StudyMed医師国家試験

脊髄の「中」か「外」か―長く伸びる髄内T2高信号が示す2つの疾患

第107回医師国家試験 I問題 第32問

国試問題にチャレンジ

第107回 I問題 第32問

四肢の脱力と感覚障害とを訴える患者の頸椎MRIのT2強調矢状断像を別に示す。  考えられるのはどれか。2つ選べ。

第107回 I問題 第32問の問題画像
  1. a.髄膜腫
  2. b.神経膠腫
  3. c.視神経脊髄炎
  4. d.脊柱管狭窄症
  5. e.椎間板ヘルニア

対話形式の解説

ドクタードクター
今回は頸椎MRIの読影問題だ。脊髄の病気を画像で考えるときに一番大事なのは、病変が脊髄の「中」にあるのか「外」から押しているのか、という区別。そして、病変がどれくらいの長さに及んでいるかにも注目してほしい。まず、この画像をどう読む?
医学生医学生
四肢の脱力と感覚障害なので、頸椎症とか椎間板ヘルニアで脊髄が圧迫されているのかなと最初は思いました。
ドクタードクター
症状だけならそう考えるのは自然だね。整形外科の外来でも、手足のしびれと脱力でいちばん多いのは圧迫性の頸髄症だ。でも画像をよく見てほしい。T2強調矢状断像では、上位頸椎から下位頸椎まで、脊髄の内部に縦に長く白い高信号が連続していて、脊髄自体が少し太くなっている。一方で、脊髄の前後を取り囲む脳脊髄液の白い帯はきちんと保たれているんだ。
医学生医学生
脳脊髄液の層が残っているということは、外から押されてはいない、ということですか。
ドクタードクター
その通り。椎間板が後ろに飛び出したり、黄色靱帯が分厚くなったりして脊髄を圧迫していれば、その部分で脳脊髄液の層が消えて、脊髄がくびれたように見える。今回はそれがない。つまり病変は脊髄実質そのもの、髄内病変だと判断できる。
医学生医学生
そうすると、脊柱管狭窄症と椎間板ヘルニアは外れますね。どちらも外からの圧迫による病気なので。
ドクタードクター
そう。もう一つ付け加えると、圧迫性の病変でも脊髄内にT2高信号が出ることはある。ただしそれは圧迫されている椎間高位に限局した短い範囲にとどまるのが普通で、何椎体にもわたって連続することはまずない。
医学生医学生
髄膜腫はどうでしょう。腫瘍なので脊髄の中にできてもおかしくない気がしたんですが。
ドクタードクター
そこはよく間違えるところだね。髄膜腫は硬膜、正確にはくも膜の細胞から発生する硬膜内髄外腫瘍なんだ。脊髄の外側に境界のはっきりした塊をつくって、脊髄を横に押しのける。腫瘍と脊髄の間でくも膜下腔が広がって見えたり、造影で硬膜に沿って尾を引くdural tail signが見えたりする。中高年女性の胸髄レベルに多いのも特徴だ。
医学生医学生
病理の講義で、脊髄腫瘍は硬膜外、硬膜内髄外、髄内の3つに分けると習いました。髄膜腫は真ん中のグループなんですね。
ドクタードクター
そう、その分類が今回の問題の骨格そのものだよ。硬膜外は転移性腫瘍が多く、硬膜内髄外は神経鞘腫が最多で髄膜腫が続く。そして髄内腫瘍の大部分を占めるのが神経膠腫、つまりグリア細胞由来の腫瘍だ。成人では上衣腫、小児では星細胞腫が多い。
医学生医学生
神経膠腫は脊髄の中で育つから、脊髄が紡錘状に太くなって長い高信号になる、ということですね。
ドクタードクター
その理解でいい。数椎体にわたることも多く、腫瘍の上下に空洞や浮腫を伴うこともある。だから今回の画像に合致しうる。では、腫瘍以外で髄内に長い高信号をつくる病気は何だろう?
医学生医学生
脊髄炎でしょうか。多発性硬化症かなと思いましたが、選択肢には視神経脊髄炎がありますね。
ドクタードクター
いいところに気づいたね。ここが大事な鑑別点だ。多発性硬化症の脊髄病変は1椎体程度以下の短いものが多く、脊髄の辺縁の白質に出やすい。一方、視神経脊髄炎は3椎体以上に連続する長大な病変が脊髄の中心部にできるのが特徴なんだ。今回のような長い髄内病変は、まさに視神経脊髄炎らしい所見といえる。
医学生医学生
神経内科の実習で、抗アクアポリン4抗体を測っている患者さんを担当しました。視力低下で始まった方でした。
ドクタードクター
それは貴重な経験だね。視神経脊髄炎はアストロサイトの足突起にある水チャネル、アクアポリン4に対する自己抗体が主な原因で、重い視神経炎と横断性脊髄炎を繰り返す。若年から中年の女性に多い。かつては多発性硬化症の一型とされていたけれど、抗体の発見で別の疾患と位置づけられ、今は視神経脊髄炎スペクトラム障害としてまとめて扱われている。
医学生医学生
では、神経膠腫と視神経脊髄炎は画像だけで区別できるんですか。
ドクタードクター
画像だけでは難しいことも多い。そこで臨床経過が手がかりになる。視神経炎の既往や合併があって、数日から数週で急に悪くなるなら視神経脊髄炎を考えて抗アクアポリン4抗体を測る。視神経症状がなく、ゆっくり進むなら髄内腫瘍を考えて造影MRIで腫瘤を評価する、という流れだ。
医学生医学生
まず髄内か髄外かを決めて、髄内なら炎症か腫瘍か、さらに長さと経過で絞る、という順番ですね。
ドクタードクター
完璧だ。最後に臨床での注意点を一つ。視神経脊髄炎と多発性硬化症の区別は治療の上でも非常に重要なんだ。多発性硬化症に使うインターフェロンβなどは、視神経脊髄炎を悪化させることがある。急性期はステロイドパルスや血漿交換、再発予防には免疫抑制薬や抗体製剤を用いる。それから、長い髄内病変には脊髄サルコイドーシスや脊髄硬膜動静脈瘻、ビタミンB12欠乏による亜急性連合性脊髄変性症なども含まれるので、頭の片隅に置いておこう。

