StudyMed医師国家試験

初乳は「守り」、成乳は「エネルギー」―母乳の変化と授乳期の栄養を整理する

第108回医師国家試験 B問題 第11問

国試問題にチャレンジ

第108回 B問題 第11問

授乳婦,新生児の栄養について正しいのはどれか。

  1. a.成乳の熱量は初乳より高い。
  2. b.新生児の哺乳回数は1日4回である。
  3. c.授乳婦の葉酸摂取推奨量は妊婦より多い。
  4. d.母乳のビタミンK含有量は人工乳より多い。
  5. e.授乳婦の推定エネルギー必要量には付加量を加えない。

対話形式の解説

ドクタードクター
今回は母乳の組成の変化、新生児の授乳の実際、そして授乳婦に必要な栄養をまとめて問う問題だ。母乳の時期による違い、母乳の弱点、食事摂取基準の付加量という3つの視点で整理していこう。まず、初乳と成乳の違いは説明できるかな。
医学生医学生
初乳は分娩後すぐに出る黄色っぽい母乳で、免疫物質が多いと習いました。
ドクタードクター
その通り。母乳は分娩後の日数によって、初乳、移行乳、成乳と組成が段階的に変わる。初乳は蛋白質、とくに分泌型IgAやラクトフェリンなどの感染防御因子に富む。一方でエネルギー源になる脂肪や乳糖は少ないんだ。
医学生医学生
栄養価が高そうなので、初乳のほうがカロリーも高いと思っていました。
ドクタードクター
そう考える人は多いね。でも初乳の役割は主に「守り」、つまり児の消化管を感染から守ることにある。日数が経つにつれて蛋白質の割合は下がり、脂肪と乳糖が増えていくから、単位量あたりの熱量は成乳のほうが高くなる。成乳は65〜70 kcal/dL程度で、初乳はそれよりやや低い。だから成乳の熱量は初乳より高い、というのが正しい記述だ。
医学生医学生
初乳は免疫、成乳はエネルギー、と役割で覚えるとわかりやすいですね。哺乳回数の1日4回は少なすぎる気がします。
ドクタードクター
いい感覚だ。新生児は胃が小さく、1回に飲める量が限られる。だから1日7〜8回以上が目安で、欲しがるたびに与える自律授乳では8〜12回程度になることも多い。1日4回では哺乳量が足りないし、吸啜刺激が減って母乳分泌の確立にも不利になる。
医学生医学生
産婦人科の実習で、夜中も2〜3時間おきに授乳しているお母さんを見て大変そうだと思いました。
ドクタードクター
まさにそれが新生児期の現実だね。では、ビタミンKの記述はどうかな。
医学生医学生
母乳栄養の子にK2シロップを飲ませるので、母乳にはビタミンKが少ないはずです。
ドクタードクター
正解。ビタミンKは胎盤を通過しにくく、母乳中の含有量も少ない。新生児は腸内細菌叢が未熟で自分でも作れない。一方、人工乳にはビタミンKが強化されているから、母乳のほうが多いという記述は逆だ。母乳栄養児は新生児メレナや、生後1〜2か月頃の頭蓋内出血といったビタミンK欠乏性出血症のリスクが高い。
医学生医学生
乳児期の頭蓋内出血は怖いですね。予防投与のタイミングは出生時、退院時、1か月健診でしたか。
ドクタードクター
従来はその3回が基本だね。近年は生後3か月まで週1回投与する方法も推奨されている。残りは授乳婦の栄養だ。葉酸の推奨量は授乳婦と妊婦、どちらが多いと思う?
医学生医学生
母乳で栄養を出しているので授乳婦かと迷いましたが、葉酸は神経管閉鎖障害の予防で妊娠期に重要だと公衆衛生で習いました。
ドクタードクター
その考え方でいい。葉酸の付加量は妊婦の中期・後期で+240 μg/日、授乳婦で+100 μg/日と、妊婦のほうが多い。胎児の急速な細胞分裂やDNA合成、母体の造血亢進で需要が特に大きいからだ。一方、エネルギーは授乳婦に+350 kcal/日の付加量が設定されている。毎日約780 mLの母乳を作るエネルギーから、妊娠中に蓄えた体脂肪で賄われる分を差し引いた値だよ。
医学生医学生
付加量は栄養素ごとに大きさが違って、葉酸のように妊娠期のほうが大きいものもある、ということですね。
ドクタードクター
その通り。最後に臨床での注意点だ。母乳は消化吸収がよく、感染防御因子を含み、母子関係の形成や子宮復古の促進にも役立つ優れた栄養だけれど、ビタミンK、ビタミンD、鉄が不足しやすいという弱点もある。母乳育児を勧めながら、その弱点を補う視点を持つことが大切なんだ。
医学生医学生
母乳のよさだけでなく、何が足りなくなりやすいかもセットで押さえておきます。

