手術2日前に見つかった指間の痒み―疥癬で本当に守るべきは「人」
第108回医師国家試験 A問題 第40問
国試問題にチャレンジ
78歳の男性。2日後の胃癌の手術のため入院中である。主治医が両手の皮疹に気付いた。本人に聞くと,1か月前から痒みが強く,市販の止痒薬を外用していたが軽快しなかったという。他の部位に皮疹はない。左手の写真(A)と鱗屑の苛性カリ〈KOH〉直接鏡検標本(B)とを別に示す。 皮疹に対する治療のほかに,対応として適切なのはどれか。

- a.手術を延期する。
- b.病室を閉鎖する。
- c.衣類を熱湯消毒する。
- d.病室に殺虫剤を散布する。
- e.接触した職員の皮疹の有無を確認する。
対話形式の解説
ドクター
医学生
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医学生
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ドクターまとめ
指間などに強い痒みを伴う皮疹があり、止痒薬で改善しないときは疥癬を疑い、KOH直接鏡検でヒゼンダニの虫体や虫卵を確認します。疥癬は主に直接の皮膚接触でうつり、通常疥癬の潜伏期間は約1か月と長いため、院内で見つかったときに最も重要なのは、接触した職員や同室患者の皮疹・痒みを確認し、早期に診断・治療することです。通常疥癬ではダニの数が少なく感染力も比較的弱いため、手術の延期、病室閉鎖、殺虫剤散布、衣類の熱処理は不要で、これらの厳重な対策が求められるのは角化型疥癬です。治療はイベルメクチン内服やフェノトリン外用が中心で、湿疹と誤認したステロイド外用は悪化の原因になります。病型に応じて感染対策の強さを使い分ける考え方は、病棟や施設での実践に直結します。
解答・解説
正解はeです
所見の整理
・入院中の高齢男性(78歳)で、1か月前から両手に強い痒みを伴う皮疹がある。市販の止痒薬では改善していない。 ・皮疹は両手に限られる。 ・写真(A)では、指間を中心に紅色丘疹、紅斑、鱗屑、痂皮がみられる。 ・鱗屑を苛性カリ(KOH)で処理した直接鏡検標本(B)では、ダニの虫体と虫卵が確認できる。
診断のプロセス
手、特に指間に生じる痒みの強い皮疹の鑑別には、湿疹(手湿疹)、接触皮膚炎、疥癬、手白癬などがある。湿疹や接触皮膚炎と誤認されやすいが、止痒薬やステロイド外用薬で改善しない強い痒みは、疥癬を疑うきっかけになる。確定診断には、皮疹部(特に疥癬トンネルや丘疹)の鱗屑を採取し、KOH直接鏡検やダーモスコピーでヒゼンダニ(疥癬虫)の虫体・虫卵を証明する。本例は鏡検で虫体と虫卵が見つかっており、疥癬と確定できる。皮疹が手に限局し、全身の厚い角化はないことから、通常疥癬と考えられる。
設問の考え方
疥癬は、ヒゼンダニが皮膚角層に寄生して起こる感染症で、主に肌と肌の直接接触でうつる。高齢者施設や病院での集団発生が問題となる。したがって、治療とあわせて感染対策を行う。通常疥癬で最も重要な対策は、患者に接触した医療従事者や同室患者に皮疹や痒みがないかを確認し、感染者を早期に見つけて治療することである。一方、通常疥癬は寄生するダニの数が少なく感染力も比較的弱いため、手術の延期、病室の閉鎖、殺虫剤の散布、衣類の熱処理といった過剰な対策は必要ない。
選択肢考察
- ×a. 手術を延期する。
通常疥癬は、手袋・ガウンの着用や手洗いといった接触予防策をとれば、手術に関わる医療従事者への感染を防げる。疥癬そのものは全身状態に影響せず、胃癌の手術を延期する理由にはならない。治療を並行して行えばよく、延期は不要である。
