7か月放置した首のしこり―CTの「高さ」を読めば原発巣は中咽頭に見えてくる
第108回医師国家試験 D問題 第22問
国試問題にチャレンジ
49歳の男性。右頸部腫瘤を主訴に来院した。7か月前から右頸部腫瘤を自覚していたがそのままにしていた。1か月前から咽喉頭異常感も出現したため受診した。頸部造影CT(A)(B)を別に示す。 最も考えられるのはどれか。

- a.喉頭癌
- b.上顎癌
- c.耳下腺癌
- d.中咽頭癌
- e.甲状腺癌
対話形式の解説
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ドクターまとめ
成人で痛みのない頸部腫瘤が長く続く場合は、頭頸部癌、特に咽頭癌の頸部リンパ節転移を疑い、内視鏡や画像で原発巣を探すことが重要です。本症例では下顎骨の高さのCTで中咽頭の右側壁から舌根にかけて増強される不整な腫瘤があり、甲状軟骨の高さでは壊死を伴う頸部リンパ節転移を認める一方、喉頭内腔に腫瘍はないことから中咽頭癌と判断できます。声門癌は嗄声で早期発見されやすくリンパ節転移が少ないこと、上顎癌・耳下腺癌・甲状腺癌はそれぞれ発生部位と症状が異なることが鑑別の要点です。中咽頭癌は口蓋扁桃と舌根に好発し、喫煙・飲酒に加えてHPV感染が重要な危険因子で、p16陽性例は嚢胞状転移をきたしやすく予後良好です。CTの断面の高さを骨・軟骨の目印から読み取る力は、頭頸部画像診断全般の基礎になります。
解答・解説
正解はdです
所見の整理
・49歳男性。7か月前から右頸部の腫瘤に気づいていたが放置していた。1か月前から咽喉頭異常感(のどに何かがつかえる・引っかかる感じ)が加わった。 ・痛みのない頸部腫瘤が長く続く成人では、まず悪性腫瘍の頸部リンパ節転移を疑う。原発巣は多くの場合、頭頸部の粘膜(咽頭・喉頭・口腔)にある。そこに咽喉頭異常感が加わったことから、原発巣は咽頭〜喉頭付近にあると推測できる。 ・頸部造影CT(A):下顎骨が写る高さの断面で、口腔の奥の中咽頭に当たる。右側壁(口蓋扁桃のある部位)から前壁(舌根側)にかけて、造影で増強される辺縁不整な腫瘤があり、咽頭腔が変形・狭窄している。両側の頸部にもリンパ節腫大がみられる。 ・頸部造影CT(B):喉頭(甲状軟骨)が写る高さの断面である。右頸部に、内部が不均一で低吸収域(壊死)を伴う大きなリンパ節腫大がある。左側にも内部が低吸収のリンパ節腫大がある。一方、喉頭の内腔には明らかな腫瘍はない。
診断へのプロセス
CTで原発巣と思われる腫瘍は中咽頭(側壁〜前壁)にあり、同じ側を中心に頸部リンパ節転移を伴っている。喉頭・上顎洞・耳下腺・甲状腺には腫瘍性病変を指摘できない。以上から、頸部リンパ節転移を伴う中咽頭癌が最も考えられる。
ポイントとなる考え方
咽頭癌(上・中・下咽頭)は、原発巣が小さいうちから頸部リンパ節に転移しやすい。そのため「頸部のしこり」が初発症状になることが多い。本例のように頸部腫瘤を主訴に受診した場合は、内視鏡で咽頭・喉頭・口腔を丁寧に観察し、CTやMRIで原発巣を探すことが重要である。本問は、CTの断面がどの高さで、どの解剖学的構造(下顎骨、咽頭腔、甲状軟骨など)が写っているかを読み取れるかが鍵となる。確定診断は原発巣の生検による(多くは扁平上皮癌)。
選択肢考察
- ×a. 喉頭癌
喉頭癌の中で最も多い声門癌は、早い段階から嗄声(声がれ)を起こす。一方で、声門癌は頸部リンパ節に転移しにくい。声門上癌であれば咽喉頭異常感や頸部リンパ節転移を初発症状とすることがある。しかし本例は嗄声を訴えておらず、CT(B)でも喉頭の内腔に腫瘍を認めない。原発巣は、CT(A)で示されるより頭側の中咽頭にある。
- ×b. 上顎癌
