若者も高齢者も同じだけ亡くなった時代―年齢階級別死亡率のグラフが映す結核の戦後史
第108回医師国家試験 E問題 第1問
国試問題にチャレンジ
我が国の男性におけるある疾患の人口10万人あたりの死亡率の推移を年齢階級別に示す。 この疾患はどれか。

- a.結核
- b.糖尿病
- c.悪性新生物
- d.脳血管疾患
- e.急性心筋梗塞
対話形式の解説
ドクター
医学生
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ドクター
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ドクターまとめ
年齢階級別死亡率のグラフで、若年層の死亡率が高齢層と同程度に高い疾患は、生活習慣病ではなく感染症を考えます。1950年に死因第1位だった結核は、抗結核薬による化学療法、BCG接種、結核予防法に基づく検診・患者管理、生活水準の向上によって、若い年齢階級から順に死亡率が急減しました。一方で高齢層では、まん延期に感染した世代が高齢化して内因性再燃を起こすため、ピークが遅れて現れ、減少も緩やかでした。悪性新生物・脳血管疾患・糖尿病・急性心筋梗塞はいずれも加齢とともに死亡が増える疾患で、この推移とは合いません。死因の歴史的変遷とグラフの読み方を押さえることは、公衆衛生の理解だけでなく、高齢者の結核再燃を見逃さない臨床の目を養うことにもつながります。
解答・解説
正解はaです
グラフの読み取り
図は1950年から2010年までの男性の死亡率(人口10万対)を、20〜24歳・40〜44歳・60〜64歳・80〜84歳の4つの年齢階級に分けて示したものである。読み取るべき特徴は次の3点である。 1. 1950年の時点で、20〜24歳・40〜44歳・60〜64歳の死亡率がいずれも人口10万対250前後で、ほぼ同じ高さにある。つまり若い世代でも高齢者並みに死亡している。 2. その後、若い年齢階級ほど急速に低下し、20〜24歳は1960年代前半、40〜44歳は1970年代後半にはほぼゼロ近くまで下がっている。60〜64歳も1980年代以降はほぼゼロに近づく。 3. 80〜84歳だけは1950年(約100)から上昇して1960年代半ばに約270のピークを迎え、その後は低下して2010年には人口10万対20前後となっている。
疾患を絞り込む考え方
最も決め手になるのは特徴1である。悪性新生物(がん)、糖尿病、脳血管疾患、急性心筋梗塞は、いずれも加齢とともに発症・死亡が急増する疾患であり、20歳代の死亡率が60歳代と同じ水準になることはまず考えられない。これに対し、感染症は若年者にも高齢者にも起こり、治療手段がなければ年齢を問わず死亡する。かつて「亡国病」と呼ばれ、1950年当時の日本の死因第1位であった結核は、まさにこのパターンに当てはまる。 特徴2は、1950年前後から普及したストレプトマイシンなどの抗結核薬による化学療法、BCG接種、結核予防法(1951年全面改正)に基づく健康診断・患者管理、生活水準や栄養状態の改善によって、結核死亡が急減したことを反映している。 特徴3の高齢層の遅れたピークは、若い頃に結核菌に感染した人が多い世代(結核のまん延期に青壮年期を過ごした世代)が高齢になり、加齢や合併症による免疫力の低下で潜在していた感染が再燃(内因性再燃)して発病・死亡したためと考えられる。若年層で新規の感染・死亡が減っても、既感染者の多い世代が高齢になるまでは高齢者の死亡が残る、という結核らしい推移である。 以上から、この疾患は結核である。
選択肢考察
- ○a. 結核
結核は1950年に日本の死因第1位で、粗死亡率は人口10万対146.4と非常に高かった。感染症であるため青年層にも多くの死亡があり、図で1950年に20〜24歳から60〜64歳までの死亡率がそろって250前後となっていることと合致する。その後、抗結核薬による化学療法やBCG、結核予防法に基づく検診・患者管理の充実により死亡率は急減し、死因順位も1975年には10位(粗死亡率9.5)、2010年には20位台(粗死亡率1.7)まで下がった。80〜84歳だけ遅れてピークを示し、その後もなだらかにしか下がらないのは、既感染者の多い世代が高齢化して再燃による発病・死亡が続いたためと解釈でき、これも結核の特徴である。
