2週間止まらない少量出血―15歳の「未熟な性腺軸」が起こす機能性子宮出血
第107回医師国家試験 I問題 第64問
国試問題にチャレンジ
15歳の女子。少量の性器出血を主訴に来院した。性器出血は2週前から持続している。13歳の初経以降,月経周期は28~35日である。 現時点で最も考えられるのはどれか。
- a.希発月経
- b.黄体機能不全
- c.機能性子宮出血
- d.子宮内膜増殖症
- e.子宮内膜ポリープ
対話形式の解説
ドクター
医学生
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ドクターまとめ
初経後間もない思春期は性腺軸が未熟で、周期が正常範囲に見えても無排卵周期が混じりやすく、プロゲステロンを欠いた内膜が不規則に破綻して少量の出血が長引く機能性子宮出血(無排卵性出血)が起こりやすくなります。希発月経は周期の延長を指す概念で、黄体機能不全は排卵があるため長期の持続出血としては非典型、子宮内膜増殖症や内膜ポリープは閉経前後に多い疾患です。ただし機能性子宮出血は除外診断であり、妊娠関連出血、器質的疾患、von Willebrand病などの凝固異常、甲状腺機能異常を必ず確認します。治療は経過観察からホルモン製剤による止血・周期調整まで出血量や貧血に応じて選択し、国際的にはPALM-COEIN分類のAUB-Oに相当します。年齢とホルモン動態から出血の原因を考える視点は、思春期から更年期までの不正出血診療に共通する基本です。
解答・解説
正解はcです
所見の整理
・15歳の女子で、初経は13歳。初経からまだ約2年しか経っていない思春期である。 ・主訴は少量の性器出血で、2週間にわたりだらだらと続いている。 ・これまでの月経周期は28〜35日で、正常範囲(25〜38日)に収まっている。
診断へのプロセス
初経後数年間は、視床下部−下垂体−卵巣系(性腺軸)の成熟が不十分であり、月経周期が正常範囲であっても、無排卵周期が混じることが少なくない。排卵が起こらないと黄体が形成されず、プロゲステロン(黄体ホルモン)が分泌されない。すると子宮内膜はエストロゲン(卵胞ホルモン)だけの刺激を受けて増殖を続け、分泌期への変化が起こらないまま、エストロゲンの変動や相対的な不足によって内膜が不規則に部分的に剝がれ落ちる(破綻出血・消退出血)。こうした出血は、排卵性月経のように内膜全体が一斉に剝離してまとまって終わるのではなく、少量の出血が長く持続しやすい。 本例は、思春期であること、性器出血が2週間持続していること、年齢から腫瘍性病変の可能性が低いことから、器質的疾患を伴わないホルモン分泌の未熟による出血、すなわち機能性子宮出血(無排卵性出血)が最も考えやすい。
設問の考え方
「現時点で最も考えられる」ものを、年齢(思春期)と出血の性状(少量・持続性)から選ぶ問題である。ただし、実臨床では機能性子宮出血は除外診断であり、性交経験の有無にかかわらず妊娠(流産・異所性妊娠など)の除外、内診や超音波による器質的疾患の除外、凝固異常の検索を行ったうえで診断する。思春期の過多・遷延出血では、von Willebrand病などの出血性素因が背景に隠れていることがある点も押さえておく。
選択肢考察
- ×a. 希発月経
希発月経は、月経周期が39日以上(3か月以内)に延長した状態を指す。本例の月経周期は28〜35日であり、定義に当てはまらない。また、希発月経は周期の長さに関する概念であり、2週間持続する出血という主訴を説明するものでもない。
- ×b. 黄体機能不全
黄体機能不全は、排卵後に形成される黄体からのプロゲステロン分泌が不十分な状態である。基礎体温の高温相が短縮(10日未満程度)したり、高温相と低温相の温度差が小さくなったりし、子宮内膜の分泌期変化が不十分となって着床障害・不妊や流産の原因となる。月経前の少量出血(点状出血)や月経周期の短縮を伴うことはあるが、排卵は起こっているため、2週間も出血が持続する病態としては典型的でない。本例のような初経後間もない時期の持続出血は、むしろ排卵自体が起こらない無排卵周期によるものと考えるのが自然である。
- ○c. 機能性子宮出血
