StudyMed医師国家試験

水晶体はゆっくり曇る―放射線障害を「時間軸」で並べ替える

第108回医師国家試験 A問題 第10問

国試問題にチャレンジ

第108回 A問題 第10問

大量被ばく後の放射線障害で,最も遅く発現するのはどれか。

  1. a.紅斑
  2. b.白内障
  3. c.消化管出血
  4. d.白血球減少
  5. e.生殖機能障害

対話形式の解説

ドクタードクター
今回は放射線の人体影響を、被ばくしてから症状が出るまでの時間で並べる問題だ。キーワードは「早期障害」と「晩発障害」。そして、どの組織がなぜ早く傷むのかという理屈まで押さえると、暗記に頼らず解けるようになるよ。
医学生医学生
放射線医学の講義で、分裂の盛んな細胞ほど放射線に弱いと習いました。だから骨髄や腸が先にやられるんですよね。
ドクタードクター
その通り。Bergonié-Tribondeauの法則だね。分裂頻度が高く、未分化な細胞ほど感受性が高い。造血組織、腸の陰窩、皮膚の基底層、生殖腺がその代表だ。幹細胞が死ぬと次の細胞が供給されなくなるから、成熟細胞の寿命が尽きたところで障害が表に出てくる。
医学生医学生
ということは、成熟細胞の寿命が短い組織ほど早く症状が出る、という理解でいいですか。
ドクタードクター
ほぼそう考えていい。細胞の入れ替わりの速さが、障害が現れるまでの時間におおむね対応しているんだ。では具体的に見ていこう。まず白血球減少はどうかな。
医学生医学生
血液内科の実習で、被ばく線量の推定にリンパ球数を使うと聞きました。かなり早く下がるんですよね。
ドクタードクター
よく覚えているね。リンパ球は分裂しない成熟細胞なのに例外的に感受性が高く、数時間から2日ほどで減り始める。顆粒球は骨髄での産生停止を反映して1〜数週間後に最低値になり、感染や出血の原因になる。いずれも早期障害だ。
医学生医学生
消化管出血も急性放射線症候群の一つでしたよね。腸上皮は数日で入れ替わるので、かなり早そうです。
ドクタードクター
そう。数Gyから10Gy以上の大量被ばくで陰窩の幹細胞が死滅すると、数日から2週間ほどで粘膜が脱落して、下痢、脱水、出血、さらに腸内細菌による敗血症をきたす。これも早期障害だね。
医学生医学生
紅斑はどうでしょう。日焼けみたいにすぐ出るイメージがあります。
ドクタードクター
大量被ばくでは数時間から1日ほどで毛細血管拡張による一過性の初期紅斑が出て、2〜3週間後に基底細胞の障害による本格的な紅斑が現れる。線量が多ければ脱毛、落屑、潰瘍へ進む。やはり早期の変化だ。
医学生医学生
生殖機能障害は、不妊というと何年も経ってから気づくものなので、晩発障害かと思ってしまいました。
ドクタードクター
そこは引っかかりやすいところだね。精原細胞や卵母細胞は感受性が高く、男性ではおよそ0.15Gyの急性被ばくで一時的な精子数減少が起こり、数Gy以上では永久不妊になりうる。精子数の減少は数週間から数か月で顕在化するので、早期障害に分類されるんだ。
医学生医学生
そうすると残る白内障だけが晩発障害ですね。水晶体はほとんど分裂しないイメージなので、遅いのも納得です。
ドクタードクター
正解は白内障だ。水晶体上皮が障害されると、異常な水晶体線維が長い時間をかけて後極部に集まり、後嚢下混濁として現れることが多い。潜伏期は通常数年で、線量が多いほど短くなる傾向がある。
医学生医学生
眼科の実習で後嚢下白内障を見ましたが、ステロイドが原因のケースでした。放射線でも同じ部位なんですね。
ドクタードクター
いいつながりだね。ここで分類の軸をもう一つ確認しよう。白内障はしきい線量のある確定的影響、つまり組織反応に分類される。ICRPは2011年にそのしきい線量を0.5Gy程度へ引き下げたんだ。
医学生医学生
晩発障害なのに確率的影響ではない、というのがややこしいです。発癌と混同しそうです。
ドクタードクター
そこが国試で狙われるポイントだ。「いつ出るか」と「線量と発生の関係」は別の軸だと覚えよう。発癌や遺伝的影響はしきい値がないと仮定される確率的影響で、白内障は晩発性かつ確定的影響という組み合わせになる。臨床では、IVRに長年携わる医師やスタッフの水晶体被ばくが問題になっていて、防護眼鏡の着用が強く推奨されているよ。
医学生医学生
カテ室で防護眼鏡を渡されたのは、そういう理由だったんですね。自分の目を守る話でもあるんだと実感しました。