- ×b. 糖尿病
糖尿病による死亡は、長い経過を経た合併症(腎不全や動脈硬化性疾患など)によって起こるため、若年者ではきわめて少なく高齢者で多い。20〜24歳の死亡率が60〜64歳と同じ人口10万対250前後になることはありえない。また、糖尿病の粗死亡率は戦後、生活習慣の変化と高齢化に伴ってむしろ上昇してきた時期があり、1990年代に死因順位10位以内に入っている。1950年から急減する図の推移とは合わない。
- ×c. 悪性新生物
悪性新生物(がん)は1981年以降、日本の死因第1位を続けている。粗死亡率は1950年の人口10万対77.4から、1975年122.6、1995年211.6、2010年279.7と、人口の高齢化に伴って一貫して増加している。年齢階級別にみても死亡率は年齢とともに急増し、20歳代は高齢者に比べてはるかに低い。近年、年齢調整死亡率は緩やかに低下しているが、図のように各年齢階級の死亡率がほぼゼロになるような急減はしていない。
- ×d. 脳血管疾患
脳血管疾患は1951年から1980年まで日本の死因第1位であった。粗死亡率は戦後上昇して1960年代後半に人口10万対170台のピークとなり、その後は高血圧の治療・管理の普及や食塩摂取量の減少などで低下した(2010年は97.7)。ただし高血圧・動脈硬化を背景とする疾患であるため、20歳代の死亡率が中高年と同程度になることはない。また、図では1980年以降の40〜44歳・60〜64歳の死亡率がほぼゼロであるが、脳血管疾患はこれらの年齢層でも現在なお一定の死亡がある。
- ×e. 急性心筋梗塞
急性心筋梗塞は冠動脈の動脈硬化を基盤とする虚血性心疾患であり、発症・死亡は中高年以降に集中する。20〜24歳で高齢者並みの死亡率を示すことはない。心疾患全体は1985年に死因第2位となり、以後おおむね第2位を保っている。虚血性心疾患の粗死亡率は高齢化の影響もあって大きくは減っておらず、図のように全年齢階級でほぼゼロまで急減する推移とは異なる。
日本の主要死因の変遷
・1950年頃まで: 結核が死因第1位(1950年は粗死亡率146.4)。 ・1951〜1980年: 脳血管疾患が第1位。 ・1981年以降: 悪性新生物が第1位。心疾患は1985年以降おおむね第2位。 ・近年は老衰・肺炎・脳血管疾患などが上位を占め、高齢化の影響が大きい。
結核対策の歴史
・1951年に結核予防法が全面改正され、健康診断、BCG接種、患者登録・医療費公費負担などの体系的な対策が進められた(同法は2007年に感染症法へ統合された)。 ・ストレプトマイシン(1940年代後半から導入)、イソニアジド(1950年代)、のちにリファンピシンを含む多剤併用療法が確立し、死亡率は急減した。 ・現在の結核は、高齢者、とくに若い頃の既感染者が再燃して発病する例が多いのが特徴である。一方、外国出生の若年患者の割合が増えていることも近年の課題である。日本の罹患率は2021年に人口10万対10を下回り、WHOの定義する「低まん延国」となった。
粗死亡率と年齢調整死亡率
粗死亡率は人口構成(高齢化)の影響を受ける。悪性新生物の粗死亡率が上昇し続けているのは主に高齢化のためで、年齢構成を補正した年齢調整死亡率は1990年代後半以降むしろ低下している。年齢階級別死亡率は年齢の影響を除いて推移をみることができるため、本問のような図では各年齢の死亡率の水準と推移を比べることが重要である。
POINT
・年齢階級別死亡率で、若年者が高齢者と同じくらい高い疾患は感染症を考える。 ・1950年に全年齢で死亡率が高く、その後急減する疾患は結核(1950年は死因第1位)。 ・結核死亡の減少は化学療法・BCG・結核予防法による検診と患者管理・生活水準の向上による。 ・高齢者の結核死亡は遅れて減少する(既感染世代の高齢化と再燃)。 ・生活習慣病(がん・糖尿病・脳血管疾患・心筋梗塞)の死亡は若年者で低く、年齢とともに増加する。