機能性子宮出血は、子宮や卵巣に器質的な病変がなく、性ステロイドホルモンの分泌異常によって子宮内膜から起こる出血である。性腺軸が未熟な思春期と、卵巣機能が衰えていく更年期に多く、その多くは無排卵性である。無排卵ではプロゲステロンが作用しないため、エストロゲン刺激のみで増殖した内膜が不規則に破綻し、少量の出血が長期間続くことが特徴である。初経後2年の15歳で、2週間持続する少量の性器出血という本例の臨床像に最もよく合致する。
- ×d. 子宮内膜増殖症
子宮内膜増殖症は、プロゲステロンによる拮抗を受けない持続的なエストロゲン刺激によって子宮内膜が過剰に増殖する病態で、不正性器出血の原因となる。異型を伴うものは子宮体癌(類内膜癌)の前がん病変とされる。肥満、多嚢胞性卵巣症候群、長期の無排卵、エストロゲン単独補充などが危険因子であり、閉経前後の女性に多い。理論上は長期の無排卵が続けば若年でも起こりうるが、初経後2年の15歳で2週間の出血をみた段階で最も考えるべき疾患ではない。
- ×e. 子宮内膜ポリープ
子宮内膜ポリープは、子宮内膜の局所的な過形成によって子宮腔内に突出する良性病変で、不正性器出血や過多月経、不妊の原因となりうる。主に40〜50歳代の性成熟期後期から閉経前後の女性にみられ、15歳の思春期女子では頻度が極めて低い。診断には経腟超音波、ソノヒステログラフィー、子宮鏡が有用である。
正常月経と月経異常の定義(日本産科婦人科学会)
・正常月経周期:25〜38日(変動は6日以内)。出血持続日数は3〜7日。 ・頻発月経:周期が24日以下。 ・希発月経:周期が39日以上、3か月以内。 ・続発無月経:それまであった月経が3か月以上停止したもの。 ・過長月経:出血持続日数が8日以上。 ・過短月経:出血持続日数が2日以下。
機能性子宮出血の病態
・無排卵性:思春期と更年期に多い。黄体が形成されずプロゲステロンが欠如するため、エストロゲンのみで増殖した内膜が不規則に破綻して出血する(エストロゲン破綻出血・消退出血)。出血は不規則で、少量が長く続くことも、多量になることもある。 ・排卵性:黄体機能不全による月経前の点状出血や、排卵期のエストロゲン一過性低下による排卵期出血(中間期出血)など。性成熟期にみられる。 ・プロゲステロンが作用した分泌期内膜は、消退時にプロスタグランジンの作用による血管収縮や内膜の一斉剝離によって出血が止まるが、無排卵ではこの止血機構が働きにくく、内膜の線溶活性亢進も加わって出血が遷延しやすい。
診断と治療
・機能性子宮出血は除外診断である。妊娠関連出血(妊娠反応)、器質的疾患(子宮筋腫、内膜ポリープ、子宮内膜増殖症・子宮体癌、子宮頸癌など)、全身疾患(凝固異常、甲状腺機能異常、肝疾患)、薬剤性(抗凝固薬など)を除外する。成人では子宮頸部・体部の細胞診で悪性疾患を除外することが重要である。 ・基礎体温で排卵の有無を評価できる(無排卵では一相性)。 ・治療:少量で貧血がなければ経過観察も可能である。止血にはエストロゲン・プロゲスチン製剤(EP配合薬)やプロゲスチン製剤を用い、内膜を分泌期化させてから投与終了による消退出血を起こさせる。出血が多量の場合は止血薬(トラネキサム酸など)の併用や、成人では子宮内膜掻爬術も選択肢となる。思春期では周期的なホルモン療法(カウフマン療法など)で周期を整えることもある。
用語について
国際的には、異常子宮出血(AUB:abnormal uterine bleeding)を原因別に分類するPALM-COEIN分類が用いられ、無排卵などによるものは排卵障害による異常子宮出血(AUB-O)として扱われる。「機能性子宮出血(DUB:dysfunctional uterine bleeding)」はこれに相当する従来の用語であり、国内ではなお広く用いられている。
POINT
・思春期(初経後数年)と更年期は無排卵周期が多く、機能性子宮出血を起こしやすい。 ・無排卵ではプロゲステロンが欠如し、エストロゲンのみで増殖した内膜が不規則に破綻して、少量の出血が持続しやすい。 ・機能性子宮出血は除外診断:妊娠、器質的疾患、凝固異常などを必ず除外する。 ・正常月経周期は25〜38日。希発月経は39日以上、頻発月経は24日以下。 ・子宮内膜増殖症・子宮内膜ポリープは閉経前後に多く、思春期ではまれ。