まとめ

放射線障害は発現時期で早期障害と晩発障害に分けられ、細胞更新の速い組織ほど早く障害が現れます。白血球(特にリンパ球)減少、消化管障害による下痢や出血、皮膚の紅斑・脱毛、精子数減少などの生殖機能障害は数週間から数か月以内に出る早期障害です。一方、白内障は数年の潜伏期をもつ晩発障害で、後嚢下混濁が特徴であり、選択肢の中で最も遅く発現します。白内障はしきい線量のある確定的影響である点が発癌(確率的影響)との違いで、ICRPがしきい線量を0.5Gy程度に引き下げたことから、医療従事者の水晶体防護も重視されています。「いつ出るか」と「線量との関係」の2つの軸で整理しておくと、放射線防護や被ばく医療の理解にそのまま役立ちます。

解答・解説

正解はbです

放射線の人体影響は、被ばくしてから症状が現れるまでの時間によって、早期障害(急性障害)と晩発障害に分けられる。 ・早期障害:被ばく後おおむね数週間以内(遅くとも数か月以内)に現れるもの。細胞分裂が盛んな組織(造血組織、消化管粘膜、皮膚の基底層、生殖腺)は放射線感受性が高く、幹細胞が死滅すると細胞の供給が途絶えるため、比較的早く障害が表面化する。白血球減少、消化管障害(下痢・消化管出血)、皮膚の紅斑・脱毛、一時的または永久的な不妊などがこれに当たる。 ・晩発障害:被ばく後、数か月〜数年、場合によっては数十年を経てから現れるもの。白内障、悪性腫瘍(白血病、固形癌)、組織の線維化などがある。

考え方

選択肢のうち、紅斑、消化管出血、白血球減少、生殖機能障害はいずれも早期障害に分類される。白内障だけが晩発障害であり、被ばくから発症までの潜伏期は通常数年に及ぶ。したがって最も遅く発現するのは白内障である。 なお、組織内での細胞の入れ替わりの速さは、障害が現れるまでの時間にほぼ対応している。成熟細胞の寿命が短い組織(リンパ球、顆粒球、腸上皮)ほど早く障害が現れ、細胞の入れ替わりが遅い水晶体では、障害を受けた上皮細胞から生じる異常な線維が長い時間をかけて蓄積して混濁となるため、発症が遅い。

選択肢考察

  1. ×a.  紅斑

    皮膚の紅斑は早期障害である。数Gy以上の大量被ばくでは、数時間〜1日程度で毛細血管の拡張による一過性の初期紅斑が出現し、その後2〜3週間ほどで表皮基底細胞の障害による本格的な紅斑が現れる。さらに線量が多いと脱毛、乾性・湿性落屑、潰瘍へと進む。発現は被ばく後早期であり、最も遅いものではない。

  2. ○b.  白内障

    放射線白内障は代表的な晩発障害である。水晶体上皮の細胞が障害され、異常な水晶体線維が後極部に集まることで、後嚢下混濁として発症することが多い。被ばくから発症までの潜伏期は通常数年(おおよそ1年から10年以上)で、線量が多いほど潜伏期は短くなる傾向がある。一定の線量(しきい線量)を超えると発症する確定的影響(組織反応)に分類され、国際放射線防護委員会(ICRP)は2011年にそのしきい線量を従来より低い0.5 Gy程度と見直した。選択肢の中で最も遅く発現する障害である。

