎると哺乳量が足りず偽陰性が増え、甲状腺ではTSHの生理的上昇(出生直後のサージ)による偽陽性が増える。陽性の場合は精密検査医療機関で確定診断を行う。
スクリーニング対象外の早期発見の仕組み
胆道閉鎖症:母子健康手帳の便色カード。 先天性難聴:新生児聴覚スクリーニング(自動聴性脳幹反応〈AABR〉、耳音響放射〈OAE〉)。 先天性股関節脱臼(発育性股関節形成不全):乳児健診での開排制限の診察など。
POINT
・新生児マススクリーニングは日齢4〜6日のろ紙血で行う。 ・代表的な対象:フェニルケトン尿症、メープルシロップ尿症、ホモシスチン尿症(アミノ酸代謝異常)、ガラクトース血症(糖質代謝異常)、先天性甲状腺機能低下症(TSH)、先天性副腎皮質過形成(17-OHP)。タンデムマス法で有機酸・脂肪酸代謝異常症も対象。 ・胆道閉鎖症は対象外で、便色カードで早期発見を図る。
