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小さく育つ赤ちゃんの背景に何がある?―胎児発育不全と喫煙の深い関係

第108回医師国家試験 E問題 第28問

国試問題にチャレンジ

第108回 E問題 第28問

胎児発育不全と関連が深いのはどれか。

  1. a.喫煙
  2. b.多産
  3. c.肥満
  4. d.高身長
  5. e.運動不足

対話形式の解説

ドクタードクター
今回は、胎児発育不全、いわゆるFGRの危険因子を問う問題だ。着眼点は「胎盤を通じて胎児に届く血流や酸素・栄養を減らすものは何か」という視点。逆に赤ちゃんを大きくする方向の因子も紛れ込んでいるから、方向性を見極めよう。
医学生医学生
FGRは推定胎児体重が週数の基準より小さい状態でしたよね。産婦人科の実習で、超音波で児頭大横径や腹囲を測っていました。
ドクタードクター
その通り。わが国では推定胎児体重が基準の-1.5 SD以下を目安にして、腹囲や羊水量、発育の推移も加味して判断する。原因は胎児側、胎盤・臍帯側、母体側の3つに分けて整理すると覚えやすいよ。
医学生医学生
胎児側は染色体異常や先天奇形、TORCHのような胎内感染ですね。母体側は妊娠高血圧症候群がまず浮かびます。
ドクタードクター
いいね。母体側にはほかに慢性高血圧、腎疾患、抗リン脂質抗体症候群やSLE、糖尿病の血管合併症、そして喫煙、アルコール、高度のやせや低栄養、低身長が並ぶ。多くに共通するのは、胎盤への血流や栄養の供給を減らすことだ。
医学生医学生
そうすると、選択肢の中では喫煙が当てはまりそうです。
ドクタードクター
正解。妊娠中の喫煙はFGRの確立した危険因子で、本数が多いほど出生体重が下がる量反応関係もある。機序は2つあって、1つはニコチンの血管収縮作用で子宮胎盤血流が減ること、もう1つは煙に含まれる一酸化炭素がヘモグロビンと強く結合して、血液の酸素運搬能を落とすことだ。
医学生医学生
生理学で習った一酸化炭素ヘモグロビンですね。胎児が慢性的な低酸素状態に置かれるわけですか。
ドクタードクター
そう。さらに喫煙は常位胎盤早期剝離、前置胎盤、早産、前期破水、乳幼児突然死症候群のリスクも上げる。では多産はどうだろう。
医学生医学生
子宮が何度も引き伸ばされるから、胎児が育ちにくくなるのかなと思ったんですが。
ドクタードクター
ありがちな誤解だね。実際は初産より経産のほうが出生体重は大きくなる傾向があって、多産はむしろ巨大児の危険因子に挙げられる。ここで注意したいのが「多胎」との混同だ。双胎などの多胎妊娠は、限られた子宮の空間や胎盤を分け合うからFGRの原因になる。
医学生医学生
一文字違いで意味が真逆なんですね。気をつけます。肥満は妊娠高血圧症候群を起こしやすいので、FGRとも関係ありそうに思えますが。
ドクタードクター
鋭い。肥満は妊娠高血圧症候群や妊娠糖尿病のリスクを上げるから、合併すれば二次的にFGRが起こることはありうる。ただ、肥満そのものは母体の高血糖を介して胎児の高インスリン血症を招き、巨大児の危険因子になる。直接の危険因子としてはむしろ逆方向なんだ。FGRと結びつくのは妊娠前のやせや体重増加不良のほうだね。
医学生医学生
高身長や運動不足も、体格や生活習慣という意味では関係しそうですが、どうでしょう。
ドクタードクター
高身長はFGRの危険因子ではなく、関連があるのはむしろ母体の低身長だ。運動不足もFGRの原因になるという根拠はなく、体重増加や妊娠糖尿病と関連しうる程度。合併症のない妊婦さんには適度な運動が勧められているよ。
医学生医学生
FGRは「胎盤への供給を減らすもの」、巨大児は「母体の糖や栄養が過剰になるもの」と、対比で整理すると覚えやすいですね。
ドクタードクター
その整理はとても有効だ。発展として、FGRの型も押さえておこう。頭も体も同じように小さい均衡型は、妊娠早期からの染色体異常や胎内感染など胎児自体の問題が多い。頭囲が保たれて腹囲が小さい不均衡型は、妊娠中期以降の胎盤機能不全によることが多く、胎児が脳への血流を優先して守るbrain sparingの結果なんだ。
医学生医学生
管理はどうするんですか。根本的な治療薬があるわけではないですよね。
ドクタードクター
そう、決定的な治療法はない。禁煙など原因の除去を行いつつ、推定胎児体重の推移、羊水量、NST、BPP、臍帯動脈や中大脳動脈のドプラ血流で胎児の状態を監視し、胎内環境が悪化すれば適切な時期に娩出する。そして妊娠中に禁煙すれば出生体重の低下は軽減されるから、妊娠初期からの禁煙指導と、家族を含めた受動喫煙の回避がとても大事なんだ。