  3. ×c.  消化管出血

    腸管の上皮は陰窩の幹細胞から数日単位で絶えず作り替えられているため、放射線感受性が高い。大量被ばく(おおむね数Gy〜10 Gy以上)では幹細胞が死滅して上皮の再生が止まり、被ばく後数日〜2週間程度で粘膜が脱落して、下痢、脱水、消化管出血、腸内細菌による敗血症をきたす(急性放射線症候群の消化管型)。これは早期障害である。

  4. ×d.  白血球減少

    造血組織は放射線感受性が非常に高い。特にリンパ球は放射線によって直接細胞死を起こしやすく、被ばく後数時間〜2日程度で減少が始まり、その減少の程度は被ばく線量の推定にも利用される。顆粒球は骨髄での産生停止を反映して1〜数週間後に最低値となり、感染症や出血(血小板減少による)の原因となる(急性放射線症候群の造血器型)。いずれも早期障害である。

  5. ×e.  生殖機能障害

    生殖腺は放射線感受性の高い臓器である。男性では精原細胞が障害され、約0.15 Gyの急性被ばくで一時的な精子数減少(一時的不妊)が起こり、数Gy以上では永久不妊となりうる。女性では卵母細胞が障害され、数Gy程度で永久不妊(卵巣機能不全)をきたしうる。これらは被ばく後数週間から数か月以内に現れる早期障害に分類され、数年の潜伏期をもつ白内障より早く発現する。

放射線影響の2つの分類軸

1. 発現時期による分類 ・早期障害(急性障害):被ばく後数週間以内に出現。急性放射線症候群(造血器障害、消化管障害、中枢神経障害)、皮膚障害(紅斑・脱毛・落屑・潰瘍)、不妊など。 ・晩発障害:被ばく後数か月〜数十年で出現。白内障、悪性腫瘍(白血病は数年、固形癌は十数年以上の潜伏期)、組織の線維化・萎縮、寿命短縮など。 2. 線量と発生の関係による分類 ・確定的影響(組織反応):しきい線量があり、それを超えると線量が増えるほど重症度が増す。皮膚障害、不妊、白血球減少、白内障など。 ・確率的影響:しきい線量はないと仮定され、線量に比例して発生確率が増えるが、重症度は線量に依存しない。発癌、遺伝的影響。 白内障は「晩発障害」かつ「確定的影響」であり、両分類の組み合わせを混同しないことが大切である。

急性放射線症候群(全身の大量被ばく)

・前駆期:被ばく後数時間以内の悪心・嘔吐、倦怠感など。嘔吐が早く出るほど被ばく線量が多い。 ・造血器障害:おおむね1〜数Gy以上。リンパ球の早期減少、その後の顆粒球・血小板減少による感染・出血。 ・消化管障害:おおむね数Gy〜10 Gy以上。下痢、消化管出血、脱水、敗血症。 ・中枢神経・心血管障害:数十Gy以上。意識障害、ショックなどで短期間に死亡する。 全身被ばくの半数致死線量(LD50/60)は、治療を行わない場合およそ3〜5 Gyとされる。

放射線感受性(Bergonié-Tribondeauの法則)

細胞分裂の頻度が高いほど、将来行う分裂の回数が多いほど、形態・機能が未分化なほど放射線感受性は高い。リンパ球・造血幹細胞・腸上皮・生殖細胞は感受性が高く、神経細胞・筋細胞は低い。なおリンパ球は分裂しない成熟細胞でありながら例外的に感受性が高い。

POINT

・早期障害:白血球(リンパ球)減少、消化管障害(下痢・出血)、皮膚紅斑・脱毛、不妊 ・晩発障害:白内障、発癌(白血病・固形癌)、線維化 ・放射線白内障は数年の潜伏期をもつ晩発障害で、確定的影響(しきい線量あり、ICRPは0.5 Gyに引き下げ) ・早期障害の出やすさは組織の細胞更新の速さ(放射線感受性の高さ)に対応する

※問題・正答は厚生労働省の公開資料をもとに掲載しています。