上顎癌は上顎洞に発生する癌である。片側の鼻閉、血性鼻漏、頬部の腫脹・しびれ、歯痛、眼球の突出・偏位などで発症する。頸部リンパ節転移は比較的少なく、頸部腫瘤や咽喉頭異常感を主症状とすることは典型的ではない。本問のCTは下顎〜喉頭の高さの断面で、上顎洞は写っていない。所見とも一致しない。
- ×c. 耳下腺癌
耳下腺癌は耳の前下方(耳前部〜耳下部)の腫瘤として気づかれることが多い。痛みや、顔面神経が侵されることによる顔面神経麻痺を伴う場合は、悪性を強く疑う。耳下腺は咽頭腔の外にあるため、咽喉頭異常感を起こすことはまれである。CTで示された腫瘍は咽頭の粘膜側から生じており、耳下腺由来の腫瘍ではない。
- ○d. 中咽頭癌
CT(A)で、中咽頭の右側壁(口蓋扁桃の部位)から前壁(舌根)にかけて、造影で増強される辺縁不整な腫瘤を認める。CT(B)では、右側を中心とした内部壊死を伴う頸部リンパ節腫大(転移)を認める。長く続く頸部腫瘤にのどの異常感が加わった経過も、頸部リンパ節転移が先に目立つ中咽頭癌の典型的な経過に合う。中咽頭癌は扁桃(側壁)に最も多く発生し、組織型の大部分は扁平上皮癌である。
- ×e. 甲状腺癌
甲状腺癌(多くは乳頭癌)も頸部リンパ節転移で見つかることがある。しかし、原発巣は喉頭の下方、気管の前面〜両側にある甲状腺に生じる。CT(B)は甲状軟骨の高さの断面で、甲状腺はこれより尾側にあるため写っていない。本例ではCT(A)の中咽頭に明らかな原発巣がある。甲状腺癌では咽頭の内腔に腫瘍が突出することはない。
咽頭の区分
・上咽頭:頭蓋底から軟口蓋の高さまで。上咽頭癌はEBウイルスとの関連が強い。耳閉感・滲出性中耳炎、鼻閉・鼻出血、脳神経症状を起こす。 ・中咽頭:軟口蓋の高さから喉頭蓋谷(舌骨)の高さまで。前壁(舌根・喉頭蓋谷)、側壁(口蓋扁桃・扁桃窩・口蓋弓)、後壁、上壁(軟口蓋・口蓋垂)に分けられる。 ・下咽頭:喉頭蓋谷の下から輪状軟骨の下縁まで。梨状陥凹、輪状後部、後壁に分けられる。
中咽頭癌
・好発部位:側壁(口蓋扁桃)が最も多く、次いで前壁(舌根)である。 ・危険因子:喫煙・飲酒のほか、ヒトパピローマウイルス(HPV、特に16型)感染が重要である。近年はHPV関連中咽頭癌が増えており、比較的若い人や喫煙歴のない人にも発生する。 ・HPV関連癌の特徴:原発巣が小さく、頸部リンパ節転移が嚢胞状(内部が低吸収)になることがある。免疫染色でのp16陽性が指標となる。放射線や化学療法がよく効き、予後はHPV非関連癌より良好である。UICC第8版のTNM分類では、p16陽性と陰性で病期分類が分けられた。 ・症状:咽頭痛、嚥下時痛、咽喉頭異常感、耳への放散痛、痛みのない頸部腫瘤。進行すると開口障害や嚥下障害が起こる。 ・診断:視診・触診と内視鏡で観察し、生検で確定する(大部分は扁平上皮癌)。病期の評価にはCT・MRI・PET-CTを用いる。 ・治療:手術(経口的切除を含む)、放射線治療、化学放射線療法を、病期や機能温存を考えて選択する。
頸部腫瘤の見方
成人で痛みがなく、数週間以上続く頸部腫瘤は、悪性腫瘍のリンパ節転移や悪性リンパ腫を疑って精査する。上内深頸部(レベルII)のリンパ節転移では、咽頭(中・上・下咽頭)や喉頭が原発巣であることが多い。
POINT
・成人の痛みのない、長く続く頸部腫瘤 → 頭頸部癌(特に咽頭癌)のリンパ節転移を疑い、原発巣を探す。 ・咽頭癌は早くから頸部リンパ節に転移しやすく、頸部腫瘤が初発症状となりやすい。 ・中咽頭癌の好発部位は側壁(口蓋扁桃)と前壁(舌根)である。危険因子は喫煙・飲酒・HPV感染である。 ・HPV関連(p16陽性)中咽頭癌は、予後が良く、嚢胞状のリンパ節転移をきたしやすい。 ・声門癌は嗄声で早く見つかりやすく、リンパ節転移は少ない。