- ×b. 病室を閉鎖する。
通常疥癬の感染は主に長時間の直接的な皮膚接触によって起こり、ヒトから離れたヒゼンダニは数日で死滅する。病室を閉鎖するほどの対策は必要ない。なお、角化型疥癬(ノルウェー疥癬)では剥がれ落ちた鱗屑に大量のダニが含まれるため個室管理が必要だが、それでも病室閉鎖までは求められない。
- ×c. 衣類を熱湯消毒する。
通常疥癬では、衣類やリネンは通常の洗濯でよい。熱処理(50℃・10分程度)や乾燥機の使用が推奨されるのは、ダニの数が極めて多い角化型疥癬の場合である。ただし、通常疥癬でも寝具・タオルなどの共用は感染経路となりうるので避ける。
- ×d. 病室に殺虫剤を散布する。
ヒゼンダニはヒトの皮膚から離れると長く生存できず、通常疥癬で環境に殺虫剤を撒く必要はない。通常の清掃で十分である。角化型疥癬では、患者の退室後などに落屑を除去する清掃に加え、殺虫剤の散布を行うことがある。
- ○e. 接触した職員の皮疹の有無を確認する。
疥癬は接触感染するため、医療施設内で患者が見つかった場合、看護・介護などで接触した職員や同室患者に二次感染していることがある。潜伏期間は通常疥癬で約1か月と長く、その間に感染が広がりやすい。接触者の皮疹や痒みの有無を確認し、疑わしい人を早期に診断・治療することが、集団発生を防ぐために最も重要な対応である。
疥癬の概要
・病原体: ヒゼンダニ(疥癬虫、Sarcoptes scabiei var. hominis)。雌が皮膚の角層にトンネルを掘って産卵する。 ・感染経路: 主に直接の皮膚接触。寝具・衣類を介した間接接触もある。家族内感染、施設内・院内感染、性行為による感染が知られる。 ・潜伏期間: 通常疥癬では約1か月。 ・症状: 夜間に強くなる激しい痒み。疥癬トンネル(手関節屈側や指間などにみられる、数mmの灰白色で線状の皮疹)が特徴的である。ほかに、体幹・四肢の紅色丘疹や、陰部(陰嚢・陰茎)の結節がみられる。 ・好発部位: 指間、手掌、手関節屈側、腋窩、臍周囲、陰部、四肢屈側など。高齢者では背部や殿部にも多い。 ・診断: 疥癬トンネルなどから検体を採取し、KOH直接鏡検で虫体や虫卵を検出する。ダーモスコピーも有用である。湿疹と誤認してステロイドを外用すると悪化・拡大しやすい。
通常疥癬と角化型疥癬
・通常疥癬: 寄生数は1,000匹以下(多くは数十匹以下)。感染力は比較的弱く、個室管理は不要で、通常の洗濯・清掃でよい。 ・角化型疥癬(ノルウェー疥癬): 免疫不全、ステロイド・免疫抑制薬の使用、高齢・寝たきりなどを背景に発症する。寄生数は100万〜200万匹と非常に多い。手掌・足底などに厚い角質増殖や灰白色の鱗屑がみられる。感染力が強いため、個室管理、ガウン・手袋の着用、リネンの熱処理、落屑の清掃などの厳重な対策が必要である。
治療
・内服: イベルメクチン(空腹時に1回投与し、1週間後に再評価して必要なら再投与)。 ・外用: フェノトリン(ピレスロイド系)ローション、イオウ製剤、クロタミトン(保険適用外)など。 ・痒みは治療後もしばらく続くことがあり、抗ヒスタミン薬などを併用する。 ・同居家族や接触者も診察し、必要なら同時に治療する。
POINT
・指間などの強い痒みを伴う皮疹が、止痒薬で治らない場合は疥癬を疑う。KOH直接鏡検で虫体・虫卵を確認する。 ・院内発生時は、接触した職員や同室患者の皮疹・痒みを確認し、早期に治療する。 ・通常疥癬では、手術延期、病室閉鎖、殺虫剤散布、衣類の熱処理は不要である。 ・厳重な対策(個室管理、リネンの熱処理など)が必要なのは角化型疥癬である。