まとめ

胎児発育不全(FGR)は、胎児側(染色体異常・先天奇形・胎内感染・多胎)、胎盤・臍帯側(胎盤機能不全・臍帯付着異常)、母体側(妊娠高血圧症候群、膠原病、喫煙、アルコール、やせ・低栄養など)の要因で生じます。妊娠中の喫煙は、ニコチンによる子宮胎盤血流の減少と一酸化炭素ヘモグロビンによる低酸素を介してFGRを起こす代表的な危険因子で、常位胎盤早期剝離や早産、乳幼児突然死症候群のリスクも高めます。一方、母体の肥満や経産(多産)は巨大児の方向に働く因子であり、「多産」と、FGRの原因となる「多胎」を混同しないことが重要です。均衡型・不均衡型の分類やドプラ血流による胎児評価も合わせて理解しておくと、FGRの原因推定と管理の考え方がつながります。禁煙は介入によって出生体重の改善が期待できる重要な予防策であり、妊婦健診の場で積極的に取り組むべき課題です。

解答・解説

正解はaです

胎児発育不全(fetal growth restriction:FGR)とは、何らかの原因で子宮内の胎児の発育が遅れたり止まったりしている状態である。わが国では、超音波で求めた推定胎児体重が妊娠週数に対する基準値の-1.5 SD以下であることを目安に診断し、腹囲の小ささや羊水量、発育の経過も加味して判断する。 FGRの原因は大きく次の3つに分けて考えると整理しやすい。 ・胎児側の要因:染色体異常(13・18・21トリソミーなど)、先天奇形、胎内感染(サイトメガロウイルス、風疹、トキソプラズマなど)、多胎妊娠 ・胎盤・臍帯側の要因:胎盤機能不全、胎盤梗塞、臍帯付着部異常(辺縁付着・卵膜付着) ・母体側の要因:妊娠高血圧症候群、慢性高血圧、腎疾患、膠原病(抗リン脂質抗体症候群、SLEなど)、糖尿病の血管合併症、喫煙、アルコール、薬物、高度のやせ・低栄養、低身長 このうち母体側の要因は、胎盤への血流や酸素・栄養の供給を減らすことで胎児の発育を妨げるものが中心である。本問の選択肢では、喫煙がこの機序によってFGRを起こす代表的な危険因子にあたる。多産や肥満はむしろ胎児を大きくする方向に働き、高身長や運動不足にはFGRとの明確な関連はない。

選択肢考察

  1. ○a.  喫煙

    妊娠中の喫煙はFGRの確立した危険因子であり、喫煙本数が多いほど出生体重が低下する量反応関係がある。主な機序は2つある。第一に、ニコチンの血管収縮作用によって子宮胎盤血流が減少し、胎盤の発育・機能も障害される。第二に、タバコ煙中の一酸化炭素がヘモグロビンと強く結合して一酸化炭素ヘモグロビンを形成し、母体・胎児の血液の酸素運搬能を低下させ、胎児を慢性的な低酸素状態に置く。喫煙はこのほか、常位胎盤早期剝離、前置胎盤、早産、前期破水、乳幼児突然死症候群のリスクも高める。妊娠中の禁煙により出生体重の低下は軽減されるため、妊娠初期からの禁煙指導、受動喫煙の回避が重要である。