まとめ

母乳は初乳、移行乳、成乳と組成が変化し、初乳は分泌型IgAやラクトフェリンなどの感染防御因子に富む一方、脂肪と乳糖が少ないため、成乳のほうが熱量は高くなります。新生児は胃が小さいため1日7〜8回以上の頻回授乳が必要で、自律授乳では8〜12回程度になることも少なくありません。母乳はビタミンKが少なく人工乳には強化されているため、母乳栄養児にはビタミンK欠乏性出血症の予防としてK2シロップを投与します。授乳婦の推定エネルギー必要量には+350 kcal/日の付加量がある一方、葉酸の付加量は胎児の発育を支える妊婦のほうが大きくなっています。母乳の利点と弱点、時期ごとの栄養需要の違いを理解しておくことは、周産期の栄養指導や新生児診療の基本となります。

解答・解説

正解はaです

本問は、母乳の成分が分娩後の時期によってどう変わるか、新生児の授乳の実際、そして授乳婦に必要な栄養(日本人の食事摂取基準)をまとめて問う一般問題である。

母乳の時期による分類

母乳は分娩後の日数によって、初乳(おおむね産褥5日頃まで)、移行乳(およそ6〜10日頃)、成乳(成熟乳、10日頃以降)と呼び分けられ、組成が段階的に変化する。初乳は蛋白質、とくに分泌型IgA(免疫グロブリンA)やラクトフェリンなどの感染防御因子に富む一方、脂肪と乳糖は少ない。成乳になると脂肪と乳糖が増えるため、単位量あたりのエネルギー(熱量)は初乳より高くなる。

授乳婦の栄養

授乳婦は母乳として毎日エネルギーや栄養素を分泌するため、日本人の食事摂取基準では多くの栄養素について非妊娠時の値に「付加量」を上乗せしている。ただし付加量の大きさは栄養素ごとに異なり、葉酸のように胎児の神経管形成や細胞増殖に強く関わる栄養素は、授乳期より妊娠期の付加量のほうが大きい。

新生児のビタミンK

母乳はビタミンK含有量が少なく、新生児は腸内細菌叢が未熟でビタミンKの自家産生も乏しい。このため母乳栄養児ではビタミンK欠乏性出血症が起こりやすく、ビタミンK2シロップの予防投与が行われる。 これらを踏まえると、正しい記述は「成乳の熱量は初乳より高い」である。

選択肢考察

  1. ○a.  成乳の熱量は初乳より高い。

    初乳は蛋白質(IgA、ラクトフェリンなど)が多い反面、エネルギー源となる脂肪と乳糖の含有量が少ない。分娩後日数が経つにつれて蛋白質の割合は下がり、脂肪と乳糖が増えていくため、成乳の熱量は初乳を上回る。成乳はおよそ65〜70 kcal/dL程度で、初乳はこれよりやや低い値を示す。したがって本記述は正しい。

  2. ×b.  新生児の哺乳回数は1日4回である。

    新生児は胃の容量が小さく、1回に飲める量が限られるため、頻回に授乳する必要がある。1日の哺乳回数は7〜8回以上が目安で、母乳育児では欲しがるたびに与える自律授乳により1日8〜12回程度になることも多い。1日4回では必要な哺乳量が確保できず、母乳分泌の確立にも不利である。