まとめ

脊髄MRIでは、まず病変が脊髄実質内の髄内病変か、外から脊髄を圧迫する髄外病変かを判断することが出発点です。脊髄前後の脳脊髄液腔が保たれ、脊髄内に複数椎体にわたる長いT2高信号と脊髄腫大がみられれば髄内病変であり、椎間板ヘルニアや脊柱管狭窄症、硬膜内髄外腫瘍である髄膜腫は否定的です。髄内病変の代表は、上衣腫や星細胞腫などの神経膠腫と、3椎体以上の長大病変を特徴とする視神経脊髄炎で、両者は視神経炎の有無、進行速度、抗アクアポリン4抗体、造影MRIなどで鑑別します。視神経脊髄炎は短い病変が多い多発性硬化症とは治療方針が異なるため、病変の長さと分布を読む力は診断と治療選択の両方に直結します。

解答・解説

正解はb, cです

画像の読み取り

頸椎MRIのT2強調矢状断像では、頸髄内にC2付近からC6付近まで縦に長く連続する高信号域がみられる。病変は脊髄の内部(中央部)に存在し、脊髄はやや腫大している。一方、脊髄の前後にはくも膜下腔(脳脊髄液の層、T2強調像で白く見える)が保たれており、椎間板の突出や黄色靱帯の肥厚など、脊柱管の外側から脊髄を圧迫する構造は認められない。

鑑別の考え方

脊髄病変をみるときは、まず病変の位置が「髄内(脊髄実質そのもの)」か「髄外(硬膜内髄外・硬膜外)」かを判定する。本例は髄外からの圧迫所見がなく、病変が脊髄実質内にある髄内病変である。 髄内に高信号を示す病変は大きく二つに分けられる。一つは脊髄炎などの炎症性・脱髄性疾患、もう一つは脊髄内腫瘍である。さらに本例の特徴は、病変が3椎体以上にわたって連続していること(長大な脊髄病変、LETM:longitudinally extensive transverse myelitis に相当する広がり)である。この所見は視神経脊髄炎に特徴的で、1椎体程度以下の短い病変が多い多発性硬化症との重要な鑑別点となる。 したがって、髄内病変をきたす神経膠腫(髄内腫瘍)と視神経脊髄炎(炎症性疾患)が考えられ、脊髄を外から圧迫する疾患は否定的である。

臨床的な絞り込み

画像だけでは両者の区別は難しいことがあり、臨床経過が参考になる。視神経炎の既往や併発があり、数日〜数週で症状が急速に進行する場合は視神経脊髄炎を、視神経症状を伴わず緩徐に進行する場合は髄内腫瘍を考える。前者では血清抗アクアポリン4抗体の測定、後者では造影MRIによる腫瘤の評価が有用である。

選択肢考察

  1. ×a.  髄膜腫

    脊髄髄膜腫は硬膜(髄膜のくも膜細胞)から発生する硬膜内髄外腫瘍であり、脊髄の外側に境界明瞭な腫瘤を形成して脊髄を圧排・偏位させる。MRIでは脊髄と腫瘍の間にくも膜下腔の拡大(cap sign)がみられ、硬膜との付着部に造影で硬膜尾徴候(dural tail sign)を示すことがある。脊髄腫瘍の中では神経鞘腫に次いで多く、中高年女性の胸髄レベルに好発する。本画像は脊髄内部の長い高信号であり、髄外腫瘤による圧迫像ではないため当てはまらない。

  2. ○b.  神経膠腫

    神経膠腫(グリオーマ)は神経膠細胞(グリア細胞)由来の腫瘍で、脊髄では髄内腫瘍の大部分を占める。成人では上衣腫、小児では星細胞腫が多い。脊髄内に発生して脊髄を紡錘状に腫大させ、T2強調像で高信号を示し、しばしば数椎体にわたる。腫瘍の上下に空洞(脊髄空洞症)や浮腫を伴うこともある。本画像の髄内長大高信号病変に合致しうるため、考えられる疾患である。症状は緩徐進行性であることが多い。