  2. ×b.  多産

    一般に初産よりも経産の方が出生体重は大きくなる傾向があり、多産は巨大児(出生体重4,000 g以上)の危険因子の一つに挙げられる。FGRの危険因子とはいえない。なお、似た言葉の「多胎妊娠」(双胎など)は、子宮内の限られた空間や胎盤を複数の胎児で分け合うためFGRの原因となるので、混同しないよう注意する。

  3. ×c.  肥満

    母体の肥満や妊娠中の過剰な体重増加は、母体の高血糖を介して胎児の高インスリン血症を起こし、巨大児(LGA児)の危険因子となる。FGRの直接の危険因子ではない。一方で、妊娠前のやせや妊娠中の体重増加不良はFGR・低出生体重児の危険因子である。ただし、肥満は妊娠高血圧症候群や妊娠糖尿病のリスクを高めるため、妊娠高血圧症候群を合併した場合には二次的にFGRを生じうる点は知っておくとよい。

  4. ×d.  高身長

    母体が高身長であることはFGRの危険因子ではない。むしろ母体の低身長が胎児の体格が小さくなることと関連する。母体の体格は遺伝的な要因として児の大きさに反映されるが、高身長がFGRを起こすことはない。

  5. ×e.  運動不足

    運動不足がFGRの原因となるという根拠はない。運動不足はむしろ体重増加や妊娠糖尿病に関連しうる。合併症のない妊婦では適度な運動が推奨されるが、それは母体の健康維持や過剰な体重増加の予防が主な目的である。

FGRの分類

・均衡型(symmetrical)FGR:頭部も体幹も同じように小さい。妊娠早期からの胎児自体の異常(染色体異常、先天奇形、胎内感染)によることが多い。 ・不均衡型(asymmetrical)FGR:頭囲は比較的保たれ、腹囲が小さい。妊娠中期以降の胎盤機能不全(妊娠高血圧症候群、喫煙など)によることが多い。低栄養・低酸素下で胎児が脳への血流を優先して保つ(brain sparing)ためである。

FGRの評価と管理

・推定胎児体重の経時的測定、羊水量(胎盤機能不全では羊水過少を伴いやすい)、ノンストレステスト(NST)、biophysical profile(BPP)、ドプラ血流計測(臍帯動脈の拡張期血流途絶・逆流、中大脳動脈の血管抵抗低下など)で胎児の状態を評価する。 ・根本的な治療法はなく、原因の除去(禁煙など)と胎児の状態の監視を行い、胎内環境が悪化した場合には適切な時期に娩出する。

妊娠中の喫煙の影響

FGR・低出生体重児、早産、常位胎盤早期剝離、前置胎盤、前期破水、流産、乳幼児突然死症候群(SIDS)などのリスク上昇。受動喫煙でも出生体重の低下が報告されている。

巨大児の危険因子(対比)

母体の肥満、糖尿病・妊娠糖尿病、妊娠中の過剰な体重増加、経産婦、巨大児の分娩歴、過期妊娠など。巨大児では肩甲難産や分娩時損傷、新生児低血糖に注意が必要である。

POINT

・FGRの危険因子:妊娠高血圧症候群、母体の喫煙・アルコール・薬物、やせ・低栄養、多胎妊娠、胎児の染色体異常・先天奇形・胎内感染、胎盤・臍帯異常。 ・喫煙はニコチンによる子宮胎盤血流減少と一酸化炭素ヘモグロビンによる低酸素でFGRを起こす。 ・肥満・経産(多産)・糖尿病は巨大児の危険因子であり、FGRとは逆方向である。 ・「多産」と「多胎」を混同しない。多胎妊娠はFGRの原因となる。

※問題・正答は厚生労働省の公開資料をもとに掲載しています。