  3. ×c.  授乳婦の葉酸摂取推奨量は妊婦より多い。

    日本人の食事摂取基準では、葉酸の推奨量の付加量は妊婦(中期・後期)で+240 μg/日、授乳婦で+100 μg/日とされ、妊婦のほうが多い。妊娠中は胎児の急速な細胞分裂・DNA合成や母体の造血亢進のために葉酸需要が特に大きいからである。なお、神経管閉鎖障害のリスク低減のため、妊娠を計画している女性や妊娠初期の女性には、通常の食事に加えて栄養補助食品などから400 μg/日の葉酸摂取が勧められている。

  4. ×d.  母乳のビタミンK含有量は人工乳より多い。

    ビタミンKは胎盤を通過しにくく、母乳中の含有量も少ない(およそ0.1〜0.5 μg/dL程度)。一方、人工乳(育児用ミルク)にはビタミンKが強化されており、母乳よりはるかに多く含まれる。このため母乳栄養児は新生児期・乳児期のビタミンK欠乏性出血症(新生児メレナや、乳児期の頭蓋内出血)のリスクが高く、出生時・産科退院時・1か月健診時などにビタミンK2シロップを経口投与する(近年は生後3か月まで週1回投与する方法も推奨されている)。

  5. ×e.  授乳婦の推定エネルギー必要量には付加量を加えない。

    授乳婦は母乳の産生・分泌にエネルギーを要するため、日本人の食事摂取基準では推定エネルギー必要量に+350 kcal/日の付加量を設定している。これは1日の泌乳量(約780 mL)に含まれるエネルギーから、妊娠中に蓄積した体脂肪の分解で賄われる分を差し引いて算出されたものである。したがって付加量を加えないとする記述は誤りである。

初乳と成乳の比較

・初乳:分娩後数日間に分泌される。黄色みを帯び、粘稠。蛋白質(とくにアルブミン、グロブリン)が多く、分泌型IgA、ラクトフェリン、リゾチーム、白血球などの感染防御因子が豊富で、児の消化管感染を防ぐ。カゼインは少ない。脂肪・乳糖は少なく、熱量はやや低い。軽い緩下作用があり胎便の排泄を促す。 ・成乳:分娩後10日頃以降。脂肪と乳糖が多く、熱量が高い。蛋白質量は初乳より少ない。

母乳栄養の利点と弱点

・利点:感染防御因子を含む、消化吸収がよい、アレルギーを起こしにくい、母子関係の形成、母体の子宮復古促進(オキシトシン分泌)など。 ・弱点:ビタミンK(出血傾向)、ビタミンD(くる病)、鉄(乳児期後半の鉄欠乏)が不足しやすい。

ビタミンK欠乏性出血症

新生児期に消化管出血(新生児メレナ)として発症する型と、生後1〜2か月頃に頭蓋内出血を起こす乳児型がある。後者は母乳栄養児や胆道閉鎖症などの胆汁うっ滞児に多い。予防としてビタミンK2シロップを経口投与する。

授乳婦の食事摂取基準(主な付加量)

・エネルギー:+350 kcal/日 ・蛋白質:推奨量+20 g/日 ・葉酸:推奨量+100 μg/日(妊婦中期・後期は+240 μg/日) ・鉄:推奨量+2.5 mg/日(授乳婦では月経がないものとして設定)

POINT

・成乳は初乳より脂肪・乳糖が多く、熱量が高い。初乳は蛋白質とIgAが多い。 ・新生児の哺乳回数は1日7〜8回以上(自律授乳で8〜12回程度)。 ・葉酸の付加量は妊婦>授乳婦(+240 μg vs +100 μg)。 ・母乳はビタミンKが少なく、母乳栄養児にはビタミンK2シロップを投与する。 ・授乳婦の推定エネルギー必要量は+350 kcal/日を付加する。

※問題・正答は厚生労働省の公開資料をもとに掲載しています。