「眠らなくても大丈夫」―不眠を苦にしない患者が語る躁状態のサイン
第107回医師国家試験 I問題 第20問
国試問題にチャレンジ
躁状態の患者の発言と考えられるのはどれか。
- a.「夜なかなか寝つけません」
- b.「夜中に何度も目が覚めます」
- c.「寝ていると金縛りにあいます」
- d.「夜は眠らなくても大丈夫です」
- e.「脚がむずむずしてよく眠れません」
対話形式の解説
ドクター
医学生
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ドクターまとめ
躁状態の睡眠障害の本質は「睡眠欲求の減少」であり、短時間の睡眠でも疲れを感じず、本人はそれを苦痛とせず「眠らなくても大丈夫」と肯定的に語るのが特徴です。これに対し、寝つけない(入眠困難)、何度も目が覚める(中途覚醒)といった訴えは「眠りたいのに眠れない」不眠であり、不安や精神生理性不眠、うつ病などで多くみられます。金縛り(睡眠麻痺)はナルコレプシー、脚のむずむず感で眠れないのはむずむず脚症候群の訴えで、いずれも躁状態とは関係しません。うつ病治療中の患者が睡眠を必要としなくなったら躁転を疑うなど、睡眠の訴えをその受け止め方まで含めて聴くことは、精神疾患の早期発見と適切な治療選択につながります。
解答・解説
正解はdです
テーマ
睡眠に関する訴えは、背景にある精神疾患や睡眠障害によって特徴的な言い回しになる。本問は、躁状態に特有の睡眠の変化を、他の睡眠障害の訴えと区別できるかを問うている。
考え方
躁状態では、気分の高揚、自尊心の肥大(自信過剰)、多弁、観念奔逸(考えが次々に湧いて話題が飛ぶ)、活動性の亢進などがみられる。睡眠については「睡眠欲求の減少」が典型であり、2〜3時間しか眠らなくても疲れを感じず、翌朝早くから活動を始める。DSM-5(米国精神医学会の診断基準)でも、躁病エピソードの症状の一つとして「睡眠欲求の減少(例:3時間眠っただけで十分な休息がとれたと感じる)」が挙げられている。 ここで重要なのは、躁状態の患者は眠れないことを苦痛とは感じていない点である。「眠れなくて困る」という訴え(入眠困難・中途覚醒など)は、眠りたいのに眠れない不眠の訴えであり、うつ病や不安、精神生理性不眠などで多い。一方、躁状態では本人に病識が乏しく、睡眠が短いことをむしろ「眠らなくても平気」「調子が良い」と肯定的にとらえる。したがって、睡眠が不要であると語る発言が躁状態を示す。
選択肢考察
- ×a. 「夜なかなか寝つけません」
入眠困難(入眠障害)の訴えである。眠りたいのに眠れないことを苦にしており、精神生理性不眠、不安障害、うつ病などでみられる。躁状態の患者は睡眠欲求そのものが減っているため、寝つけないことを困りごととして訴えることは通常ない。
- ×b. 「夜中に何度も目が覚めます」
中途覚醒の訴えである。うつ病、加齢、睡眠時無呼吸症候群、夜間頻尿などで多くみられる。躁状態では目が覚めればそのまま起き出して活動を始めてしまい、覚醒を苦痛として訴えることは少ない。
- ×c. 「寝ていると金縛りにあいます」
いわゆる金縛りは睡眠麻痺であり、入眠時や覚醒時などの睡眠と覚醒の移行期に、意識はあるのに全身の骨格筋が動かず声も出せない状態をいう。レム睡眠に伴う筋緊張の消失が覚醒時に現れる現象で、ナルコレプシー(日中の過度の眠気・睡眠発作、情動脱力発作、入眠時幻覚、睡眠麻痺を特徴とする中枢性過眠症)の症状として知られる。健常者でも睡眠不足などで生じうるが、躁状態とは関係がない。
- ○d. 「夜は眠らなくても大丈夫です」
躁状態に特徴的な睡眠欲求の減少を表す発言である。気分の高揚と活動性の亢進により、短時間しか眠らなくても疲労感がなく、本人はそれを苦痛とせず「眠らなくても平気だ」と感じる。不眠を訴える他の選択肢とは異なり、睡眠が短いことを問題と認識していない点が躁状態らしさを示している。
- ×e. 「脚がむずむずしてよく眠れません」
むずむず脚症候群(restless legs syndrome、レストレスレッグス症候群)の訴えである。安静時、特に夕方から夜間に下肢の不快な感覚と、脚を動かしたいという強い衝動が生じ、動かすと軽快する。このため入眠が妨げられる。鉄欠乏、慢性腎臓病(透析患者)、妊娠などが関連し、ドパミン系の機能低下が関与するとされる。躁状態とは無関係である。
不眠の病型
・入眠困難(入眠障害):寝つきが悪い。不安、精神生理性不眠で多い。 ・中途覚醒:夜間に何度も目が覚める。高齢者やうつ病で多い。 ・早朝覚醒:予定より早く目が覚め、その後眠れない。うつ病に特徴的とされる。 ・熟眠障害:眠りが浅く、ぐっすり眠った感じがない。
精神生理性不眠
不眠症のなかで頻度が高い型で、眠れないことへの過度の不安やこだわりがあり、無理に眠ろうと努力するほど覚醒が高まって眠れなくなる悪循環を特徴とする。
躁病エピソードの主な症状
気分の高揚または易怒性に加え、自尊心の肥大・誇大性、睡眠欲求の減少、多弁、観念奔逸、注意散漫、目標指向性の活動の増加・精神運動焦燥、困った結果につながりうる活動(浪費、性的逸脱、無謀な投資など)への熱中。病識が乏しいことが多い。
うつ状態との対比
うつ状態では「眠りたいのに眠れない」不眠(特に早朝覚醒や中途覚醒)を苦痛として訴えるのに対し、躁状態では「眠らなくても平気」と睡眠の必要性自体を感じない。
睡眠関連の主な疾患
・ナルコレプシー:日中の過度の眠気、情動脱力発作(笑いや驚きなどで脱力する)、入眠時幻覚、睡眠麻痺。 ・むずむず脚症候群:夕方から夜間の下肢の不快感と動かしたい衝動。 ・周期性四肢運動障害:睡眠中に下肢が周期的にぴくつく。
POINT
・躁状態の睡眠障害は「睡眠欲求の減少」であり、不眠を苦痛として訴えない。 ・「寝つけない」は入眠困難、「何度も目が覚める」は中途覚醒の訴え。 ・「金縛り」は睡眠麻痺でナルコレプシーの症状。 ・「脚がむずむずして眠れない」はむずむず脚症候群。