  3. ○c.  視神経脊髄炎

    視神経脊髄炎(neuromyelitis optica:NMO)は、アストロサイトの足突起に発現する水チャネルであるアクアポリン4(AQP4)に対する自己抗体が主な病因となる自己免疫性疾患で、重度の視神経炎と横断性脊髄炎を繰り返す。脊髄MRIでは3椎体以上に連続する長大な病変が脊髄の中心部(灰白質を含む)にみられ、T2強調像で高信号を示すのが特徴である。本画像の所見に合致するため、考えられる疾患である。かつては多発性硬化症の一亜型(Devic病)とされたが、現在は抗AQP4抗体の発見を契機に別の疾患と位置づけられ、視神経脊髄炎スペクトラム障害(NMOSD)として包括的に扱われる。若年〜中年女性に多い。

  4. ×d.  脊柱管狭窄症

    頸部脊柱管狭窄症では、先天的な脊柱管の狭さに加え、椎間板の膨隆、骨棘、黄色靱帯の肥厚などにより脊柱管が狭くなり、脊髄が前後から圧迫される。MRIでは脊髄前後のくも膜下腔が消失し、圧迫部位に一致して限局性のT2高信号がみられることがある。本画像では脊髄の前後にくも膜下腔が十分に保たれ、圧迫所見がないため否定的である。

  5. ×e.  椎間板ヘルニア

    頸椎椎間板ヘルニアでは、椎間板の髄核が後方に突出して脊髄や神経根を圧迫し、MRIでは椎間高位に一致した突出像と脊髄の圧排がみられる。脊髄内に信号変化が生じても通常は圧迫部位に限局した短い範囲である。本画像では椎間板の突出も脊髄圧迫も認められず、病変が複数椎体にわたる髄内病変であるため該当しない。

脊髄腫瘍の分類

・硬膜外腫瘍:転移性腫瘍が最多。椎体転移による圧迫が多い。 ・硬膜内髄外腫瘍:脊髄腫瘍で最も多い群。神経鞘腫が最多で、髄膜腫が続く。神経鞘腫は神経根から発生し、椎間孔を通って脊柱管外へ伸びるダンベル型を示すことがある。 ・髄内腫瘍:上衣腫、星細胞腫などの神経膠腫が大部分を占め、血管芽腫なども含まれる。上衣腫は脊髄中心管の上衣細胞由来で比較的境界明瞭、星細胞腫は境界不明瞭で浸潤性に発育する。

視神経脊髄炎(NMOSD)と多発性硬化症(MS)の比較

・病因:NMOSDは抗AQP4抗体陽性例が多く、アストロサイトが障害の主座。MSは中枢神経の髄鞘を標的とする脱髄疾患。 ・脊髄病変:NMOSDは3椎体以上の長大病変で脊髄中心部。MSは1〜2椎体以下の短い病変で脊髄辺縁部(白質)に多い。 ・脳病変:MSでは脳室周囲に卵円形の病変(側脳室に垂直に並ぶovoid lesion、Dawson's fingers)がよくみられる。NMOSDでは脳病変は乏しいか、第三脳室・第四脳室周囲、延髄最後野(難治性吃逆・嘔吐の原因)などAQP4が豊富な部位に生じる。 ・視神経炎:NMOSDでは両側性・重症で視力予後不良のことが多い。 ・髄液:MSではオリゴクローナルバンド陽性が多いが、NMOSDでは陰性が多い。 ・治療:急性期はステロイドパルス療法、無効時は血漿交換。再発予防には経口ステロイド・免疫抑制薬のほか、エクリズマブ、サトラリズマブ、イネビリズマブなどの生物学的製剤が用いられる。MSで使われるインターフェロンβやフィンゴリモドなどはNMOSDを悪化させることがあるため、両者の鑑別は治療上も重要である。

その他の長大な髄内病変の鑑別

脊髄サルコイドーシス、MOG抗体関連疾患、急性散在性脳脊髄炎、脊髄硬膜動静脈瘻による静脈うっ血性脊髄症、ビタミンB12欠乏による亜急性連合性脊髄変性症(後索中心)なども長い髄内T2高信号を示しうる。

POINT

・脊髄MRIではまず病変が髄内か髄外かを判定する。髄外からの圧迫がなければ、髄膜腫・脊柱管狭窄症・椎間板ヘルニアは否定的 ・髄内T2高信号の鑑別は「脊髄炎(炎症・脱髄)」と「髄内腫瘍」 ・髄内腫瘍の大部分は神経膠腫(成人は上衣腫、小児は星細胞腫が多い) ・3椎体以上に及ぶ長大な脊髄中心部の病変+視神経炎+抗AQP4抗体陽性=視神経脊髄炎(NMOSD) ・MSの脊髄病変は短く辺縁部優位で、NMOSDとの鑑別点となる ・脊髄腫瘍全体では神経鞘腫が最多、次いで髄膜腫(中高年女性の胸髄に好発)

※問題・正答は厚生労働省の公開資料をもとに掲載しています。