裂けた大動脈が起こすこと、起こさないこと―A型解離の合併症は「解剖」から導く
第108回医師国家試験 A問題 第12問
国試問題にチャレンジ
Stanford A型急性大動脈解離が原因とならないのはどれか。
- a.脳梗塞
- b.緊張性気胸
- c.急性冠症候群
- d.心タンポナーデ
- e.大動脈弁閉鎖不全
対話形式の解説
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ドクターまとめ
Stanford A型急性大動脈解離は上行大動脈に解離が及ぶもので、致死率が高く原則として緊急手術の適応となります。合併症は解剖から導くことができ、心膜腔内にある大動脈基部の病変からは心タンポナーデ(最多の死因)、大動脈弁閉鎖不全、冠動脈入口部の障害による急性冠症候群(右冠動脈に多い)が、弓部分枝の障害からは脳梗塞や上肢虚血が生じます。一方、緊張性気胸は肺・胸膜の損傷部が一方向弁となって起こる病態で、大動脈の病変とは機序的に関係せず、解離の破裂で起こりうるのは血胸です。脳梗塞や心筋梗塞を疑う胸痛患者では、血栓溶解療法や抗血栓療法の前に大動脈解離を除外することが臨床上きわめて重要です。合併症を「閉塞・破裂・弁の変形」という機序で整理する考え方は、救急の胸痛診療全般に役立ちます。
解答・解説
正解はbです
テーマ
大動脈解離は、大動脈壁の内膜に亀裂(エントリー、入口部)が生じ、血液が中膜内に流れ込んで壁が二層に裂け、本来の血管腔(真腔)とは別に偽腔が形成される病態である。Stanford分類では、エントリーの位置にかかわらず、解離が上行大動脈に及ぶものをA型、及ばないものをB型とする。A型は発症早期の致死率が高く、原則として緊急手術の適応となる。
合併症の考え方
A型解離の合併症は、「上行大動脈とその周辺の解剖」から導くことができる。 (1)大動脈基部(心膜腔内)に解離が及ぶ → 心膜腔への破裂・血液漏出で心タンポナーデ、弁輪拡大や交連部の支持喪失で大動脈弁閉鎖不全、冠動脈入口部の閉塞で急性冠症候群。 (2)大動脈弓部の分枝(腕頭動脈・左総頸動脈・左鎖骨下動脈)に解離が及ぶ → 脳虚血(脳梗塞)、上肢の虚血・血圧左右差。 (3)下行・腹部大動脈へ進展する(DeBakey I型)→ 対麻痺(脊髄虚血)、腸管虚血、腎虚血、下肢虚血など。 血管の閉塞・破裂や弁の変形として説明できるものが合併症であり、肺や胸膜の病態である緊張性気胸はこの枠組みに当てはまらない。
選択肢考察
- ×a. 脳梗塞
A型解離が弓部に及ぶと、脳を灌流する腕頭動脈(右総頸動脈を分枝)や左総頸動脈が、偽腔による真腔の圧排や解離のフラップで狭窄・閉塞し、脳梗塞などの脳虚血を起こす。大動脈解離の数%に合併するとされる。胸痛が目立たず意識障害や片麻痺で発症する例もあり、脳梗塞と誤診して血栓溶解療法を行うと致命的になるため注意が必要である。A型解離が原因となりうる。
- ○b. 緊張性気胸
緊張性気胸は、肺や胸壁の損傷部が一方向弁(チェックバルブ)として働き、吸気のたびに胸腔内へ空気が流入して排出されず、胸腔内圧が上昇して患側肺の虚脱、縦隔の健側への偏位、静脈還流障害によるショックをきたす病態である。原因は外傷、自然気胸の進行、陽圧換気、中心静脈カテーテル挿入などの医原性などであり、大動脈の病変とは機序的に関係しない。大動脈解離の破裂では胸腔内に血液がたまる血胸は起こりうるが、空気がたまる緊張性気胸は起こらない。したがってA型解離が原因とならないのはこれである。
- ×c. 急性冠症候群
冠動脈は大動脈基部のValsalva洞から分岐するため、解離が基部に及ぶと冠動脈入口部が偽腔に圧排されたり解離が冠動脈内へ進展したりして、急性心筋梗塞などの急性冠症候群を生じる。特に右冠動脈が障害されやすく、下壁梗塞の心電図所見を示すことがある。A型解離の数%〜10%弱に起こるとされる。心筋梗塞と判断して抗血小板薬・抗凝固薬を投与すると出血を助長しうるため、胸痛診療では両者の鑑別が重要である。A型解離が原因となりうる。
- ×d. 心タンポナーデ
上行大動脈の基部は心膜(心囊)に包まれており、この部位の解離が心膜腔内へ破裂したり血液が滲み出したりすると、心膜腔に血液が貯留して心臓の拡張が妨げられ、心タンポナーデとなる。頸静脈怒張、血圧低下、心音減弱(Beckの三徴)や奇脈を呈し、A型解離の死因として最も多い合併症である。A型解離が原因となりうる。
- ×e. 大動脈弁閉鎖不全
解離が大動脈基部に及ぶと、大動脈弁輪の拡大や、弁尖を支える交連部の解離による弁尖の逸脱(接合不全)が生じ、拡張期に大動脈から左心室へ血液が逆流する大動脈弁閉鎖不全(AR)を起こす。A型解離ではしばしば(半数前後の症例で)認められ、拡張期雑音の聴取は診断の手がかりとなる。急性の高度ARは急性心不全の原因となる。A型解離が原因となりうる。
大動脈解離の分類
・Stanford分類(上行大動脈の解離の有無による) A型:上行大動脈に解離がある(エントリーの位置は問わない)。原則として緊急手術(人工血管置換術)。 B型:上行大動脈に解離がない。合併症がなければ降圧・安静・鎮痛を中心とする内科的治療が基本で、臓器虚血や破裂などの合併症があればステントグラフト内挿術(TEVAR)や手術を検討する。 ・DeBakey分類(エントリーの位置と解離の範囲による) I型:上行大動脈にエントリーがあり、弓部から下行大動脈以遠まで解離が及ぶ。 II型:上行大動脈にエントリーがあり、解離が上行大動脈に限局する。 III型:下行大動脈にエントリーがあり、上行大動脈に解離が及ばない(IIIaは胸部に限局、IIIbは腹部まで及ぶ)。 Stanford A型はDeBakey I・II型(および逆行性に上行大動脈へ及んだもの)、Stanford B型はDeBakey III型に相当する。 ・偽腔の状態による分類:偽腔開存型、ULP(ulcer-like projection)型、偽腔閉塞型。 ・病期:発症から48時間以内を超急性期、2週間以内を急性期とし、その後亜急性期、慢性期と分ける。
臨床像
危険因子は高血圧が最も重要で、ほかにMarfan症候群などの結合組織疾患、大動脈二尖弁、妊娠、コカイン使用などがある。突然発症の激烈な胸背部痛が典型で、痛みが解離の進展とともに移動することがある。上肢血圧の左右差、脈拍欠損、ARの拡張期雑音、神経症状などが手がかりとなる。診断には造影CTが最も有用で、経胸壁心エコーで心囊液貯留やAR、上行大動脈のフラップを評価する。胸部X線では上縦隔の拡大がみられることがある。
緊張性気胸(参考)
患側の呼吸音減弱、打診で鼓音、気管の健側偏位、頸静脈怒張、ショックを呈する。臨床診断で直ちに胸腔穿刺による脱気を行い、胸腔ドレナージにつなげる。
POINT
・Stanford分類は上行大動脈に解離があるか否かで分け、A型は原則緊急手術である。 ・A型解離の合併症は解剖から考える:基部→心タンポナーデ・大動脈弁閉鎖不全・急性冠症候群(右冠動脈に多い)、弓部分枝→脳梗塞・上肢虚血。 ・心タンポナーデはA型解離の最多の死因である。 ・胸痛患者で脳梗塞や心筋梗塞を疑うときは大動脈解離を除外してから血栓溶解・抗血栓療法を行う。 ・緊張性気胸は胸膜腔の病態であり、大動脈解離とは機序的に無関係である。
